鬼が来た!(ネタバレ)/キツそうだから観たくなかった映画特集 | 三角絞めでつかまえて2

鬼が来た!(ネタバレ)/キツそうだから観たくなかった映画特集

鬼が来た!



原題:鬼子來了/DEVILS ON THE DOORSTEP
2000/中国 上映時間140分
監督・製作・脚本・主演:チアン・ウェン
原作・脚本:ユウ・フェンウェイ
出演:香川照之、チアン・ホンポー、ユエン・ティン、澤田謙也、チェン・シュ、ツォン・チーチュン
(あらすじ)
第二次大戦末期、日本軍が占領していた中国の寒村に住むマー(チアン・ウェン)の家に日本兵捕虜の花屋(香川照之)と通訳が預けられる。村人たちは彼らの扱いにとまどうが、次第に心を通わせていき……。(以上、シネマトゥデイより)

予告編はこんな感じ↓




85点


僕がなぜこの映画をキツそうだと思っていたのかと言うと、まず“日本軍が出てくるから”なんですね。彼らが非道の限りを尽くす姿を観るのは、同じ日本人だからこそあまりに生々しくてツラいというか。古くは「ドラゴン怒りの鉄拳」とか「紅いコーリャン」とか、日本兵が最悪すぎて本当にキツいというか…。しかも、話的にも悲劇が待ち受けているような予感がしてならないというか、いろいろイヤな雰囲気がして避けていたワケです。

でも、僕はその「紅いコーリャン」に主演していたチアン・ウェンが結構好きだったので、興味はあって…。さらに、あの澤田謙也(現・澤田拳也)の出世作ということでも気になっていたんですよ。

僕が澤田謙也さんを知ったのはジャン=クロード・ヴァン・ダム主演作でありラウル・ジュリアの遺作でもある「ストリートファイター」でのキャプテン・サワダ役でして(ヴァン・ダムファンの僕は当然ながら封切り日に観に行って失望しました)。まぁ、映画ではあまり活躍しなかったんですが、同時期に出たゲーム「ストリートファイターリアルバトル オン フィルム」ではそこそこ話題になりまして。


この映画、本当に残念でしたな…。
実写版ストリートファイター


このゲームでのキャプテン・サワダの何がスゴイって、必殺技が“ハラキリ”なんですよ。「獄殺自爆陣」といって、切腹して出た血で攻撃したり防御したりするという、何が何やらな技を使うんですね。さらにスーパーコンボの「カミカゼアタック」は両手を挙げて突進するという、どう考えても日本人をバカにしているとしか思えないキャラクターなんですが、当時、僕は友だちと対戦しながら爆笑したのを覚えております。


ゲームでのキャプテン・サワダはこんな感じ↓




何はともあれ、僕からすると海外で頑張っている日本のアクション俳優を応援したい気持ちがあったりするので、出演作はなるべく観ようと思い、「ホーク B計画」「武勇伝」はチェックしたんですが、彼の演技が最も絶賛されている「鬼が来た!」は未見だったので、ずっと気になっていたワケですよ。って、話がかなり長くなっちゃいましたな…。まぁ、さらに澤田さんに興味がある人はコチラコチラ、ついでにコチラでも読んでくださいな。

そんなワケで、観た感想ですが、スゴい映画ですね。カンヌ映画祭でグランプリを受賞したのは伊達じゃないというか。でも、精神的にはやっぱりキツかったです…。

映像はモノクロで最初はビックリしたんですが、それが昔の時代の映画っぽい雰囲気を出していて良い感じ。冒頭、チアン・ウェン演じるマーは、謎の男に日本兵捕虜の花屋(香川照之)と通訳のトン(ユエン・ティン)を無理矢理預けられるんですね。「日本軍に見つかるな」「5日後の三十日に引き取りに来る」「事情聴取しておけ」「何かあったら村人皆殺し」と脅されて、仕方なく村中で面倒を見るようになるワケですが、この段階で「ヤバイ、この映画は面白いかも!?」と興奮したりして。

なんか村人たちの雰囲気が実在しそうなリアリティがありつつも、コミカルで呑気なんですよ。主演のチアン・ウェンは特に素晴らしかったですね。痩せた杉作J太郎監督的な風貌で、役柄的にもボンクラな村人という感じで、実に親しみが持てました。途中、飯を食わない花屋に言った「人は鉄、飯は鋼だ。食わなきゃだめだ」という台詞とか、実直で良い言葉だなぁと思ったり。

捕虜の花屋とトンも必死に逃げようとするんですが、その様子も実に愉快で。花屋は「捕虜になったのは恥」ということで村人たちに殺されようと思って、通訳に「一番下品に罵れる言葉」を教わろうとするんですが、通訳は生き残りたいので空気を読んで、「新年おめでとう! あなたは私のおじいさん、私はあなたの息子!」と違う言葉を教えたりして。で、マーたちは「なぜ怒った口調で新年の挨拶を?」「いや、俺がおじいさんならおまえは孫になるだろ」と冷静に突っ込んだりと、通訳関連のギャグを始め、ところどころにトボけた描写が多くて楽しかったです。

結局、2人を預けた謎の男は引き取りに来なくて(この男は謎のまま)、村人はこの2人の扱いに困るんですね。で、殺そうとしたりもするんですけど、誰もやりたがらなくて、処刑人であるリウ老師を雇ったりもするんですけど、それも失敗したりして、ニッチもサッチも行かなくなって、最終的には解放を決断。半年近く世話をされてきた花屋は、そのころになると村人たちに対してちょっとした仲間意識が芽生えていたので、「今まで保護していたことにして、解放する代わりに食料をもらう」という約束をしたりして。村人たちは花屋を連れて日本軍の基地に行くワケです。

そこで現れたのが、澤田謙也さん演じる酒塚隊長で、確かに素晴らしい演技だったと思います。というか、怖えぇ…。何か、それまでそこそこ呑気だった雰囲気が一転してイヤ~な感じになって。確かにそれまでも日本兵が出てくるとイヤな雰囲気にはなったんですが(日本兵は高圧的で下品な人たちばかりなので)、花屋はもう罵りまくられ、ビンタされまくられるんですよ。体育会系の究極が軍隊になるワケですが、もうね、そのイヤさが溢れまくっていて、僕も過去を思い出して本当に胸が苦しくなりました…。

でも、約束は約束ということで、酒塚隊長も「仕方ない」と、約束以上の食料を与えて、その村で村人たちを交えて宴会を開くことになって。最初は歌も歌ったりして良い雰囲気なんですよ。でも、宴もたけなわというところで、酒塚隊長が「花屋は不穏分子だ」「誰か射殺しろ」と言い出すんです…。で、空気を読まない村人の1人が「銃なんか持ち出しちゃダメだよ~」みたいなことを酒塚隊長に説教し始めて、緊迫感が頂点に達した時、花屋がその村人を惨殺。日本兵による村人の虐殺がスタートしちゃうワケでして…。まさに地獄絵図なのです。「中国人を殺さない奴は不穏分子」的な雰囲気の中、比較的優しかった上官っぽい人も仲が良かった子どもをアッサリ殺しちゃったりして、「ああっ、だから観たくなかったんだよ、もう!」とDVDの停止ボタンを押さないように必死にガマンしながら観てました。マーとその愛人はたまたま村を離れていて、戻ってくるところで燃える村を見て呆然としていましたが、僕は「とりあえずこの2人が虐殺から逃れられて良かったなぁ」と心からホッとしたんですが…。

終盤、捕虜収容所の前でマーはタバコを売っていて、日本兵が買いに来るんですが、それがまた本当にイヤな奴らで…。マーは手斧で襲いかかり(たぶん計画してたんですよね?)、逃げる日本兵を追って収容所に侵入。日本兵を殺しまくるんですよ。話の中盤でどうしても捕虜を殺せなくて泣いていたマーが凶暴化してしまったこのシーンには涙が出ました。

花屋を見つけたものの、復讐を果たせずに取り押さえられてしまったマーは、逆に衆人環視の中で斬首されることになって、その役目を務めるのが花屋という、運命的にもほどがある状況。マーの首の上を歩いていたアリをどかしたりと象徴的なシーンを挟みつつ、マーは首を切り落とされてしまうんですが…。その切断された瞬間、いきなりマーの主観映像に(しかも突然のカラー映像)! 最後、首だけになったマーが映し出されて、ちょっと微笑んで終わってました。

この微笑みがちょっと謎で。途中に出てきたリウ老師の話では、良い感じに首を斬られると微笑んだ感じになって仙境にのぼるとか何だか。要は“成仏の証し”みたいなんですね。ということは、マーは最後に成仏したということなんでしょうかね? 救いといえば救いですけど、もうね、僕的には本当にキツいとしか言いようがない映画でしたよ。夢に出るレベルというか。

でも、非常に素晴らしい映画でしたよ。もしかすると「日本軍を悪く描いている!」みたいに思う人もいるかもしれませんが、そういうのでもないというか。日本に限らず軍隊なんてどこもあんな感じですよ、たぶん。あと、同じ日本人として、あまりに差別的な言動&行動を見せられたりするのはツラいけど、「まぁ、実際にそうだったんだろうし、こう描かれても仕方ないよな」と思うし。村人たちだって打算的で醜いところもあって、全然美化されてなかったし。というか、僕的には、監督は別に「日本軍は悪い奴で中国人は被害者だ!」なんてことを声高に訴えたかったワケではなくて、「人間はその状況によって人になったり鬼になったりする」ということを伝えたかったんだと思っております。

そんなワケでバカみたいに長い記事になってしまいましたが、「鬼が来た!」はかなりオススメです。特に澤田さんが演じた隊長はマジでイヤな感じなので必見だと思うんですが、この手の映画が苦手な人は夢に出てくるかもしれないので、観なくても良いとも思います。




チアン・ウェン監督のデビュー作。青春ドラマなんだって。



映画のノベライズ。イヤな気持ちになりそうですな。



香川照之さんが書いた映画の撮影日記。これはこれで凄まじそうです。



この映画も「皮を剥げ!」のところとか、本当にキツかったなぁ…。



昨年、観たんですが、こっちは“日本軍がいなくなった後の吊し上げ”が半端じゃなくキツかったです…。