週刊!? 十条ブログ

十条在住ライターと、十条ぞっこんライター&編集者による“十条の深掘りブログ”
※転載・引用をご希望の方は、何卒ご一報ください。


テーマ:
十条の街にネオンの灯りがともる頃、とある路地の奥で小さなバーがオープンする。
“十条のゴールデン街”と呼ばれる一角でひっそりと営まれるKitchen&Bar「ひ」だ。

扉をあけると、心にすっとしみわたるような涼やかな声の“ひぃママ”が迎えてくれる。彼女はもともとOLをしており、リーマンショックの影響をうけ失業。一年半以上、無職の生活をつづけたのち、全くの素人ながらBarをオープン。不況のあらなみを乗りこえ、十条に根づかせた。

その豊富な人生経験から繰り出されるあたたかい言葉は、毎夜つどう酒飲みたちの心をじんわり癒す。そんなひぃママの人生物語を拝聴すべく、今宵我々十研メンバーは、扉をあける――。


(※Kitchen&Bar「ひ」のママにこれまでの豊富な人生経験をお聞きしました。)

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ショウジ(この後「ショ」):「さっそくですが、前職は何をされていたんでしょう?」

ひぃママ(この後、「ひ」):「経営コンサルタントの事務所で働いてたんですよ。ネット関連のマーケティングなんかもしていたんです」

ショ:「飲食店とは全く関係ないお仕事だったわけですね」

ひ:「そうなんです。でそのあとのリーマンショックの影響をうけて無職になってしまったんだけど、それまでずっと忙しかったのもあったので、一年ほどゆっくり英気を養うことにしたんです。普段会えない遠方の友達に連絡をとったり、旅行に行ったり、周囲からは大丈夫なの? と心配されても、何とかなるでしょ、と気にしていませんでした。何より、景気の底で動くことよりも、もう少し上向きになる日を待つ方が有意義だと思ったんです。でも、結局、時間だけが過ぎていき、景気はよくなる気配はなくて…。それで、景気の悪い日本がダメなら、しばらく海外で働くのはどうかと考え、海外派遣の仕事を探して応募したんですが、あえなく撃沈。本腰入れて就職活動をするしかなくなったわけです」

ショ:「実際に仕事を探しはじめて、どうでした?」

ひ:「これがものすごく厳しくて。転職経験のないわたしはネットと相談しながら、毎日、履歴書を書いて、毎日のように履歴書が送り返されてくる日々に愕然としてました。目立った資格も持っていなかったし、それまでの経歴だけで入れてくれる会社もなかったからです。そして、一から学ぶには遅すぎる年齢がわたしを苦しめたことは間違いありません。どこにもいけず宙ぶらりんのような状態になって、生活も苦しくなってきたから、アルバイトをひとまずはじめようと思ったんだけど、たった週3日ほどのアルバイトですら雇ってもらえなくて。どうやって生活していけばいいのか…、目の前が真っ暗になったのをおぼえてます」

ショ:「うーん、想像するだけでも、気分が落ちこんできました」

ひ:「求人の確認はネットでもできる作業だったんだけど、気分転換も兼ねてハローワークに足を運んでいたんですね。それである日、ハローワークで基金訓練コースというものがあるのを知ったんです。失業保険に加入していなくても、失業保険が切れていても手当てをもらいながら、職業訓練が受けられる仕組みになっていたので、これはいいぞと」

ショ:「職業訓練に通われる間、ブログ でお弁当の写真を毎日アップされてましたよね?」

ひ:「そう、気合入れて(笑)。仕事をしていたとき、ほぼ毎日お弁当を作っていたんですが、一年半以上無職で過ごしていて、お弁当を作ることがなくなったんですね。それが寂しくて。食事や生活リズムも少しずつ狂っていたから、職業訓練へ通うことが決まったとき、お弁当を作る喜びも復活したようでうれしかったんです」

ショ:「そのブログによると、職業訓練に通いながら突然、お店をはじめるわけですよね。そもそもなぜ十条だったんですか?」

ひ:「職業訓練に通うことが決まって、生活を立て直す気持ちが出てきたのかな。前に住んでいた家が割と家賃が高くて。やっぱり生活費から切り詰めないといけないなと思うようになったのね。学生のときから十条に長く住んでいたので、家賃が安いことも知ってたし、何より物価が安い。土地勘もあるので引っ越そうと思ったの。つまり自分のアパートを探すつもりだったのね。それでまわっているときに店舗物件を見つけて中を見せてもらったの。それでお店を見た瞬間『やってみよう』って」

ショ:「ずいぶん突然だったんですね」

ひ:「そうね。見せてもらったときは、前の方が夜逃げ同然で出られたあとみたいで、変な異臭が漂っている状態だったの。でも、この店舗の広さだったら一人でもできるんじゃないかと思ったのね。水まわりを見ても使える状態だったから、修繕費用が少なくてすむかな?なんて思ったり。なんとなく惹かれながら帰ったんですね。でもね、ホントはもう物件を見たときに8割方決めてたんです。ず~っと働いてなかったから、とにかく仕事がしたくて。一生懸命働ける場所が欲しかったんです。就職活動をつづけても仕事が見つかるかどうかもわからないし、それなら自分で仕事をする場を作ってもいいんじゃないかと、そう思ったのね。それで『借ります』って、不動産屋さんに連絡して」

ショ:「ぼくはフリーランスなんで、仕事がないときの気持ちは、すごくよくわかります。でも職業訓練もはじめていたんですよね。二足のわらじは大変じゃなかったですか?」

ひ:「職業訓練に通いはじめて、割と早い時期にお店を契約したのできつかったです。お店を居抜きで使うことは予算上決まってたので、職業訓練に通いながら、夜はお店の清掃に通い、このままでできる商売を考えたんです。実は、お店を契約しても何をやるかは決めていなかったんです」

ショ:「え? そうなんですか?!」

ひ:「いろいろ考えてBARということにしたんですが、それはわたしがやりたいような飲食業ではなくて…。できれば、食事をメインで出すお店にしたかったんです。というのも、お勤めしていたときから料理が好きだったし、夜お酒を売るお商売に抵抗があったから。それと同時に自分のお料理ってどれくらい評価してもらえるのかな?と思ってたんですね。仕事がずっと好きだったけど煮詰まっていた頃があって、その頃、たまたまネットで見つけた『家庭料理技能検定』に興味を持って、少しずつ勉強していって、開業を決めたときには家庭料理技能検定の1級の筆記合格まですませていたんです。(※ひぃママは、開業した2010年の10月に1級の実技試験も合格。成績優秀者として表彰されています)」

ショ:「すごい!」

ひ:「一般人なら結構やるじゃん、というレベルだと思うんですね。だから、お店でお料理を出してみたいと思ったの。少しBARらしからぬメニューが見え隠れするのは、そんなところからでしょうかね。」

ショ:「料理がおいしいのはそういう経緯があったからなんですね。なっとくです」

ひ:「『家庭料理技能検定』に出会ってから、料理がもっと好きになり、将来的には料理教室をしたり、飲食店をするのもいいのかなぁって、実はずっと思ってたんです。だからわたしの中ではそれほど唐突な転身でもなかったんですよ」



<シックで落ち着いた雰囲気の店内>

ショ:「でもお店ってつぶれることもあるわけじゃないですか? 怖くなかったんですか?」

ひ:「飲食店ってつぶれるものだと知らなかったのよ」

ショ:「え、知らなかった?!」

ひ:「そんなに簡単につぶれてるものだと思わなかったのよ。はじめてみてびっくりしたんですけど、バタバタつぶれてますよね。実はわたし、お店をはじめるにあたって、知っていることって何一つなかったの。完全に素人。改装の方法から、お店を運営するノウハウを全部ネットで調べて…。というか知らないと開業できないことがあることまで考える余裕がなかったんですよね。何も考えないで動いて、困ったときに考えて…、とにかく目の前にあることをクリアしていくので手いっぱいで、逆にそれで余計なことを考えずにすんだのがよかったのかもね(笑)」




<お店をスタートしたときの洋酒のラインナップはこの3本だった>


ショ:「見切り発車でお店をスタートですか…、すごい勇気ですね」

ひ:「そうよね、でも何とかなるものなの。運がよかったのが、お店をはじめるときに頼んだ業者さんが知り合いのお店に連れて行ってくれて。その日たまたま相席したお客さまが3人。まだお店の名前もなくオープンの日も決まっていなかったわたしの店に、オープンと同時に来店してくれたんですよ。その方たちから、地元のお客さんへとじんわり広がっていって。あと、この辺りをよく知ってらっしゃる方にご挨拶に行ったりと、地元にもいろいろ筋は通したんですよ。そうするとお客さんを紹介してくださったり、宣伝してくれたり。とてもよくしてくれたんですね」

ショ:「はじめから地元になじむことができたわけですね」

ひ:「少しずつですけどね。でも、あの日あのお店に行ってなかったら作れなかったご縁に今も感謝してます。そういうつながりみたいなものを大切した方がいいと思えましたから。できあがっているコミュニティに飛び込むのは勇気がいったけど、おかげさまで、開店してからしばらくはお客さんゼロという状態はあまりなかったんです。はじめの半年くらいはとても順調な滑り出しだったわね。で年が変わって2011年。3月にあの大震災があって…」

ショ:「お客さんが減ったんですか?」

ひ:「減ったなんでもんじゃなくて。もう激減。それももう1か月とか2か月じゃないの。その後、一年間丸々お客さまが激減。悲惨だったんですよ。ちょうどお店をはじめて一年経つか経たないかぐらいのときで、お客さんが定着する前に震災になっちゃったんですね。しかもわたしもお店をはじめたばかりで経験がないので、震災の影響なのか、景気の影響なのか、お店が悪いのか、原因がわからなくて、ここで悶々としてたんです」

ショ:「はい…」

ひ:「でもそれを打開してくれたのがツイッターなの」

ショ:「ツイッターですか!?」

ひ:「実はオープンしたときから、SNSでの集客はしていたんです。無料だし、何より、ネットで開業知識を集めたわたしには一番向いている広告手段だと思って。その中にはツイッターも含まれていたんですが、同時にいろいろ手を出して効果が早かったものから力を入れたので、ツイッターは使い方もつぶやく意味も面白味もつかめないまま、ほぼ放置状態がつづいていたんです。だけど、効果のあったSNSが年明けから一気に煮詰まり、手詰まり。そんなとき、お客さまがツイッターもっと頑張った方がいいよと言ってくれて。あんまり効果を期待しないまま、でも、すがるような思いでツイッターを使ってみたんです。するとフォロワーが200人を超えた頃から、お店に興味を持ってくださる方が急に増えたんです」

ショ:「ふむふむ」

ひ:「ツイッターで十条のお店をやっている方たちとつながれたのも大きいかも。お店同士が仲良くなると、お互いのお客さまが行き来することも出てきます。そのあとそのお店のフォロワーの人たちも噂を聞きつけてフォローしてくれたり、実際にやってきてくれるようになったんです。すると次々につながっていって、そこからお客さんが増えたり。みなさんみたいに十条以外からもお客さんが来てくれるようになったんです。ツイッターで、地元に住んでいる人から、その友人へとお客さんの範囲が一気に広がったって感じですね」

ショ:「大企業がツイッターによる集客で苦労してますけど、こんなところに成功事例があったわけですね(笑)」

ひ:「ツイッターって、一見するとハンドルネームだから誰がやってるかわからないじゃない。でも、地元のつながりがあると顔がわかるから安心でしょ。それにこちらからも、十条に興味有る人、住んでいる人、職場がある人、赤羽や王子など近隣にいる人、趣味が合う人、ツイートを見ればわかるので、狙いを定めてフォローできるのも魅力なんですよね」

ショ:「ぼくたちからしても、お店の人がつぶやいてるのを見ると、ちょっとした有名人みたいな感覚になってくるんですよね。どんな人か興味があるからお店に行ってみようかって」

ひ:「有名人ではないけど(笑)。でもそうやってお客さんが来てくださるツールを見つけられたのがよかったのね。おかげさまで今年はだいぶ回復しています」

ショ:「さっきから言おうと思ってたんですけど、ひぃママの声がとても素敵なんです。十条に住んでいるライターの田仲氏の奥さんも言ってたんですけど、ママさんのお店にいるとすごく落ち着くんだそうです。ママさんのすーっといい声が聞こえてきて、その芯にはいろんな経験があったうえでの落ち着きがあって、ぼくもさっきからインタビューしてるのに、すごく落ち着いてしまってるんです。そんなママさん自身の人柄もこのお店の、すごく大きな魅力のなんでしょうね」

ひ:「ありがとう(笑)。」

ショ:「後編ではぜひ、料理へのこだわりについておしえてください!」

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後編につづく。
「ひママ」インタビュー後編はこちら



Kitchen&Bar ひ
住所:東京都北区上十条3-29-5
電場番号:03-3907-9515
定休日:毎週日曜日
営業時間:18時~24時
HP:http://tabelog.com/tokyo/A1323/A132304/13134436/


(文・写真:ショウジけんいち)



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