第1章  出発 4 | 夢の紡ぎ箱

夢の紡ぎ箱

心に浮かんだ夢物語。

そっと箱にしまってたけど、

言葉に紡いであなたの元へ……

「ふぁ~……」

真理の口から大きなあくびが出た。

1日目のお昼用に、とお母さんが作ってくれたサンドイッチを食べた真理は、眠くなってしまった。

昼寝をしたい気分だったが、それよりも先にやることがある。

おばあちゃんとの約束を実行するのだ。

「よしっ!」

真理は勢いよくソファから立ち上がると、服についたパンくずをはらった。

そして、スカートのポケットから小さな鍵を取り出す。

鍵は、ずいぶん古いもののようで、にぶく金色に光っていた。

(一体どこの鍵なんだろう?)

真理は、鍵に合う鍵穴を探し始めた。

リビングから始めて、キッチン、洗面所、客間、おばあちゃんの部屋……と順々に見て回る。

鍵穴を見つけるたびに、息をひそめてそっと鍵を差しこんでみる。

しかし、鍵は一向に合わない。

おばあちゃんの部屋があやしい、とにらんでいた真理だったが、おばあちゃんの部屋を探しつくしても、それらしい鍵穴は見つからなかった。

「はぁ~あ」

思わずため息がこぼれる。

はじめのうちこそ、ワクワクドキドキしていた真理も、こう見つからなくては飽きてしまう。

(おばあちゃんも、ドコの鍵だかぐらい書いておいてくれればよかったのに……)

すっかりやる気をなくした真理は、ペタンと床に座りこんでしまった。

ひんやりした床が、何だかとっても気持ちいい。

(これじゃあまるで宝探しじゃない)

「宝探し……か」

真理が小さかったころ、おばあちゃんの家にくるたびに、宝探しごっこをしたものだった。

おばあちゃんの家は古い洋館で、いかにも宝物がかくれていそうに、小さい真理には思えた。

家中を走り回っては、気になるものをいろいろと見つけた。

見つけるたびに、おばあちゃんにじまんげに持っていったものだ。

おばあちゃんはうれしそうに「これはね……」と説明してくれた。

宝石箱にオルゴール、古いアルバム……。

ある時、小さな真理は、屋根裏で鍵のかかったボロボロの箱を見つけた。

真理はいつものように「鍵をあけて」とおばあちゃんにお願いした。

しかし、その時のおばあちゃんの反応はいつもとちがっていた。

箱のことを聞いたおばあちゃんは、驚いたように目を見開くと、そのままだまりこんでしまった。

真理がもう一度お願いすると、おばあちゃんは困ったように笑った。

そして「この箱の鍵をなくしてしまった」とつぶやいた。

しかし、真理はそんな言葉では納得せず、ダダをこねておばあちゃんを困らせた。

するとおばあちゃんは「いつか必ず箱の中を見せてあげるから」と約束して、ゆびきりをしてくれたのだった。

(きっと、あの箱の中にはスゴイ宝物が入ってるんだ)

小さな真理はそう思った。

(もしかして……)

真理はわれに返った。

(そうだ。きっとあの箱がそうなんだ!)

確信めいたものが真理の心にあった。

やる気をなくしていた体に力がわいてきた。

真理は立ち上がると、屋根裏に続くせまい階段を一気にかけのぼった。

そのままの勢いでドアを開ける。

屋根裏には、たくさんのものがホコリをかぶってごちゃごちゃと置かれていた。

しかし、真理はまっすぐ、迷うことなく部屋のすみに向かう。

何故か、体が場所を覚えていた。

ホコリをかぶったものをどかしていくと、見覚えのある箱が見つかった。

記憶にあるよりもずっとボロボロに見える。

けれど、間違いなくこの箱だ。

真理は息を整えると、そっと鍵穴に小さな鍵を差しこんだ。

そして、ゆっくり鍵を回す。

カチリ

小さな音が鳴る。

鍵が合ったのだ!



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