秋の風邪 3題 | 松山市はなみずき通り近くの漢方専門薬局・針灸院 春日漢方

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       秋の風邪 3題

 

 

 11月になってから、風邪の患者さんが増えてきました。共通してどの方も「熱性」の風邪だったことです。風邪だから「熱」なのは当たり前じゃないかと言われそうですが、漢方流の考え方では風邪の状態を、まず「熱性」のものと「寒性」のものに区別します。漢方的な言葉なら、熱性は「陽性」、寒性は「陰性」です。
 熱性といっても、体温計の熱の高いのとは別です。

 

 

 「寒性・陰性」の風邪は、まず寒気がひどい。手足が冷える。顔が青冷めている。
口が渇かない。水気のものを欲しがらない。舌は潤っている。ぐったりとしんどい。眠たい。
食欲がない。下痢することが多い。小便の色が薄い。痰や鼻水も薄くて透明。
咳は、冷えたら出る。朝方に多い。
脈は細くて弱い。こういう症状がそろえば「陰性」の風邪だと判断します。

 

 逆に「熱性・陽性」の風邪は、悪寒もするけど熱感が強い。顔が赤い。手足が火照る。
口が渇いて、冷水を欲しがる。口が苦い、あるいは食味が悪い。舌は乾いて、黄色い苔が付いている。
じっとして居られないしんどさ。眠れない。ときに便秘がち。小便の色は濃い黄色~赤茶色。痰や鼻汁が粘く黄色から緑色。
咳は寝て身体が温もったころにひどく出る。
脈は、強くはっきり打っている。いつもより早く打っている。こういう方が「陽性」の風邪です。

 


    1、50歳 女性   激しい咳

 

 以前から更年期で「抑肝散(よくかんさん)」を服用されていました。抑肝散は更年期で「血」が不足してきたために、熱が生じて、イライラや不眠、肩こり・頭痛などを起こした時の処方です。
 抑肝散を1週間分をお渡して数日、咽喉が痛くなったと来られたので、「桔梗(ききょう)」を3グラム、3日分を小分けして、これを抑肝散に加えて煎じるようにしました。

 

  しかし、3日後、咽喉の痛いのはともかく、咳がひどくて本格的に風邪になってしまったと来られました。店にいる間もしょっちゅうケンケンと乾いた咳をしていますが、夜ふとんに入って寝ようとすると込み上げる咳ががひどい。その後も咳で何度も目が覚める。咳の前に咽喉がイガイガする。
咽喉がいつも乾いて潤したい。声が少し嗄れている。痰や鼻水はない。
あまりお腹は空かないけれど食べている。大小便は正常。
逆上せるのかいつもより赤い顔をしています。
舌は乾いてケバだって、赤みが強い。 脈は普段より早く、強く打っています。

 

 

 こういう寝入る前に出る乾いた咳は、「肺の熱」だと考えます。咽喉がイガイガして込み上げるような咳で、食欲が正常なら、「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」というお薬を最初に考えます。
麦門冬という薬草が肺の中を潤して、熱を取る処方です。しかし、なんとなく麦門冬湯では物足りない、力不足の感じがします。

 

 この方の普段の体質が「抑肝散」なので、肝臓の血を増やしながら、肺の潤いをつけて熱を冷ます、「滋陰降火湯(じいんこうかとう)」にしました。肺の潤いをつけるのに麦門冬のほかに、「天門冬」も加わり、肝臓の血を増やす当帰・地黄も入る処方です。
 乾いて音の大きな咳が、夜中から一日中ずっと続いているような、激しい咳の場合に考える処方です。口が渇く、顔が赤い、便秘がち、食べてはいる、というような状態のときに使います。

 

 さいわい 「滋陰降火湯」を服用すると、1日分で夜中の咳が軽くなって眠れるようになって、4日目くらいで咳はあらかた収まりました。

 

 

      2、 40歳 女性   ひどい咽喉痛

 

 呼吸器が弱いのか、咳や咽喉の痛み、鼻炎など呼吸器の症状のときにだけ来られる患者さんです。
 今回は、数日前から少し寒気がしていたら、昨日の朝から咽喉が痛くなった。その痛みが夜になってひどくて眠れなかった。擦り剥いた地肌がヒリヒリするような痛み方。
 夜が更けるほどひどくなりませんでしたか?と尋ねると、その通り。咽喉が痛くて、明け方になってやっと眠れただけだったと。
 いまも咽喉は痛くて辛い。早くなんとかして欲しい。声が嗄れてきた。

 

 この方のカルテを見ると、8月にも同じようなひどい咽喉の痛みで来られています。そのときは、「小青龍湯(しょうせいりゅうとう)」に桔梗と石膏を加えて、3日分ずつ2回。それで効かなかったので「銀翹散(ぎんぎょうさん)」3日。その後は、音沙汰なかったので効果のほどは不明。

 

 漢方の師匠からは、夜が更けるほどひどくなる咽喉痛は、梔子(くちなし)剤か「銀翹散」、と聞いていましたので、8月のカルテを見せて、銀翹散はどんな感じだったか尋ねました。
「銀翹散ねえ。あまり印象がないなあ。桔梗・石膏のほうが、ドスンと効いたように思う。」とこちらの記録と合わないお答えが返ってきました。
 この方は漢方のファン歴が長いので、自分の飲む漢方薬はだいたい分かっています。

 

 小青龍湯は、皮膚の表面は熱気が詰まり、胃には冷えと水分が停滞して、中間の咽喉から鼻に熱と水が余って、咳や痰、鼻水の多いときの処方です。
桔梗は咽喉の痛みに、広く使えるお薬。


 石膏は熱を冷ます薬ですが、使う量によって効く「深さ」が変わってきます。少量、2~3グラムだと皮膚のすぐ裏側くらいの熱気を冷ます。風邪の発熱や、ジンマシンなど。
大量、12グラム以上だと、肺の中の熱を冷ます。激しい咳、夜中に猛烈に痒い湿疹など。

 

 この方の、夜が更けるほどきつくなる、という症状は、けっこう深い所の熱症状ではないかと考えます。さらに居ても立ってもおられない辛さ、というのは心臓に関係するのかな?と考えたりします。

 他の症状は、咳がすこし、緑色の痰が出る。目の周りが重たい(副鼻腔炎によくなる)、咽喉は少し乾く、食欲・大小便はふつう。
舌は乾いてはいますが、上の例の方のようなカラカラでケバだったりはしていません。
脈は細くて速い。押さえると強い。

 もし肺の中まで熱が入ると、舌はカラカラになって、もっとしんどいとか顔が赤いとか食味が悪いとかありそうです。熱のこもっている深さは、肺の中に入る手前、気管支や咽喉なのでしょう。そこで石膏の量は2グラムと12グラムの間をとって6グラムにして、小青龍湯に桔梗3グラムと加えました。


 1日分を飲んで咽喉の堪らない痛みが薄らいで、3日目には痛みは無くなりました。
もう一度、舌を診せてもらうと、すでに潤っていました。これがこの方のふだんの体調でしょう。軽い咳や目の周りの違和感が残ったので、さらに3日分を飲んで、今回の風邪は終わりました。

 

 

    3、 55歳 女性   咽喉痛ー発熱ー咳

 

 これはうちの妻です。疲れが溜まったところに、急に寒くなったせいで咽喉の痛みが始まりました。風邪の始めの咽喉痛は「桔梗湯」。
 食欲とか脈とか舌の具合とか何も見ないで、だいたいはこの薬で治ることになっています。

 

 しかし1日、桔梗湯を飲んでも、今回は、咽喉の痛みはどうなったのか分からないまま、熱が上がってきました。
身体が熱ばんで頭痛もひどい。(とくに朝方)。手足も火照る。
口はある程度乾くがそんなには飲まない。
舌はやや乾いて少し黄苔がある。
便秘している。小便はよく出る。
胃はもたれたれるが、返って口いやしく食べたい。

 

 疲れて始まった風邪、朝方に症状がひどい、というところから、血虚(血の不足)の疲労回復剤の「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」を作りました。内部の熱を取る「柴胡」「升麻」も入っています。しかし翌朝の頭痛や熱感は同じ。

 

 便秘も変わらないので、もう少し強く内部の熱を取ろうと「柴胡」の量が多い「逍遥散(しょうようさん)」にしました。血虚の便秘の人にはよく効く処方なんですが。

 しかしこれで翌朝の頭痛も熱も返って悪くなったような。赤い顔をしています。脈を診ると、浮いて強くかなり早く打っています。

 

 ここで熱のこもっている場所というか深さを考えてみると、「柴胡」で取る熱は肝臓や胆のうの深さです。それで何も効かなかった。食欲には変化はない。口は少し乾く程度、しんどそうではあるが、仕事は続けている。
 便秘は内部の熱にありがちですが、そこを無視すれば、脈の浮いているのは、比較的、浅い部分に熱が停滞しているのではないか?

 

 そこで「香蘇散(こうそさん)」という処方を思いつきました。香蘇散は、中国のある時代の医学書には、感冒の治療薬の筆頭に挙げられる処方です。
 漢方の師匠の本には、「太陰経の気が停滞して発散できないときに用いる」とあります。
 太陰経というのは、肺と胃腸のエネルギーを外から巡らしているルートです。それ自身は体表の少し内側を巡っています。そこに熱気が停滞すると、発熱、咳や鼻炎、咽喉痛、胸や胃の痞え、嘔吐や下痢にもなります。また気ウツにもなります。

 

 香蘇散を使うのは初めての経験ですが、1日分を服用して翌朝には頭痛がかなり軽くなり、熱感も無くなりました。たった1日分でこの効き目。

 

 これでもう1日、この処方を飲めばすっかり片付くと思いきや、咳が出はじめました。香蘇散に咳止めになりそうな半夏・杏仁・桑白皮を足してみましたが、咳はいっこうに変わらない。
昔の本で調べてみても、香蘇散は胃腸症状の加減方は多くても、咳の話はあまり出てこない。

 

 結局、香蘇散を諦めて、昔からなじみの「小青龍湯」に替えました。これで4日間かけて少しずつ咳は減っていって、ようやく秋の風邪は終わりました。
 たしかに風邪の症状のうち、発熱や嘔吐・下痢などはうまく薬が当たると、1日で軽くなるものです。しかし咳をこじらせると、治すのに1週間くらいかかることが多いと思います。
 これも師匠の受け売りで、胃腸にこもった熱は、上と下(口と肛門)に出口があるから抜けやすい。肺はいっぽうにしか出口が無いので、抜けにくいということでしょうか。

 

今回、はじめて香蘇散という処方を使ってみて、確かに手ごたえはありましたが、その後が、咳に代わってしまったのはなぜかなど、考えるべきことの多い経験でした。

 

 漢方は気長に飲まなければ効かないなんて、世間ではよく言いますが、例えば風邪を治すのに、1週間も2週間もかかっていたのでは、意味がありません。うまく処方が合っていれば、咳でも咽喉痛でも、一日分を飲めば、いちばん辛い症状が我慢できる範囲にまで軽くなるものです。

 風邪には漢方薬のほうが、お医者さんに行くより、手間がかからず安上がりです。そこが分かって、風邪になったら来てくれる患者さんが幾人もおれらます。

 

 写真は店の前のプランター。最近、冬バージョンに植え替えました。ビオラやガーデンシクラメンは分かるとして、いちばん下、赤紫の花は、ボン・ザ・マーガレットという商品名で売っていました。シクラメンの横の白い小花はアッサム。

 このメンバーで、来年のゴールデンウィークまで持たせようという、厳しい経営者です。