広沢タダシ、高宮マキ@渋谷7th FLOOR

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3月29日(日)

渋谷7th FLOORで、広沢タダシと高宮マキ。

*演奏曲目や構成にもふれてます。このあとの名古屋、大阪、札幌公演をご覧になられる方はご注意を。


広沢タダシと高宮マキ、それぞれの『ゴールデン☆ベスト』の発売を記念したツーマンライブ。
まずこれまでを簡単に説明をしておくと、広沢タダシさんがシングル「手のなるほうへ」で東芝EMIからメジャーデビューしたのが2001年7月。高宮マキさんがミニアルバム『鱗』で同じく東芝EMIからメジャーデビューしたのが2002年11月。なので、ふたりはほぼ同期と言っていい。同じEMI所属のシンガー・ソングライターということで、当時も何度か会うことがあったようだ。

僕はといえば、広沢さんのデビュー時には情報誌「ぴあ」でインタビューを担当。マキさんのデビュー時及び1stアルバム『鳥籠の中』リリース時にはオフィシャル・ライターを担当させていただいた。
昨日のライブの最中、「私たちふたりがデビューした当時から知ってたひとはいますか? いたら拍手してください」という投げかけがあって、わずかに観客のふたりくらいが拍手していたが、そのうちのひとりが僕だったわけだ。

デビューから数年して、ふたりともメジャーから離脱。広沢さんはその後ずっとインディーズで精力的にライブを続け、2005年には自身のレーベルも設立してコンスタントに作品も発表してきた。一方マキさんはしばらく音楽から離れていた時期もあったが、数年前から改めてライブ活動を開始。去年はキャリア史上、もっとも数多くライブを行なった年となった。

ふたりは去年(一昨年?)、久しぶりに再開。ニューアルバムを作るにあたって動き始めていたマキさんに、「作るならぶっちぎりのものを作らなきゃダメだ」と広沢さんが発破を掛け、その一言に背中を押されたマキさんはつい先頃ロンドンで新作のレコーディングも終えてきた。
また、かつてのレーベルの制作担当者の声かけから、ふたりは同タイミングで『ゴールデン☆ベスト』をリリースすることとなり、そこから今回のふたりでのツアーへと話が発展したのだった。

さて、このあと名古屋、大阪、札幌とまわるツアーの、その初日となった昨日の東京公演。
広沢さん、マキさん、そしてゲスト・ミュージシャンとして招かれたピアノの松本圭司さんの3人が登場して、まずは広沢さんの曲「スイマー」を。それから松本さんのピアノでマキさんがソロで4~5曲。広沢さんが再登場して一緒に数曲。そのあと広沢さんがソロで4~5曲。三度3人で一緒に数曲。で、アンコールも一緒に数曲。と、このような構成だった。

ツーマンのライブとなると、まずそれぞれのソロ・ステージがあり、最後に共演で1~2曲やって締め……というようなあり方が普通で、今回のライブもそういうものだろうと僕は想像していたのだが、そうじゃなかった。もちろんそれぞれのソロ・ステージもあったが、始まりと中盤と後半で思いのほかたっぷりとふたり揃っての歌が披露されたのだ。それも、よくみんながやるような有名曲のカヴァーなどではなく、それぞれのオリジナル曲を一緒に歌うというもの。ふたりがいかにこのツアーに気持ちを込め、特別なものにしようと時間をかけてリハをしたか、そのことがよくわかるあり方だった。

ふたりの歌唱スタイルはまったく異なるもの。マキさんはソウルミュージックに根ざした非常にエモーショナルな歌声を聴かせる歌手で、時に情念を感じさせなくもないその歌は聴く者を圧倒する。音域の広さも凄まじく、あれほどのファルセットを聴かせる歌手は日本では稀有だ。対して広沢さんはどちらかといえばフォーキーというか、フェイクを好まず素直な歌い方で聴く者の心をあたたかにするタイプ。圧倒するというよりは、聴く者に“寄り添う”感じか。
クセのあるマキさんの歌と、寄り添う感覚の広沢さんの歌。繰り返すが、(性別を踏まえずとも)まったく異なるタイプの歌手なわけだがしかし、そのように個性の異なる歌と歌とがどの曲でも思いのほかステキに合わさり、重なりあっていた。ぶつかりあうのではなく、溶け合っていた。そのことに驚かされたし、引き込まれた。個性も伸び方も異なる声と声のハーモニーにうっとりとさせられたのだ。

ふたりで一緒に歌われたのは、例えばマキさんの「Love Letter」だったり「シュクリーム」だったり「私という球体」だったり(秋か冬にリリースされるニューアルバムからの新曲も披露された!)。広沢さんの「スイマー」だったり「生きてる心地」だったり「旅に出ようぜ」だったり。
どれも本当に素晴らしかったが、とりわけ僕がやられたのがマキさんの楽曲「Love Letter」だ。確か一番をマキさんが歌って、二番を広沢さんが歌うという形だったが、作者であるマキさんの歌はもちろん、広沢さんの優しい声で歌われた二番がまた心の深くに沁み込んできて、僕は目頭が熱くなってしまった。と同時に、メロディと歌詞のよさがアルバムで聴いてたとき以上にダイレクトに胸に迫ってきて、ソングライター・高宮マキの才能に改めて感じ入った瞬間でもあった。
歌い終えてからマキさん自身も「危うくさっきウルウルきそうになった」というようなことを言っていたが、それぐらいこのメロディ~この歌詞を歌う広沢さんの歌声の響きは優しくて切なくてたまらないものがあった。

この曲に限らずだが、松本圭司さんの、ときにジャジーだったりもするピアノも素晴らしかった。音響もよく、いい会場で聴くことができたなと思ったりもしたし、これだけの編成だったからこそのひと肌感とか自由さがここにあるなとも思えた。

もちろんそれぞれのソロ・ステージにも引き込まれた。マキさんは、広沢さんとの共演曲にはメロディの美しいスローを多く選んでいたが、ソロのほうでは「Miss Salt & Sugar」「情熱萌え秋桜のWaltz」「鍵穴」といったファンクテイストだったりネオソウルテイストだったりのある曲を選んで歌っていた。このところ頻繁にライブを重ね、またレコーディングもしてきたばかりとあって、声の伸びは一段と凄まじく、前よりリラックスしながらとてつもない表現をするシンガーになったなと僕は思った。

広沢さんはといえばデビュー曲の「手のなるほうへ」も歌ったし、ソロ・ステージでは「雷鳴」(この曲、大好き!)や、最新作『月の指揮者』からの曲も歌われた。「生きてる心地」は確かマキさんと一緒のときに歌われたんだったか、記憶がちょっと曖昧だが、この曲もとても沁みた。何の曲だったか忘れたが、オートハープを使った曲でのその音色もよかった。新旧織り交ぜての構成もまた絶妙。今度ワンマンもこの日と同じ7th FLOORで決まったと言っていたので、日があえば必ず行こう。

とまあ、そんな素晴らしいツアー初日だったわけだが、初日でこんなにいいのだから、このあとの名古屋、大阪、札幌はきっともっといいものになるのだろう。これから観ることのできる名古屋、大阪、札幌のひとが羨ましくも思えてくる。というか、あれだ。ふたりで一緒にやるのが今回きりだとしたら、それはとても勿体ない。ぜひまたいつかやってほしいと思うし、僕がレコード会社のディレクターだったら、デュオでアルバムを作ってもらうだろう。いや本当に録音ブツを残してくれないかな。なんなら共作で新曲とか作ってくれたらいいのにな。そんなふうにも思うくらいに、ちょっとミラクルなケミストリーを感じられた一夜であった。

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