「お父さんの作る野菜なら、どれも大好きよ。ところで、庭にイタリアンパセリ、ミント、レモンバーム、レモングラス、バジルとあるのに、なぜパクチーがないの?あるといいね!これって、メキシカン料理に欠かせないの。都会では、高いのよ」と。
そういったのは、娘Kである。エスニック料理が、一般的になってきたこともあって、ハーブの中でも、パクチーは、都会の若い女性には、人気があるそうな。

 

それを思い出して、この春、畳一枚ほどの広さに種を蒔いてみた。もっともこの種だって、田舎のことゆえ、街の種苗店には置いてなかった。ただ、世の中便利になったもので、ネットで注文するとすぐに届いた。

 
パクチー


田舎の保育所に通っていた頃は、まだ祖母が生きていて、親戚を集めては、酢飯の押し寿司を作って振舞っていた。熱心な仏教信者だった祖母のご馳走と言えば、魚介類の入らない精進料理だった。戦争で亡くなった叔父の法事だったのだろう。今なら、卵・甘エビ・スモークサーモンなんかの色とりどりの具が載っているだろう。戦争の心の傷の癒えない終戦後だったから、寿司の中は、芋ずいきだったかもしれない。寿司のうえにある山椒の葉が匂いと彩を添えていた。記憶をたどれば、あれは昭和25年のことだった。酢飯は良しとしても、なぜ大人は、匂いのきつい山椒の香りが好きなのか不思議に思ったものである。さしずめ和製ハーブといったところである。

 

 

酢飯

 

 


今朝、早くに娘婿 J からメールが届いた。
「オトウさん、ニモツ届いてビックリ、シラントロが入っていた。これ大好きです。アリガトウゴザイマス。オトウさん 好きですか?夏にトヤマ行きます、おいしいグアカモーレ 作ります」と。
シラントロ(cilantro)とは、パクチーのことで、中国パセリとも言うが、コリアンダーの方が、料理好きには通じやすい。先にあげたハーブの数々も、ツレがハーブティをこしらえて、都会の娘たちを喜ばせようと植えたものである。


考えてみれば、若い頃はビジネスで、しばしば欧米や東南アジアにも旅をしたが、香辛野菜やハーブなどに目もくれなかった。ただただ出された食事をパクついていた。あのとき、エスニック料理について、今少し知識を持ち合わせておれば良かったもをと思わずにはいられない。
 

グアカモーレ


近所のE子に、メールにあったメキシコ料理のグアカモーレの話をしてやった。まったく通じないのである。
「平ちゃん、玉ねぎとアボガドを和えてパクチーの入った舶来の料理っちゃ、バカモーレって言うがけぇ?あ~い可笑しや!バカモンが食べる料理みたいやけど、わたしにもご馳走してよ!」
あいつも都を離れた田舎に住んでいるものだから、都会の若者の美食事情には疎いようである。ボクも、もう少し博打(バクチ)でない、パクチー料理を研究しようと思う。