ロシアが極東地域発展の起爆剤ともくろむ大型プロジェクトが続々と始動している。この地域でソ連崩壊後の人口流出が止まらず、中国の影響力が高まっていることへの危機感が背景にある。極東を「アジア太平洋地域への窓」と位置づけて発展させ、国の求心力を取り戻すのが政権の狙いだ。日本としては、ロシアによみがえった東方への関心を北方領土問題の解決と協力関係の拡大につなげたいところだ。

 ■シベリア石油ライン

 沿海地方ナホトカのコジミノ港には昨年末、石油輸出ターミナルが完成し、タンカーによる積み出しが始まった。このターミナルは全長約4800キロの「東シベリア-太平洋パイプライン」(VSTO)の終点となる予定で、極東の石油輸出拠点と位置づけられている。式典に出席したプーチン首相は「現代ロシアにおける最大プロジェクトの一つが完成した」と胸を張った。

 VSTOは東シベリア・タイシェットから中国国境近くのスコボロジノまでの約2700キロが「第1段階」として敷設されており、当面、スコボロジノ-コジミノ間では石油を鉄道輸送する。

 沿海地方の中核都市、ウラジオストクでは、新興自動車メーカー「ソレルス」による極東初の組立工場が完成し、いすゞ自動車や韓国の双竜自動車などからの生産を請け負う予定だ。造船分野を立て直すため、国がタンカーや海上での石油掘削設備を発注する巨額投資も始まった。

 2012年にはウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催される予定で、大規模な会場建設やインフラ(社会基盤)整備も計画されている。日本外交筋は「ロシアが極東・東シベリアの開発やアジア太平洋地域への進出に本気で関心を持ち始めてきた」と語る。

 ■人口流出と産業衰退

 コサックを先兵として東進政策を進めた帝政時代に続き、旧ソ連は極東など辺境地域の住民に給与や年金を割り増しする“植民政策”で広大な版図を維持。極東はソ連の地域分業体制に組み込まれ、1次産品と引き換えに工業品の多くを西部から受け取る構造ができていた。

 しかし、ソ連崩壊後は財政難から極東が「忘れられた地域」(沿海地方当局者)と化して中央から分断され、激しい人口流出と産業衰退に見舞われる。今もその流れは止まっておらず、労働力不足の穴は中国などからの出稼ぎ労働者で埋めているのが実情だ。ある推計では、中国からロシアへの出稼ぎ労働者は約80万人とされ、そのかなりの部分が極東やシベリアに流入しているとみられる。

 中露は上海協力機構(SCO)の中核として友好関係を保っているものの、極東部で中国からの“人口浸透圧”が高まっていることはロシアの潜在的脅威として認識されている。ロシアとしては、12年のAPEC開催を一つの象徴として極東開発を進め、中国以外のアジア太平洋諸国と多角的な経済関係を構築したいところだ。

 極東・東シベリア開発は08年に採択された「13年までの極東・ザバイカル発展プログラム」に基づいており、インフラ整備や生活水準の向上を目的に総額7千億ルーブル(約2兆1600億円)の予算が投じられる計画。ただ、在イルクーツクの社会学者、ジャトロフ氏は「地方発展のプログラムは定期的につくられているが、効率は決してよくない。生活実態を見れば明らかだ」と、政権のかけ声に懐疑的だ。

 科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO)のミヘエフ主任研究員も「政権は先進技術に基づく極東という理想を描いているが、今はロシア全土と同様、石油・天然ガスに依存するしかない」と先行きの厳しさを指摘する。アジア太平洋諸国に輸出する石油をめぐっても、供給源となるべき東シベリアの油田開発が遅れている問題がある。

 「領土問題にかかわりなく、日本の投資はくる。日本との関係を見直す必要はない」(元高官)。こんな発言がロシア側から出てくるのは、困難な極東・東シベリア開発に日本が力を貸すことへの期待からであり、日本に対する揺さぶりの意味合いも含んでいる。(遠藤良介)

【関連記事】
米でホワイトハウスと国防総省が核戦略めぐり対立
ウクライナ大統領選、投票始まる
ロシアとベラルーシの石油紛争が泥沼化
ウクライナ、ロシア回帰も 大統領選17日に投票
ロシア極東で戦闘機墜落か レーダーから機影消える

JR脱線事故 遺族ら検審へ意見書提出決定(産経新聞)
「10年後の東京」プログラム、364事業 子育て支援、耐震強化…(産経新聞)
長野の村井知事“ダンマリ戦術”の理由とは?(産経新聞)
駅員寝坊、シャッター開かず=客8人、始発に乗れず-JR西(時事通信)
卒業後24年でも公務災害=元教え子による刺殺事件-甲府地裁(時事通信)
AD