ある日ある時ある場所で

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目に映る此れは誰の物語だろう?



「ご主人様ーっ。朝です。起きて下さい。ほらっ、今日はすっごい晴天ですよ。外出てみません?外」
「あ"~、ぁ~ぁ、朝から元気だね。取り合えず外に出るにしても身だしなみを整えてからにしないかい?それに、朝食もまだなのだし」
「じゃあ、早く食事に行きましょうよ。今日もシェフの気合が入った料理ですよ、朝から」
「此処のシェフ、腕はいいんだけど朝から濃い料理が多いのだよねぇ、はは、困ったものだ」
「なーに、言ってるんですか。サラダやスープもあるのにご主人様ったら好き嫌いが激しいから駄目なんでしょうに」
「そうは言うがね、キャロットスープやピーマンサラダは余り好きでは…」
「はいはい、解りましたから。そんな事よりささっと着替える」
「ふぅ、解ったよ。まったく、うちの若い従者殿には敵わないな」

「ご主人様がだらしないから僕がこうなったんですよ、もぉ」


初めての船旅
それも、行き先は滅多に人は行く事のできないと言う噂の大陸

とある商家の従者と言う立場の少年は『外』の世界に胸躍らせていた

彼が付き従う主人のお伴とはいえ、初めての他国・いや、別大陸へ向かう旅
少年のみならず、誰もが心躍らせるだろう

日に日に近づいてくる到着予定日

数ヶ月と言う長い間を船内で過ごす人々にとって、行き先の話は最も会話に登る回数の高い話題だった
それは少年達も例外ではなく


「ご主人様、こんなものってあると思います?僕はきっとこういうものが…」
「いや、其れはどうかな?ネバーランドと似ていると聞くし、もしかしたらこうかもしれないよ?」


日々、どんなものがあるか、どんな人が居るか、どんな場所なのか

想像に花を咲かせて楽しんでいた


冬の海を船は進む
ロストグラウンドへと向かって

船内では幻灯屋が各地を渡り歩いて採取した御伽草子を上映したり、道化師の一段がパフォーマンスを披露したりと、とかく長い旅路を飽きさせない工夫がしてあった


その日々も今日で終わる


いよいよ大陸の入り口が見えてきた頃、天候は段々と荒れ模様を示してきていた
今までも荒れる事はあったが何とか凌いで来た
その安心感が人々を冷静にさせる

が、船内の揺れは段々と酷くなり立つことすら難しくなってくる
客室から出る事も叶わず、多くの乗客は恐怖に身体がこわばりつつも、無事に港へ到着する事を願っていた

が、願いに応える神は居なかった


船は激しく揺れ、ついには軋みに耐えれず壊れた箇所から船内に海水が浸入してくる
おかげで一時は安定するが、其れも束の間
船は転覆した

少しだけ出来た隙間の様な時間に部屋から出ていたものは海へとその身を躍らせ、少しでも生き延びようと泳ぎ始める
その中には少年と主人の姿も有った

少年達は港から来たであろう船が投げる浮き輪へと向かい泳ぐ
が、波が強く動く浮き輪に中々近づけない
と、ロープの巻きつけられた大きな丸太が彼らの方向へと進んでくる

やっとの事で少年と数人が丸太にしがみつくと、其れを確認した船員がロープを引っ張り船へと彼らを引き上げる
が、引き上げられた時には少年は既に身体は冷え切り、時間の問題の様に見えた
乗船して助けた人を見て周っていた医師も暫く彼を見た後で首を振る

と、その暫く後
シルクハットに口ひげの紳士が少年の傍に立ち、海水を無理やり吐かせると何か摩り下ろしたものを与える

それは、果物を摩り下ろしたモノに見え、それがどろりと少年の喉に流れ込み、少年はゴクンと喉を鳴らした


「ん、彼の言う通りならこれでこの子は助かるはずだな」


紳士の言葉に追従するように少年の蒼く冷え切っていた肌にみるみる赤みが差す


「カハッ…がふっはぁ、はぁ、は~…すぅぅ…すー」


呼吸も安定し、うわごとを言う少年を見下ろし、紳士は笑みの形の仮面を取り出すと自身の顔に当て、したりと言う顔をする
そこへ様子に気付いた医師が駆けつけてきた


「貴方、何をやっているんですか!って、え?ば…そんな馬鹿な」
「何も。私は恩人の願いをこなしているだけだよ。で、聞くがこの子は助かるのかね?」
「え?あ、…さっき見た時は助かるはずは無かっただが、此れならこの子は助かる。誰か…誰か毛布を持ってきてくれ。こっちの子も助かるぞ!」


様子を見届けると紳士はすっと姿を消す
そして少年は主人と共に助かり、生きて大陸の土を踏む事となった

助かってからの少年は何故か植物と話せるようになっていて、やがて成長した彼は主の死後、樹医となり世界を巡る

晩年、彼は何時も彼を見守り、彼に植物の言葉を教えてくれる緑髪の精霊の話を周囲に話すが、其れはまた別の御話


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