ALSの絵本を作っていました。 | 絵本 イラスト ピー・ドロウ

ALSの絵本を作っていました。

みなさま、ご無沙汰しております。

前回の更新は、夏だったんですね。^^;;;
いつのまにか冬、というか、もうクリスマス。年の瀬ですが、今年はどんな一年でしたか?

年々、徐々に、その傾向は強くなっておりましたが(笑)いつになく更新の滞ったこの一年、
私は、実は、いよいよ真剣に絵本を作っておりました。




きっかけは、このブログでした。
震災の年に始めたこのブログを読んでくださった、ある方との交流が少しずつ深まったこと。
私の絵をスキと言ってくださるその方からのご依頼でした。

その方は、アメリカはロサンゼルス在住のzapさん。 
ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病を発症したハジメ君という息子さんのことをテーマにしたブログを書いておられる方です。ブログはこちら→「Hajime's ALS Life」

ALSは、発症すると徐々に全身の筋肉が動かなくなってしまうという、原因のはっきりしない病気です。
比較的お年寄りがなることが多いそうですが、ハジメ君は17歳という若さで発症しました。

昨年、ネット上で「アイスバケツチャレンジ」(頭から氷水をかぶる)という運動が拡散しましたね。
あの運動でALSを知った方も多くおられるかと思います。
が、私がzapさんからお話をいただいた時(たしか2012年頃だったと思います)は、
まだあのようなブームはなく、この病気が報じられたり話題になることは少なかったと思います。

zapさんのご依頼は、もっとこの病気のこと、そしてハジメ君のことを知ってもらうことで
ハジメ君を(同じくALSに苦しむ人たちを)応援したいと思う人や、
ハジメ君へ繋がる良いご縁を増やしたい、そのようなことを考えてのことでした。

お話をいただいた当初、私は大変迷いました。
が、ハジメ君の状況やzapさんの介護の日々を少しではありますが知りつつ交流していた中で、
にべもなくお断りする気には到底なれませんでしたし、これもきっと何かのご縁なんだろうと思いました。

ひとまず、絵本を作ることを前提に、詳しくお話を聞いてみようと思い、取材をはじめました。
直接会うことができない中で、メールやfacebook、スカイプを利用しての取材でした。

お話をいただいた時すでにハジメ君は、自力での呼吸も、眼球を動かすこともできなくなっていました。
意識ははっきりしているのに、自分の思いを伝える術を失ってしまった彼のことを、
こんな遠いところにいる、彼にとっては見ず知らずの私が、一体どうやって表現すればいいのか? 
そもそも彼はこのことを喜ぶんだろうか? 
もしかしたらものすごく失礼でエゴイスティックなものを作ってしまうのかもしれない。
本当に作っていいんだろうか?・・・などと考えながらの取材。




知れば知るほど、不安は大きくなり、迷いの答えは出ませんでした。
思いあまって、zapさんに正直にその気持ちを相談したことも、何度あったかわかりません。

その度に「大丈夫ですよ、ハジメはきっとすごーく喜びます」 と、いつも励まして頂きました。

今考えると、彼の母親であるzapさんは誰より深くお考えになった上で、私にご依頼くださったのだから、そのように仰って頂けるのはわかりきったことだったのですが、いつもzapさんの言葉で、落ち着を取り戻すことができました。

でもね、その不安感みたいなものは、今もやっぱり続いてます。正直に言うとね。泣きたくなる。
彼とは言葉を交わすことができないんですから。当然なことだと思っています。
いくら考えても答えは出ません。

でも、考えて考えて考えて、私は、「感じることはできるかも」と、思ったんです。
彼に目を向けて心を寄せることで、彼の気持ちを少しぐらいは感じることはできるんじゃないかって。




そして・・・それに、それは誰にでもいえることであって、
相手が「言葉が出せない人だから」と気構えるっていうのは、何か違うんじゃないか。って。

たとえば、
美しい空の色が、自分の見えているのと同じように他人に見えているかは絶対にわからないのと同じで、
相手が誰だろうと、その人がホントはどう感じてるかなんて、その人以外わからない。

たとえ、「人は、自分の見たいようにしか見ない。自分の見たいと思うことしか見えない」んだとしても
私たちは、思いやること、相手の心を想像することはできる。
その想像によって、この世の「穏やかな時間」は、できてるんだろう。


私が「絵本で表現したいこと」は、ズバリそのことだったなって思いました。

彼の今いる世界は、ともすれば、気の毒すぎて、なんだか怖くて、目を向けることすら憚られる。。。
そんなような扱いの世界です。
アメリカではかなり違うようですが、日本では(近年少しずつ壁は薄く低くなってきたとは思いますが)、差別的で、一般社会とは隔離されたような雰囲気があったりする。

私も、そういう立場の人達が抱える問題を、知識としてある程度は知っていても、
その「気持ち」を、心で感じてみようとすること、つまり「もし私がそうだったら」と、
本気になって想像することをほとんどしたことがなかったんだなと、気づきました。




それは、私の持っている想像力を総動員する毎日でした。

他のALS患者の方のことも調べてみました。

想像だけだから、身体の痛みなどは実際にはもちろんわかりません。
なのに、ふさぎ込んだように落ち込んでしまい、作業が進まないこともしばしば。。。

なんて深い絶望感。 圧倒的な閉塞感。 家族に対する申し訳なさ。 悔しさ。 悲しさ。 恐怖。 孤独。


でも、ハジメ君は生きてる。
危篤状態から、何度も何度も生還する。
それはもう、お医者さんも驚くほどに。

彼の存在からは、言葉じゃないものが伝わってくるように思えました。

それはどこから出てくるパワーなんだろう。
彼を支えてるのは、何だろう。
どんな思いなんだろう。



これはそうやって、私の中で見えたような気がする光景や気持ちを、ひとつひとつ、繋いで作った絵本です。

タイトルは、「All of Life is Special」としました。

ハジメ君のことを考える毎日の中で、
どんなことも大切に、今を大切に・・・っていうメッセージを受け取った気がして^^、思いつたタイトルです。

タイトルの中に、「A」、「L」、「S」の3文字があることに気づいてもらえると思います。
"ALS"という絶望的な状況の中にも、”All of Life is Special”って言える瞬間はきっとあって、
イイこと、苦しいこと、人生の経験のすべてがそう、”All of Life is Special”なんだよね
」って意味も、
込めたつもりです。

それこそが、私が、ハジメ君の存在から感じたこと。

 



出来上がった絵本をハジメ君が気に入ってくれるかはわかりません。
が、ありったけ、精一杯、心をこめて作る。 私がやれることは、ホントに、それだけでした。

これまでの私、「絵本 ・ イラスト ・ ピー・ドロウ」だなんてタイトルのブログ書いてるくせにね、
実質的に、自身での絵本づくりには、なかなか着手できずにきました。
日々の生活、仕事その他諸々のパタパタにかまけて。
「いつかは、いつかは・・・」と思いながら、時々浮かぶアイディアを書き留めては「寝かせ」る。だけだった。
ずっと、何を作ればいいのかわからなかった。

何年も何年も悶々と過ごしてしていたら、ハジメ君とのご縁をいただいて、
真剣に絵本作りと向き合うという体験をさせていただきました。
私にとって大切なことだったと思います。
うん。やっぱそこはどうしてもエゴですよね。。。うん。ホントに。。。ハジメ君ごめんね。

でも、ハジメ君のおかげで、私は自分の中にあった色々な感情に向き合うことができました。
そして、心に、新しく、あたたかい思いが生まれました。ありがとうね、ハジメ君。


言葉で伝えることはできなくても、彼の存在から感じることがいっぱいあるから、
多くの人がハジメ君のために祈ったり、サポートしたりしているんだろうね^^・・・


絵本づくりの作業は、昨日やっとデザインの工程を終え、
ページを連ねてPDFにしたものをzapさんに送りました。

そしてさっき彼女から、うれしいメールが届きました^^。よかった。



zapさん、いつも励ましてくれて、ありがとう。
この本をよろこんでくれて、ありがとう。





入稿は、業者さんの都合で来年早々です。

絵本としてカタチになったものは来年、アメリカのハジメ君の街で、配られる予定です。