yorokobi

この映画、今のところ全国で2館だけの上映だ。東京では1館。だから常に満席なので、これから行くのなら早めに行ってチケットをもらって、渋谷でしばらく遊んでいるのが安心。でもいい映画なので、多少苦労しても観て損はないと思う。でも音楽があふれる爽やかですがすがしい映画を想像してみると、ちょっと違う。主人公はよく血を流し(病気が原因だけではなく)、銃は登場し、暴力もあり、イジメや妬みや争いの影もある。雪深いスウェーデン北部の田舎町は、美しいだけでなく陰鬱で厳しい。だからこそ、音楽が心と人生を救うということに、人は感動するのだと思う。おそらく例えば『ALWAYS 三丁目の夕日』 のように誰もが感動できる映画ではない。描かれているのはノスタルジーでも、日本人が北欧あるいは自然豊かな田舎町に思い描く理想でもなく、広い世界に羽ばたけない、あるいは知ることもない、人びとの悲しみなのだから。


『歓びを歌にのせて』  ケイ・ポラック監督 ミカエル・ニュクピスト主演


世界的に有名な天才指揮者ダニエルは、心身の健康を害し、すべてを捨て幼少の頃に過ごした(でも決して良い思い出のない)ユースオーケルというスウェーデン北部の田舎町に戻る。幼少時代とは名前も変えているため、町の人も、同級生すら、誰も彼に気づかず、むしろ天才指揮者ダニエルが突然訪れたことに驚きと戸惑いを隠せない。この町には週1度だけ練習している小さな教会の聖歌隊があった。自転車屋(というより何でも屋)の男などに熱心に誘われ、その聖歌隊の指導者になるダニエル。

当初はプロとの違いに戸惑い、軋轢もあるが、次第に互いが許しあい、ひかれあい、聖歌隊に溶け込んでいく。また、聖歌隊のメンバーは町の有志だが、それぞれに心や家庭に問題があり、メンバー同士の軋轢もある。子どもを抱えドメスティック・バイオレンスに苦しむ主婦カブリエラ、両親を亡くし一人で暮らし男に騙され、町の人にも蔑まれるレナ、小学校時代からデブといじめられコンプレックスを抱える男、知的障害者etc.聖歌隊への考え方や思いも人それぞれ違う。

田舎町の閉塞感は、世界共通、あるいは気候の厳しい北欧の方が深いかもしれない。音楽はその閉塞感をほんの少しこじ開け、解放する。そのことの価値が誠実に描かれていた作品で、単なる音楽映画ではない。だから音楽そのもので感動させられる時間は短い(フルコーラスやそれに近い尺で歌われることは少ない)。この映画の世界の持つ重苦しさに、人がつくる世界のはかなさを感じる。

概ね良かったが、クライマックスでこの映画のポイントであるはずのラストがいまいち納得できなかった。急にファンタジーが入り、それでいてあっけなくて残念。別にダニエルに舞台で倒れろなどと、ベタな展開は望んでいないが…。何だか終わらない物語の終結を無理に求めた感じがしてならなかった。

サントラ, ヘレン・ヒョホルム, レイラ・イルバー・ノルゲン
「歓びを歌にのせて」オリジナル・サウンド・トラック
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big

あまり話題になっているような感じではなかったが、なんとなくおもしろそうだなと気になっていたので、レディスデーにレイトショーに行ってきた。う~ん、ビミョーだったな、正直なところ。アイデアはよくできているのだが、ストーリーとして練り上げ、さらに映像にした段階で、徐々にわかりにくくなっているような…。話の軸は非常に単純なのだが、結局犯罪者たちが犯罪者としての特徴、特質で描かれていて、実はこういう背景があるとか、こういうことに心を動かされて揺らぐとか、普通の人の一面がわかりにくい。唯一、主人公の兄への想いはちょっとだけ出てきたけど…。なんか積み木のように積み上げたストーリーを追っている感じで、妙に疲れてしまった。


『ビッグ・スウィンドル!』  チェ・ドンフン監督 パク・シャニン/ヨム・ジョンア主演


単純に言うと、詐欺集団が銀行を舞台に、まさにタイトルどおり大掛かりな詐欺を働くというもの。実際に起こった未解決事件をヒントに作られたフィクションらしい。主人公は出所したばかりのチャンヒョク。彼と伝説の詐欺師と呼ばれるキム先生の壮大な横領計画に、ひと癖もふた癖もある詐欺師が集まり、実行に移すあたりで映画は始まる。実行犯のうち、2人を除いて死亡したとされるが、実際は…。

死亡した(とされる)チャンヒョクには、チャンホというマジメで人気小説を出している兄がいる。チャンホにチャンヒョクの保険金が入るということで、インギョンというキム先生の愛人がチャンホに近づく。このあたりから物語が展開していくわけだ。

そもそも逆ならともかく出所したばかりの犯罪者が、まっとうな兄を受取人にした保険に入っていることが日本人の感覚では滑稽な感じで、こんな些細なところでつまづいてしまった。エピソードとしては些細かもしれないが、それをきっかけに物語が動くのだから、やっぱりもう少し考えてほしかった(←韓国映画に求めてはいけない?)。あとはまあ、だいたい先が読める感じで、驚きは少ない。逆にラストは唐突感が否めず。

ただ、全体の空気感というか、センスは悪くない。息抜きに何も考えず観るには、良いかもしれない。

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