夢の紡ぎ箱

心に浮かんだ夢物語。

そっと箱にしまってたけど、

言葉に紡いであなたの元へ……

ガラスのくつをはいたら(連載中です)


《あらすじ》


 真理(マリィ)はごく普通の女の子。

 ある夏休みに、いまは亡きおばあちゃちゃんの遺言で、ガラスのくつ

 を託されました。

 そのくつをはいた真理は、見知らぬ世界に迷い込んでしまいます。

 どうやらこのガラスのくつには、不思議な力が宿っているようで…。

 真理は無事に元の世界に戻ってくることができるのでしょうか?


      はじめから順番に読まれる方は  →  こちら


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「やってみる、とは言ったものの…どうしたらいいの、タットじい?」

「それはな…」

タットじいはちょっとためらうように口ごもった。

「それは…?」

真理もトマスも期待のまなざしでタットじいを見つめる。

しばし、室内に沈黙がおとずれた。

「それは…わしにもよくわからん」
「「…はぁ?」」

拍子抜けした真理とトマスの声が重なった。

「え…っと、ちょっとタットじい? わからないってどういうこと?」

「タットじい…これだけもったいつけておいてわからないって…」


「あ、いやいやいや…」

思わず身を乗り出す2人に、タットじいはあわてて手を振ると、弁解するように続けた。

「やり方はだいたいわかっているんだ。だがな、どうして好きな場所に行くことができるのかがわからないんだ。アーデにも詳しいことはわからなかった。行きたい場所を強く願う、って以外のことはな」

「ふ~ん…。でも、それだけわかってればいいんじゃないか? 願えばいいんだろ?」

「それはそうなんだが…。アーデの話しでは、ものすごく疲れるんだそうだ。アーデにしろマリィにしろ、わしが見つけてからしばらくは目を覚まさなかった。それだけ体力を使うってことだ。まぁ、違う世界に行くだけの力が働くんだから、疲れるのは当然かもしれないがな…。

 わしはマリィの体が心配なだけだ。詳しいことがわからないまま試してみてもよいのかどうか…。アーデはしばらく休養してから試していたし、多少の知識はあった。それに、力を使うための訓練とやらもしていたらしいからな」

「…なるほどね。マリィが成功するかはわからないし、それでどれだけ疲れるかってことか」

タットじいもトマスも、さっきまでの勢いはどこへやら、どうしたものかと考えこんでしまった。

再びの沈黙。


真理は心配そうなタットじいとトマスの顔を見比べると、話しが深刻になりすぎる前に口を開いた。

「いいよ、私。とりあえずやってみようよ」

タットじいもトマスも、ハッと顔を上げた。

「マリィ。わしらは言うだけだから簡単だが、実際に試すお前さんには負担が大きいかもしれないんだぞ? それでもいいのか?」

「うん。だって、さっきみんなで決めたじゃない。試してみなければ何もはじまらない、クヨクヨ考えても疲れるだけ…そうでしょ、2人とも?」

「それはそうだが…」

「…マリィ、本当にいいのか?」

最終確認とでもいうように、トマスが真理に聞いた。

「うん、もちろん。試してみないと、なんだかムズムズして気持ち悪いし。もうっ、2人とも心配しすぎ! 何かあったら…そうね、たとえば私が疲れすぎて倒れちゃったりしたら、2人でしっかり看病してね」


笑顔でウインクする真理に、すっかり毒気を抜かれてタットじいとトマスは顔を見合わせた。

「あ、ああ…看病ならおれらに任せておけよ。なぁ、タットじい」

「あ、ああ…そうだな」

「それじゃあさっそく!」

真理は勢いよくイスから立ち上がると、テーブルの上のガラスのくつをそっと両手で包みこんだ。

「これをはいて、元の世界に行きたいって強く願えばいいのよね、タットじい?」

「あ、ああ。それと、できるだけ行きたい場所…元いた場所のことをはっきり頭の中にイメージするんだそうだ。その場所の空気や色、香りまで鮮明にな」

「うん、わかった。それじゃあやってみるね」

真理は力強くうなづくと、あばあちゃんの家の屋根裏でやったのと同じように、そっと自分の足元にガラスのくつを置いた。


タットじいとトマスは、息をひそめて真理の様子を見つめる。

真理は深く深呼吸すると、ガラスのくつにゆっくりと右足を滑りこませた。

スルッとくつに入った足は、ぴったりと真理の右足に合った。

ひんやりと冷たく、なめらかなはき心地は、あの時と同じ。

きっと大丈夫…そんな思いが真理の心にあふれる。

真理はぎゅっと目を閉じると、思わず強く両手を握りしめた。

そして、おばあちゃんの家の屋根裏部屋を頭に思い浮かべる。

ホコリっぽいごちゃごちゃとした部屋。

夏の午後の日ざしがかすかに入る、ほの明るい部屋。

こもった空気がちょっとカビくさい香りの部屋。

そして何より、その場所に行きたい、元の世界に帰りたいと強く心に願った。



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「あ、それは…」

テーブルの上に置かれたのは、まぎれもなくガラスのくつだった。

ただし、片方だけ。

「わしがマリィを見つけたとき、右足にはいていたものだ」

「えっと…もう片方は?」

「はいていなかったよ。左足には何も。わしもおかしいと思ってな。ずいぶんとあたりを探してみたんだが、結局見つからなかった」

「確かに両足にはいていたはずなんだけど…」

大切な宝物をなくしてしまったことで、真理は肩を落とした。

「そうか。やはり両方あったのか。もしかして、もともと片方だけだったのかとも思ったんだがな」

タットじいはすまなそうに言うと、落ちこんでいる真理にかける言葉が見つからず、口を閉ざした。


そのとき。

「は~…キレイだな」

驚きの連続でずっと静かにしていたトマスが、思わずといったカンジで口を開いた。

「まさに宝物ってカンジだよな~」

さすがに直接さわるのにはためらいがあるようで、ガラスのくつに顔をじぃ~っと近づけてしげしげと見つめている。

「ガラスっていうか…水晶とかダイヤモンドみたいにキラキラしてるし、空気みたいに透明だよな。こんなキレイなものはじめて見たよ」

感動の面持ちでトマスはなおも続ける。

「これはいてお願いしたら、どこにでも行けるって? なんか信じられないよな。まぁこんな小さいくつじゃあ、どっちにしろおれにははけないしな」


真理とタットじいの深刻さとは裏腹な脳天気なトマスの言葉に、2人は思わず顔を見合わせた。

「「ぷっ…あはははは~」」

と、2人は同時に笑い出していた。

重くなっていた室内の空気がいっぺんに和らぐ。

「えっ、おい? なんで突然笑ってんだよ、2人とも!」

わけがわからないといったカンジでトマスが抗議した。

「だってトマスったら…あはは…」

「なんだよ、おれが何かしたか?」

笑い続ける真理に、トマスは少しいじけたように聞いた。

「何って…あぁ苦しい…ねぇ、タットじい」

「ああ。トマス、お前のおかげでマリィが元気になったってことだよ」

「はぁ~? なんかよくわかんないけど、おれがいいことをしたってことか?」

「そうだ、そういうことだ」

タットじいはなおも笑ったままうなずいた。

真理もさっきとはうってかわった笑顔をトマスに向ける。

トマスはまだ納得がいかない様子だったが、あきらめたようにため息をついた。


「何はともあれ…深刻になりすぎてはいかんってことだ」

ようやく笑いをおさめたタットじいが言った。

「とりあえず、片方だけでも効果があるか試してみようじゃないか。それでマリィが元の世界に戻れたら、とにかくめでたしめでたしだ。もしかしたら、もう片方のくつは元の世界に残っているのかもしれないしな」

「でも…、もしダメだったら?」

「そのときはそのときさ。両方ないとダメなようなら、そのとき考えればいい。とにかく、試してみなければ何もはじまらないからな」

「おれもそう思うぞ。…よくわからないけど、あんまりクヨクヨ考えても疲れるだけだろ? 試してみろよ、マリィ」

「…うん、わかった。私、やってみる!」

真理は2人に向かって元気にうなずいた。



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「アーデは…自分の意志で…?」

真理は思わずつぶやいていた。

真理自身は、意志も何も、気がついたらこの世界…どうやら違う世界らしいのだが…に迷い込んでいた。

どうしてこの世界に来てしまったのかもわからないのに、アーデは一体どうやって…と頭の中が混乱していたのだった。

タットじいは真理のそんな様子に目をとめると、さらに言葉を続けた。

「そう。アーデは自分の意志でこの世界に来たんだ。この世界に来たいと強く願ったんだそうだ。…ガラスのくつに、な」

「「ガラスのくつ?」」

真理とトマスの声が再び重なる。


「私はおばあちゃんの家でガラスのくつを見つけて、うれしくなってそれをはいたの。そしたら確か…なんだか目の前が真っ白になって、気がついたらここにいた…。でも、ここに来たいだなんて思いもしなかったし、そもそもちがう世界だなんて…」

夢中で話す真理を、タットじいは優しく見つめていた。

「なぁ、タットじい。まさかガラスのくつって…あの昔話に出てくるやつじゃないよな? あれは王室の宝だとかだろ? なんでアーデばあちゃんやマリィがそんなたいそうなもの持ってんだよ」

驚きの連続で言葉も出ない真理をよそに、トマスが声をあげた。

「そうだ。確かにガラスのくつは、お前の知ってる昔話のとおり、レイラ王室の宝だと言われておる。だがな、ばあさんは、確かにガラスのくつをはいていたんだ。わしが見つけたその時に…な。

ばあさんが…アーデがはいていたガラスのくつが、レイラ王室の宝と同じものかはわしにはわからん。アーデにもそれはわからなかった。ただ、同じものなのでないかとは思っておったな」

「あ~もうっ…わけがわかんないよ…」

トマスは頭を抱えると、もう降参というかんじで、机につっぷしてしまった。


「マリィ。他にガラスのくつについて何か知っていることはあるかい?」

「他に…? 他には、おばあちゃんから大切な宝物だとしか…。あとは、ガラスのくつといえば、私が好きなシンデレラのお話しに出てくるってぐらいかな…」

「…そうか。アーデもな、ガラスのくつはアーデの家に古くから伝わる宝物だと言っておった。それをはいて自分が行きたい場所を強く願うと、その場所に行くことができるんだそうだ」

「自分が行きたい場所?」

「そう。アーデはこの世界に来たいと願った。この世界のことは、ガラスのくつと同じくアーデの家に伝わる本を読んで知ったんだそうだ」

「本って…緑色の表紙の? それならガラスのくつと同じ箱に入ってたと思うけど」

「悪いんだが、わしにはそこまではわからんな」

タットじいはすまなそうにそう言うと、静かに椅子から腰を上げ、となりの部屋に姿を消した。

その間、真理もトマスも何も話さなかった。

わからないことが多すぎて、何も言葉にできないでいたのだった。

すぐに、タットじいは何かを手にして戻ってきた。

そっとテーブルに置かれたそれは、窓からの光を受けて小さくきらめいた。



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「マリィ。お前さんは、この小屋の近くに倒れていたんだよ。わしらが発見したのは3日前。それからお前さんは、ずっと眠ったままだった。このまま目が覚めないのではないかと心配していたよ。だから、トマスからお前さんの目が覚めたと聞いたときは本当にうれしかった…」

静かな室内に、タットじいの優しい声だけが響いていた。

「それに、これだけ食欲があればもう心配ないだろう。元気な証拠だ」

「確かに、それは言えてる」

タットじいの言葉に、もっともらしくトマスがうなずく。

「もうっ、タットじいったら!」

楽しそうに目を細めるタットじいに、真理はほおを赤らめた。

「ほらほら、元気じゃないか。まぁ、からかうのはこのくらいにして、単刀直入に話すことにしよう。マリィ、ここはお前さんの住む世界とはちがう世界なんだよ」

「ちがう…世界…?」

思ってもみなかったタットじいの言葉に、真理は目をみはった。

「ちょ、ちょっと待ってよタットじい! ちがう世界ってなんだよ! ゼンゼン意味がわからないよ!」

「トマス、お前にもはじめて話すことだ。きちんと説明するから、静かに話しをきいていておくれ」

タットじいはトマスをなだめると、深くイスに座り直し、お茶を一口飲んだ。


「マリィ。お前さんはアーデのことを知っていると言ったね?」

コクンと真理はうなずく。

「アーデはお前さんの…そう、おばあさんのお姉さんにあたる人じゃないかい? ちがうかな?」

「なんで…タットじいが知ってるの? そう…そのとおりだよ。アーデは私のおばあちゃんのお姉さん。私が産まれるよりもず~っと前に亡くなったって…。だから一度も会ったことないし、写真がないから顔も知らないけど…」

「そのアーデはな、わしの妻なんだ。トマスのばあさんでもある」

「「えっ!」」

真理とトマスの驚きの声が重なる。

「それってどういう…」

「どういうことだよタットじい!」

興奮している2人とは対照的に、タットじいは落ち着いていた。

「どうって、そういうことだ」

「そういうこと…って、それじゃあわからないよっ…!」

ふと、タットじいの瞳が遠くを見るようにぼんやりした。

その表情はとても優しく、それでいてとても楽しげだった。

タットじいの変化を感じて、真理もトマスも口を閉ざした。


「わしが…そうだな、トマスと同じぐらいの年のころだったかな。わしは研究をするために、町からこの小屋に移った。ひとりで暮らしていたから、それこそ1日中研究に没頭していたものだ。

 そんな生活を過ごしていたある日、わしはアーデと出会ったんだ。アーデはな、マリィと同じようにこの小屋の近くに倒れておった…。助けたものの、なかなか目を覚まさないものだから、わしはそりゃあハラハラしたさ。

 ようやく目を覚ましたアーデは、わしにこの世界が自分が住んでいる世界とはちがうということを教えてくれた。自分の意志で、アーデはこの世界に来たのだと…」



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「あ、あのっ…3日間って…! 私、3日間も眠ってたってことですか?」

「まぁ、そういうことだ」

びっくりしている真理をよそに、タットじいは何でもないことのように答えた。

「さぁさぁ、話しはあとあと! とにかく腹ごしらえをしてしまおう」

タットじいに促され、仕方なく真理はベッドから降りた。

けれど、足元はやっぱりまだフラフラしている。

タットじいは優しく真理を支えると、おいしそうな香りのする部屋へと真理を連れて行ってくれた。


用意されていた朝食は、豆のスープとバターつきパン、ベーコンつきの目玉焼きにお茶という、ごくごく普通のものだった。

でも、お腹がペコペコの真理には大ごちそうのように思えた。

はじめのうちこそ、初対面の2人に緊張し、遠慮しながらお行儀良く食べていたものの、そんな気持ちも空腹には勝てるわけがなかった。

ものすごいスピードで、真理は自分に用意された朝食をあっという間に食べ終えてしまった。

それでも、お腹はまだすいている。

けれど、さすがにおかわりをすることはためらわれた。

タットじいもトマスも、目を丸くして真理の食べっぷりの良さを見ていたが、おかわりをしたくてもじもじしていることに気づくと、タットじいがふっと表情を和らげた。
「マリィ、遠慮しないでどんどんお食べ。何しろお前さんは3日間も食べてないんだからなぁ。さぁトマス、マリィにおかわりをよそってあげなさい」


「おかわり!」

「…はいはい」

あきれ顔で、トマスは真理の空になった器を受け取った。

タットじいはその様子を楽しそうに見つめている。

「おまえさぁ~、ホンットよく食べるよな。少しは遠慮したら?」

5度目になるおかわりをよそいながら、トマスはため息をついた。

「だって、お腹が減ってるんだもの。私、3日間何も食べてないんでしょ? 仕方ないじゃない。それに、タットじいはどんどん食べなさいって…ね?」

「ああ、おかわりはたくさんあるから、好きなだけ食べるがいい。トマス、おまえはホントに意地悪だなぁ」

「へいへい。どうせオレが悪いんですよ~だ。…ほら、マリィ」

文句を言いながらも、トマスは器にたっぷりスープをよそうと、真理に手渡した。

「ありがと、トマス」

タットじいとトマスはとっくに食事を終えてお茶をすすっていたが、真理はいつまでも食べ続けていた。

おいしいものを食べている満足感と、タットじいの優しい人柄に、この食事中で真理はすっかり緊張が解け、気軽に会話ができるようになっていた。

会話といっても、食事をしながらのたあいのない内容で、トマスはタットじいの孫であること、彼らが2人暮らしであること、この家は町からちょっと離れた場所にあること…などなどだった。

重要な話しは食後に、とタットじいは決めているようで、真理にもそれがわかったので、あえて口にはしなかった。

とはいえ、お腹が減っていて、真理は頭を使うどころではなかったのだけれど。


6回目のおかわりをキレイにたいらげ、ようやく真理のお腹が満腹になった。

すでに冷めてしまったお茶を飲み干すと、真理は満足してホーッと息をついた。

「ごちそうさまでした!」

「お前、ホントよく食ったな。さすがに次のおかわりはなかったぞ」

トマスは熱いお茶を3人分、もう一度全員のカップにつぐと、タットじいに目をやった。

「さて、と。マリィもすっかり元気になったことだし、そろそろ始めようかな」



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「あ、あの……。何から話す……っていうか……」


真理は、何が何だかワケがわからなすぎて困ってしまった。

どうして自分はここにいるのか?

ここはどこなのか?

このおじいさんと少年はだれなのか?

そもそも、これは夢なのか?


そんな真理の様子に気づいたのか、おじいさんはパンッと軽く手をたたいて言った。

「そうだそうだ。まずはわしらの自己紹介をしないとな。

つい、うれしくて、いそぎすぎてしまったようだ。すまんな、お嬢ちゃん。

わしの名前はタット。で、こいつは、わしの孫のトマスだ」

「タットさんに、トマスさん……」

「ああ、ああ。そんなにかしこまらないでいいんだよ。

わしのことは、こいつみたいに『タットじい』とでも呼んでおくれ」

「あ、おれも別に、『さん』とかいちいちつけないでいいから」

「タットじい……に、トマス……」


タットじいは、真理の気持ちが和らいだのを見ると、満足そうにほほえんだ。

そこで、一瞬ためらった後、思い切ってというカンジで、口を開いた。

「お嬢ちゃんの名前は……、ひょっとして……『マリィ』じゃないかな」

「えっ……」

タットじいは、真理が驚いているのにも構わず、先を続けた。

「そして、お嬢ちゃんは、『アーデ』のことを知っている……。

ちがうかい?」


真理は、勢いよく首をぶんぶん振った。

「ちがいませんっ!私、『真理』です!『アーデ』のことも知ってます!でもっ……どうして?」

「ちょっと、タットじい!この子のこと知ってたのか?それに、『アーデ』ってまさか……」

さっきから、タットじいと真理の様子を見守っていたトマスも、驚いて声をあげた。


タットじいは、そんな真理とトマスを見ると、静かにうなずいた。

「……やっぱり、そうだったか……。

マリィ、私はいつか君に会える日を、ずっと楽しみにしていたんだよ」

「タットじい!一体どういうことだよ!」

その時。


グキュルルルルーッ


真理のおなかが、大きく鳴った。

タットじいもトマスも、びっくりして真理を見つめた。

真理自身、びっくりしておなかに手をやった。


「プッ……ぶはははっ!」

トマスが、こらえきれないといったカンジで大笑いした。

「わるいわるいっ。いや、でもおもしろいな、おまえ。

タイミング悪すぎっ!」

まったく悪びれた様子もなく、トマスはゲラゲラ笑い続けた。

(ああ……なんでこんな時に……)

真理は、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

「マリィ、気にしないでいいんだよ。

マジメな話しよりも先に、まずは腹ごしらえをするとしようか。

せっかく作った朝ご飯も、もう冷めてるかもしれないがな」

タットじいは優しい笑顔を浮かべて言った。

「それと、トマス!女の子に向かって失礼だぞ。

何といっても、マリィは3日間何も食べてないんだから」


真理はタットじいの最後の言葉に驚いた。

(3日間!?)



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シュンシュンとお湯がわく音がする。

バターの溶ける甘いにおいと、ベーコンが焼ける香ばしいにおいもする。

朝食のできる気配で、真理はぼんやり目覚めた。

けれど、真理のまぶたは重くて、なかなか開いてくれない。

(朝ご飯ができる前に起きないと、お母さんに怒られちゃうのに……)

真理の家では、たとえお休みの日であっても、早起きするのがきまりだった。

どんなに遅くても、お母さんが朝食を作り終える前には、起きていなければいけない。

しかし、真理の口からは大きなあくびがもれる。

(何だか、とってもたくさん眠った気がするのに、まだまだ眠い……)

真理は、布団にくるまったまま、また眠ってしまいそうな気がした。

ギギィーッ

その時、やけにきしんだ音がして、部屋のドアが開いた。

お母さんが真理を起こしにきたにちがいない。

真理はまだまだ眠っていたかったけれど、あきらめて体を起こした。

「おかぁーさん、おはよぉ……」

しかし、あくびまじりに言う真理の目に映ったのは、お母さんではなかった。

そこにいたのは、驚いた顔で真理を見つめる、見知らぬ少年だった。

ふたりは、しばし見つめ合った。

「あ、あの……」

「やったー!」

真理が意を決して口を開こうとすると、少年は飛び上がって喜んだ。

そして、「タットじいーっ!」と大きな声で叫びながら、部屋の外に走っていってしまった。

後に残された真理は、ワケがわからないまま、少年が出ていったドアをポカンと見つめていた。

しかし、ハッっと我に返ると、自分のいる部屋をグルッと見回した。

真理が見たことのない部屋だった。

木の板を重ね合わせて作った小屋のようで、天井も壁も、板の木目がそのまま見える。

ひとつだけある窓からは、日がさんさんと射しこみ、部屋全体は明るい。

部屋の中には、真理が寝ているベッドと、ベッドの横にある小さなテーブル以外は何もない。

しかし、よくそうじされているようで、清潔感があった。

真理の使っているシーツや毛布も、フカフカでとっても気持ちがいい。

(一体ここは……)

コンコン

真理がベッドに体を起こしたままの体勢で、あれこれ考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「入っても、よいかな?」

「あっ……はいっ」

聞こえた声がとても優しそうだったので、思わず真理は返事をしていた。

そこでふと、自分は寝起きだということに、いまさらながらに気づいた。

いそいで手ぐしで髪を整え、寝ぼけまなこの顔をこする。

そうこうするうちに、さっきの少年と一緒に、見知らぬおじいさんが部屋に入ってきた。

真理は、あわててベッドから出ようとした。

しかし、体がフラフラして、真理はよろめいた。

「あっ!」

少年がかけよろうとしたが、一瞬早く、おじいさんが真理を支えてベッドに戻した。

「ありがとう……ございます」

「ああ。気にしないでいいんだよ」

おじいさんは、優しくそう言うと、目を細めて真理を見つめた。

その目が、嬉しそうにキラキラ輝いている。

「さて、何から話そうか?」



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真理は、あまりの具合の悪さに、起きあがることができないでいた。

(頭イタイ……気持ち悪い……)

まるで、遊園地のコーヒーカップを、調子に乗ってグルグル回しすぎたみたいなカンジだ。

頭はガンガン痛むし、体全体がグラグラ揺れているようで気持ちが悪い。

(何でこんなに具合が悪いんだろう……)

考えてみても思い出せない。

思い出せないどころか、頭を使ったらますます具合が悪くなってきたような気がする。


(冷たいものでも飲めば、スッキリするかな……)

起きるのもめんどうだけれど、とりあえず水でも飲もうと思い立ち、真理は重い体を起こした。

「う~ん……」

大きく伸びをして立ち上がると、目を開く。

「……あれ?」

いつのまにか夜になっていた。

真理の記憶では、さっきお昼のサンドイッチを食べたばかりのはずだった。

「おっかしいなぁ~」

顔をしかめて周りをグルッと見回す。

「……ここ、どこ?」


そこは、美しい庭園だった。

大きな満月の光に照らされて、色とりどりのバラがキレイに咲いている。

さっきまで、具合が悪くてそれどころではなかったけれど、あたり一面、かぐわしいバラの香りが立ちこめている。

真理が知らない場所だった。

そもそも、真理の記憶では、おばあちゃんの家の屋根裏にいるはずだった。

(え~っと……。確か、おばあちゃんの家の屋根裏で……、ガラスのくつを見つけて……)

ただでさえ痛い頭が、混乱してますます痛くなった気がして、真理は頭を抱えこんだ。

(あ~ぜんぜんわからない……)


ガサッ


その時、すぐ近くで物音がした。

突然のことに、真理はびっくりして、音がした方に目をこらした。

月明かりに、小さな人影が浮かび上がる。

向こうも、びっくりした目で真理を見つめていた。


金色の髪、青い目、すきとおるような白い肌……。

それに、何だか物語にでもでてきそうな、めずらしい服を着ている。

(まるでお人形さんみたい……)

見たところ、どうやら男の子のようで、年は真理よりも2歳は下に見える。

(……って、ちょっと待って!あの子、どう見ても日本人には見えないんだけど!?)

真理は学校で英語の勉強をしているし、おばあちゃんが外国人だったこともあって、英語はわりと得意な方だ。

でも、おばあちゃん以外の外国人を相手に英語を話したことは一度もない。

真理は完全にうろたえてしまった。

(え~っと、こういう時「日本語話せますか?」ってどう言うんだっけ?)

真理は、どうにか思いついた英語を使おうと口を開いた。

そうこうするうちに、男の子も真理に話しかけようと口を開いた。


「アー……ユー、スピーク……!?」

「君は、妖精さん?」


真理の必死の英語は、男の子の言葉に驚いて途中で止まってしまった。

男の子の言葉は、英語ではないし、日本語でもない。

そうだとわかるのに、何故か真理には男の子の言葉がわかった。

(どうなってるの、一体!?)

真理はますます混乱してしまった。

そんな真理の混乱には構うことなく、男の子は、うれしそうに顔を赤らめて、真理を見つめている。

(なんで言葉がわかるのかはよくわからないけど、この子、私に向かって「妖精さん」とか言わなかった?)

どこをどう見ると自分が「妖精さん」に見えるのか、真理にはナゾだった。

でも、男の子は「妖精さん」に会えたと信じているみたいで、本当にうれしそうに見える。


真理は、おそるおそる言った。

「あの……何だかかんちがいしてると思うんだけど、私は『妖精さん』じゃないよ?」

「えっ……ちがうの? だって、ぼく『妖精さん』に会いたいって、ずっとお願いしてたし……。それに君、突然現れたし……」

男の子は不思議そうに首をかしげる。


(頭イタイ……)

真理は、今の状況がさっぱりわからなかった。

この場所といい、この男の子といい、まったくもって意味がわからない。

「……そうか、わかった。きっとこれは、全部夢なんだよね。うん、そうにちがいない!」

真理は、必死に自分に言い聞かせた。

男の子は、驚いて真理を見つめている。

「あ~もうっ! こんな変テコな夢、早くさめてよ! おばあちゃんの家に帰してよ!」


その時。

真理の足元から、まぶしい光があふれだした。

「!?」

光は、真理のはくガラスのくつからあふれていた。

(こんなこと、前にもあったような……)

真理は、光に飲みこまれながら、ぼんやりとそう考えていた。


………………。


光が消えた庭園には、男の子がひとり、ポツンとたたずんでいた。

男の子が見た「妖精さん」は、影も形もなく、すっかり消えてしまっていた。

男の子は、驚きで目を見開き、ポカンとその場に立ちつくしていた。


しばらくすると、遠くで人の気配がし、男の子の名前を呼ぶ声がした。

「ぼくはここにいるよ!」

男の子は、はじかれたように答えると、そちらを振り向いた。

その時、視界の端に、月の光を受けてキラリと光るものが入った。

そこは、さっき「妖精さん」がいた場所だった。

男の子は、サッとそれを拾うと、人目にふれないように自分の服のポケットにすべりこませた。

そして、男の子を呼んだ声の主の方に走っていった。



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「この箱にちがいない!」と確信していたとはいえ、いざ鍵が合ったとなると、やっぱり緊張してしまう。

真理はゴクリと息を飲みこむと、ふるえる手で箱のフタに手をかけた。

すると、ちょっと力を加えただけなのに、びっくり箱が開くかのように、勢いよくフタが開いた。

「うわぁ……キレイ……」

真理は目をみはった。

箱の中にあったのは、ガラスでできたくつだった。

ほっそりと品のよい形で、ほんの少しヒールが高くなっている。

さわったら壊れてしまうんじゃないか、と思えるほど繊細で、窓越しの夏の日射しを受けて、キラキラ輝いていた。

いかにも、お姫さまがはくくつといったカンジで、真理が想像していたガラスのくつどおりだった。

真理は、しばらく呆然とガラスのくつを見つめていた。

小さな頃から憧れていたガラスのくつが、自分の目の前にある。

まるで夢のようだった。

とはいえ、いつまでもそうしているわけにもいかないので、真理はおそるおそるくつを手に取ってみた。

くつは、真理が思っていたよりも軽く、ほとんど重さを感じなかった。

表面はすべすべしていて、傷ひとつない。

目を近づけると、完全に透明なのがわかった。

無色透明で、一点のくもりもない。

(このくつをはけばいいのよね、きっと。そうすれば「何かが起こる」はず……)

真理は、そっと自分の足元にガラスのくつを置いた。

そして、はだしになると、片足ずつガラスのくつに足を滑りこませる。

足はスルッとくつに入り、真理の足にぴったり合った。

真理には少しきつそうに見えたのだけれど、不思議なほどちょうどいい。

くつはひんやりと冷たく、なめらかで、いいはきごこちだった。

はじめてはくハイヒールなので、いつもより目線が少し高い。

何だか急に大人になったみたいに真理は感じた。

うれしくて、クルッと回ってみる。

スカートのすそがふんわりと広がり、まるでドレスのようだと真理は思った。

その時、真理は箱の中にまだ何かが入っているのに気づいた。

緑色の表紙の本だった。

(そういえば、おばあちゃんの手紙にこの本のことが書いてあったような……)

真理は、リュックからもう一度おばあちゃんの手紙を取り出し、目をとおした。



『もしもその時何かが起きたら……。

その時は、一緒にある緑色の表紙の本を読んでみてください。

もし、何も起きなかったら……。

その時は本は読まずに燃やしてしまってください。

宝物は、ただの宝物として、マリィが持っていてください』



おばあちゃんは「何かが起こる」と書いている。

そして、「真理ならばできる」と期待していた。

でも、別に何も起こらない。

(失敗してしまったのかなぁ……)

真理はしょんぼりした。


でも、おばあちゃんは書いてくれている。

たとえ何も起こらなくても、ガラスのくつは、真理の宝物にしていいのだと。

(おばあちゃん、期待に応えられなくてごめんね。でも、約束はちゃんと守ったよ)

真理は心の中でおばあちゃんにあやまった。

やるだけのことはやった。

いつまでもクヨクヨしていてもしかたがない。

真理は自分を励ますために、わざと元気な声を出した。

「あ~あ。せっかくガラスのくつをはいてるんだから、シンデレラみたいに王子様と舞踏会でおどりたいなぁ」

その時。

ガラスのくつからまぶしい光があふれだした。

「な…何っ!?」

あまりのまぶしさで、真理は目の前が真っ白になった。

そして、体がガラスのくつに引っ張られるように感じた後、真理は意識を失ってしまった……。



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「ふぁ~……」

真理の口から大きなあくびが出た。

1日目のお昼用に、とお母さんが作ってくれたサンドイッチを食べた真理は、眠くなってしまった。

昼寝をしたい気分だったが、それよりも先にやることがある。

おばあちゃんとの約束を実行するのだ。

「よしっ!」

真理は勢いよくソファから立ち上がると、服についたパンくずをはらった。

そして、スカートのポケットから小さな鍵を取り出す。

鍵は、ずいぶん古いもののようで、にぶく金色に光っていた。

(一体どこの鍵なんだろう?)

真理は、鍵に合う鍵穴を探し始めた。

リビングから始めて、キッチン、洗面所、客間、おばあちゃんの部屋……と順々に見て回る。

鍵穴を見つけるたびに、息をひそめてそっと鍵を差しこんでみる。

しかし、鍵は一向に合わない。

おばあちゃんの部屋があやしい、とにらんでいた真理だったが、おばあちゃんの部屋を探しつくしても、それらしい鍵穴は見つからなかった。

「はぁ~あ」

思わずため息がこぼれる。

はじめのうちこそ、ワクワクドキドキしていた真理も、こう見つからなくては飽きてしまう。

(おばあちゃんも、ドコの鍵だかぐらい書いておいてくれればよかったのに……)

すっかりやる気をなくした真理は、ペタンと床に座りこんでしまった。

ひんやりした床が、何だかとっても気持ちいい。

(これじゃあまるで宝探しじゃない)

「宝探し……か」

真理が小さかったころ、おばあちゃんの家にくるたびに、宝探しごっこをしたものだった。

おばあちゃんの家は古い洋館で、いかにも宝物がかくれていそうに、小さい真理には思えた。

家中を走り回っては、気になるものをいろいろと見つけた。

見つけるたびに、おばあちゃんにじまんげに持っていったものだ。

おばあちゃんはうれしそうに「これはね……」と説明してくれた。

宝石箱にオルゴール、古いアルバム……。

ある時、小さな真理は、屋根裏で鍵のかかったボロボロの箱を見つけた。

真理はいつものように「鍵をあけて」とおばあちゃんにお願いした。

しかし、その時のおばあちゃんの反応はいつもとちがっていた。

箱のことを聞いたおばあちゃんは、驚いたように目を見開くと、そのままだまりこんでしまった。

真理がもう一度お願いすると、おばあちゃんは困ったように笑った。

そして「この箱の鍵をなくしてしまった」とつぶやいた。

しかし、真理はそんな言葉では納得せず、ダダをこねておばあちゃんを困らせた。

するとおばあちゃんは「いつか必ず箱の中を見せてあげるから」と約束して、ゆびきりをしてくれたのだった。

(きっと、あの箱の中にはスゴイ宝物が入ってるんだ)

小さな真理はそう思った。

(もしかして……)

真理はわれに返った。

(そうだ。きっとあの箱がそうなんだ!)

確信めいたものが真理の心にあった。

やる気をなくしていた体に力がわいてきた。

真理は立ち上がると、屋根裏に続くせまい階段を一気にかけのぼった。

そのままの勢いでドアを開ける。

屋根裏には、たくさんのものがホコリをかぶってごちゃごちゃと置かれていた。

しかし、真理はまっすぐ、迷うことなく部屋のすみに向かう。

何故か、体が場所を覚えていた。

ホコリをかぶったものをどかしていくと、見覚えのある箱が見つかった。

記憶にあるよりもずっとボロボロに見える。

けれど、間違いなくこの箱だ。

真理は息を整えると、そっと鍵穴に小さな鍵を差しこんだ。

そして、ゆっくり鍵を回す。

カチリ

小さな音が鳴る。

鍵が合ったのだ!



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