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今日は早めに仕事が終わったので、無料チケットで映画館へ。「クラッシュ」を観たかったが、始まるまで時間がありすぎる。そこで「県庁の星」へ。でも映画館で観るほどのもの?タダ券だからいいか、といった程度のチョイスだったのだが、思いのほか楽しめた。

これは恋愛や人間を描いたドラマというより、職場ドラマとして観た方がおもしろい。県庁とスーパーの職場の描き方がどちらもおもしろく、その対比が嫌味じゃないレベルで丁寧に描かれていた。


『県庁の星』  西谷 弘監督・脚本 織田裕二/柴咲コウ主演


織田裕二演じる野村聡は、県庁のエリート職員で出世欲も人一倍ある。そんな野村はある日県の鳴り物入りの官民人事交流のメンバーとして、地元でチェーン展開するスーパー「満天堂」に半年間研修に行くことになる。ところが満天堂は三流スーパー。その上、野村が配属された店はそのなかでもリストラで撤退対象になるほどの店だった。そこで両親を亡くし、高校を中退して以来、スーパーのパートとして働いている二宮あき(柴咲コウ)と出会う。しかも年下で学歴もない、しかも社員でもない彼女が野村の教育係となる。

当然官民の組織文化の違いもあり、最初はまったく使えない野村。それでもとにかく事故なく半年間やり過ごすことだけを考えるのだが、戻るべき職場でのポジションが怪しくなり、婚約者にもふられる。

こうして書くと、なんて単純な話と思う。確かにマンガっぽさ(原作はマンガだし)もある。でも積み重ねられ、連続性を持っていくエピソードと着想と、その展開を描く演出が丁寧で見ごたえがある。主人公の野村の成長や心の動き、ふりかかる出来事や直面する問題も、必ずしも奇をてらったものであったり、大げさなものであったりするわけではない。むしろ公務員や大手企業のサラリーマンなら、陥りがちなことである。ラストの展開の妙に小さなまとまり方がむしろ皮肉な笑いすら誘う。決して働く人のファンタジーとしては終わっていない感じがいい。

ただ、惜しかったのは、人間としての野村聡の背景がわからなかったこと。単に成績抜群で県庁のエリートという現象面だけで、家族がまったく出てこないし、説明もなかったと思う。あきは弟と2人で暮らす慎ましやかな生活が描かれていたのに、野村はひとり暮らしらしいということしかわからない。中央官庁ではなく、県庁ということは、その土地で生まれ育っていたり、何らかの縁を持っている場合が多いと思うのだが…。少なくともコネは持たず、実力で出世してきたみたいだが。そうした描写が希薄だったので、公務員の悲哀は伝わったが、野村の悲哀が伝わりにくかった。そこがちょっと残念。

観る価値は十分ある映画だったと思うが、全体のスケール感からはDVDで観ても良い感じだった。

桂 望実
県庁の星
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アミューズソフトエンタテインメント
いつか読書する日

もし私が東京に出ずに、生まれ育った街でそのまま今の年齢までいたとしたら、人生はどんな風に変わっていただろう。誰かと結婚をして、子どもの1人や2人育てていただろうか。それとも今と同じように独身で働いていただろうか。

この映画の主人公の年齢(50歳)はまだ先だが、私も中年といわれてもおかしくない年齢にそろそろ突入しようとしている。そういう人には心に刺さるものがあるかもしれない。

主人公より少し華やか暮らしぶりかもしれないけれど、でもそれが何だというのか。10年後、20年後、この主人公のように落ち着いて生きることができるのだろうか。恋はできるのだろうか。そんなことをふと考えてしまった。


『いつか読書する日』  緒方 明監督 田中裕子/岸部一徳主演


大場美奈子(田中裕子)は、50歳独身。朝は牛乳配達、昼はスーパーマーケットに勤める。両親は既にない。身内らしきは、近所に住む痴呆症の英文学者とその妻(渡辺美佐子)、皆川夫婦。友だちらしきは、特に見当たらず。あえて言えば仕事の合間に雑談をするレベルのパート仲間くらい。

それでも恋をしている。高校時代の恋人、市役所に勤める槐多(岸部一徳)。今彼は不治の病を抱える妻の介護をしている。だから思いは伝えられない。そもそも30年以上も愛し続けているのだから、軽々しく打ち明けられる想いではないのだろう。ちょっとスケベなスーパーの店長に「もしかして処女?」と聞かれても、侮蔑した目で見つめるだけで、黙殺する美奈子。きっと設定では処女なのだ。

多分、美奈子は墓場までこの想いを隠し続けるつもりだったに違いないが、死を間近にした槐多の妻が自分の死後2人が共に暮らすことを望む。

そんな物語が痴呆問題や育児放棄など、現代の家族が持つ問題にも触れながら、地方の小さな街を舞台に淡々と流れていく。そして思いもかけずドラマティックな悲劇で幕を閉じる。

最後の急展開には賛否両論あるだろうが、あの結末があったから、この物語は締まったとも言える。ハッピーエンドではあまりに浅いし、結ばれないまま生き別れも切なすぎる。一度だけ結ばれ、永遠に別れることで美奈子は救われるということだろう。

何よりも美奈子演じる田中裕子の演技がいい。下手すれば退屈な話、感情移入の難しい話を出しゃばりすぎず、抑えすぎず、真摯に演じている。無理がない、自然体の演技を久しぶりに見た感じだ。

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角川エンタテインメント
ターミナル DTSスペシャル・エディション

最近、観たい映画がない。あってもミニシアター系が中心で時間が合わない。従ってレンタルビデオ店に足繁く通う。今回はハリウッドを…ということで「ターミナル」を観た。

正直もうアメリカの映画はいいかなと、ちょっと思ってしまった作品。悪い映画とは思わないけど、重みに欠ける。かといって、本当に楽しめるエンターテインメントかというとそうでもなく…。もちろんこの映画でハリウッドを語るのは早計と思う。アメリカらしいイイ映画はいっぱいあるだろう。でもどうしてもアメリカの持ち味って、大予算の特撮SFって感じで、日本のプロ野球でいうジャイアンツみたいなもの。やっぱりそこに味わいはあまりなかったりする。


『ターミナル』  スティーブン・スピルバーグ監督 トム・ハンクス主演


ビクター・ナボルスキー(トム・ハンクス)は、ある約束をもって初めてNYのJFK国際空港に降り立つ。ところがビクターのクラコウジアという小さな国は、彼が飛行機に乗っている間にクーデーターが起こり、法律上消滅してしまう。 彼はパスポートが無効になり、入国することも帰国することもできなくなり、あえなく空港に住むことになる。この空港での出来事がこの映画では描かれる。

彼は生きるために英語を覚え、働く人たちと交流し、果てにはひょんなことから仕事を得る。恋愛もする。空港にはさまざまな人が働く。入国管理官の女性に恋をするフード・サービス係や、母国で犯罪を犯して逃げてきたインド人の清掃係、不倫に悩むフライトアテンダント、そして出世しか頭にない空港警備局員…。空港も大きなアメリカ社会の一部であり、縮図であると言いたいのだろう。

当初はビクターの存在を空港職員たちは訝しげに見ているのだが、ある日、父親の薬を買って持ち出そうとして捕まりパニックに陥ったロシア人を助けたことで評価は一変、彼はヒーローになる。(←このあたりがアメリカの発想。)そしてやがて母国の戦争が終わり、空港を出ることになるのだが…。

だいたいこんなストーリー。ストーリーとしてはよくできているのが、全体にエピソードが小ぶりで、その上舞台が空港という狭いところに終始しているものだから、スケール感は感じない。国をある日失ったビクターの悲しみや戸惑い、母国への思慕にも、彼自身が淡々としすぎて感情移入できない。これを描いているアメリカ人そのものが母国を失うという意味を知っているのだろうかと思う。その上、そもそも彼がNYを訪れなければならなかった「約束」にいまひとつ深みがなく、その約束を果たさせるために空港職員たちが起こした暴挙にも説得力がない(特にインドへの強制送還を覚悟で起こした清掃係の行動)。

これがアメリカというもの、と言われてしまえばそれまでだが、感動には程遠い感じだ。家でDVDで観るにはちょうどいい軽さと長さだけれど、映画館には行かなくて良かったかもしれない。DVDもレンタルで十分と思う。

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ポニーキャニオン
白い巨塔 DVD-BOX 第二部

何だか観終わった後も脳裏に残る作品って久しぶりだった。ぜひ田宮版も観てみたいが、これの倍くらい長いと思うとちょっと踏み切れない。とりあえずは唐沢版で満足しておこうと思う。

唐沢の財前五郎には、賛否両論あるようだ。特に田宮版を知っている年配の人は「子ども」「マンガみたい」と言う人が多く…。でも私は結局最後まで財前(唐沢)のための白い巨塔だったように思う。これは多分彼がうまかったということだろう。おりしも今「小早川伸木の恋 」で医師の役をやっている。試しに先週観てみたが、まったく違う存在感を出している。江口洋介は正直里見先生と進藤先生(救命病棟24時 )とダブって見えた。もちろん役のキャラに近いモノがあったから…というのもあると思うが。

でも二部は本来里見がもっとクローズアップされても良い展開なのに、最後までただの理想を求めるイイ人で、魅力が伝わってこなかった。むしろ進藤の役の方が彼にははまり役だった。まあ、主役と脇の違いもあるけど。


『白い巨塔 第二部 第11話~21話』  フジテレビ2003年~2004年 唐沢寿明/江口洋介主演


二部は一部で教授に上り詰めた財前がある医療裁判の被告となり、裁判のために奔走する。最後に自ら肺ガンになり亡くなるわけだが、正直一部に比べて、最後の2話、つまり二審の裁判に負け、肺ガンが発覚する以後を除いては、一部に比べて財前の見せ場は少ない。

むしろ周囲の人々、里見や東の娘、弁護士などが主体で、一部で教授に上り詰め、医療の本質を忘れかけている(私は考え方の違いと思うが)財前をある種懲らしめる、単純にいえば従来型の勧善懲悪の展開であったはずだ。ところが周囲のキャストが生きてこないので、どこまでいっても財前教授が悪者になれない。従って、一部を評価する人の声が高いのも頷ける。私も一部の方がおもしろいと思う。

でもそれをどうにか巻き返したのが、終盤2話だろう。

本当は死ぬという展開はドラマ(今回は小説が原作にあるが)としては反則のやり口だと思う。もともと病弱だとか、最初から死が結論としてあるドキュメンタリーに近いものは別だが、そうでなければ物語をキレイにまとめるための死という感じがするからだ。しかも若い人を簡単に殺すのは残酷だ。

でもこのドラマで言えば、台詞の秀逸性や演出のうまさ、また病気がわかるまでの展開がいまいちだったこともあって、図らずも感動して涙が出そうになった。ドラマそのものへの感動もあったが、志を持って死に向かう人の無念さ、孤高の日々に思いを馳せた。特に私自身の周囲にも若くして現役で亡くなった人が何人かいるので、その人たちとダブった部分もある。

誰もが感動するシーン、里見と対面して初めて人前で涙するシーンと台詞も良かったが、最後の手紙の一文、自らのガンに気づけなかったことに第一線の医師として「心より恥じる」という締めの一言は、彼のプライドと死に向かう悲しみを最大限表現していたと思う。良い原作にうまい脚本家と演出が融合した良いドラマだったと思うが、しつこいようだが、里見役はむしろ普段脇を固めている人の方がよかったかもしれない。江口洋介って、主役しかできない人なのかな、とこれを観て思った。

ポニーキャニオン
白い巨塔 DVD-BOX 第一部

やっと観たというか、今さら観たというか、ずっと気になっていたが、放映中は一度も観ず、2クール分をレンタルで借りてみるのも大変と、軽く無視していたが…。観てみると長さなど気にならない、というより長くない。まるでジェットコースタームービーのように展開が早い。昭和版の約半分に脚色したらしく、それも当然。比較して、いろいろ言われているが、私は昭和版を観ていないので比較のしようがない。

平成版でも十分私には近年のドラマの中では、震えるくらい良かった。ただ、残念だったのは、里見の描き方。江口洋介そのものは嫌いじゃないが、この役は何だか彼を下手な役者に見せる。描き方が平板なのだと思う。短く要約したなかで主役である財前(唐沢寿明)に集中せざるを得なかったのかもしれないが、このドラマは里見の存在感なくては成り立たないのではないかと思う。そこが惜しい。

半面、唐沢寿明の財前は良かった。最終回に自殺した田宮の財前と比べられては気の毒だけど、現代版としての存在感では秀逸だった。石坂浩二の東教授も良かったが、少なくとも食われてはなかったと思う。


『白い巨塔 第一部 第1話~10話』  フジテレビ2003年~2004年 唐沢寿明/江口洋介主演


言わずと知られた大学病院を舞台にした医療ドラマ。第一部は、教授戦を巡る財前助教授と前任者の東教授の確執から生まれた激しい対立を主軸に展開される。

財前五郎は岡山の母子家庭に育つが、奨学金で国立大学の医学部を出て、国内で有名な外科の名医となる。上昇志向が強く、若くして次期教授を狙っている。派手なパフォーマンスで注目される財前の野心が気に入らない東が指導教授でありながら、次期教授の座を学外から連れてこようとするところから、ドラマは盛り上がってくる。財前の舅・又一は品がないが、金は持っている産婦人科医(西田敏行)。又一は自ら実弾と呼ぶ札束にモノを言わせて、さまざまな権力者に取り入り、財前もそれに従って行動する。

しかし財前の同期である内科医で助教授の里見と、病理学教授の大河内だけは、こうした権力闘争には無縁で、むしろ医療の理想を守るがゆえに、それぞれの作法で、結果的に財前の行く手を阻む存在になる。

前編は、権力闘争や買収だけでなく、そこに伴う心理戦も見もの。ハラハラドキドキなどというと、軽々しすぎるが、後日紹介する第二部に比べると、テーマの重さよりも、権力闘争のドラマティックさの方が際立つ。第一部の方がドラマとしては評価が高いのにも納得できる。

脇目も振らず、方法を選ばず、権力の座に突き進む財前は、本来、勧善懲悪型の見方をすれば、決して愛すべき人間ではなく、かっこよくもない。でも白い巨塔で描かれる財前には多くの人が好意的に感情移入できるのではないかと思う。それは多分原作が生まれた時代より、現在だからこそ。なぜなのだろうか?

ドラマとしての彼の描き方の上手さもある。強さだけではなく弱さや、自信だけでなくその裏側に隠れたおそれの感情を表現しているから…。でもそれだけでなく、現在、多くの人が身を置いている世間、多くの人が送っている仕事人としての人生が甘く、平凡に見えてしまうからというのもあるのではないか。ここまで真摯に野心的に何かに突き進んでいる人が少なく思えるからだ。本来権力の巣窟であるはずの政治家ですら、表面的に見せられる権力闘争、例えばこの前の総選挙の小泉チルドレン騒ぎなどは、軽々しくて見ていられない。あんな稚拙なことに、もともと権力とは何かを知っているはずの重鎮たちが振り回されている図式を見せられてもドラマティックではなく、情けなくなる。選挙に落ちても大学教授や料理研究家に戻れる人より、野心剥き出しで生きるか死ぬかと、世の中の裏側を奔走している、退路なき人の姿の方が魅力的に思えてならない。少なくともドラマティックだ。

まあ、もちろん片や現実、片や本当にドラマなのだから、それは仕方がないけれど、軽薄な現代だからこそ、こうしたドラマが視聴率をとったのがわかる気がする。

ライブ評-6【エキスポ】

テーマ:

expo

大好きな舞台人の1人である加藤健一さんの舞台を久しぶりに観に行った。従って本多劇場も、下北沢も久しぶり。加藤さん、一時はテレビにもよく出ていたが、ストイックにそれほど大きくない劇場で、小粒だが上質の芝居を続けている尊敬している役者の1人。小粒というのはちょっと違うかも。大上段に正義や文化を振りかざすのではなく、ドタバタではなく、ちょっと知的に楽しく笑えるコメディを中心に地道に上演している。普段は外国のものが多いが、今回は珍しく日本、しかも昭和45年が舞台。行くまでは違和感があったけれど、本当に楽しくあっという間の2時間だった。


『エキスポ』 (加藤健一事務所)  久世龍之介演出/加藤健一主演 於:本多劇場


大阪万博開催期間中の宮崎の田舎、港町。食堂と連れ込み宿を経営する働き者の母親が急死するところから始まる。正確にいえば、通夜と葬儀の2日間の一家の居間で繰り広げられる出来事である。さしづめ舞台版「お葬式」だが、伊丹十三のそれとは全然違うのだが、葬儀という大真面目な儀式の何とも言えないおかしみがよく出ているところは似ていなくない。しかも一昔前の田舎の葬式だから、ちょっと変わった風習があったり、葬儀屋が娘の小学校の同級生だったり…と濃密な人間関係の土地ならではの、おかしくもホロリとするエピソードも散りばめられている。

何しろこの家族のおかしさは、男性陣がみんな頼りなく、女性がやたらとしっかりしていること。まあ、それは今も昔も、田舎も都会も変わらないかもしれないけれど…。しかも死んだ母親が経営していたのが、連れ込み宿だったことからわけのわからない客は来るは、娘が別れた元夫が東京からやってくるは、で葬儀は大騒ぎ。挙句に加藤健一扮する長男の元浮気相手の夫までが押しかけてくるという、コメディとしては定番の設定なのだけど、ありきたりな感じがしないのは、構成と演出がしっかりしているからか、役者が全員うまいからか?台詞も無理やり笑わせようとするナンセンスなものは少なく、多分下手な役者がやっても笑わないだろうなと思うような自然なものばかりで、それが却って良かった。だからただ笑うだけではなく、途中うっかり涙が出そうになるシーンもあった。

とにかく舞台だけは、劇場で観て臨場感に触れないと感じることはできない。また、加藤健一事務所の公演には欠かさず行きたいなと思わせる、力のある作品だった。

東映
フライ,ダディ,フライ

久々にレンタルビデオ店に。集中して見られないことも多い家での鑑賞は邦画の方が気楽でイイ、ということでこれを借りてみた。ストーリーのさわりを聞くと、何だかつまらなそうなのに、これを劇場で観た人のほとんどは良かったというもので、気にはなっていた。堤さんも嫌いじゃないし…。

観てから知ったのだが、原作・脚本が「GO」の金城一紀さんだということ。なるほど。単純なストーリーがおもしろく感じ、さらに重みもあるというのがこの人の持ち味かも。


『フライ,ダディ,フライ』  成島 出監督 岡田准一/堤 真一主演


ストーリーは予備知識どおり単純。政治家の親の権力をかさにきて、やりたい放題の高校生「石原」に、鈴木一(堤真一)の娘が暴行を受ける。石原という苗字もふざけているが、名門高校に在籍するボクシングのチャンピオンがカラオケボックスで女子高生にいきなり拳で殴りかかるというのも、まあリアリティはない。でもまあ、このリアリティのなさがこの映画に漂うファンタジックな空気感を引っ張るわけで…。

とにかく力で決着をつけようとする父・鈴木が、石原がいる(はず)の高校に包丁を持って怒鳴り込むが、そこは石原が在籍する高校ではなく、朴(岡田准一)らが在籍する落ちこぼれ校。ここで朴に知り合い、彼らの夏休みの間に朴を師匠にして、体を鍛える特訓が始まる。決闘の日は、始業式の9月1日…。

まあ、とにかく一人のダメオヤジ(といっても、玩具メーカーでそこそこ出世して、幸せな家庭を築いている、大人の世界では勝ち組といってもいい境遇だけど)を、在日韓国人の陰のある朴が鍛えるプロセスを描き、そのなかで二人が互いを理解し合い、さらにオヤジが成長し、強くなっていくというストーリー。

「GO」ほどの文学性もなく、意外性もない話なのだけど、流れているファンタジックな空気感がとにかくいい。悪く言えばそれだけで持っている作品といってもいいかも。ただ、オヤジのファンタジーにしては、堤真一がかっこよすぎる。まあ、情けなく描いてはいるのだけど、普通のその辺のオヤジが共感できるかどうかはまた別の話で。そういう意味でこの映画、ターゲットが誰かはっきりしない。