周りの冷たい視線を感じながらも自分で決めたことなので覚悟はできていた。
殆どの生徒はクラブ活動や帰宅して教室にはあまり生徒は残っていなかった。
すると小池が長濱に声を掛けた。
小池「長濱さんは女子寮に入るんだよね」
長濱「はい」
小池「じゃ~、一緒に帰ろ~」
長濱「いいんですか?」
小池「何が?」
長濱「私と一緒に歩いて・・・・・・」
小池「何言ってんの、同じクラスメイトじゃない」
小池は一人っ子で、両親の温かい愛情によって育てられており、幼いころから弱い人に寄り添ってあげなさいという教育を受けていた。その為、一時的に仲間外れになることはあったが、ぶれないからやがて親友と呼べるような友達が沢山できて、両親の教えには感謝していた。東京に出てきてからも毎日のように電話やメールをしており、何でも包み隠さず話すような家族だった。小池自身も人情味に溢れており、可愛い顔からは想像できないくらい、コテコテの関西人だった。
長濱「あ、りがとう・・・」
そう言って、2人は女子寮に向かって歩き出した。
小池「荷物は送ったの?」
長濱「えぇ、あまりないけど寮母さんに電話で聞いたら着いてるって・・・」
~女子寮~
同じ西日本出身だから仲良くしようねとか、学校の話や寮の話をしていると、いつの間にか寮に着いていた。早速、寮母さんに挨拶に行き、3階の部屋を案内して貰ったら偶然にも小池の隣の部屋だった。一通りの寮の規則等を聞いて、届いている荷物を整理して、小池の部屋をノックした。
小池「はーい」
長濱「これからよろしくお願いします」
小池「そんな堅苦しくしなくていいよ。こちらこそよろしくね。もう食事の時間だから一緒に食堂に行こうか?」
長濱「うん・・・」
長濱は食堂に米谷がいないか、気にしているようだったが、勇気を振り絞って一緒に降りていった。皆、クラブ活動をしている子が多いせいか、まだ誰もいなかった。長濱は少しほっとしながらカレーライスを頬張った。部屋に戻ったらどっと疲れが出て、そのままベッドで寝てしまった。昨日は風呂に入れなかったので、自室にあるユニットバスでシャワーを浴びた。朝食も一緒に食べる約束をしていたので、小池と一緒に1階にある食堂に降りた。寮生が何人かいたが、米谷はいなかった。食事を済ますと小池と石森の3人で学校に向かった。
石森「途中で転入したから大変だろうけど、頑張ってね。長濱さん」
長濱「ありがとう。よろしくお願いします」
石森は犬好きのようで、犬の話をし出したら止まらなくなった。そんな話をしていたらいつの間にか学校に着いた。長濱は隣の席の平手に挨拶をした。
~学校~
長濱「おはようございます。」
平手「あっ、長濱さん、おはよう。昨日はよく眠れた?」
長濱「もう、バタンキューで、風呂も入らずにベッドに倒れ込みました」
平手「アッハッハッハー」
流石はバスケ部のエース、豪快に男の子のように笑った。昼休みに佐藤が近づいてきて、美術に興味がないか訊ねてきたので、美術館巡りが趣味だと言ったら一緒に食堂に行こうと言った。小池と3人で食堂に行き、美術館の話や昭和歌謡の話をして盛り上がった。どうも佐藤は美術部の部長をしているようだ。
~放課後~
にやにやしながら、尾関が話しかけてきた。
尾関「長濱さん、書道に興味ない?」
長濱「小中ではやっていたけど、高校に入ってやめました」
尾関「何でやめたの?」
長濱「やっぱり、大学進学を考えると・・・・」
尾関「長濱さんは進学校だったらしいから、仕方ないよね」
長濱「そんなことはないけど・・・・、今は語学や音楽に興味があるの」
尾関「じゃー、諦めた。実は私は書道部の部長をしていて、有望な新人を探していたの。長濱さんの字が綺麗だという話を聞いて、もしかしたらと思ってたんだけどね」
長濱「ごめんなさい。書道もやりたいんですが、やりたいことが一杯あり過ぎて・・・・」
尾関「いーよ、いーよ。それより、また落ち着いたら東京案内してあげるよ」
長濱「あ、ありがとうございます!ぜ、ぜひ、お願いします」
尾関はそう言って教室を出ていったが、長濱は少しほっとしていた。最初は戸惑ったが、何とかなりそうだと安堵した瞬間だった。そうこうしていたらバスケットボール部の平手が教室に戻ってきた。
平手「あ!長濱さん」
長濱「あれ!バスケの部活じゃないんですか?」
平手「顧問の澤部先生が体調が悪いから今日は休みだって・・・・」
長濱「そうなんですか、先生大丈夫かな?」
平手「大丈夫、大丈夫。いつものことだから。澤部先生は家族思いだから結構なんだかんだ理由つけて休むんだから。でもうちらも遊びに行けるから大歓迎よ」
長濱「えー!」
平手「長濱さんは何かスポーツの部活やっていたの?」
長濱「中学時代はバトミントン部に入っていました」
平手「私は愛知にいた時、県大会ベスト8まで行ったのが最高だけど、長濱さんは?」
長濱「・・・・・、一応ベスト4・・・・」
長濱は少し恥ずかしそうにぼそっと答えた。
平手「え!すごーい!」
長濱は手を横に振りながら恥ずかしそうに小声で答えた。
長濱「でも田舎だから・・・・」
平手「それでもすごーい。ねぇ、これから遊びに行かない?」
長濱「はい」
平手「きっまりー、で、お互いの呼び名を決めようよ」
長濱「え、ん・・・・」
平手「私はみんなからてっちゃんと呼ばれてるよ」
長濱「じゃー、私もてっちゃんで・・・。私は長崎ではおきるの反対でねるちゃんて呼ばれてたの」
平手「ハッハー、なにそれー、変なの~」
と言いながらてっちゃんは大笑いした。
平手「でも何でおきるなの?」
長濱「お母さんから聞いたのは、朝早く起きられるようにという意味もあるんだけど、自分で何かを興すという意味もあるみたい。七転び八起きの達磨さん!」
平手「えー、かっこいいじゃん!」
平手「ねるちゃんも可愛いけど・・・・、じゃー、ながるはどう?」
長濱「あ、そっかー。名前の前と後ろをくっつけたんだ。ざんしーん!」
平手「ながるー」
長濱「てっちゃーん」
お互いに少し顔を赤らめ、笑いをこらえながらそのまま2人は原宿に繰り出し、プリクラを撮ったり、スマホでツーショットを撮ったりした。そしてウィンドーショッピングして、ソフトクリームを食べながら女子寮に帰った。最初はどうなることかと暗い気持ちだったが、仲良くしてくれる子もいて安心した。父親からはいつものように1日2回メールが来ているが、無視していた。代わりに母親に何とか頑張れそうだから安心してと電話をしたら、喜んでくれた。これでお父さんやお姉さん、お兄さんにも伝えてくれるだろう。それから1週間が過ぎたが、徐々に仲良しも増えて何とかやっていける自信もついてきた。
・・・・・・・・・・・つづく
本日の動画:再生回数80万回を突破した長濱ねるのソロ曲また会ってくださいです。