2006-04-29 07:47:24

美しき日本、日本人。

テーマ:映画
【蝉しぐれ(映画)】

<2005年・日本>
●監督/黒土三男
●出演/市川染五郎、木村佳乃  他


「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」など、
このところ映画化が相次ぐ、藤沢周平作品。
その最高傑作と言われるのが本作だ。

下級武士の家に生まれた牧文四郎は、
実直な父を尊敬して暮らしていたが、
武家の派閥争いに巻き込まれた父は、
切腹の刑に処せられる。
そんな折、互いに心寄せる隣家の娘、
ふくが、想いを伝えられぬまま、
江戸へと旅立ってしまう。
やがて青年へと成長した文四郎に、
非情な命令が下される。
その命の主は、かつて父を死に追いやった
人物だった…。

雪景色や清流、青空とコントラストを
描く稜線、田畑を染める夕陽など、
四季折々の日本の風景が盛り込まれた映像が、
本当に美しい。
そんな中、繰り広げられる人々の物語。
登場人物はセリフは控えめながら、
その表情が心の内を語りかけてくる。
きっと、これが藤沢周平の世界に違いない。
監督の黒土三男は、この映画の前に、
NHKのドラマ版の脚本も手掛けている。
よほど、この作品に惹かれるものがあったんだろう。
(関係ないけど、あの長渕剛のヒットドラマ
「とんぼ」も彼の脚本だったりする)

主演の市川染五郎は、歌舞伎俳優だけあって、
立ち振るまいや太刀さばきなど、
さすが堂に入ったもので、
凛とした存在感を放っている。
父親役の緒方拳も、いぶし銀の存在感。
また木村佳乃が、こんなに
着物姿が似合うとは思わなかった。
ただ、友人役の今田耕治だけは、
そこだけコントみたいで浮いていた。(笑)

親子の絆や友情など、
いくつものテーマがからんでいるけど、
その主軸となるのは、文四郎とふくとの恋だ。
年月を経て、意外な形でふたりが再会する場面。
交錯する視線が、熱くもせつない。
ラストのふたりのやりとりは、
思わずセリフをメモしたくなるほどの名シーンだ。
「日本男児、やまとなでしこ、ここにあり!」
と叫びたくなった。

こういう映画に心打たれるようになったのは、
自分が年を取ったからなのか、
それとも、どこかに残っている日本人としての
DNAが、時代とともに失われてしまった物語に
共鳴するからなのだろうか。
今度はぜひ、原作も読んでみよう。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
ジェネオン エンタテインメント
蝉しぐれ プレミアム・エディション

 
AD
いいね!した人  |  コメント(5)  |  リブログ(0)
2006-04-21 06:45:37

エールは届いているか。

テーマ:
【東京大学応援部物語(本)】 

●著者 :最相葉月
●出版社:集英社(2003. 9 発行)
●価格 :¥1,575


作者が、東大の応援団に1年間密着して
書き上げたルポ。
いやー、熱い本だ。
文章はこの人の持ち味である、
クールで知的なものなんだけど、
何せ主人公は応援団。
熱いというか、暑苦しい男たちが、これでもかと
いうくらい拳を振り上げ、魂の雄叫びをあげる
様子が、臨場感たっぷりに描かれているので、
おのずと、こちらにもその激情が乗り移って
くるような思いになるのだ。

応援団といっても、東大ともなると
他とひと味違うのではないか?
そんな先入観もあったが、やはり応援団は応援団。
伝統としきたり、鉄拳制裁も当然の絶対的な上下関係、
厳しい日々の練習など、
イメージ通りの姿がそこにはある。

しかし東大の応援団には、ある特殊な事情がある。
それは、ほとんど勝つ喜びを得られないということ。
私大と違って、東大にはスポーツ推薦などは
もちろんなく、スポーツ部においての
力の差は歴然としている。
六大学野球などを見ても、完全なお荷物状態だ。
しかし彼らは、そんな状態であっても
例え9回の時点で10点差をつけられ
負けていたとしても、東大の勝利を信じて、
旗を掲げ、声を振り絞るのだ。

無論、彼らもそんな状況を無条件に
受け入れているわけではない。
自分たちは何のために応援しているのか?
結局は自己満足に過ぎないんじゃないか?
声を枯らしてスタンドに立つその傍らでは、
そんな疑問、葛藤が現れては消えているのだ。
しかしその心の声も、数少ない勝利の
興奮と喜びの前には、一瞬にかき消される。
連敗に耐え、東大野球部が立教に勝つシーンは
手に汗握り、目頭を熱くして読んだ。

これだけ誰かのために、全てをかけて
応援したという事実は、大きな自信となって
以後の人生を切り開いていく
エネルギーになるにちがいない。
人を応援できる者が、自分を信じられない
わけがないのだから。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)
最相 葉月
東京大学応援部物語


AD
いいね!した人  |  コメント(4)  |  リブログ(0)
2006-04-17 02:27:48

誰でも一本の映画は撮れる。

テーマ:映画
【普通の人々(映画)】

<1980年・アメリカ>
●監督/ロバート・レッドフォード
●出演/ドナルド・サザーランド、ティモシー・ハットン 他


ロバート・レッドフォードの監督デビュー作にして、
いきなりのオスカーをもたらした名作。
ずいぶん昔に見た記憶はあるのだが、
どんな内容だったか、ほとんど覚えていなかった。
今回あらためて見て思ったのは、
これはある程度、年齢を重ねた者の方が、
感じ得る映画だろうなということだ。

一見なんの問題もないように見える、
ありふれた一家は、実はある闇を抱えていた。
長男がボート事故で亡くなり、
同じ事故で助かった次男は、罪の意識にさいなまれて
自殺未遂を図るなど、精神を病んでしまっていた。
父と母は、次男に気を配りながら、
自分たちの本心を隠しながら暮らしていた。
そして家族の間のひずみは、
次第に大きく、深くなっていく…。

序盤は、これといって何も起きない。
平坦な展開が続き、見るのに集中力がいるが、
次第に過去に起った事件、そして家族の間に
見え隠れする真意がわかってくるにつれて、
何ともいえない緊張感に襲われた。
表面をとりつくろった親子の会話、
笑っていても、うつろなままの次男の目、
静けさに包まれた映像の下でうごめく、
それらの狂気が、見る者の胸を息苦しくさせる。
そして、追いつめられた次男が、
カウンセラーを前に、誰にも見せなかった心の声を、
一気にぶちまけるシーンは、それまでのタメが
あった分、鳥肌が立つ思いだった。
安易なハッピーエンドにしていないのも、
この映画ではかえって納得できる。

こういった繊細な映画は演出が極めて重要だが、
レッドフォードは、監督第1作にして、
すでに抜群の冴えを見せている。
名優としての長い歩みは、
知らず知らずに映画の息遣いを、
その身に宿らせていたのだろう。

「誰でも一冊の本は書ける」
よく聞く言葉だが、それでいくと、
どの人生にも、一本の映画になりうる
ドラマが必ず潜んでいる。
そのことを、この映画のタイトルは物語っている。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン
普通の人々

 
AD
いいね!した人  |  コメント(4)  |  リブログ(0)
2006-04-10 03:14:19

旅は続くよ、人生へ。

テーマ:映画
【モーターサイクル・ダイアリーズ(映画)】

<2004年・アメリカ他>
●監督/ウォルター・サレス
●出演/ガエル・ガルシア・ベルナル、ロドリゴ・デ、ラ、セルナ 他


キューバの革命家、チェ・ゲバラの
若き日の旅をつづったロードムービー。
個人的には学生時代、日本史を専攻していたことも
あり、このチェ・ゲバラという人については、
名前ぐらいしか知らなかった。

医学生のゲバラは、友人とのバイクの相乗りで
南米縦断の旅に出る。
悪天候やバイクの故障など、
幾多のトラブルを乗り越え、つかのまの
ロマンスをも育みながら、バイクは走る。
旅を通して、さまざまな人々の暮らし、
そして、その中にある苦しみに触れたゲバラは、
次第にこれからの自分の生きる道を模索する
ようになる…。

前半と後半で、ガラリと空気が変わる。
最初は、ただの脳天気な野郎2人の、
お気楽バイク旅行という感じで、
画面もひたすら明るい。
いく先々で、ナンパする女の子ともあっという
間に仲良くなって
「おいおい、うまくいきすぎだろ!」
とつっこみたくなるほど。
しかし後半になると、持病のぜんぞくの発作で
死にそうになったり、ハンセン病の施設を訪ね、
患者と交流したりと、かなり重い色合いが
濃くなっていく。

この旅が、何かの目的があって始められたものでは
ないのだろうが、結果として、それは革命家、
ゲバラの誕生の転機をもたらせた。
流れる風景とともに、ロードムービーが描くのは、
そういった主人公の心の軌跡だ。
しかしこの映画にあっては、その変化がどうも
くっきりと見る方に伝わってこない。
まあ、向かうべき新しい人生の入り口に
主人公が立ったところで物語は終わるわけだから、
それも致し方ない面もあるが、
これは日記が原作というのもあるかしれない。
何となくエピソードが切れ切れで、
散漫な印象がするのだ。
事実に忠実に作ったというところだろうが、
欲をいえば、もう少し映画的でドラマチックな
脚色があってもいい気がする。

それでも、マチュピチュやインカの遺跡、
アンデスの雪山など、歴史と自然に彩られた南米の
景色を満喫できるのは、理屈ぬきに楽しい。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
アミューズソフトエンタテインメント
モーターサイクル・ダイアリーズ 通常版

 
いいね!した人  |  コメント(5)  |  リブログ(0)
2006-04-02 12:45:28

男もうなずく、「女の子」ゴコロ。

テーマ:
【永遠の出口(本)】 

●著者 :森 絵都
●出版社:集英社文庫(2006.2 発行)
●価格 :¥580


はじめて読んだけど、この著者はもともと児童文学
でデビューし、その分野ではすでに多くの傑作を
書いている人で、入試問題に作品が
使われたことも何度もあったとか。
その著者がはじめて書いた、大人向けの小説が本作だ。
もっとも最近は小説のジャンルレス化は進んでいて
児童文学でいえば、あさつあつこの「バッテリー」
が大ヒットしたことも記憶に新しい。
やはり、いいものに大人も子供も関係ないのだ。

本作は、ひとりの少女の小学校3年から高校卒業
までの歩みを、連作短編の形でつづった物語だ。
一読した感想は「わかるわかる」だ。
主人公は女の子(しかも若い!)だけど、おっさん
である自分にも、その感覚や行動に共感できるのだ。
もしかしたら、子供の時は、
男でも女でもなく、あくまで同じ
「子供」であるからなのかもしれないけど、
主人公が中学、高校と成長していっても
この「わかる」というのは消えないのだ。

これはひとえに、綿密にして繊細な
主人公の心理描写によるものだろう。
主人公の両親や姉への目線、友達や恋人への微妙な
思いなど、誰もが「ああ、これってあるよなあ」と
思わずにはいられないリアリティがあるのだ。
それ故に、時にグサッ!とつき刺さるような鋭さで、
主人公の痛みが伝わってきて、それほどドラマチック
な場面でもないのに、何度かジーンときてしまった。

加えて個人的には、作者が同世代ということもあり、
出てくる流行アイテムがなつかしさをくすぐり、
共感度アップにつながっている部分もある。
でも、さすがに新沼けんじのファンの女の子は
当時いなかったけどなあ…。
それって、一世代前の気がするんだけど。(笑)

文章や構成も思わず「座布団三枚!」と
言いたくなるほどうまい。
これは、他の作品も要チャックだ。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)
森 絵都
永遠の出口


いいね!した人  |  コメント(7)  |  リブログ(0)

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。