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 エリシア・クロロティカと共生する葉緑体、そしてレトロウイルスのような例は、そうは知られていないが、決して特殊なものではないだろう。

かつて細菌だったミトコンドリアが我々に欠くことのできない共生者に
 例えば我々の肉体を構成する60兆個もの細胞の内部に、細胞小器官として数百個もが共生しているミトコンドリアである(写真上=内部構造の電子顕微鏡写真)。ミトコンドリアは、酸素呼吸に伴うエネルギー産生を担っており、我々が手を動かし、頭を働かせるのも、すべてミトコンドリアのおかげである。
 葉緑体と同様に、ミトコンドリアも元は単独で暮らしていた微生物、好気性細菌だった。それが証拠に、彼らは核DNAと別の独自の短いDNAを持っている(核DNAの30億塩基対に対し、1万6569塩基対しかない)。
 その細菌が、10億年以上前のある日、「プロチスト」という単細胞の真核生物に入り込んで共生関係になった。現生の真核生物は、すべてこの時の細菌=原ミトコンドリアの子孫である。なぜならすべてのゲノムが似ているからだ。

ミトコンドリアの起源細菌は現代病原菌の起源と同一か
 ミトコンドリアは我々、真核生物になじんで、エネルギーを供給してくれる「なくてはならぬ」関係になった。エネルギー供給してもらう宿主の真核生物も、見返りとしてミトコンドリアのためにたんぱく質をコードする遺伝子などを自らのゲノムに取り込み、ミトコンドリアの負担を緩和してやっている。
 ミトコンドリアのゲノムには今では37遺伝子しか存在しないが、もともとプロチストに侵入する前は、2000ほどの遺伝子を備えていたと考えられる。そして真核生物と共生関係を深めるとともに300ほどの遺伝子が宿主ゲノムに引っ越しし、残りの必要性の薄れた遺伝子はリストラして今日のようにスリム化した。
 この過程でも、おそらくレトロウイルスが関与した可能性がある。
 ちなみに、ミトコンドリアとは真核生物にとってこんなにも大切な存在だから、遺伝的異常があると「ミトコンドリア病」と総称される様々な病気になる。
 それなのに『破壊する創造者』によって教えられるその起源細菌は、驚くべき物なのである。何と我々に不可欠なミトコンドリアは、発疹チフスリケッチアという病原体に近いのだという。両者は、おそらく祖先を共通していただろう。

シアノバクテリアが真核細胞内に共生して葉緑体に
 これは、エリシア・クロロティカの項で述べた光合成を行う葉緑体(写真中央=細胞内の緑の粒)とも似ている。葉緑体は、藍藻(シアノバクテリア)が真核生物と共生関係に入ったものだが、かなり意外なのは最近、マラリアの病原体であるマラリア原虫にも葉緑体の痕跡が見つかったことだ。おそらくマラリア原虫は、元は他の藻類と同様に細胞内の葉緑体の助けを借りて、自ら炭水化物を合成し、それで暮らしていたのだろう。
 ところがいつの頃からか、動物の赤血球に寄生して暮らすようになった。どんなきっかけがあったか分からないが、そちらの方がずっとラクチンだったので、マラリアという厄介な病気を引き起こす迷惑寄生者になり下がった。生物にとって楽して繁栄できれば、それに越したことがない。というか、「楽している」というのは、それだけ適応度が高いのだから、自然淘汰で必然的にそうなる。
 それでも用心深く葉緑体の痕跡を残しているのは、宿主が死に絶えたら再び自活する用意なのか。もっとも進化学の常識からすれば、いったん退化した機能は元へは戻せない。現在の姿に特殊化してしまっているからだ。
 葉緑体の痕跡は、我々の盲腸に似た、ただの「痕跡器官」なのではないかと思う。

ウイルス性悪説の誤解
 ちなみに第1話で述べたように、ミトコンドリアと葉緑体という細胞内小器官(オルガネラ)は、元は独立した細菌で、10億年以上前に真核生物に共生するようになったという共生説は、昨秋に亡くなったリン・マーギュリス(写真下)が1970年に初めて唱えた。当初は、当惑で迎えられたけれども、今では信じていない人はいないほど生物学者の常識、となっている。
 閑話休題。
 ウイルスというと、AIDSやインフルエンザ、子宮頸がんなどを感染させる悪者と思われているが、それは大きな誤解のようなのだ。
 そうした不都合さは、当該ウイルスが我々になじむほんの一時期、それもこく短期の葛藤にすぎない。全く医学という手段のなかった原始人も滅ぼされなかったのだ。
 それを思うと、H5N1型鳥インフルエンザ・ウイルスも、それほど気に病むことではないのかもしれない。一時期、多数の犠牲者を出すだろうが、人類が滅亡することなどありえないのだ。
(この項、続く)

☆これまでの「『破壊する創造者』を読む」シリーズ
▼12年1月29日付日記:「『破壊する創造者』を読む(第5話):遺伝子を他種に移動させるウイルスとウミウシ」
▼12年1月27日付日記:「『破壊する創造者』を読む(第4話):鳥インフルエンザはパンデミックを起こさない!?」
▼12年1月25日付日記:「『破壊する創造者』を読む(第3話):サルと平和的に共生していたHIV」
▼12年1月23日付日記:『破壊する創造者』を読む(第2話):共生者としてのレトロウイルス」

▼12年1月20日付日記:「ウイルス像を一変させる刺激的書物『破壊する創造者』を読む(第1話)」

昨年の今日の日記:「『民主党離党』を売り物にする市議候補と外国人も生活保護『パラダイス』の惨状」



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