女性のための官能小説  

「イルベント エレローゼ 愛するということ -KOKO-」

公開連載第7回








彼女は、
愛し合う場所を

選ぶ女ではないようだ。
 
やはり、
こんな女は初めてだ。

頭が働いたのは、
そのあたりまでだったかもしれない。


彼女の足の間の、
したたる蜜を

指で掬いあげ、

そのままなぞりあげた先の、
ぷくんと膨らんでいるつぼみを
撫でる頃には、
頭の中は、

彼女と
どんなふうに愛し合うか、
そのこと以外考えられなかった。


そう。

溺れたのだ。


彼女の体に。


彼女の視線に。


人の気配を感じたが、
もう止まらなかったし、
そのまま彼女の熱く湿った場所に
もぐりこむことを諦められるほど、
理性が残ってもいなかった。


もともと、
そんなものとは縁が薄い。
黒髪の青年は、
我慢が嫌いだった。


「はあはあはあ……………っ」


肩で息をついて、
彼女の腰を抱き寄せて、

後ろからそのまま抱いた。


何度目に腰を振ったときだろう。

人の気配は、ふっと動いた。

見て見ぬふりをすることに慣れた、
このプライヴェート・ヴィラの
使用人だろうか。

それともいかにも有能な、
あの紳士の執事だろうか。


どうでもいい。


「……KOKO………」


今はこの腕の中の

彼女以外の
なにもかもが、
すべて
どうでもいいことに思えた。


「………うふふ」

 KOKOが笑う。


背後の人の気配はまだ消えないが、
彼女を離すことができない。


慌てるより
愉しむような彼女の忍び笑いに、
見られてまずい相手でないことがわかる。
 

使用人の目ならば、
気にすることはない。


「鏡が……冷たくて気持ちいいわ」
 
KOKOはくるりと体を入れ替えて、
階段の中程に
しつらえてある大きな鏡に頬をよせ、
うっとりと目を閉じた。

鈍く輝く金色の
凝った意匠のフレームが
彼女を彩るアクセサリーのように、
よく似合った。


ふせられた長い睫毛が
震える。

そこから目が離せずに、
凝視した鏡越しに、
青年は執事と目が合い、
はっとする。


しかし、
立ち去れと目で命じるより一瞬早く、
執事は足音もなく
その場を立ち去った。


青年の父親より年上の執事は、
こういうとき
見て見ぬふりも慣れたものだろう。


だが、他の客人も

そうとは限らない。


ディナーはまだ、
デザートチーズが出たばかりで、
歓談はこれからというところだった。


もう戻らなければ。
そう思うのに、

できない。

「……ねえ、……鏡が、

……わたくしの体温と同じになってしまったわ」


ほら、と
指を絡めるように手を添えられて、
鏡に触れる。


たしかにもう冷たいはずの鏡は
ひんやりとはしていなくて、
青年は

鏡の中に映るKOKOにも、
唇を寄せずにはいられなかった。


KOKOが、
また向き直って、
青年の首に両腕を絡めた。


彼女の腕に抱きしめられるのは、
どうしようもなく心地よかった。


抗うことは、あまりにも難しい。


「僕は……僕はどうしたらいい?」


「あなたはあなたの心のままに」


鼻先が触れるほど近くで見る
KOKOの瞳は、
強い光をたたえて、
きらめいていた。


デコルテで光る大振りの真珠よりも、
天井から下がるシャンデリアよりも、
そのきらめきは

青年の目に眩しかった。



(続く)






(再)