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生徒総会が終わり一仕事終えたところで、今度は役員の顔合わせと言う事で生徒会室に呼び寄せられた。
これから一年間一緒に働くことになるから、今のうちに親しくなっておけということらしい。
教室でのホームルームを終えて生徒会室に入ると、三年生の書記と一年生の会計、それから千景が既に席に着いていた。
杞穂は職員室で天霧から必要書類をもらってからここに来たので少し遅れている方で、むしろまだ来ていない二人の方が気になった。
あの二人は同じクラスだっただろうか。
「失礼します。」
生徒会室には文化祭の看板の関係で何度か入った事があるけれど、まさかこんな形でまた入ることになるとは思っていなかった。
役員の数よりも席が多いのは相変わらずだが、前見た時に比べると棚などが全体的に片付いている。
去年の役員がちゃんと整頓してくれたのだろう。
座っている三人の席の間の席には一つずつ小さな箱が置かれていた。
ふと目が合った三年生に軽く頭を下げると、先輩は愛想のいい笑みを浮かべ、
「初めまして、三年の磯山です。」
「副会長の富木です。」
「いろいろ大変そうだけど頑張ってね。」
・・・どうやら彼女は杞穂が副会長になった理由を覚えているらしい。
その証拠に彼女の表情には同情のような色がある。
杞穂は苦笑交じりにはいと答えた。
「すみません、机に置かれている箱ってなんですか?」
「これ?まだ開けてないんだけれどメッセージカードに皆の名前が書いてあるから、多分私たちにじゃないのかな。
なんとなくで自分の名前が書かれている箱が置いてある席に座ったんだけど。」
磯山の隣の机の上に置かれているメッセージカードにはH.SAITOUと書かれてある。
その一つ隣には千景が座っているから、杞穂の箱は向かい側の一年生が座っている列にあるのだろう。
「あの。」
二人のやり取りを聞いて一年生が控えめに声を掛けてきた。
「おそらく俺_自分の二つ隣だと思います。
隣のカードにはSHUGITAと書かれていましたから。」
二つ隣、つまりは千景の正面。
会長、書記、書記、向かいに、副会長、会計、会計と席を決められているらしい。
一年生に礼を言ってから机を回ると、正面の千景が退屈そうに視線を投げた。
その手元にはすでにふたが開いている箱があるが、中身は取り出してしまってしまったのか机の上には見当たらない。
そうこうしているうちにあとの二人も入ってきて__やはり同じクラスだったらしいが_杞穂は天霧から預かっていたプリントを全員に配った。
「これは去年の生徒会の活動実績だそうです。」
コピーしたプリントに皆が目を向けたところで杞穂もプリントに視線を落とす。
__各活動への予算配分、地域活動への貢献、各委員会・部活との連携、学校行事の運営に携わる雑務などなど。
大まかに言ってもそれだけあるのに、それがさらに細分化されているので項目は一目見ただけでも途方もない数だ。
「これ全部今年もやんの?」
見るからに恐れをなしたような顔で杉田が顔をあげる。
「去年の活動をまとめたものだって天霧先生は言ってましたから、やらなければいけないのは上の方の項目・・・部活動予算とか、毎年やってる地域活動とか、学校行事などだと思いますけど。」
「そうね、新しい事も取り組まないといけないし。」
「だが、去年の活動も引き継がなければならないのではないか・・・と、思います。」
恒例の仕事に新しい仕事に予想外の仕事。
この中からやらなければならない事とやるべき事をより分ける必要性もある。
(土方先輩があんなに疲れていたわけだよ・・・。)
仕事量の多さに早くもげっそりしそうになるが、今更そんな事を言い出しても仕方がない。
ちらりと千景を見るが、千景はプリントを一瞥しただけで特に何も言わずに用紙を机に置いた。
「期限のあるものから手をつければいいのかな。
富木さん、天霧先生から何か聞いてる?」
「はい、これを。」
言いながら一冊のパンフレットを出すと全員が身を乗り出してきたので、机の真ん中に置く。
昨年度にこの学校を志望した受験生に配られた最新の学校案内だ。
この場にいる中でこのパンフレットと同じものを持っているのはおそらく一年生の山崎だけだろう。
「うわ、懐かし。家にまだあったかな~。」
「あ、待って。先にこっちから。」
手にとってページを捲ろうとする杉田を制し、身を乗り出しながら付箋のついたページまで捲る。
「ここ。ここから先の生徒紹介のページをまるまる生徒に預けるから、生徒会が監修をしてくださいと。」
全ページフルカラーなのでコピーは出来なかったのだが、生徒が担当するページは十数ページもある。
中でもページが割かれているのは部活動紹介のページで、各部の部活動風景を撮った写真と各部長のコメントなどが載っている。
写真はプロが担当したかのような出来栄えだが、下に小さく撮影:写真部と書かれている。
ページ構成や注意事項などが書かれたプリントを配ると、全員興味深そうな顔でそれを見つめた。
さすがに全部を生徒会が担当するわけではないが、これを完成させるのは生徒会だ。
「俺のためのページもあるようだな。」
千景が呟く。
「・・・もしかして、生徒会役員の紹介のページの事ですか?」
眉をひそめながらも控えめに烝が言うと、他に何があるとでも言いたげに千景は鼻を鳴らした。
役員のためのページを俺のためのものだと言い切るのはどうなのだろうか、と烝も言いたげだったが、相手が先輩なことを考えてか沈黙を守った。
まだ集まって一時間も経っていないが、どうやらこの二人は相性が悪そうだった。
「・・・えー、話を戻しますが。」
今のやり取りを無視する形で一同に語りかける。
「部活動の紹介ページはこれに書いてある通り部長それぞれに用紙を渡して、それを書記が校正するという形でいけばいいと思いますが、それ以外のページの事をどうするか考えましょう。
これは今年度の受験生に配るものなので、八月のオープンスクールの前までに印刷するそうです。
ですから締め切りは七月の頭、あと三か月ですね。」
長いのか短いのか、見当もつかない期限を口にしても得られる反応は少ない。
「この、生徒四名の写真と言うのは何だ?」
パンフレットを捲って該当するページを開くと、そこには顔見知りが四人中三人も載っていた。
一も驚いたようにページの中の__藤堂平助、雪村千鶴、大鳥圭介を見つめた。
「制服姿とジャージ姿の写真ね。」
磯山の声で杞穂は驚きから戻り、
「そうですね、去年は役員の中から三人と、もう一人女子生徒を選んだみたいですけど。」
「なら今年もそうすればいいんじゃないですか?」
なんて事もないように烝が言うが、それだと必ず杞穂も写らなければならなくなる。
「でも・・・学校を代表する生徒って書いてあるから、もっと似合う人がいると思うんだけど。
・・・私写真に撮られたくないし。」
「私もちょっと。」
女性陣が遠慮がちに言うと男性陣はめんどくさそうに顔をしかめた。
が、その中で千景だけは
「この制服姿の生徒、というのは俺でいいだろう。あとはお前たちで適当に決めておけ。」
「え、でも学校を代表する生徒、ですよ?」
思わず口をついて出た言葉だが、千景に睨まれる少し前に失言に気付いた。
それでも遅かったが。
「あ、いえ・・・これに制服の方は真面目で誠実そうな生徒を選んでくださいって書いてあったから。」
「ほう?俺にはその資格がないと?」
本人を前にしてはいとは言えないが、とりあえず誠実そうに見える態度は一度も取られた事がない。
今現在も。
上手い言い訳を杞穂が考えている間に、プリントを熟読していた一がふと顔をあげた。
「この写真は校則通りの格好で撮る必要があると書いてある。
風間、あんたの頭髪は校則に引っかかっているんじゃないか?」
「あ、そういえば。」
先にそちらを指摘すればよかった。
いつ見ても完璧な金髪はおそらく地毛の色だろうが、パンフレットに載せるには適さないだろう。
その指摘は思ってもいなかったようで、千景は渋面で舌打ちをした。
「・・・忌々しいが、そういうことなら仕方あるまい。」
「ではそういう事で。」
髪を黒く染めればどうだなどと言いだされる前にその話を終わらせた。
写真の中の千景が真面目で誠実そうに見えるかはとにかく、千景を全校の代表として写真に載せるのは遠慮したかった。
「じゃあ女子生徒は後で考えるとして、男子生徒二人はこの中の二人か?
俺も髪染めてるから無理だけど。」
「え、じゃあ自分ですか?」
ぎょっとする烝だが、要項は満たしているし制服姿の被写体にピッタリだ。
しかし本人は乗り気ではないようで、
「斎藤先輩も髪黒いですよね。一年の自分よりも先輩の方が・・・。」
「斎藤君は髪が少し長いんじゃないかな。」
磯山の言葉に一は少しほっとしたような表情を見せた。
口には出さなかったけれど、一も写真に撮られることに抵抗があったようだ。
「・・・わかりました、俺が制服姿の方の生徒になります。」
烝が渋々承諾し、あとの三人をどうするか、他のページをどう進めるかを大まかに決めたところでこの日の生徒会活動は終了となった。
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あとがき
こんなにがっつり生徒会活動に触れることになるなんて思ってませんでした。
去年の役員の影がチラチラと登場することになりそうです。
役員二人に名前をつけるか迷ったのですが、書記や会計の役職名だけだと文がおかしくなっていきそうなので名字をつけさせていただきました。
本家にいないキャラクターなので名字だけの登場で、外見の特徴などについては控えさせていただきます。
山崎にするか烝にするかも考えましたが、本家キャラクターなので名前で。
天霧は教師という立場のキャラクターなので名字の方がいいかなと思ってそのままですが・・・左之助みたいに変わるかもしれません。
曖昧なままで申し訳ありません。
ありのままをそのまま写す上に、レンズを向けられると決まりが悪くなって仕方ないので、面と向かって写真を撮られるのは苦手です。集団の場合さりげなく消えます。
でも、卒業アルバムなどでいつの間にか撮られている、目線をカメラに向けていない自分を探すのは楽しいです。見切れていると美味しい。