『帰れぬ人びと』

『帰れぬ人びと』鷺沢萠さんの処女小説短編集です。

処女小説にしてこの完成度!と目を見張ります。

文藝界新人賞受賞・芥川賞候補作にもなった理由もうなずけます。


全体的に、丁寧で繊細な描写、やわらかくやさしい質感、一本ぴしっと筋の通った調子。

上質なヒーリング音楽を聴いているような心地にさせてくれました。

繊細でもありますが、大胆でもあります。

こういったメリハリ、抑揚が効いていて、読んでいて心地いいのかもしれませんね。


今作のテーマは“家族”。

家族の本質を鷺沢さんなりの目線と視点で切り取っています。


どの短編にも、家族は絶対に必要だ、それを誰もが信じている、という思いが込められていました。


『帰れぬ人々』はまさにタイトルの勝利。

家に帰りたいのに帰れない・・・誰もが経験したことがある状況です。

そういった点から家族を浮き彫りにしています。

家族の危うさや大切さを感じる小説でした。


お気に入りは『かもめ屋ものがたり』。

いますぐにでもドラマ化できるような登場人物たちのいきいきとした表情、躍動感が魅力です。


この作家さんは全作読破を目指しています!


・読んだ日:'98/04/21~04/22。




『帰れぬ人びと』 『帰れぬ人びと』 - 鷺沢 萠
出版社 : 文藝春秋
出版日 : 1989/11/01
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おすすめ平均 : ☆

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『目薬キッス』

『目薬キッス』ま、こんなもんでしょう(笑い)。

浅い表面上さらっとした青春小説でした。

文章は心に届かず、そして響かず、でした。


自分の弱さや情けなさを知るのに早すぎることはありません。むしろ早いほうがいいような気がします。

いずれ必然としてわかってしまうものだと思うのです。

だからといって意識的に知ろう、知ろうとすることはないような気もします。


ここでの一番のポイントはそんな弱くて情けない自分を許せるか、好きになれるか、ということでしょう。

この本はそんな「若さゆえの弱さ」をテーマにしています。


また、「仲間」というテーマもあります。

さて、仲間とはなんでしょうか?暖かい部屋でおしゃべりをしてくれる人のことでは当然なく、何かを成し遂げるために集まった同士だと思います。

あえて言うなら“連帯感”でしょうか。

主人公のセリフ「グループに入るとか入らないとかそういう問題じゃない」は確かにその通り!と思いました。


ただ、全体的なテンポやキャラクターの設定、展開の悪さはいかんともしがたいのです。

悪いし、遅い。全般的にだら~っとしてしまっていて読み流しをしてしまいます。

メリハリのある、展開のある小説に仕上げて欲しかったです。


・読んだ日:'98/04/13。


『目薬キッス』 『目薬キッス』 - 秋元 康
出版社 : 角川書店
出版日 : 1999/01/20(書籍は'95/06/30出版)
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『哀しい予感』

『哀しい予感』子供のころの記憶ってものすごくあいまいで、そしてすぐ心の奥底に沈んでしまいます。

「デジャ・ヴ」(既視感)という言葉がありますが、あれって子供の頃に覚えていた記憶がなにかの拍子に蘇ったのではないか、と邪推してしまうことがあります。


記憶は土手と同じで何かの拍子に決壊してしまうととめどなくあふれてしまいます。

自分もこういう経験がありますが、楽しいような怖いような気分になったのを覚えています。


この小説の大きなテーマはこの「記憶」。

子供のころの記憶があいまいのは、前世の記憶や羊水での記憶がつながっているせいかもしれません。


「予感」という言葉。

人は「五感」がありますが、それ以前に「六感」もあったことでしょう。

「食指が動く」のことわざの元になった中国の政治家は自分が死ぬのも予感したといいますし、

ノストラダムスは自分の死も予言した、という逸話もあります。

「予感」とはそんなかつての感覚のなごりかもしれません。

それを持っている人もいるはずです。

それは幸せなのでしょうか?それとも不幸せなのでしょうか?

そんなことを思いました。


内容はひどく重く、くらいはずなのですが、そんな雰囲気はみじんもしません。

暖かい毛布にくるまれているような、暖かいスープを飲んだような、そんな幸福感に包まれる小説です。


・読んだ日:'98/04/14~04/20。


『哀しい予感』 『哀しい予感』 - 吉本 ばなな(よしもと ばなな)
出版社 : 角川書店
出版日 : 1991/09/15(書籍は'88/12/15出版)
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『落下する夕方』

『落下する夕方』人を本気で愛したら、嫌いになることはできません。

もしできたとしてもそれはものすごく困難なことです。

すべての瞬間・すべての場面・すべての場所に刻まれている思い出たち。


江國さんの小説の主人公はいつも優しく、せつなく、暖かいのです。


今回はそんな主人公を圧倒する登場人物がいました。

存在していたのかどうなのか分からない華子です。

まるでとりつかれてしまったかのような存在感。でも求められることを恐れ、逃げるという存在。それがまた圧倒的な存在感を与えています。


内容は、ありきたりの三角関係にはない、奥深さや難解さ、暖かさがあります。

展開も結末も一応に切なくさびしいです。でもこのさびしさも切なさも人を悲しくさせるのではありません。

とても暖かくさせてくれました。

人の暖かさやふれあい、そんなことを感じさせる一冊でした。


江國さんいい感じ!


・読んだ日:'98/04/12。


『落下する夕方』 『落下する夕方』 - 江國 香織
出版社 : 角川書店
出版日 : 1996/10/30
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『きらきらひかる』

『きらきらひかる』江國文学の金字塔的作品です。

この本はすごい!今までの恋愛観をくつがえされるような一冊です。


本当の優しさってなんなのだろう、ただ優しいだけではいけないのではないか、とこの本は語っているように思います。

優しさは時として鋭利な刃物にも凶器にもなりえます。その凶器は自分への劣等感や嫌悪感をあらわに浮き彫りにします。

こんな劣等感や嫌悪感。これをどう払拭していくかが大事ですよね。昇華すると言ってもいいかもしれませんが、それを探すことが人を愛することなのかもしれませんね。

人を愛して、人から愛されて気付くことってたくさんありますもんね。

自分の尺度で自分の定規で他人をはかるよなことをしてはいけません。

人が千差万別なようにその定規は千差万別なほど人を愛せるような、そんな気がしました。


・読んだ日:'98/04/03。


『きらきらひかる』 『きらきらひかる』 - 江國 香織
出版社 : 講談社
出版日 : 1995/06/29
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『三国志〈9の巻〉軍市の星』

『三国志〈9の巻〉軍市の星』北方版三国志の第九巻。

天下三分成る。蜀対魏、漢中で対決。関公荊州にて憤死。まで。


漢中の蜀魏両軍の戦いが見物でした。両軍がっぷりよつに組んだ横綱相撲。

体力の差・国力の差だと横綱対前頭ぐらいありますが、この争いが余計なかけひきのない男争い!

これほど自国や自軍が大きくなっても常に生死の狭間で戦い続ける武将たちはまぶしいです。まばゆいです。峻烈です。

この争いがもう見られなくなると思うと寂しさが募りました。


それに比べて孫権の野心のなさ・・・。揚・荊さえあったらいいという志の低さには情けなくなりました。

真の平和って?一時の平和って?所詮碧眼児の眼にはその違いが分からないでしょうか?


自分を出せなくなった曹操はの心境はいかばかりだったでしょうか。

つまらない戦の時代。戦には面白いもつまらないもないもしれませんが。

新しい時代の到来と古い時代の終焉。その幕切れにふさわしい男の死だったような気がします。まさに真の男。戦にすべてを出し、戦に散った去り際ですね。


客観的に見てもどう考えても一人の男の死です。それが歴史的にはこうやって大きな歯車を変えてしまいます。

たかが一人です。しかしされど一人。

それがいかに大きな役割を占めていたかは失って初めて気付くことなのかもしれませんね。

関公の死は知っているのにも関わらず、泣きそうになりました。
義兄劉備と共にもう一度闘いたかったか・・・。いいな。


・読んだ日:'99/07/14。


『三国志〈9の巻〉軍市の星』 『三国志〈9の巻〉軍市の星』 - 北方 謙三
出版社 : 角川春樹事務所
出版日 : 1998/02/28
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『本多勝一はこんなものを食べてきた』『週間金曜日』に連載されていた本多勝一氏の自伝的マンガです。

タイトルの通り、もちろん食べ物のお話なんですが、そこから当時の文化や風俗、世相などがよく伝わってきます。


戦中の話もありますが、戦前がほとんどですです。

日本の戦争への不安や高揚などがあるのかな~と思っていましたが、当時の地方の子供たちにはあまり関係がなかったのかもしれませんね。

こういった無邪気で無鉄砲な優しい健康優良児たちはもう生まれてこないのでしょうか・・・。

少し感傷的になりました。森の一部として過ごす子供たちっていいなぁ、と思いました。


長野・特に伊那という地方性が良く出ています。その地方その地方独自の食文化があり、とても興味深く読めました。かつては(自分も子供の頃はそうだったような気がします)、こういうその地方その地方にしっかりと根付いた固有文化が各所に存在していたはずなのに、いつの間にか画一化が進んでしまいました。

失われた家庭での団欒の代わりに登場するのは一体何でしょうか?


しかし、食べ物の種類がものすごく豊富で正直驚きました。

ツツジの花やカエデの葉といった多彩な植物食。

ゴトウムシ(カミキリの幼虫)を網で焼いて食べる。

ヒビと呼ばれる蚕のさなぎを甘辛くいりつけて食べる。
ハチノコを生のまま口に放りこめば、それはバターとハチミツが混ざった神の味。

甲虫オトシブミの卵は、うまくもなんともないが、ただおもしろがって食べる。

スガレ追い(ジバチの巣狩り)によって収穫したハチの子ご飯。

うっかりすると今の時代が少ないのか・・・などとありえない錯覚を起こしてしまいそうになりました。
工夫する食生活は楽しいですね。貴重な輝きを放っています。

山も谷も、川も平野も海も、実は美しくそして無限に豊穣なものなのだ、ということを改めて感じました。

・読んだ日:'99/11/26~11/30。


『本多勝一はこんなものを食べてきた』 『本多勝一はこんなものを食べてきた』 - 堀田 あきお 本多 勝一 堀田 佳代

出版社 : 七つ森書館(初版朝日新聞社)
出版日 : '04/11(初版は'99/05/01出版)
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おすすめ平均 : ☆

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『ジャーナリズム論』

『ジャーナリスト』相変わらずの鋭い厳しい言論(と言っても1975年当時の内容です)。

しかしもしかしたらその言論もすごいことではないのかもしれません。


天皇陛下の問題や、戦争責任の問題、アメリカの占領と侵略政策。当時も今もありふれてすぎてる問題です。例えばそれに対して少し厳しい意見を言っただけで大騒ぎになってしまうような状況はどうなのでしょうか。

どうして日本人は身内に甘いのでしょうか。

島国根性とも言われる民族性なのかもしれませんが、だからと言って許せることではありません。

戦争責任の問題も「戦争は人殺しをするもの」「戦争とはそういうもの」のような論調は言い訳以外の何者でもありません。


ドイツのワイツゼッカー元首相の語録「過去に目を閉ざすものは現在も見ることができない」が頭をよぎりました。

過去を振り返ることなく、過去を学ぶことなく、過去を変えようとすることはおかしいです。

そういった逃げではなく、弱者へと向けるのでもなく、体制や強者へなど、もっともっと向けるべきものがほかにあるのではないでしょうか。


この本はジャナーリストとしてのスタンスや姿勢、考えがよく分かる一冊になっています。

決して難しいことは言いません。そして難しいことを求めてもいません。

人間として最低限のことを求めているような気がします。それを持っていない人間が増えてしまったような気がしました。

・読んだ日:'99/11/20~11/25。


『ジャーナリスト』 『ジャーナリスト』 - 本多 勝一
出版社 : 朝日新聞社(初版はすずさわ書店)
出版日 : '1995-11(初版は'75/06/20出版)
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『ビールうぐうぐ対談』

『ビールうぐうぐ対談』漫画家の東海林 さだおさんと映画監督で旅行家の椎名 誠さんの対談集。

グルメの対談から始まって、「怖いもの」や「ぜいたく」、「コスプレ」、「死生感」、「芸者遊び」などなど幅広いテーマで語っています。


この幅広さがまず面白い点なのですが、二人の“何でもとにかく気になったらとことん!”という姿勢と、楽しさを追求する志向に共感を覚えました。


巻末にはゲストとの鼎談も収録されています。そのゲスト選びも秀逸です。“その道のプロ”たちのお話はどれも楽しく興味が持てました。

しかし。こういうプロたちでも毎日をひょうひょうと生きているんだなぁと感心しました。


今回の中では、グルメの話が一番好きです。

「食べられてどうする?まずく生まれて来い!」や「缶ビールと瓶ビールに対する高級感の感じ方」などなど、「確かにその通りだなぁ~」と深くうなずいてしまいました。


「死」とは?「ぜいたく」とは?ともしも人に聞かれたりしたら、即答出来る人は少ないでしょう。

どれも難しい命題ですので、改めて考えたりしたりすることもほとんどありません。この本の内容のように楽しく割り切って考えることができるととても楽しいような気がしました。でもこれって人間だからこそできることなのかもしれませんね・・・。


・読んだ日:'99/10/01~10/05。


『ビールうぐうぐ対談』

『ビールうぐうぐ対談』 - 東海林 さだお 椎名 誠

出版社 : 文藝春秋
出版日 : '99/03/10
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おすすめ平均 : ☆

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『名君肥後の銀台 細川重賢』

『名君肥後の銀台 細川重賢』米沢の名君上杉鷹山こと上杉治憲と同じような状況で藩主になった細川重賢公の藩政改革の時代小説です。

童門 冬二さんはこういった時代小説を書かせるとさすが上手いですね。


破綻寸前の財政、まかり通る古い慣習、覇気のなくなった領民・・・同じような状況なのですが、藩主としての方向性や視点が全く違っているのが面白いです。

リーダーとして引っ張っていくタイプではなく、人材を発掘し、任せ、影の力になるタイプです。多種多彩な人材をまとめて意見を取り上げています。こういった部分での人心把握術は目をみはるものがありました。


殖産興業、農業振興、人材育成などなど、やらなければならないことは当然のようにたくさんあります。

ここで、その中でも人材育成を第一に考えていることに注目したいです。

慌てずにゆっくりと。しかし決定したら迅速に。その手綱さばきも見事です。

山形と福岡という土地柄の違いや人柄の違いが大きいかもしれませんが、ここが“重農主義”の上杉鷹山とは大きく違った点です。


その人材が多彩!

“ガネマサどん”として親しまれた堀平左衛門、他人には厳しく当たることしかできない松野平蔵、型破りの学者陣秋山玉山・片岡朱陵。一歩間違えると単なる異風者になってしまうような男たちが“再建”の名の下に集まります。

そこには“愛国心”があったのかもしれません。しかし最も大きかったのは“忠孝心”だったような気がします。“個”よりも“集”を重んじる。現代人、特に押し付けのアメリカ風民主主義では培うことの出来ないその心。日本人本来の気持ち。この心を見直すのことが、もしかしたら日本という国をもう一度立て直すことかもしれません。そんなことを考えた一冊でした。


かのケネディ大統領が尊敬する日本人と挙げた上杉鷹山よりは確かにマイナーです。

こういった日本人に光が当たってくれるといいなぁ!!


・読んだ日:'99/10/13~10/15。


『名君肥後の銀台 細川重賢』

『名君肥後の銀台 細川重賢』 - 童門 冬二

出版社 : 実業之日本社
出版日 : '99/04/25
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