映画「パーソナルソング」 平成26年12月10日公開 ★★★★☆

 

 

特効薬もないままに患者数が爆発的に増え続け、先進諸国で社会問題となっている認知症やアルツハイマー病。

アメリカのソーシャルワーカー、ダン・コーエンは、患者が自分の好きな歌(パーソナル・ソング)を聞くことによって、

音楽の記憶と一緒に何かを思い出すのではないかと思いつく。

早速その療法を実行に移してみると、娘の名前すら思い出せずふさぎこんでばかりいた94歳の認知症男性ヘンリーが、

好きな曲を聞いた途端に陽気に歌いはじめ、仕事や家族のことまで饒舌に語りだすという効果が表れた。

さらに他の患者たちも、この音楽療法によって劇的な変化を見せるように。

人間が失われた記憶を取りもどす奇跡の瞬間をとらえ、新たな治療法の可能性を探っていく。(映画COM)

 

 

介護施設出で「生きるしかばね」のようになっているお年寄りに、iPodでお気に入りの曲を聴かせた途端、

目を輝かせて歌いだしたり、忘れていた昔のことを次々に思い出したり、歩行器を外して踊りだしたり・・・・

奇蹟のような驚きの変化を見せてくれます。

ダン・コーエンはこうした音楽療法を実践していて、一人に一台、iPodを!と運動をしているんですが、

音楽療法は医療行為として認められていないので、1000ドルの薬はOKでも40ドルの音楽プレーヤーはNOなのです。

医療行為では患者の心までは治療できないのに・・・と嘆きます。

 

昔はもっと年寄りは尊敬され必要とされていたのに、今や、

「生産性の高い人が価値ある」という世の中では「おちぶれた人」になりさがり、

家族の在り方も変化してきて、救貧院と病院をあわせたような施設で人生の最後を送る人がほとんど。

彼らは家を失い、尊厳を失い、選択肢を断たれ、未来への希望もなく、孤独の中に生きています。

 

そんな彼らの心を取り戻すのに一番効果的なもののひとつは、音楽療法。

ただどこの介護施設も全員にiPodを提供する財政的余裕はなく、普及活動は難航しているので

世間の認知を高めるためにこの映画がつくられた、ということなのでしょう。

 

iPodを配ればすべて解決!って訳ではないと思いますが、音楽が(特に認知症患者に)劇的効果を与える、

ということについては、全くその通りだと思います。

 

ただ、初対面の患者のパーソナルソングはどうやって知るんだろう?? (家族に取材するのかな?)

認知症の人に「あなたの好きな曲は?」と聞いて、すぐに答えが返ってくるわけないですから。

たまたま見事にマッチングさえすれば、突然本来の自分の姿を取り戻す、奇跡のような瞬間が現れても全く不思議はありません。

 

私の母も認知症と言われてからもう10年以上たっていますが、もともと歌が大好きな人なので、

音楽が効果的なのは明白だから、私たち家族はずっとそれを実践しています。

歌詞を見ないで唄える歌は何百曲もあります。

パーソナルソングはたくさんありすぎて困るほど。しいて言えば「Buttons and Bows」かな?

 

ここからは、映画とはほぼ無関係になりますので、興味なければスルーしてください。

 

 

なんで、私がこんなに偉そうに言えるかというと、(ダン・コーエンはこの活動を3年やってるといってましたが)

私もあちこちの老人施設で、もう7年も同じようなことをやっているからです!

 

 

iPodは使いませんが、生演奏で二十数曲くらい、ひたすらお年寄りたちに「歌わせる」という活動を年に数十回やっています。

一方向的に、演奏して聴かせる音楽ボランティアをされている人は多いのですが、

「毎回違う曲をみんなで歌う」という活動をしている人は、いそうでいない。

なので、誰かと情報交換することもできず、毎回、手探りであれこれ曲を探し回っています。

誰も歌ってくれずにしーんとしてしまうことももちろんありますが、

見事にヒットして、最後は全員で大合唱、なんてときは、とても興奮します。

 

ある特定の曲で、いきなり目を輝かせて歌いだす、という人もいます。

それが彼(彼女)のパーソナルソングになるんでしょうね。

 

赤の他人が認知症患者のパーソナルソングを当てるのは難しいと言いましたけれど、

今の80代以上の人たちは、ラジオ歌謡とか、たいてい同じ媒体で音楽を聴いていましたから、

完璧にマッチングしないまでも、おおよそは想像がつきます。

アメリカだったら、ルイ・アームストロングやナット・キング・コールであたりで3割くらいは稼げそうです。

 

ところが、今の人たちは「同じ歌をみんなで歌う」なんて学校の授業くらいでしょうから、

彼らが老人ホームに入った時、音楽ボランティアで歌おうとしたら大変だろうなあ・・(まあ、私はもう死んでるでしょうけど)

 

そうなると、認知症になる前に、自分のパーソナルソングを子どもに伝えておく、というのは大事なことですね。

うーん、私のパーソナルソングは??