韓国、「サムスン余波」朴大統領の経済政策追求へ発展する騒ぎ | 勝又壽良の経済時評

韓国、「サムスン余波」朴大統領の経済政策追求へ発展する騒ぎ

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経済状況は四面楚歌

朴大統領の「不通」

 

韓国は今、てんやわんやの騒ぎである。頼みの綱であるサムスンの新型スマホ「ギャラクシーノート7」が二度も発火事故を起こして生産・販売中止に追い込まれたのだ。最初の事故が発覚してから、すでに50日余り経つ。専門家総動員でも原因が不明である。この事実で、サムスンの基礎技術はいかに脆弱かが分かる。基本設計はライバルのアップルから「拝借」してきたのだろうか。サムスンが基本設計から汗水垂らして手がけていたならば、原因追及も簡単だと見えるが、さてどうだろうか。

 

韓国では、こういう国家経済に大きな影響を及ぼしそうな事件が起こると、必ず政府批判が始まる。朴大統領に直接の関係はないはずだが、それでは済ませられないのが韓国社会である。誰かをスケープゴートにしなければ気が済まないのだろう。ただ、朴大統領側にも責められる点はある。対話不足なのだ。

 

経済状況は四面楚歌

『中央日報』(10月17日付)は、「朴大統領はサムスン・現代車トップと単独面談を」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の キム・ジュンヒョン産業デスク である。

 

韓国経済は、文字通り「四面楚歌」の状態だ。輸出は昨年1月からこの9月まで、8月を除いて連続前年比マイナスが続いている。輸出で食ってきた韓国経済にとって重大事である。その上、世界海運業で8位の韓進海運が、会社更生法を申請し、精算は免れない状況である。韓国大手の造船業・大宇造船は、政府系銀行の緊急融資を受けたものの、経営再建が困難視されている。

 

韓進海運については、政府の責任が大きい。「ナショナルフラッグ」を掲げる海運企業を倒産させることの負の影響を考えていなかったのだ。韓国の荷主は1割だから、倒産させても影響が少ないと見ていた。実は、9割が海外の荷主である。韓進海運倒産の影響が世界に及ぼすことを忘れていた。何とも締まらない話しなのだ。これが、韓国政府の「経済観」とすれば、ゾッとさせられる。韓国メディアが政府批判を強める裏には、こういう事情が絡んでいる。

 

(1)「信じていたサムスン電子と現代自動車までがふらつき、韓国経済は恐怖レベルの衝撃を受けた。また経済関連部処の首長を交代しなければならないのか。何とかして大企業に投資をさせる必要がある。いったいどのような処方がこの難局に有効だろうか。こういうのはどうだろうか。大統領が自ら財界人に会って胸襟を開いて話してみることだ。大統領が李在鎔(イ・ジェヨン)副会長に会ってサムスン電子がギャラクシーノート7事態を解決していくうえで力になれることを尋ね、また鄭夢九(チョン・モング)現代車会長にストライキによる輸出支障に対して政府が助けることがないかを尋ねる。サムスンと現代車に大統領が望むことに率直に話す。こうした形で中堅企業のオーナーにも、スタートアップの社長も会えばよい」。

 

朴大統領が、サムスンや現代車の経営トップに面談して、相談に乗るという提案である。この話しは、ただ聞いている分には面白いと思うが、民間企業に対して助言できる範囲は狭いはずだ。国家が出資していない限り、「介入」は不可能である。朴大統領が、サムスン首脳に問いただせることとしては、「バッテリー」の安全検査であろう。サムスンは、自社内の施設のみで「バッテリー」の安全検査を行っていたことが判明している。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月17日付)は、次のように伝えた。

 

「韓国サムスン電子は発火が相次いだ新型スマートフォン『ギャラクシーノート7』について、バッテリーの試験を社内の実験室で行っていたことが明らかになった。これは他のスマホメーカーのやり方と異なっている。米主要通信会社のサービスを用いるスマホを販売するには、メーカーは米携帯電話業界団体「CTIA」が承認する28カ所の実験施設のいずれかでバッテリー試験を行うことが求められている。米電気電子技術者協会(IEEE)が定める基準を確実に順守するためだ。CTIAによると、同団体による販売承認を得るために自社のバッテリー試験施設を使用しているメーカーは、サムスン以外にない」。

 

サムスンは、米携帯電話業界団体「CTIA」が承認する28カ所の実験施設のいずれでもバッテリー試験を受けていなかった。米国内でのスマホ販売では、「CTIA」の承認が必要だったのだ。これが未承認となると、米国の消費者から提訴される不利な立場に立たされる。朴大統領がサムスンに尋ねられるのは、この安全性に対する問題だけであろう。

 

現代車も安全性の問題を抱える。米国で販売の現代車にエンジン事故が起こっている。朴大統領は、安全性問題のチェック体制を聞く程度だ。労使問題については、今回の長期にわたるストライキと高額賃上げには間接的な軽い「事情聴取」に止まる。法律ではストと関連した「賃金緊急調整法」が存在する。参考までに聞いておく必要はあろう。

 

(2)「10人、20人を一度に呼んで写真を撮り、あいさつの言葉を述べる形式的なものは意味がない。単独面談をすればよい。単独面談が難しければ激しく討論できるよう3、4人に出席者を制限すればよい。朴大統領が残りの任期をこのように送れば、在任期間は難しくても、後任大統領の任期半ばごろには我々みんなが笑っているのではないだろうか。日の丸連合が怖くないはずだ」。

 

朴大統領が、企業の首脳と話し合いの機会を持つことは悪くない。経済界の実情を知るためだ。それによって、適時適切な経済政策を決めることが必要である。

 

『韓国経済新聞』(9月11日付)で社説「韓国企業、四面楚歌というS&Pの警告、一つも間違っていない」と論じている。

 

「新しいことでもない。韓国経済が深刻な局面に入ったという警告は聞き飽きたほどだ。内需も輸出も後退し、看板企業までが兆ウォン単位の赤字に苦しむ状態だ。こうした点で昨日のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が出した分析はその総合版といえる。韓国企業が低成長、製品魅力度の低下、構造的な低収益性、支配構造の低い透明性などで四面楚歌の状況にあるという。これは中長期的な信用度低下として表れるという警告だ」。

 

世界格付け機関の一つS&Pが、韓国企業の格付けを2段階引き下げた。その理由は、低成長、製品魅力度の低下、構造的な低収益性のほかに、財閥制度の透明性の低さである。この問題については、私が口を酸っぱくして指摘し続けている点でもある。韓国企業の問題点のすべては、財閥制度が「循環出資」というネズミ講まがいの支配構造をとっていることだ。これを改革しない限り、韓国経済は浮上できないに違いない。

 

「S&Pが提示した数値は韓国企業がターニングポイントを越えて確実に下り坂に入ったことを示している。過去5年間に格付けが平均BBB+からBBB-へと2段階落ちた。今後改善する見込みも少ない。特にサムスン電子と現代自動車3社(現代車・起亜車・モービス)を除いた『トップ150』企業は5年間に純借入額が40%も増えた。営業キャッシュフローが悪化し、借入金に依存した結果だ。さらに大きな問題はサムスン電子、現代車まで心配される点だ。スマートフォンは米国と中国、自動車は欧州・日本と中国の間に挟まれた状況だ。四面楚歌という言葉のほかに表現する方法がない」。

 

韓国企業「トップ150」では、過去5年間に純借入額が40%も増えている。収益力の低下を借入金で賄っている結果だ。これに加えて、サムスンと現代自まで調子を落としてきた。文字通り、韓国経済は「崖っぷち」に立たされている。2年前に、私は『韓国経済がけっぷち』(アイバス出版)を出版したが、現状はまさしくこの状況になっている。

 

朴大統領の「不通」

『朝鮮日報』(10月17日付)社説は、「聞く耳を持たない朴槿恵大統領、経済だけはちゃんとやれ」という過激なタイトル掲げた。

 

この社説では、朴大統領のコミュニケーション不足を指摘している。確かに、この点が朴氏の欠点であろう。胸襟を開いて対話する。そのことで閉塞感が薄れて、希望も湧いてくるのだが、現状はこれが閉ざされたままだ。大統領が何を考えているのか。生の声が伝わってこないのだ。朴氏の支持率が26%まで低下したのは、こういう「不通」への不満を現しているに違いない。

 

(3)「大統領の一方通行的な『マイウェイ(我が道)』を行く姿勢は変わらない。外部の言葉には耳を傾けないと決心しているかのようだし、内部でも誰も苦言を呈しない。どうせ数々の醜聞は政権が変われば、あるいはその前でも特別検事などを通じて真相が明らかになることだろう。問題は国民の生活経済だ。朴槿恵政権になって以降、生活に関するあらゆる指標が悪化している。成長率は4年連続で世界平均を下回り、雇用は減少し、非正規雇用や若年層の失業問題はさらに深刻になっている。給料は減っているのに家賃は急騰し、自営業者や商店主たちは『アジア通貨危機時(1997年)よりも商売にならない』と嘆いている。現場で感じる一般庶民の体感景気は既に深刻なレベルにまで下がっている」。

 

韓国経済は、明らかに行き詰まり状態だ。産業構造は旧態依然とした重厚長大型である。日本からの技術移植で始まった産業近代化だが、それも賞味期限切れになっている。新技術開発もなければ、業態転換もないままに今日を迎えている。「反日」で随分と時間を無駄にしてきた。朴大統領は慰安婦問題に没入し過ぎて、他の課題を見過ごしてきた。その一つが経済問題である。「反日」によって、日本企業は意識して韓国との交流を回避してきた。これが、どれだけ韓国産業構造の転換を遅らせたか分からない。慰安婦問題は、韓国経済そのものを時代遅れにさせたと言っても不思議はない。

 

韓国企業は、資本や技術などの生い立ちから言って、日本とは密接不可分の関係にあった。未だに、日本の技術を使って生産しているのだ。その結果、「技術貿易収支倍率」(技術輸出÷技術輸入)は、OECD加盟国で、最大のマイナス国になっている。これは技術競争力の低さを示す。日本はOECD加盟国中で最大のプラス国である。こういう現実を見れば、韓国が日本を敵に回して「反日」運動する得失が分かるはずだ。

 

(4)「国家戦略資産と言える海運産業が政府の無能・無責任により空中分解しているのに、政府は以前の経営者たちばかり攻撃している。国の経済までも崩壊させるかもしれない造船産業の低迷は、対策がないまま漂流している。政府は問題を解決するどころか、政府が問題の原因を作るという本末転倒の状況さえ出ている。韓国経済を支えてきたサムスン電子や現代自動車さえ今や危機的状況を迎えている」。

 

このパラグラフでも韓進海運の倒産を嘆いている。その通りである。輸出依存国家が海運企業を倒産させるマイナスを、マスコミも含めて誰も予測できなかったのだ。その意味で、韓国は余りにも感情過多になって、冷静な判断ができない国である。「反日」騒ぎもその一環であろう。日本と敵対するリアクションを計算に入れていなかったのだ。朴政権は、この間の貴重な時間を空費しただけである。

 

(5)「世界保護貿易の流れはますます強まってきた。こうした中でも、政府は一度もこれといったビジョンや対策を示せていない。経済のリーダーシップは空洞状態も同然だ。その場しのぎの資金緩和や不動産景気浮揚策のほかに、政府が経済再生のため何かしたという記憶がない。これだから、『危機の韓国経済には船長もいないし、救命ボートもない』と嘆く声が上がっているのだろう。このままでは朴槿恵政権は歴代政権で最悪の経済実績を残す可能性が高い」。

 

不動産景気浮揚策のために金融を緩和したが、これは大失敗である。このブロクで、すでに批判した通りだ。マンション投機を助長しただけであり、転売して利益を上げた者にはプラスだが、最終の実需者(マンション住人)にとって住宅ローンを増やすだけに終わっている。これが、家計債務を増やして個人消費を冷やしたのだ。韓国政府には、こういう反動が起こることすら予測できなかった。今、消費の低迷に頭を抱えているが、時すでに遅しである。

 

朴大統領は就任3年間、「反日」「親中」という外交に時間を費やし過ぎた。朴氏は皮肉でなく心の優しい方だと心底思う。人間として立派だとも言いたい。次の記事がそれを証明している。2013年9月30日、チャック・ヘーゲル米国防長官と会って、日本政府に対する断固たる立場を明らかにした際の発言である。

 

「朴大統領は慰安婦女性の問題もとり上げた。『慰安婦女性の問題は今も続いている歴史だ。その方たちは花のように美しい青春を全て失い、今までずっと深い傷を抱えて生きてきたのに、日本は謝罪どころか侮辱し続けている。その女性だけでなく国民も共に怒っており、これではいけないという状況』と話した」(『中央日報』2013年10月1日付)。

 

上記発言の中で、「花のように美しい青春を全て失い、今までずっと深い傷を抱えて生きてきた」という件(くだり)で、私はハッとさせられた。この言葉に反論はできない。この事実はその通りとして、その責任がすべて日本にあるかどうかであろう。朝鮮が貧しいゆえに、そうした場所に身を置かざるを得なかった、経済や社会状況に目をやらなければならない。この客観的な視点に立てば、一途な日本批判から新たな視界が開けたと思う。それが、昨年末の日韓首脳の合意にある背景であろう。朴氏が大統領就任時、前述の心情になって貧困が、慰安婦問題を生んだ背景の一つという認識の欠片でもあれば、韓国経済はここまで落ち込まなかったであろう。

 

(2016年10月26日)

 

増刷になりました:拙著『サムスン崩壊』(宝島社発行 定価・税込み 1402円)がご好評頂き、増刷となりました。厚くお礼申し上げます。拙著が予言するような形で、サムスンの「技術的欠陥」を指摘しました。新型スマホは発売早々に、爆発事故を起こし生産中止です。サムスンは、日本の半導体技術を窃取し、円高=ウォン安をテコにして急発展した企業です。ぜひとも、本書をお読みいただき、韓国企業発展の原点をご確認くださるようにお願い申し上げます。

 

 

 

 

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