ジフテリア予防接種禍事件の既視感(2) | 空庵つれづれ

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全国にさきがけて、ジフテリア予防接種を実施した京都。


京都市の実施要項には、「本接種は予防接種法第三条による保護者の義務とする」という

一文があり、京都市長名の通達文の中には「第二十六条 左の各号の一に該当する者

(注・・・子どもに予防接種を受けさせなかった保護者)はこれを三千円以下の罰金とする」
とあった。

一般市民の間には、この「三千円以下」が「三千円」と伝わったようで、

「三千円の罰金をとられるのを恐れて、わが子を予防注射に

連れて行った人」も少なくなかったであろう。。。

(当時の三千円というと、今の10万~15万円に相当する!)

前に紹介した本の著者である田井中氏によれば、予防接種を受けさせなかったために

実際に罰金をとられた例はないようだが、父親が二人の子どもを連れて行った際、兄の

方が「注射はいやや」と逃げて帰ったため、弟の方だけが接種を受け亡くなってしまった

というような話もあるようだ。


さて、10月と11月の2回にわたって京都で行われた予防接種、10月の方では問題が

なく、事故が起こったのは、11月4日と5日の両日に行われた接種である。

京都市内の9箇所で、ひどい風邪のような発熱および気道上部の炎症といった症状を

呈する子どもたちが大量に出た(ジフテリアの症状)。

まさか(国家検定を経た)
接種薬自体が不良品であるとは最初から疑わないため、

いろんな可能性(接種時のミス、アレルギー、特異体質にだけ作用する異物の混入など)

が考えられたようだが、多くの箇所でこれだけ多くの発生数をみる原因にはなり得ない

ものばかりなので、結局(少し時間をおいて)接種薬自体が不良である、ということは

わかったようだ。

この時点で、適切な対応がとられてさえいれば

その後の島根での被害はまったくなかったか、
あったとしても最小限で食い止め
られたことは明らかである。


ところが・・・・・・

後の国会答弁で厚生省側が主張したこと(「原因がようやく見えてきた11月12日に、

いちはやく島根に電報で知らせた」)は、実際とはまったく食い違っている


(ちなみに、一部の新聞報道では、「11月11日から島根の接種が始まったとあるが

実際には13日からである」などとあたかも厚生省が十分間に合う時期に通報したかの

ように伝え、島根県内部での情報伝達の問題で被害が防げなかったかのような見解

を匂わせていたとのことだが、事実、島根での最初の接種は11日である)


島根県側の記録によれば、11月12日に厚生省からの電報などは届いていないばかりか、
厚生省からの電報が
最初に届いたのは17日である!

しかもその内容は、「オオサカニッセキ ロット8ノ シヨウノゾク イサイフミ」
ロット8というのは、京都で大きな被害を出したロット1013号のことなので、

どう読んでもこれは「ロット1013号以外のものを使用して、接種を続けろ」としか

読めない!

実は、島根で最初の接種が行われた11日の2日前(11月9日)に、

京都微生物研究所(島根に予防注射液を仲介した組織)から電報で、

「ジフテリア チュウシャ ミアワセ (注射 見合わせ)」というのが入っており、

島根県では9日の段階でいったん予防注射液の配布を停止していたという。

にもかかわらず、2日後の11日には同じ京都微研から、

「ジフテリア1013ゴウ キョウトデシヨウノウチ フクサヨウ ツヨキモノアリ」という

電報が入る。

これを島根県側は、「ロット1013号以外は安全」と解して、1013号以外の注射液

を使って接種を開始したようだ。


皮肉にも、京都事件で最初の死者が出た11月13日から、島根では本格的に接種

が実施されているのである!

しかも・・・・・

島根県側の調査報告を見ると、

11月13日に接種が行われた八束郡御津村というところでは、接種人員54名に

対して、54名(100%)に異常な症状が出ており、

ここで使われた注射液は1012号のものだったのである。
(京都で被害を出した1013号以外のロットでも実際に被害が出たわけであるから、

近辺の数字のロットはすべて怪しいと考えるのが当たり前である)


どう考えても、この段階で、(急ぐ必要もまったくない)予防接種を中止しない理由
は一つもないのであるが

それにもかかわらず接種は続行され、10日後の11月23日に至るまで(!)、

接種が中止されることはなかった。。。

いくら情報伝達のスピードが遅い時代とは言え、医師たちはすぐに注射液に何か

重大な問題があるということに気づいて不安になり、保健所や県庁の係員に何回

も問い合わせた医師もいたようだが、「接種可能」との回答しか返ってこなかった

という。


後の証言によると、医師の中には、不安におびえながら、自主的に(?)接種量を

減らしたりして接種を行った人もいるようだ。

しかも、

この島根事件では、このジフテリア事件の容疑で

医師4名が逮捕され、書類送検されているのだ!
(不起訴にはなったものの、逮捕されたことは新聞にデカデカと載った)

自分が打った注射で、多くの子どもに異変が起き、不安におびえながら注射を中止

することもできず、挙げ句の果てはまったく自分に非のない罪を着せられ逮捕された

医師たちの無念と怒りは、いかほどであっただろうか・・・・・



先週の土曜日に松江で行われた調査報告会に、

70歳ぐらいと思える女性が参加しておられた。
(研究者やマスコミの方には見えなかったので、島根での被害者のお一人なのかな、
と思っていた)

最後に自己紹介を求められたときのその人の言葉が忘れられない。


「○○村での予防接種で弟を亡くしました。そのとき、私は小学校6年生でした。
学校で先生に、「家に帰ったら必ず予防接種に行くように家の人に言いなさい」

と言われたので、家に帰ってそう伝えました。私があの時、あんなことを言わな

かったら、弟は死なずにすんだんです、、、、、」

この方が60年間ずっとそういう思いを抱えて生きてこられたこと(これからも

ずっと抱えていかれるであろうこと)を思うと、

ただただ、胸が詰まった。。。。。