「29歳」

                女性作家8人のオムニバス

   山崎ナオコーラ、柴崎友香、中上紀、野中柊、宇佐美游、

   栗田有起、柳美里、宮木あや子著   <新潮文庫>

                   

 三十歳になる前の一年間何をしていましたか?

 二十代の頃は三十のとき何をしているかなどと考えたこともなかったし、それを過ぎてからも五十も半ばになった今までに、三十歳のとき何を考えていたかとも振り返ったこともなかった。まして二十九歳の自分が何をどう考えどう生きてきたか省みたこともない。

 

 登場するのは八人の女の主人公たち。それぞれが結婚前の二十九歳で仕事や恋、友人や不倫に希望と悩みや挫折を抱えながら生きている。

 私は男だ。二十八のときに結婚している。三十のときに長男が生まれそこからあとは仕事と育児で毎日が後ろを見ているヒマなどないまっしぐらな人生だった。子供ができたらたぶん、育児中心で生活が回転し、そうそうゆとりの生まれるスキはない。下の娘が大学までいってくれた二年前ぐらいだ。ちょっと家族と自分を半々に考えられるようになったのは。

 だから本書を読んでいるとなんだかみんなモラトリアムだな、という感じがする。天職だとバリバリ働いていたり、子育てに追われながらも仕事に打ち込んでいたりする女性が出てこない。若いっていうこと、結婚前の女性っていう設定で書くことが約束にあったのかもしれない。

 初っ端の「私の人生は五六億七〇〇〇万年」に出てくる留美子が言う。高校のときに書いた文集を読み返した感想だ。

「三十歳を越えたら社会的に責任のある仕事をしているだろう、って書いてあったの」

「大学行って、社会人になって、大人の女に見られたくって・・・。でも未だに、社会の構成員としての認識が薄くって、大人なわけがない」

 だよね。

 会社で役職がついて部下をもらったり、結婚して子供ができたら、逃げ出せないだろう。逃げ出す人はいるだろうが、たいていはしっかりしなければならんと気を引き締めるだろう。

 たぶん、私なりに言えば、三十歳になる最期の一年は仕事にしろ結婚にしろ深く考えたり、決断するいい時期なんだろうなと思う。

「ひばな、はなび」の主人公が通勤電車に乗って言うように、「この世には、たくさんの見知らぬ人がいる。たまたま同じ電車に乗り合わせて、目的地に向かって進んでいく。ほんとうには、何が目的なのかもわからないまま、ぎゅうぎゅうづめで運ばれていく」

 そんな世界で行きていこうとしたら悩んでいるヒマなどないのだ、と言い放ったら、多数の女性から「あんたが男だからだ」とそしられるのがオチだ。

 女性は結婚と出産によって、今打ち込んでいることや好きな仕事を止めるか続けるかの選択を迫られることがあるからだ。だが、どうしろという答えは本書にはない。どうやら悩みの回答は自分で見つけよ、ということらしい。

不倫の恋にも破れ、友人にも裏切られどん底に落ちた二十九歳の女性たちも出てくる。

「見つめなおす自分なんていない。私は私できちんと生きている。いい加減だとか、欠損しているとか、そういうことを言われつづけたとしても、生まれて二十九年のあいだに培ったものなどそう簡単に変えられやしない」と憧憬☆カトマンズの主人公は言い放つのだ。

 女も男も自分が信じた道をゆけばいい。

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