2013-12-01 16:36:27

知的障害・障害基礎年金の裁判で勝訴!〜判決が確定しました。

テーマ:障害年金の事や障害について想う事
2013年11月8日、東京地裁。
長い間お手伝いさせていただいていた方の裁判の判決の日でした。
すでにNHKや新聞各社で報道されましたが、結果は勝訴。
その後、国の控訴はなく、11月23日に判決が確定しました。

少し時間が経ってしまいましたが、訴訟前の段階を担当した社会保険労務士の視点から、裁定請求や行政の不服申立て段階、訴訟、そして今回の判決で感じたことなど、主に当事者の方や障害年金業務を行う社会保険労務士の方に向けて、また、自分の記録も兼ねて書いてみます。
かなりの長文になりますが、よろしければおつきあい下さい。
(ただでさえ長文が多いこのブログの中でも間違いなく最も長文です・・・)

その前に・・・
一部の方々には、報道により「20歳まで遡り、約8年分の年金が支給される」との誤解を招いてしまったようです。
「5年分しか支給されなかった、裁判で認められるなら提訴したい」という問合せが、当事務所にも弁護士事務所にもありました。
ですが、この方(以下「Aさん」とします)についても、今回の判決により受給権は20歳まで遡って発生しますが、各支払期ごとに発生する5年の消滅時効は適用され、受給できるのは5年分(正確には5年プラス数ヶ月分)となります。
この時効の関係については、別に紹介したい再審査請求容認の事例もありますので、時間をみてまた書きます。

受任の経緯

このケースについては、じつは2009年に1度書いています。

【関連記事】
知的障害と障害年金

独立して1年目、まだ自宅に事務所を置いていた頃のことです。
ある日の夕方、事務所の電話が鳴りました。
電話はAさんの弟さんからで、すでに家族が請求手続きをしてしまったが、遡り請求になっているのかわからず不安なので相談したいとのこと。
手元に請求書類のコピーがあるというので、さっそくFAXで送ってもらうことにしました。
私の事務所の前に何件もの社労士事務所に電話し、その全ての事務所で「もう請求を出したのならどうにもならない」と断られており、書類を見せてほしいと言ったのは、うちが初めてだということでした。
じつはそんな経緯があり、裁判になってしまうほどの難しい案件で、まだ新米だった私の事務所への依頼となったのです。

さっそくFAXで届いた書類を確認したところ、障害認定日請求としては不備があり、通常は受けつけられないはずの内容なので、受理されたということは事後重症請求になっている可能性が高いと思われました。

今でも鮮明に覚えているのですが、弟さんの言葉は「姉は子どものころから障害者だった。障害があることで、子どもの頃はずっといじめられていた。それは20歳の頃だって今だって変わらない。変わらないのに20歳から障害年金がもらえないのはおかしい」という、素朴で、そしてもっともなものでした。

翌日、ご家族と面談。
可能性が低くても、やれるだけのことはやりたいというご家族の意向により、依頼を受けることになりました。

年金の請求書には、「障害認定日請求」「初めて障害等級の1級または2級に該当したことによる請求」「事後重症請求」のいずれかに丸をつける欄があります。
ご家族は、このどこにも丸をつけた記憶はなく、市区町村の窓口では「出すだけ出してみましょうか」とだけ言われたそうです。
その足で一緒に窓口に行き確認したところ、書類はすでに管轄の社会保険事務所(当時)に回送されており、役所の方の手により「事後重症請求」に丸がつけられている状態でした。どうやらそのまま回送したところ、社会保険事務所からどれか選ぶように言われ、この書類ではやむを得ないと、勝手に事後重症請求にしてしまったようです。

この請求の種類というのは、年金請求書の中でとても重要な部分です。
本来であれば、まずはご家族にきちんと説明し、確認する必要があります。
請求の種類に勝手に丸をつけることなど、あってはならないことです。

2009年のときにも書きましたが、その場で障害認定日請求であることを告げ、今度は社会保険事務所に行って、年金請求書以外の書類一式を引き取り、一からやり直しをしました。

裁定請求

報道だけを見ると、全く診断書なしで認められたというふうにも見えますが、じつは診断書を出していないわけではありません。
障害認定日である20歳前後の時期に、直接Aさんを診察した医師の診断書は、診察を受けていなかった以上出せませんでしたが、当時、知的障害者授産施設の入所判定などを専門的に行っていた医師が、28歳時点でのAさんの所見と家族からの聴取に基づき、専門的知見から20歳当時のAさんの障害の状態を推定して作成した診断書を提出しました。
(そもそも精神の障害用の診断書は、本人や家族からの聴取内容も日常生活能力の判定の上では大きなウェイトを占めるものです。日常生活の状態は、当然ながら診察室の中ではわかりませんから。とはいえここに医師の所見と齟齬がある場合は別です)

Aさんは20歳のときに療育手帳を取得していますので、そのときの判定書類も開示請求して提出しています。
また、Aさんは小学校に就学した頃から大学病院に数年間通院し、その後は発達障害の医療や相談を専門とする療育機関に16歳まで通院していましたから、大学病院の受診状況等証明書(厳密にいえば知的障害の場合はこれがなくても良いのですが、幼少期からの障害状態の証明のため取得しました)、16歳までの主治医(自閉症スペクトラムの分野で非常に高名な先生でした)による意見書も、この段階で提出しています。

結果は事後重症での決定。
障害認定日の部分については黙示的な却下です。

余談ですが、社会保険審査会の再三の裁決等により、現在は障害認定日請求をしたものの事後重症と決定されたとき、障害認定日時点での不支給決定通知書がきちんと出されるようになっています。

審査請求と再審査請求

不服申立ての拠りどころは、知的障害の障害の状態の固定性と、昭和61年通知(知的障害の場合「現症状から障害認定日の障害の状態等が明らかに判断できる場合にあっては遡及して差し支えない」としたもの)、類似事案の容認の裁決例(過去10年ほどのうち2件)、当時のAさんに関する客観的な証言でした。

この段階で提出したのは、大学病院と療育機関の全カルテ、Aさんの16歳までの主治医の先生が、Aさんの状態を専門医としての知見に照らし、さらに詳細に書いて下さった意見書、そしてAさんが20歳を前後して通っていた専門学校で担任・副担任だった先生による申立書、同専門学校の指導要録などです。

指導要録は本来は開示できないとのことでしたが、根気強く事情を説明しお願いすることで、学校側が全面的に協力して下さるようになり、「少しでも参考になれば」と、当時の学校案内なども下さいました。
当時の担任と副担任の先生も、ご家族との訪問によるヒアリングを快く引き受けて下さり、色々なお話を伺うことができました。
16歳までの主治医の先生は、高名な医師とは思えない、物腰の柔らかな方で、本当にすごい方というのはこうなのだなと感激しました。

審査請求での棄却は想定内でしたが、再審査請求の公開審理では、一緒に出席されたご家族も「これ、いけますよね!」と興奮気味でしたし、じつは私も内心では勝ちを確信してしまった、そんな内容でしたが、2010年12月の終わりに届いた裁決は「棄却」でした。

(これはちょっとしたトラウマになっていて、以来、公開審理での感触が良ければ良いほど、裁決書を確認するのが恐いと思うようになってしまいました)

裁決書では、提出した医証等は認定日当時にAさんを直接診療した医師または医療機関によるものではないとしてほとんど検討されず、家族や専門学校の担任と副担任による申立内容は、そもそも全く検討されていませんでした。

行政訴訟へ

当初、ご家族は、訴訟までやることなど全く考えていなかったと思います。
ですが、公開審理の内容と真逆のような裁決に対する理不尽と、「ここまでやったのに・・・」という想いからギリギリまで迷われ、相談のため弁護士さんのもとを訪問したのは、たしか提訴期限の1ヶ月ほど前だったと思います。

裁判を担当して下さったのは、八王子合同法律事務所の尾林芳匡弁護士と和泉貴士弁護士です。
ご家族と一緒に尾林先生を訪問し、それまでの全書類を一通り見ていただき、行政段階での障害認定の動向、通達などを補足しました。
尾林先生からは、勝算についてはなんともいえないが可能性はある、少なくともやらないのはもったいない内容だという言葉があり、最終的にはこの言葉がご家族の背中を押すことになりました。

裁判の過程で

弁護士事務所での打合せには前半はほぼ同席させていただき、医学文献探しや行政での取り扱い等の情報提供などなど、ほんのわずかではあったと思いますが、協力させていただきました。当時の弁護士との、結構な量のメールのやりとりが残っています。
これらは、不服申立て代理業務の受任が次第に増えていた自分にとって、ひとつひとつがかなり勉強になるものでした。
裁判の戦い方というものを垣間見ることができたように思いますし、これらの経験は今後の業務にも大いに活かせると思いました。

今回の判決を見る限り、不服申立て段階での資料の集め方などの方向性はおそらく間違ってはいなかっただろうとは思われるものの、今振り返ると主張ひとつとっても全然足りないし、関係者からの聴取についても掘り下げ方が足りないし、まだまだだったと思います。

訴状や準備書面などでは、裁定請求や不服申立ての段階で集めたひとつひとつの資料について丹念に拾い上げ、深く検討し、主張して下さっている内容に、感動すらしました。

最終的には、専門学校でAさんにつきっきりで援助されていた副担任の先生が証人となって下さり、証人尋問にも立って下さいました。この先生にも本当に感謝していますし、また、弁護士さんが、診断書の評価項目である「食事」「身辺の清潔保持」「金銭管理と買物」「通院と服薬」「他人との意思伝達及び対人関係」「身辺の安全保持及び危機対応」(当時の内容・現在は一部改定されています)のそれぞれに沿って、事実を深く引き出して下さっていること、その引き出し方など、やっぱり違う・・・と思うことばかりでした。

判決

おそらく多くの当事者の方、障害年金に関わる社労士の方にとって一番関心があるであろう「診断書」の部分については、次のような判断です。
(原告側の主張が全面的に認められたかたちです)


  • ・国民年金法施行規則(31条2項4号で診断書の提出が定められた部分)の定めは裁定機関の認定判断の客観性・公平性を担保する手段として上記の書類の提出を求めたものにすぎない。

  • ・請求者が提出した診断書や診療記録が、障害の状態が問題とされる当時において診療に実際に関与したことのない医師により作成されたものであっても、それが故に当該診断書等が上記規則にいう「診断書」に該当しないとして障害の判定を行わないとすることは相当ではない。

  • ・請求者が当該診断書等に加えて提出した他の資料が一般的な客観性と信用性を有するものと評価することができ、かつ、それらが当該診断書等を補完するものとなり得ると認められるのであれば、当該診断書等とその他の資料の提出をもって、上記規則にいう「診断書」の提出があったものとして取り扱い、当該診断書等と裁定請求者が提出した他の資料とを総合的に判断して、当該診断書等の具体的な信用性を吟味した上、障害の程度の判定を行うべきものと解することが相当。


そして、提出された全ての資料について、客観性、信用性などが詳細に検討された結果、それぞれの資料が医学的知見の側面から、また日常生活状況の側面から、裁定請求時に提出した診断書(推定)を補完し、この診断書が障害の程度の判定において参照するに足りる信用性を有し、この診断書と他の各資料の提出をもって、国年法施行規則に定める診断書の提出があったものと取り扱うことが相当とされています。

ですので、これは国年法施行規則を無視した判決ではないし、医証が全くない状況下での医師以外の客観的証言のみによる判決でも当然ないし、ひとつひとつ、相当丁寧に検討された上での判決なので、画期的でもあり、また、すごくまっとうな判決だと私は思っています。

今後の動向(個人的見解)

今回の判決が、年金機構での障害認定のあり方や、社会保険審査会での判断に即座に影響するだろうというふうに楽観的に考えてはいません。
こういった判決なりを積み上げていくしかないのでしょうし、客観的で信用性のある証拠をどれだけ集められるかというところに、やはりかかっているのだと思います。

ただ、必ずしも「障害認定日当時に直接診療した医師による証明」がなければ診査できない、判断できないというものではないと、この判決が示してくれました。
大きな一歩だと思います。
Aさんのご家族も、自分たちのことが、同じ状況にある方を少しでも後押しできればとおっしゃっています。

裁判中も、何度か類似のケースについて相談をいただきましたし、現在も、おそらくもっと困難と思われるケースでの不服申立てに取り組んでいます。
こういった相談に、現状ではやはり、裁判まで見据えなければ難しいという返答をせざるを得ません。
ですが、同様のことで困っていらっしゃって、それでもやりたいという依頼があれば、全力を尽くしたいと思いますので、ぜひご相談下さい。

いつか、訴訟までやることなく、もっと少ない負担で、正当な認定がされる日が来ますように。

最後に

判決を読みながら、様々なことを思い出して、ぐっとこみ上げてくるものがありました。
Aさんのお宅にお邪魔して、お母さんと一緒に申立書を作ったことや、そのときお昼ご飯をごちそうになったこと、あちこちに電話しまくり、頭を下げ、走り回ったこと、協力して下さったたくさんの方々。

ご本人とご家族は、本当に大変だったと思います。
心から、お疲れさまでした。

弁護士の尾林先生、和泉先生、途中まで担当して下さったO先生、丁寧な意見書を2度も書いて下さった専門医の先生、学校の担任の先生と副担任の先生、医療機関や学校事務の方々、応援して下さった勉強会仲間の社労士のみなさま、この判決を自分のことのように喜んで下さった方々、なによりご本人とご家族に、心から感謝しています。
本当にありがとうございました。

あり得ないような長文になりましたが、4年2ヶ月にわたりやってきたことなので、締めくくりに、時間をかけて書きたいと思いました。
読んで下さり、ありがとうございました。
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