北海道がんセンターの名誉院長の西尾正道氏が、がん検診についてとんでもないデタラメ記事を書いています。
がん検診のあり方を考え直すべき~このままでは「一億総“奇病・難病・総がん罹患”社会」に
http://healthpress.jp/i/2016/03/post-2191_entry.html
現状のがん検診(バリウム、マンモグラフィ、胸部X線)やワクチンの批判まではいいのですが、早期発見は必ず良いとか、新しい検診が良いとか、全く科学的根拠を伴わない、思い込みの記事を書いています。
がん検診については、くじ引き試験(ランダム化比較試験)を行わないとその利益/不利益を評価することができないのは、統計学者に限らず、もはや世界中の医師の常識です。
がん検診の最も重要な目的(真のアウトカム)は、死亡率を下げることです。
実際に病気で困っている人を治療する場合の臨床判断では、エビデンスを直接適用できないケースも多く、臨床医としての経験や直観、さらに患者の望む医療など様々な因子を考慮した判断が必要です。そのようなケースでは西尾氏が貢献してきた可能性は否定しません。
しかし、健康な人を対象とする検診では、全く状況が異なります。本人は健康で困っていないのですから、本当の予防効果(がん検診の場合は死亡率低下)があるのか、もっとも確からしい手法(くじ引き試験)で確認しないといけません。
過去には、有効だと思い込んで始めた結果、無意味かつ有害だったがん検診はいくつもあります。
ここで、みなさんに質問です。
検診の有効性を示す根拠となりうるのは、下記のどれでしょう?
(1)検診によってがん発見率(早期発見)が高まること
(2)検診で発見された患者について、検診未受診の患者より5年生存率が高いこと
(3)検診によって死亡率が下がること
答えは、(3)の一つだけです
実は、がん発見率が高まることや、生存率の向上は検診の有効性の根拠とならないのです。
医者の多く(7-8割)が誤解しているというデータもあり※1、西尾氏も全く理解していないと思われます。
リードタイムバイアスと過剰診断バイアスなどを知る必要があります。
http://www.cancerit.jp/20069.html
その他、残留農薬や遺伝子組み換えの未知のリスクについては一考を要する内容があるものの、他にも科学的に誤った記載があちこちにちりばめられ、論述としては無茶苦茶です。
胸部X線の被ばくを問題だと批判するのはいいのですが、さらに被曝の多いCTやPETを推奨するなど素人でもわかる論理矛盾があり、馬鹿げています。
肺がんのヘリカルCTについては、55歳以上でヘビースモーカーという特殊な条件にて、ごくわずかの死亡数を減らす結果が出た一方で、膨大な数の偽陽性と過剰診断が生じ、とても推奨できる内容ではありませんし、一般人には不要かつ有害です。
その他の検診についても、死亡率低下の証拠はどこにもない状況で、医療費抑制につながるなど笑止千万。
残念過ぎる記事でした。
なお、西尾氏に限らず、他の記事についてもこのサイトはトンデモ記事が多数あるようです。
まともな情報も一部交じっていますが、玉石混交です。
ぜひ、下記書籍で正しい知識と過剰診断の本質を知って下さい。
※1 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22393129
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