稽古終わって佳代さんに電話したら間髪入れずに応答。しかもなんだか明るい声だ。

あら佳代さん、どうしたの?と先手を打ってみると、

「ヒナちゃんが歩いたよ!!!」

と。僕は道端にもかかわらずかなりハッキリとした発音で、「WAO!」とネイティヴなリアクションをしてしまいました。その後にオウマイガとは言いませんでした代わりに、マジで!?と言った所までは覚えています。EXILEみたいにヤバい!とも言いませんでした。
すぐ帰る!俺!すぐ帰るぞ!!!


とにかく高揚する気持ちを抑えきれず、早足で駅まで向かいます。逸る気持ちとはこの事だ。今俺は逸ってる!
ヒナちゃんは歩いた!だから俺は走る!

早いものだなあ。

この間ハイハイをしたと思えば、そこからはあっという間にスックと立ち上がるようになって。
成長が加速度を増しています。
成長度合いグラフはまっすぐな線で斜め上に上がっているわけじゃなく、ギュンとうなぎ登り的に曲線をキツくして上へ上へと上がって行くようです。
こちとら成長は横ばいどころか、今までの線とは別の色の線の老化グラフがいつの間にか伸びて来てるんだ。

駅のホームで電車を待っている間にブルリとLINEが来た。

動画だ。

スマフォが少し離れた所から、佳代さんと暖さんを映し出している。佳代さんはどこかにスマフォを立てかけているのかな?

あら。2人とも手を振っているじゃないか。

佳代さんは横向きに座って向かって左手。右側の暖さんはピッと立ち上がっている。誰のフォローもないし、どこかに捕まっているわけでもないぞ。

あれ?

つい先週までつかまり立ち、つたえ歩き状態だったのに、昨日おとといあたり、一瞬スックと立った気がするが、あれ?完全に自立しているじゃないか!

で、そこから暖さんは佳代さんの方に向かって、二歩三歩、ピョコピョコと歩いた!

あーー!!!
タラちゃんだったらトゥルントゥルンと音が出ている位な歩きだ!これは完全に歩いたぞ!そしてマラソンランナーがゴールした時のように佳代さんに倒れこむように抱きついた。

急げー急げー!

早く家に帰って、本物を見たいぜ!

念力よ!今こそ開眼しろ!俺よ!テレポーテーションを会得しろ!


またはルーラをおぼえろ!今!
あ、でも今地下鉄だから、一度リレミトで地上に出てからルーラだ。おい!そんなことはどうでもいいんだよ。早く帰るぞ。


そして、家に着くと佳代さんはなぜか
「パァーーー!」と言って僕を迎えてくれました。
佳代さんは暖さんに、よくいないいないバア的なノリで「パァ」と目を見開いてやる時はあるんですが、帰って来た僕に突然「パァーー!」と言うもんだから思わず僕も

「パァーーーーー!」

と言ってしまいました。高揚し過ぎて僕たちもまあまあどうかなっちゃってるようです。


え?歩いたの歩いたの?

と早速。


ほら、ちちにも見せてあげてと佳代さん。

暖さんはニコニコしてよいしょと立つと、佳代さんの方をピッと見た。

そして。


歩いた!!!!!


「パァーーーーーーーーー」

となぜか2人で叫んだ。

暖さんは成長しているのに僕たち夫婦は退化して言葉を失ったようです。

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それから暖さんは、何度もなんども尻もちをついては立ち上がり、何度もなんども歩こうとするのです。

自分の身体の説明書は無いわけで、1つ1つ、ああ、こんな使い方も出来るんだ、と発見し、確かめるように何度も試してみてその機能を確かなものにするみたいにね。


そうしてたった20分くらいの間に、たった20分くらい前よりも全然歩く。

ひゃあ。
なるほど。
こりゃあ追いつかない。

一分一秒見逃せない位に、目の前で骨がググンと伸びるのをハッキリと確認できるかのごとく、成長は加速度を増している。

今、目の前で、進化している。


凄い。凄すぎるぞ。人間。いや、生物。

明日には急に、いや、今この瞬間に急に、成長する。実際してる。


突然ベギラマを覚えたり、ジョジョでいきなりザ・ワールド覚えたり、そんなこと有るもんかと少し思っていたのだけど、成長とはそんなものかもしれない。


おい。見逃せないじゃないか。


現にこうして、家に帰ってからお風呂に入るまでに、2歩3歩から5歩6歩になったのだから。


暖さんの偉大な一歩を目の当たりにしているのだなあ。