2016年度2月理事会あいさつより

テーマ:

「貧困クライシス」とは何か?「働く貧困」のその先にあるもの

 

働き盛りの35歳世代の青年労働者に焦点を当ててみると、「正規雇用の一層の減少」と「所得の伸び悩み」に苦しむ 実態が見え、日本の持続可能な経済・社会の根幹を破壊しつつあることに恐怖を感じます。「20年後の日本」は、このままでは「中間層の崩壊が急加速」「税収や消費が落ち込む一方で福祉コストが嵩む超コスト負担社会」が到来します。この超コスト負担社会をまかなうためには、消費税を18%にまで引き上げなければならないという衝撃的な試算すらあるのです。その最大の要因は言うまでもなく「働く貧困」が深刻化し、賃金が低迷していることです。賃金引き上げによる個人消費の拡大は、日本経済活性化のカギになっているのです。この20年間、政府と財界は構造改革の名の下に賃金をむりやり引きずり下ろさせることを至上命題としてきました。IMFが先般発表した対日提言では、日本に継続的な賃金引き上げを促す官民ガイドラインの導入を求めています。このなかでは、賃上げしない企業にはペナルティも必要と警告しています。それほど賃金の低迷によって、日本経済は深刻な状況なのです。

 

どうしてこんな状況になったのでしょうか。1990年代後半に新自由主義的規制緩和と労働法制の改悪が矢継ぎ早に進められました。98年労働基準法改悪によって有期雇用の上限規制が緩和され、契約社員の大量活用が可能になりました。翌99年には労働者派遣法が改悪され、派遣労働の対象が拡大しました。更に2003年派遣労働者の製造業への派遣が解禁となり、大きな枠組みが完成したのです。

 

19942月、今も「舞浜会議」として語り継がれる会合がありました。舞浜の高級ホテルに大企業のトップ等14人が参集し、新時代の日本経済を巡って議論しました。その席で「これまでの価値観で経営を続けて国際競争力を保てるのか」という疑問が出され、「雇用重視」を唱える今井敬新日鉄社長と「株主重視」を主張する宮内義彦オリックス社長の間で、「今井・宮内論争」と言われる激論が交わされました。宮内氏は、「企業は、株主にどう報いるかだ。雇用や国の在り方まで経営者が考える責任はない」と主張。今井氏は、「それはあなた国賊だ。我々はそんな気持ちで経営をやってきたんじゃない!」と反論。結果は、国賊派の勝利。それが分水嶺であったかのように、今日の「新時代の日本的経営」につながっています。

 

 

今、確実に各世代で生活保護受給者予備軍 増加

 

「働く貧困」層の増大は、日本的労使関係といわれた年功賃金制、終身雇用制が急速に崩れていることを示すとともに、労働者全体の賃金水準の低下をもたらし、今日の日本の深刻なデフレ不況の根本要因となっています。働く貧困は若い世代から始まり、その上の世代にじわじわと広がっているのです。労働者全体を見たとき、実は「格差の広がり」が問題なのではなく、「貧困の広がりとその水準が下がり続けている」ことが重大な問題なのです。正規労働者が減少し、低賃金の労働者が増大すればそれはそのまま社会保険制度の根幹を揺るがす事態となります。しかも、昨今経営難から、社会保険料負担を免れるために厚生年金から国民年金に切り替える事業主が増加しています。また、非正規労働者に社会保険を適用しない事業主も少なくありません。厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合調査」(2014)によれば、非正規労働者の健康保険加入率は54.7%、厚生年金52.0%となっています。半数近くの非正規労働者が事業主負担のない国民年金・国民健康保険加入となっているのです。「働く貧困」層の増大は、国民年金保険料の未納者と免除者の増加となってあらわれ、保険財政悪化の要因にもなっています。保険料納付率は98年度の76.6%から2014年度63.1%へ低下(10ポイント減)し、免除率は98年度の19.9%から2014年度38.7%へ増加(18.8ポイント増)しています。「働く貧困」層の結婚できない若年男性労働者の増加は、近い将来、高齢者の生活保護受給者の急増につながることは明らかです。

 

 

情勢を自らの問題として捉える、キーワードは「当事者性」

 

ある事業所で、評議委員会方針を討議学習していた時に国保の問題が話題になりました。無料低額診療の患者さんの事例や保険証の差押え事例について話し合ったところ、参加していた入職2年目の職員から「実は私も国保料を滞納していました。前職場が入職3年目以降でないと健康保険証をもらえず、タイムカードも出勤簿もない職場で朝から深夜まで働いていました」という発言がありました。その職員は、大学卒業と同時に親の扶養家族から外され、国保加入になっていましたが本人には全く自覚がなく、病気もしなかったので健康保険のことは全く考えたことがなかったそうです。しかし、国保料の滞納通知が届いてその事実を知り、そこの退職後失業手当は全てその滞納にあてたそうです。社会保障を巡っても厳しい現実の中で、実は多くの職員が当事者なのです。

 

「貧困クライシス」クライシスという言葉は、「危機」という意味と同時に「転機」「決定的段階」という意味も併せ持つ(「岩波新英和辞典」)そうです。私たちは今、ピンチをチャンスに変える決定的段階に直面しているともいえるでしょう。時代はまさに「戦後第二の困窮期」に入っています。・・・藤末衛全日本民医連会長があいさつで述べたフレーズを最後に引用します。「社会保障の問題はまさに国民にとって切実な問題です。民主主義に観客席はありません。民医連職員、共同組織はそれぞれの地域で情報発信し、運動を進めてほしい。その活動の根拠となるのがSDH(健康の社会的決定要因)であり、組織論が『住み続けられるまちづくり』。そして、誰にでも広げられるそのツールがHPH。憲法を学び行動し、そしてまた憲法に戻る、そんな活動を進めましょう。現局面、民医連は発展期の入り口に来ているのです」

 

 

2017年3月4日 理事会にて
盛岡医療生協 理事長
尾形 文智

 

岩手県 盛岡市 川久保病院

川久保病院ホームページ  http://kawakubo-hos.jp/
さわやかクリニックホームページ http://sawayaka-c.net/

 

 

AD

拡大する格差と貧困

テーマ:

先月発表された「99%のための経済」の中で、「世界の超富裕層8人(ほとんどが米国人)が持つ資産が、世界人口の下位50%(36億人)の資産の合計とほぼ同じ」と発表されました。同様にわが国でも、「国民個人資産合計の約半分を上位40人が占めている」と言われています。現在生保受給者は200万人を超え、20年前の2.4倍になりました。更に可処分所得が生保基準未満と推定される国民は約2045万人、そしてその周辺に数千万の貧困があると言われています。そして、1997年以降国民所得が減少し、「算定の基準となる所得中央値が下がっている」のに相対的貧困率は16.1%と上昇しているのです。

 

小泉構造改革から引き続く働くルールの破壊。そして「アベノミクス」により、正規労働者の非正規労働者への置き換えが進み、非正規労働者の割合が4割を超えています。働いても働いても生活が困難な「年収200万円以下」と規定されている「ワーキングプア」の層は現在労働者の4人に1人に増加し、年収300万以下の「働く貧困層」は労働者の55%に達しているのです。これは驚くなかれ、非正規労働者の9割近く、正規労働者の3割近くを占めているのです。この「年収300万」には二つの大きな意味があります。①「結婚の壁」・・・これに該当する労働者の多くは、「結婚すると人並みの生活ができそうにない」と考えています。結婚したくとも経済的理由で結婚できないというのは、今日の貧困の一つの現れです。②「老後の年金水準」・・・この年収層の年金は厚生年金で最大12万円弱、ほとんどは10万円未満。国民年金の場合には更に劣悪で7万円前後です。一生懸命働いても、安心して老後生活を営むことができないということは、これもまた「貧困」の現れと言えましょう。

 

 

尾形 文智

 

岩手県 盛岡市 川久保病院

川久保病院ホームページ  http://kawakubo-hos.jp/
さわやかクリニックホームページ http://sawayaka-c.net/

 

 

AD

2016年度1月理事会より

テーマ:

「組織犯罪準備罪(共謀罪)」を国会に上程させない本気の取組みを!

 

「犯罪行為を行わなくても『合意』だけで犯罪として処罰する」という「共謀罪」は2003年、2004年、2005年の3回にわたって国会に法案として提出されましたが、強い反対の声のもとにいずれも廃案になっています。しかし、今回安倍政権は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックとテロ対策を前面に押し出して国会を通過させようとしています。昨今の国会の状況をみると、いったん上程を許せば強行採決で突破される危険性がきわめて高いのです。とにかく法案を上程させない運動、国民世論形成が大切です。

 

近代刑法の原則は、「人の『行為』に対して刑罰を科すこと」=「行為原則」(内心で如何に悪いことを考えても処罰されることはない)ですが、この「共謀罪」はこの原則に反しています。日本では、過去の治安維持法による痛切な反省と経験に基づいて、思想信条の自由や結社の自由などが憲法に規定されており、この憲法の規定にも反するのです。そして、刑罰の範囲が広汎かつ曖昧になり、権力による濫用される危険性が高まります。「共謀罪」を念頭に権力が「まだ起こっていない犯罪を防ぐための準備」をするには日常的な監視が必要になるのは必至です。つまり、スパイ・密告者の育成、盗聴の濫用などが懸念されます。この布石を打つように、昨年刑事訴訟法の改悪が行われ、すでに「盗聴法の拡大」と「司法取引制度」が導入されています。

 

何故いま「共謀罪」が必要なのでしょうか。…政府に都合の悪い運動や言動の抑圧をしたい、戦争する国づくりの重要なパーツとして位置付ける。…このことに外なりません。「法案」では犯罪主体を個人や一般市民団体ではなく、「組織的犯罪集団」の活動と規定しています。しかしこの「組織的犯罪集団」の基準はあいまいで、認定は政府や捜査当局が行うものです。よって、「誰もが」そして「日常的な様々な行為が」常に該当する可能性(危険性)を持っているのです。・・・基地建設反対運動やマンション建設反対運動などは組織的威力業務妨害・・・、・・・労働組合の団体交渉は組織的逮捕監禁・・・など。また、犯罪の対象行為を「犯罪実行の『準備行為』」としています。準備行為とは主に物品の準備や資金調達を指します。・・・「犯罪の合意があり、ホームセンターで買い物、ATMで現金の引き出し」があれば逮捕立件される要件に該当するでしょう。

 

確かにすぐに戦前のごとく公安警察・特高が跋扈する、などということはないでしょう。しかし、市民運動・大衆運動やマスコミの報道は大きく後退・萎縮するでしょう。何故なら、『準備行為』により誰かが逮捕されたときに、「合議に加わっていた」と認定されれば、周辺の多くの人たちもまた「無自覚のうちに」逮捕監禁される危険があり、そして秘密保護法により、最初に誰が捕まったか、合議や準備行為と認定された中身が何かすら「秘密」とされる可能性が高いからです。何よりも、これを許した社会では、多くの国民は「権力がみなす(だろう)「組織的犯罪集団」に近づくこと」を避けるようになるでしょう。市民共闘を抑圧する大きな力となるのです。

 

 私たちは、この危険な本質を多くの市民・労働者に伝えましょう。戦争法阻止、憲法改悪阻止の運動と連携した運動をさらに進めることが大切です。

 

2017年2月4日 理事会にて
盛岡医療生協 理事長
尾形 文智

 

岩手県 盛岡市 川久保病院

川久保病院ホームページ  http://kawakubo-hos.jp/
さわやかクリニックホームページ http://sawayaka-c.net/

 

AD