藤原正彦氏の著作の共感した部分

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私は化学屋なので、藤原さんの著書「数学者の休憩時間」(藤原正彦 著、新潮文庫)の中の「成功と性格」という短いエッセイの中の下記の部分にとても共感しました。化学でも、有機合成化学だとおそらく、遺伝学者と同じく性格と体力で十割だと思います。
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 数学者として成功するには、数学が好き、とか数学の成績が良い、というだけでは不十分である。幾つかの成功条件を満たさねばならない。

第一の条件は野心である。未開の領域に挑むには相当の野心を必要とする。野心を手元の国語辞典で引くと、「身分不相応の考え」、とあるが、これが大事で、身分相応の考えだけでは大きな前進は望めない。

第二に執拗さである。未解決問題の解決は容易でない。だからこそ未解決で残っている。それを攻め落とすには、かなり執拗な攻撃が必要である。時には数年にわたって考え続けなければならない。少なくともこだわり続けないといけない。

第三に楽観的なことである。研究とは失敗の連続である。失敗する度に挫折感を味わう。そしてどん底からはい上がり、新しい方法で再攻撃を始めなければならない。結果とか、自分の能力について悲観的では、攻撃精神はなえてしまう。
また、世界には極端に頭の良い人間がうようよいる。その人たちとほとんど命がけで競うわけだが、とかく劣等感のとりこになりやすい。一週間うなって、やっと解けた問題が、ヒョイと一分間で解かれてしまったり、苦心惨憺のすえ証明した定理が、既に世界のだれか、よりエレガントな形で発表されてしまっていたりもする。こんな時にはかなり楽観的でないと再起できない。

あるパーティーで、某大学の化学科教授に、「数学者として成功するかどうかは、五割が頭で五割が性格だ」、と言ったことがある。彼は感慨深そうに、「数学は頭がすべてと思っていましたが、性格が五割ですか。化学は九割が性格です」、と言った。この話をつい先日、ある遺伝学者に話したら、「それは面白い。我々の分野では性格と体力が十割です」、と自信あり気に言った。 
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