豆

 

豆丸は

一馬と楽しい語らいをしていた。

 

 

「一馬さん~」

 

 

「豆丸」

 

綺麗な瞳だと思い

豆丸は

その顔を近付け

一馬をじっと見つめた。

 

 

「一馬さん・・・・」

 

 

いきなり鼻を摘まれた。

 

 

 

目

 

目の前には

何故かお京の顔があった。

 

 

 

 

 

「あれ?お京さん?

どうしたっすか?」

 

 

 

 

「おまえ~人が心配していたら

なに寝言言ってるだ~」

 

 

寝かされたその部屋は

見知った部屋だった。

 

 

~あれ?ここってお京さんの部屋・・・~

 

 

ぼやける記憶をたどって

豆丸は

ハッとして起き上がった。

 

 

「お京さん!大丈夫っすか?」

 

 

「はあ?それはこっちが聞きたい

頭、大丈夫なのか?」

 

 

 

いきなり起き上がった豆丸は、

頭に痛みを覚えた。

 

「"/(;-_-) イテテ・・・」

 

 

 

「ほらみろ~タンコブが出来てる。

明日、町医者に診てもらえ」

 

 

「大丈夫っす」

 

 

「駄目だ!言うこと聞け!」

 

 

 

側で壱嶋はクスリと笑った。

 

 

「豆丸~お京は、心底心配してるんだ。

ちゃんと診てもらいなさい」

 

 

「あ、壱嶋さま・・・」

 

 

豆丸は

一気に今までの事が思い出された。

 

 

 

「お京さん!あのお客様は?!

何かされませんでしたか!?」

 

 

「俺はなんともない」

 

 

 

壱嶋がすまなそうに話し出した。

 

 

 

「あの者、豚田萬治大尉は、私の部下だ。

今回の事は、私に免じて許してくれないか」

 

 

 

 

 

 

「壱嶋さま・・・俺は何ともないっす・・

あのお客様は、

最初からお京さん目当てだったみたいっす・・・」

 

 

「豆丸・・・悪かった

あの客は以前から何かと問題を起こしてる客だと

マツさんから聞いた」

 

 

「お京さんも、謝らないで・・・

俺が至らなかったせいで・・・・」

 

 

豆丸は

この茶屋の仕事が心底向かないと感じ

大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

「ん?・・・」

 

ずっと手に握りしめていたのは

軍服だった。

 

 

「壱嶋さま・・・軍服、ありがとうございました」

 

 

「それは、一ノ瀬少尉のだ」

 

 

「へ?一馬さん、来てたんっすか?」

 

「ああ、お前を介抱していたが、

気が付いたらいなかったな~

今度、礼を言っておけ」

 

「はい!お京さん」

 

 

 

「それにしても、豆丸~

お京の凄みをきかせた姿~

お前にも見せたかった」

 

 

 

「えっ?お京さんが?」

「あ?・・・・」

 

 

お京は、今の今まで

壱嶋の前で

自分の素をさらしていたことに気付いた。

 

 

「あ、いえ、あ、あの壱嶋さま・・・

私は、あの、とんだところをお見せいたしました。」

 

 

「もういい~なかなか新鮮で良かったぞ」

 

 

「からかわないでください・・・・」

 

お京が、顔を赤らめ

はにかむ姿を

壱嶋は

嬉しそうに見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

~一馬さん・・・・~

 

 

軍服を握りしめ

豆丸は、今すぐ会いたい気持ちを抑えた。

 

 

 

雲月

 

 

 

 

夜半、

月明りが雲に陰り

あたりが漆黒の闇の中、

豚田萬治の足元に何かが投げ込まれた。

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

それを掴むと

それは木刀だった。

 

 

 

「勝負しろ」

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

暗闇の中で

相手も木刀を持ち

正眼の構えで

こちらを捉えていた。

 

 

 

「き、貴様!何者だ!

私を誰だと思ってる!

陸軍豚田大尉だと知っての事か!」

 

 

 

「あなたには

軍人だと名乗る資格はない」

 

 

暗闇に目が慣れ

相手の輪郭が浮かび上がった。

 

 

細い身体からは

一分の隙も見られなかった。

 

 

「勝負!!」

 

相手の動きに

豚田萬治は、尻餅をついた。

 

 

相手の容赦ない攻めに

豚田萬治は

一度も構えることも出来ず

その場で伸びてしまった。

 

 

 

その勝負は歴然とし

武術の差を見せつけた。

 

 

 

 

 

 

 

次の日

一馬の部隊では

朝から大騒ぎだった。

 

 

「おい、あの豚萬が夜、誰かに襲われたらしいぜ」

 

 

「お、まじか?あの豚萬が?」

 

 

「ぼこぼこにされて、気を失ってるところを

朝、通り掛かりの人に助けられたらしい」

 

 

「へえ~そりゃ~いい気味だ・・・」

 

 

 

「俺たちもいい加減、あの豚萬の威張り腐った態度には

うんざりだったからなぁ~」

 

 

 

「あ!壱嶋中佐だ!!」

 

 

 

「整列!!気をつけ!!」

 

 

 

一同が横並びになり

壱嶋が

 

 

「昨晩、豚田萬治大尉が何者かに襲われた。

誰か心当たりはあるか」

 

一同は静まり返り

誰一人として言葉を発しなかった。

 

 

「まあ、良い・・・

今日は各自いつもの訓練をはじめろ」

 

 

 

「はい!!」

 

 

壱嶋は

ゆっくりと歩みを進め

止まった先には

一馬がいた。

 

 

「一ノ瀬少尉・・・軍服はどうした?」

 

一馬は

真正面を向いたまま

 

「自分は、軍服を汚してしまいました」

 

 

「・・・・・今日にでも茶屋に行き

返してもらえ」

 

 

 

「・・・!!」

 

 

「・・昨晩の刺客は、お前か?・・」

 

 

「違います!!」

 

 

「まあ、いい・・・豚田大尉も部下である少尉にやられたとは

認めたくないだろうからな」

 

 

壱嶋のその瞳の優しさに

一馬は、一瞬怯んだ。

 

 

「・・・もう大丈夫だ・・

元気な姿の豆丸に会ってくるがいい」

 

 

「はい!ありがとうございます!」

壱嶋の言葉に

一馬の不安な気持ちが吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

ソリス(ポップン)

 

 

その夜

一馬は、急いで白桃茶屋に出掛けた。

 

 

夜見世の客引きが始まった時間に間に合ったが

その場に豆丸の姿はなかった。

 

 

 

また急いで暖簾をくぐり

マツに尋ねた。

 

 

「豆丸は、また客なのか!!」

 

 

「あ、一馬さま~昨日はすまなかったね~」

 

 

「どうなんだ!豆丸は、今日も客が付いたのか?」

 

 

「おいおい、そんな血相変えて・・・

豆丸は、大事を取って一日休ませた」

 

 

「あぁ・・・そうなのか・・・良かった・・・」

 

 

ホッとして

一馬は、上がり框に腰を下ろした。

 

 

「でも、どこに出掛けたのか・・・

行ったきり帰ってこない・・・」

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 

豆

 

 

その頃

豆丸は、一日休みをもらい

一馬が所属している陸軍部隊の入り口に立っていた。

 

 

「え~と、一馬さんは、まだ訓練中かな・・・・」

 

 

詳しい話を聞いていなかった豆丸は

通りすがりの軍服姿の人に

 

「一ノ瀬少尉さんは、いらっしゃいますか」

 

 

と尋ねてみた。

 

 

「一ノ瀬かい?今は訓練中だ」

 

「あ・・・やっぱり、そうっすか・・・

あの、これ、渡してください」

 

握りしめていた風呂敷包みを

相手に渡した。

 

「ん?君は?」

 

 

「あの・・・渡せばわかります」

 

 

豆丸は、会えないことも考慮し

軍服の中に礼状をしたためていた。

 

 

~会いたかったっす・・・・一馬さん・・・~

 

 

心の中で

ある覚悟を決め

大きく深呼吸した豆丸は

茶屋へと帰って行った。

 

 

 

 

ソリス(ポップン)

 

 

行き違いになり

一馬が部隊に戻ると

風呂敷包みが部屋に置かれていた。

 

 

 

中を開けると

しっかりと畳まれた軍服と共に

綺麗な字で文が添えられていた。

 

 

 

豆

 

一馬様

 

この度は

一馬様の前で見せた失態に

心からお詫び申し上げます。

 

 

あの夜、初めての客人を

未熟さゆえに怒らせてしまいました。

 

 

 

やはり、一馬様の言う通り、

まだ時期尚早でした。

 

いまだに幼い自分を痛感し

情けない限りです。

 

 

 

 

一度お話したいと思います。

 

また、会ってください。

 

 

豆丸

 

豆

 

 

「あの馬鹿・・・・」

 

 

全てが自分のせいだと

書かれた文面に

豆丸の心優しさが溢れていた。

 

 

 

一馬の中で

何かがはっきりと輪郭を露わにし

胸が締め付けられる想いを

初めて感じた。

 

 

「豆丸・・・・必ず迎えに行く・・」

 

軍服には

豆丸の優しさが残り香となって

一馬を切なくさせた。

 

 

「豆丸・・・・・」

 

 

 

目を閉じれば

はにかんだあの笑顔が蘇る。

いつも明るく笑う

豆丸に想いを馳せた。

 

 

 

 

豆

 

 

 

豆丸は、

朝から茶屋の廊下の拭き掃除をしていた。

 

 

~この茶屋を辞めよう~

 

 

心に決めた言葉が

ずっと豆丸の頭の中を駆け巡っていた。

 

 

 

その時、まだ茶屋の開く前に

入り口から声がした。

 

 

マツが出ると

そこには一馬が立っていた。

 

 

「おお?一馬さま~どうしたんですか?」

 

 

「豆丸は、居るか」

 

 

「豆丸!!一馬さまだぞ」

 

 

その声に

慌てて二階から階段を転がるように

降りた。

 

 

「一馬さん!!」

 

その手を伸ばすと

いつものようにその手を握ってくれた。

 

 

 

そのまま

ぐっと胸に抱き締められた。

「あ?一馬さん?」

 

 

 

「待っていてくれ・・・」

 

 

「?」

 

 

「マツさん!俺はこれから遠征に出掛ける

数日で帰る。

それまで豆丸に客を付けないでくれ」

 

「な、なに言ってるんっすか」

 

 

「これだけで足りるか」

 

 

懐から茶封筒を出し

マツに渡した。

 

 

「お?専属ってことだね~分かった。

豆丸は、一馬さまの期間限定の専属ってことで

毎度あり~♪」

 

 

「あ、ダメっす!一馬さん!

俺の話聞いて!」

 

 

「時間がない!

俺はこれからすぐここを立つ

待っていてくれ」

 

ぎゅっと抱き締められた豆丸は

何が起きたか分からなかった。

 

 

「じゃ、行って来る」

 

 

「あっ!一馬さん!!」

 

豆丸が呼び止めても

一馬は既に

走り去った後だった。

 

 

 

「(/▽*\)~♪ イヤァン

豆丸も隅に置けないわね~

いつの間に・・・♥」

 

 

「ち、違うっす!一馬さんは俺の事なんか

子供としか思ってないっす!・・」

 

 

~一馬さん・・俺の話を聞いてほしかったのに・・・~

 

 

既に消えた一馬の胸のぬくもりだけが

豆丸の胸を焦がした。

 

 

 

つづく・・・・

 

 

皆さま~こんにちは~

 

ぺこ <(_ _)>

 

文字制限食らったので、解説抜き~

では、楽しんでね~

マタネッ(*^-゜)/~Bye♪