中国、「政治力誇示」米国が警戒「スパコン半導体」輸出禁止 | 勝又壽良の経済時評

中国、「政治力誇示」米国が警戒「スパコン半導体」輸出禁止

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米が弱点を突く
韓国にも苛立ち

中国は、米国の「虎の尾」をついに踏んでしまった。これまでは、経済が破竹の勢いで来た余勢を駆って、世界に「怖い者なし」の振る舞いをしてきた。AIIB(アジア・インフラ投資銀行)の創立もその一つであろう。中国の政治力を世界に見せつける狙いのはずだった。「好事魔多し」の喩え通り、米国は中国への軍事的な警戒心を極度に高め始めている。中国が、アジアから米国の影響力をはぎ取る具体的一歩を踏み出した。米国が、そう見始めたことは疑いない。

これを察知した中国は、米国に対して低姿勢で臨んでいる。AIIB問題では、「米欧日と密接な協力をする」とまで言い出した。日米は、AIIBへの参加を見送っている。それでもこうした「謙虚」な姿勢を見せているのは、米国の「逆鱗」に触れることを回避したいからであろう。米国は、中国への警告信号の「第一弾」を打ち上げた。スーパーコンピュータ(スパコン)の心臓部である半導体チップの輸出禁止を決めたのだ。

米が弱点を突く
『人民網』(4月16日付け)は、次のように伝えた。

① 「米商務省は先日、中国の4つの国家スパコン機関に対す『XEON』チップの供給を禁じる決定を下した。この禁止令は、中国の関係者から注目を集めている。長期的に世界スパコンランキングの首位を維持してきた中国製スパコン『天河2号』に対して、これはどれほど大きな影響を及ぼすのだろうか。中国のスパコンに詳しい、権威ある専門家の張雲泉氏は、『輸出禁止は短期的に天河2号のアップグレード計画を遅らせるが、長期的に見ると中国のスパコン国産化戦略を推進する重要な機会になる』と指摘した」。

スーパーコンピュータ(スパコン)は、科学技術開発の国家プロジェクトに不可欠な役割を担っている。身近な天気予報から核兵器の爆発シミュレーションなど、あらゆる分野に使われている。大袈裟に言えば、国家の運命を左右しかねない位置を占める。中国は、そのスパコンの計算能力を司る半導体チップを米国からの輸入に頼ってきた。スパコンの演算速度の競争は熾烈を極めている。中国はこれまで、米国製の半導体チップを使って「世界一」と称している。厳密な意味で、これは「中国製スパコン」とは言えず、裏では先進国の嘲笑を浴びてきた。「借り物技術のくせに」と。

この段階で、米商務省はなぜスパコン用半導体チップの対中輸出禁止措置に出たのか。私はこの記事を読んで「ピン」ときた。戦前の日本が米国から「鉄くず」の輸出禁止令に遭遇したからだ。当時の日本は、アジアでの軍事勢力拡大に懸命であった。「鉄くず」は粗鋼原料に使われた。米国は、日本の軍事力増強に繋がることを懸念したのだ。この連想から、中国がAIIB創立をテコにして、アジアひいては世界での政治的な影響力拡大を狙っている。米国が、深刻に受け止めている現れだ。

この2月、マイケル・ピルズベリー氏の最新著書『100年のマラソン:米国に代わってグローバル超大国になろうとする中国の秘密戦略』なる書物が発刊された。ピルズベリー氏とは、1970年代のニクソン政権時代から一貫して国防総省の高官や顧問として中国の軍事動向を研究してきた人物である。米国の数多くの中国研究者の間で軍事分野での第一人者とされる。

そのヒルズベリー氏が、中国の世界軍事覇権の野望を余すところなく暴露したのだ。このブログでも詳細に取り上げている。もはや、米国は中国に対して「発展途上国」程度の認識でなく、米国の覇権に挑戦する「敵」という認識に変わっている。この変化は重要である。これに基づきAIIB創立の動きを読むと、米国としては、単なる金融機関の創立という程度の受け止め方ではない。かつてのヒトラーや日本軍の再来である。そういう受け止め方に違いない。

中国は、南シナ海において着々とフィリピン領の島嶼で埋め立て工事を行っている。永久的な軍事基地建設の一環として受け止められているのだ。これでは、中国がどのような弁解をしようと、米国が受け入れるはずがない。中国への毅然とした対応をして警告する。それが今回の「スパコン」の一件と見なければならない。単なる「輸出禁止」問題ではない。米国の対中国警戒が今後、本格化する前兆に違いない。

米国は、第二次世界大戦では貴重な経験を積んでいる。ドイツのヒトラーが周辺国を侵略するのを見逃し融和策を採って、後に大変な犠牲を被りファシズムを追放した。日本についても、1910~11年から軍事的な警戒姿勢をとり、太平洋で将来の開戦相手として想定(オレンジ・プラン)してきた事実がある。要するに、米国は海洋国家として自由の維持が最大の国益になる。そういう哲学を持っている国家だ。この哲学に挑戦する国家が、かつてはドイツと日本であった。現在は、中国と判断している。中国に対しては、断固として対抗・克服する。米国が、はっきりと内外に意思表示したと読むべきである。

米国は、すでに中国への宥和策を放棄したと見られる。米国のカーター国防長官の次の発言がそれを物語っている。

「カーター米国防長官は4月6日、アリゾナ州立大学で演説し、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の妥結に向けて、貿易促進権限(TPA)をオバマ大統領に付与する法案を早期に可決するよう米議会に訴えた。国防長官が経済・通商問題に言及するのは異例だ。日米など12カ国によるTPP交渉が長引く一方で、中国が他の国々とTPPに対抗する通商協定の締結を目指す中で、同長官は『時間切れとなりつつある。成長が続くこれらの市場経済への米国のアクセスを脅かし、地域の不安定化にもつながりかねない。私にとってTPP妥結は新空母と同じくらい重要だ』と指摘した。アジアを貧困から繁栄に導く上で米国の政策が寄与したと述べる一方、米国の軍事的優位の維持は経済力に依存しており、それはアジア太平洋地域との貿易拡大によって強化されると付け加えた」(『ブルームバーグ』4月7日付け)。

米国国防長官がTPPの早期妥結のために、米議会がTPAをオバマ大統領に付与するように訴えている。「TPP妥結は新空母と同じくらい重要だ」と指摘している点に米国の対中意識の先鋭化が読み取れる。中国の当初の意図では、AIIBを創立して米国へ対抗しようとしていた。米国が中国の「下心」を阻止するには、TPPを一日も早く妥結させて、太平洋経済圏で確固たる地盤を築かねばならない。TPPは新空母の建造にも匹敵する国防上の経済的な基盤になる。こう言っている。TPPには中国を参加させない。米国の強い決意が滲み出ている。

② 「張氏は今回の輸出禁止の影響について、『最も大きな影響を受けるのは、広州スパコンセンターの天河2号だ。米国が輸出禁止したのは、中国が国産化していないコアプロセッサで、まさに中国の弱点だ。中国863計画(国家ハイテク研究発展計画)は国産プロセッサによって中国のスパコンを製造するよう求めてきたが、一部のコア製品は依然として海外から輸入している。中国はスパコン発展の過程において、コアプロセッサの国産化という問題を避けてきた。海外の製品を購入するのは簡単で、低リスクで使用効果が高く、かつ海外企業から力強い支援を受けられる。そのため中国の関連機関は、海外企業のプロセッサを習慣的に使用してきた』と説明した」。

スパコン用の半導体チップは、戦略物資になった感がある。国家プロジェクトの基幹を担う以上、当然である。私はかつてこのブログで、中国が日本に対して敵対行動を取るならば、戦略上の重要物資の対中輸出を禁止すべきである。こう主張したことを思い出した。基礎技術に欠ける中国が、自らの技術的な脆弱性を顧みず、軍事的に「暴走」するならば、ペナルティを与えるべきである。まさに、米国はこのペナルティ策を発動したと言うべきだろう。

記事では、「中国はスパコン発展の過程において、コアプロセッサの国産化という問題を避けてきた。海外の製品を購入するのは簡単で、低リスクで使用効果が高い」と言っている。驚くべきほど「国際感覚の無知」をさらけ出した話しである。中国が、2049年までに世界の軍事覇権を狙っている以上、基幹技術の国産化は不可欠である。その準備もなく、軍事覇権を狙うというのは笑止千万だ。中国は、民生技術でも模倣技術を選択して、国産技術開発を忌避した歴史がある。先進国からの技術漏洩を待っていれば、「棚ぼた式」に低コストで最新技術が手に入る。実に厚かましい技術の「フリーライダー」を狙ってきた。この「ただ乗り」が大きな限界にぶつかったのである。その報いは大きいのだ。

韓国にも苛立ち
米国が中国の軍事的な脅威を深刻に受け止めている証拠はほかにもある。

『朝鮮日報』(4月18日付け)は、次のように伝えた。

③ 「4月16日、米ワシントンで初めて開かれた韓米日外務次官協議で、趙太庸(チョ・テヨン)韓国外交部(省に相当)第1次官は、韓日間の歴史認識問題に関連、『(日本政府に)正しい歴史認識がなければ(韓日間の)協力は難しい』と述べた。趙次官は3カ国協議後に行われた日本の斎木昭隆外務事務次官との会談でも、『安倍晋三首相は今月末の訪米時に正しい歴史認識を盛り込んだメッセージを発信するべきだ』と述べたという。趙次官は、その後の記者会見で『韓国は歴史認識問題に一貫した見解を持っているが、北朝鮮問題をはじめとする他分野では(日本との)協力を増大させていく』と言った」。

例によって、韓国政府は日本に対して「歴史認識」問題を持ち出している。次のパラグラフで取り上げられているように、そうした過去の問題をほじくり出して議論しているよりも、切羽詰まった軍事的に危険な問題が起こっているのだ。米議会上下両院で4月29日、安倍首相が日本の首相として初の演説に臨む背景には、この危機意識が存在する。現に、韓国は米議員宛に慰安婦問題の書籍を送りつけているが、相次いで受け取りを拒否されている。慰安婦と言った過去の話よりも、現在の安全保障問題が重要というシグナルだ。

「韓国政府が初めて発行した従軍慰安婦被害者本が、米国の政治家たちから続々と拒否されている。従軍慰安婦問題の真実を知らせるため、韓国政府と民間が協力して作成した慰安婦被害者の口述記録集『聞こえますか』を、ハングル・英語版で配布するという構想も、その意味が薄れつつある。4月29日に迫った安倍晋三首相の米上下院合同演説を控え、米議員らの慰安婦冊子受け取り拒否の動きが表面化している」(韓国『聯合ニュース』4月12日付け)。この報道は、米国における雰囲気を端的に伝えている。

④ 「これに対して、斎木次官は歴史認識問題について何の反応も示していない。斎木次官は記者会見で、『安倍首相は(既に)歴史認識問題に対する見解を明らかにしている』と述べた。これについて、米国のトニー・ブリンケン国務副長官は、『韓日両国が直面している共通の目標や課題は、現存する確執をはるかに圧倒するだろう』と言った。歴史認識問題については直接言及しなかった」。

米国のトニー・ブリンケン国務副長官の発言は、米国政府の率直な姿勢を示している。過去の問題を言い合っているよりも現在、直面している問題解決の方がはるかに重要である、と。その通りであろう。日米韓三カ国が直面しているのは、安全保障問題である。米韓では、サード(THAAD=高高度ミサイル防衛体系)の設置が未解決のままだ。これが構築されれば、中国に脅威を与える。中国はこうした反対理由で、サード設置を阻止しようとしている。韓国が、中国の顔色を見ており決断できず、設置が宙ぶらりん状態になっている。米国が苛立つのは当然であろう。

日米韓三カ国の問題では、韓国が外交的に中国寄り姿勢を鮮明にしていることだ。中国の軍拡姿勢は日米共通の対処問題になっている。韓国は、中国に対して何らの脅威も感じない鈍感状況に陥っている。米国が最近、韓国を突き放している背景にこれがある。日米の新防衛ガイドラインで、尖閣諸島防衛は日米両軍が当たると明記される予定である。従来、米国は尖閣諸島が日米安全保障条約に該当するとしてきた。そこからさらに踏み出して、米軍が自衛隊と共同作戦を行う。そこまで、対中国へ危機感を鮮明にしている。韓国は、余りにも事大主義であり「コウモリ的」な存在だ。日米が韓国を疎外し始めている理由である。

(2015年4月28日)




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