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◆ダスキンその他多くの企業や個人が研修で参加する懺悔の生活・西田天香が興した修養団体「一燈園」の三上和志さんは ある病院に講話に招かれて行きました。
講話が終わった後、たいへん感動した院長から、
「実は私の病院に少年院から預かった18歳になる結核患者がいます。
あと10日もつかどうかという状態で、身寄りもなくひねくれて、先生の話を聞いてくれるかどうかわかりませんが、少しお話していただけませんか」
三上さんは躊躇しながらも、とにかく話してみることにしました。
隔離病棟には、彼一人がいました。
コンクリート剥き出しの寒々とした床の上に新聞紙を敷いて、便器が据えられ、入り口には洗面器が置かれています。少年は痩せて頬がげっそりこけ、目のまわりは黒ずみ黄疸を併発しているようでした。
「気分はどうかね!眠れるかね。こちらは三上先生だ。先ほどご講話いただいて非常に感動したので、お前にも聞かせてあげたいと思って、無理にお願いして来てもらったんだよ!」 と、院長。
憎憎しげに顔を向こうに背けて無言の少年に 三上さんが、
「おい、どうでえ、何か言えよ!」
『うるせえ!』
院長は「こりゃだめですな」と小声で退散を促しました。
三上さんも諦めて部屋を出ようとして、もう一度振り返ると 少年が燃える眼差しでじっと見ていました。
三上さんが引き返すと、慌てて顔を背けましたが、覗くと涙が頬を伝わっていました・・・三上さんは決心しました。今晩ここに泊まって少年を看病しよう!
「それはいけません。結核ですから移ります。」 と院長。
「でも、我が子ならそうするでしょう。明日はどうなろうと今日一日真であれば、明日死んでも本望です!」
院長は何も言わず退室しました。
「おい、こっち向けよ。今日は一晩看病するからな。」
『ちぇっ、もの好きな奴やな』
「お前の両親はどうした?」
『そんなもん、知るけ』 少年は激しく咳き込み、血を吐いて言いました。
『おれはなあ、うどん屋のおなごに生まれた父無し子だ。親父は大工でお袋が妊娠した途端に出て行ったてよ。お袋は俺を産み落とすとそのまま死んじまっ た。うどん屋じゃ困って、人に預けて育てたんだとよ。俺が7つの時に呼び戻して出前をさせた。学校では苛められてばかりで、店の主人からはいつも殴られた。だから、14の時に飛び出して、神社の賽銭泥棒で暮らすようになった。でも、警察に捕まって、少年院に送られて肺病にかかった・・・』
「そうかあ、いろんなことがあったんだなあ!」
三上さんは少年の足元に回って、枯れ木のように細くなった少年の足をさすりました。
『おっさんの手は柔らかいなあ。お袋の手のようだ。
『おっさん、あのなあ・・・』
「なんじゃ?」
『おっさん、笑っちゃいかんぞ。 一度、お父っちゃんと呼んでいいかい』
「ああ、いいよ。わしでよかったら返事するぞ」
『お父っちゃん!』 苦しい咳の中、閉じた目に涙を流して少年は言いました。
少年はもう一度言いました。 『お父っちゃん!』
「なんだ。おとっちゃんはここにいるぞ。」
大声をあげて少年は泣きました・・・ わあわあ泣く少年を毛布の上からさすりながら、三上さんも何度も鼻を拭いました。
少年は明け方とろとろと寝入りましたが、三上さんは一睡もしないで少年をさすり続けました。
『おっさん、昨日、病院の人たちに話をしたというてたなあ。俺にも何か話してくれ。』
白み始めた早朝の薄暗がりの中で、いつの間に目覚めたのか、少年が言いました。
「聞くかい? お前は何のために生まれてきたかを知っとるか!生まれてきた意味だよ。」
『そんなこと分かるわけ・・・・・』
「誰かの役に立って、ありがとうと言われたら、嬉しいと思うだろう。 お前、今まで誰かの役に立ったかい?」
何かを考えるようにしていた少年は投げ出すように言いました。
『おれは駄目だ!もうじき死ぬんだ! 人の役に立てって言ったって、いまさら何ができるんだ?』
「出来る、できるぞ。なあ、お前、此処の院長先生やみんなによくしてもらって死んでいける。だから、みんなに優しくして死んでいくんだ。それがせめてもの恩返しだ。」
『おっさん、わかった。これまで気に入らないことがあると、゛ばかやろう、殺せ!〝って怒鳴っていたけど、これからは止める。 言わないことにする。
それから、もうひとつたのみがある。おれが死んだら、○○というどうしようもない奴が、死ぬ前に言ったぞと言ってくれるかい。
゛小言をいってくれる人がある人は幸せぞ。
おれのように小言をいってくれる人がひとりもねえのはつまらんぞ。
それに文句をいうのは贅沢だい!〝 ってな。』
三上さんはその日、高校で講演会があり去ろうとすると、少年は三上さんの手をしっかりと握りました。
三上さんが院長室に戻ると、院長先生はソファーで横になっていました。
「あなたがあの部屋で看病していると思うと、帰ることができなかったのです。夜中に二度ほど様子を覗きにいきました。夜通し足をさすっていらっしゃったのを見て、頭が下がる思いです。」
その時、院長室のドアがあわただしくノックされました。
「ちょっと報告が・・・」 と若い医師が入ってきて、院長に報告しました。
「三上先生、少年○○がたった今 息をひきとりました。」
若い医師は真面目な顔でこう切り出しました。
「不思議なことがあるんです。あいつは、何か気にいらないと゛殺せ、殺せ〝とわめいていましたが、今朝はまるで別人で、私が診察に入ると、ニコッと笑うのです。
『おっ、今日は機嫌がよさそうだなあ』と言いながら消毒液を入れ換えて、いざ診察にかかろうとすると静かにそっと死んでいたのです。うっすらと、微笑すら浮かべていました。
そして、なんとはだけた毛布を直そうとしたら、毛布の下で合掌していたんです。あいつがですよ。合掌していたんです!」
三上さんは顔をくしゃくしゃにして、
「○○、でかしたぞ。よくやった。 合掌して死んでいったなんて、お前すごいなあ。すごいぞ!」
小言を言ってくれる人が ある人は幸せぞ
おれのように小言を言ってくれる人がひとりもねえのは、つまらんぞ
それに文句をいうのは、ぜいたくだい!
三上さんは、涙を流しながら 「おれの命のある限り、この言葉を話してやるぞ!」
そう、心に誓ったそうです。
◇「下座に生きる」神渡良平著 より
私がこれを読んだのは10年以上前、何をやってもダメなうつ時代。そんな時だから読める本出逢う本がある。いつも好調な人はヤバイ。
が、こうやうひとにわたしはなりたい。なる。
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