蜂谷 弥三郎
クラウディア 最後の手紙

正直最初は、なんて荒っぽい演出をする芝居なのだろうと思った。何しろ、状況説明の台詞というより語りが多すぎる、赤ちゃんも動物も大人の男がむりやりやる。主役の蜂谷弥三郎役の佐々木蔵之介は、普段ドラマで見るままのサラサラヘアで、汚れた衣装や化粧をするわけでもなく…。

でもラストに近づくにつれて、涙が止まらない。そして過剰な演出をしなかったことが、事実の重みをより印象付けたのではないかと、最初に疑問視した演出のありようが、少しは理解できたような気がした。中途半端に汚れた格好をさせることが何も語らないということではないかと。でもちょっと佐々木蔵之介の演技は飄々としすぎていたかな?でも難しすぎる役なので、可哀想かも。いちばん素晴らしかったのは、斉藤由貴。ロシア人役という難しい役どころをあまり違和感なくやっていた。舞台慣れしている感じで、下手をすればドキュメンタリーライブになりかねない今回の演出を、芝居として引っ張っていた。


『クラウディアからの手紙』  鐘下辰男演出 佐々木蔵之介/斉藤由貴/高橋惠子 出演


この物語は実話に基づいている。太平洋戦争中、朝鮮にいた民間人蜂谷弥三郎が無実のスパイ罪でシベリアの強制収容所に送られる。いつ命を落としても仕方のないぎりぎりの暮らしの中、残してきた妻と娘を思い、理髪技術を身につけたことで生き延びる。ところが刑期を終えても帰国を許されることなく、スパイ容疑は残る。

失意の生活で、唯一の命の支えは、似た境遇のロシア人女性「クラウディア(斉藤由貴)」。日本人であるアイデンティティにこだわってきた蜂谷は、クラウディアとともに生きるためにロシア国籍を取得。監視がつく生活はそれほど変わらなかったが、クラウディアと結婚し、ようやく少しは人間らしい生活を取り戻す。

時は過ぎ、ソ連は崩壊。帰国のチャンスがめぐってくる。でもその時には既に50年近い年月が経ち、日本語の記憶すらおぼつかない。そして何よりも30数年間自分を支えてくれたクラウディアを捨てることはできないと、蜂谷はロシアに骨を埋める決心をする。ところが蜂谷の望郷の思いを身近で見てきたクラウディアはそれを許さず、蜂谷の帰国に向けて尽力をする。

「私は他人の不幸の上に自分の幸せを築くことはできない」

この信念を貫き、クラウディアは蜂谷との永遠に別れる決心をする。日本にはひたすら蜂谷の帰りを待ち続ける妻久子が健在だったのだ。

ラスト近くで実在のご夫婦やクラウディアが映像で流れる。ご夫婦は既に80歳を超えているはずだが、過酷な運命の中、生き抜いてきたとは思えないほど、いやだからこそか、若々しく美しい。人間の生命力のそこはかとない強さに素直に感動する。クラウディアは最後に蜂谷に「長生きしてください」という言葉を残すが、本当に長生きして穏やかな余生を過ごしてほしいと心から思う。

この出来事は戦争の果てに起きた偶発的な不幸の継承で、既に過去のこと、では決してない。例えば今なお、北朝鮮に拉致され続けている人や、日本人妻たちも、同じような過酷な運命のなか、生き続けている。

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grand

今年はじめての観劇はコレ。あまり前知識はなかったのだが、深夜番組で紹介をしていたのをたまたま観た。その時知ったが、フジテレビとライブドアの共同プロデュース(?)という記念すべき舞台らしい。最近、商業化された舞台のテレビ局プロデュース作品が増えている。媒体の融合だけでなく、エンターテインメント(コンテンツ)も…ということか。

それはそうとして、幕間のない2時間弱のステージだった。私は幕間があまり好きではない。高揚感が分断するし、中途半端に長いので手持ち無沙汰だったりする。そういう意味では、映画のような感じで、これは悪くない。オーケストラピットがいちばん上にあるのも珍しく、ステージの造作はオシャレ。役者も良くて、あのいつも感じるいかにも日本人が外国人の名前で呼び合う違和感も少ない。特に前田美波里さんは貫禄!さすがの存在感だった。


『グランドホテル』  Glen Walford 演出 前田美波里/小堺一機/紫吹 淳 出演


1920年代のベルリン、グランドホテル。 ここは当時の超高級ホテル、ところがそこに集う人たちは、落ちぶれ借金取りに追われ、泥棒になった男爵だったり、老いにおびえるバレリーナであったり、下心丸見えの実業家であったり、一癖も二癖もある人たち。そこに小堺一機扮する不治の病の会計士が訪れるところから、それぞれの人びとの人生の断片が見え始める。簡単に言うとそういう内容。

1つの舞台にさまざまな人が行き交い、その人びとの人生が描かれる形式をその後グランドホテル形式というようになったくらい、できたころには新しい特徴的な試みだったらしい。

一人ひとりの深い人生を徹底的に描く1人芝居あるいは少人数の芝居と違い、重み・深みにはやや乏しいが、スタイリッシュな世界観は十分に楽しめる。ダンス、歌ともに、優れた役者が多いので、観ていてつらくない。ただ、感動が記憶に残るかというと、正直いま一歩というところ。一夜限りのエンターテインメントとして、恋人や夫婦で観に行くのがいいかもしれない。

ブロードウェイでは評価が高い作品らしいが、日本では宝塚に続いて今回が2度目ということ。ドラマ性への共感という点では、日本の万人向けというわけではないのかもしれない。

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