5月11日(火)


京橋・映画美学校試写室で、『ソウル・パワー』。


「怒るくらいなら泣いてやる」


先月から早く観てほしいと言われていたこの映画の試写をようやく観てきた。
なるほど、こりゃすげぇわ。

チラシに「この映画(ライブ)を観ずして、死ぬなかれ!」なんてコピーが躍っているが、確かに黒い音楽が好きな人でこれを観ずして死んだら勿体なさすぎる。
観ることができて本当によかった。


『ソウル・パワー』は、1974年にアフリカはザイールのキンシャサで行なわれた音楽フェス、「ザイール'74」の記録映像を約1時間半に編集したドキュメンタリー作品。


このフェスは、「キンシャサの奇跡」と言われたモハメド・アリとジョージ・フォアマンの世紀の一戦に先駆け、(試合を盛り上げるべく)催されたもの。
試合の記録映像は『モハメド・アリ かけがえのない日々』として公開され、アカデミー賞を受賞してもいるが、しかしフェスのほうの映像はこれまでお蔵入りとされていた。
が、『モハメド・アリ かけがえのない日々』の編集担当だったジェフリー・レヴィ=ヒント(この人もその映画の編集時にフェス・パートのフィルムが存在することを知ったそうだ)が125時間に及ぶフィルムを編集・構成。
映画として仕上げたのが、この『ソウル・パワー』になる。


フェスの出演者のうち、この映画にライヴ・シーンが収められているのは、ジェームス・ブラウン、B.B.キング、ミリアム・マケバ、セリア・クルース&ファニア・オールスターズ、ビル・ウィザース、ザ・スピナーズ、シスター・スレッジ、ザ・クルセイダーズら。


タイトルが『ソウル・パワー』(言わずと知れたJBのヒット曲名)で、宣伝資料の写真もJBのアップだったので、僕は観るまで、JBのライヴ・シーンを大フィーチャーし、ほかのアーティストのライヴ・シーンはダイジェスト的にまとめたようなものかと想像していた。
が、全然違った。
確かにJBのライヴ・シーンは映画のハイライトだが、ほかのアーティストたちのライヴもしっかり紹介され、またプロモーターや投資家たちのやりとりや、モハメド・アリによるアジテーション、キンシャサの街の様子なども効果的に挿入されている。


どんなドキュメンタリーだって制作者や編集者の意図が反映されている(…といったことは、森達也さんが繰り返し著作で書かれてますよね)。
それは当然のことで、この映画の場合は監督・制作・編集のジェフリー・レヴィ=ヒント氏の視点のもとで作られている。
元となるフェスのフィルムという素材自体がとてつもなく力のあるものだということは間違いないし、確かにこの映画を観たあとでは、いつかライヴ・シーンの全てを観てみたい…なんて感想がでてきたりもするものだが、その前にまずこれは「ひとつの音楽映画として」素晴らしい。
例えば『ウッドストック』とかのように、背後にいろんな人たちの感情が見えてくる。
ここには国があって文化があって人種問題があって共闘意識があって自由への希求があって個の躍動があって衝動があって熱意があって混沌もあって歓びがあって失敗もあったようだけど未来と希望がある。
ライヴ・シーンを真ん中に置きながらも、先に記したように実行者側らのやりとりやアリのアジテーションなどを挿んでいくことによって、映画としての脈略性が生まれているし、その結果としてアーティストたちのパフォーマンスがよりエモーショナルに浮き立って伝わってくる。
125時間に及ぶもとのフィルムには見ものだったパフォーマンスのシーンがほかにも数限りなくあっただろうが、それらをやむなくカットしてでも1時間半に凝縮したからこそ、この映画はこれほどの活気や生命力を得たのだろう。
そういう意味で、ジェフリー・レヴィ=ヒントさんの視点、切り取り方に賛辞を呈したい。


ストーンズの『ギミー・シェルター』を撮ったアルバート・メイズルスらが撮影しているとあって、粗いながらも生々しさに満ちた映像がいい。
黒さがリアルに黒くて、それが音楽の濃度にも繋がって感じられる。


「ザイール'74」というこのフェスが行なわれたのは3日間。
3日間のフェスというと僕たちは今ではフジロックなんかを通してカラダで盛り上がり時がわかっているから、例えば誰々が初日のトリだったとか誰々が3日目のトリだったとか、そういうところもけっこう「へぇ~っ」っていうポイントになってきたりもするわけだけど、この「ザイール'74」でいうと、JBは初日の一番いいとこ。
2日目はそこにB.B.キングがきて、3日目はセリア・クルース&ファニア・オールスターズがきている。

で、映画のなかでもこの3アーティストのライヴ・シーンがやはりとりわけ印象的だ。


僕がもっとも興奮したのは、やっぱり映画の核となるJ.B.だけど(あぶら乗り切ってて動きもキレキレ!)、それに完全に匹敵するくらいセリア・クルースが凄い。本当に凄い。
あとはミリアム・マケバとビル・ウィザースも印象に残ったなぁ。


印象に残ったと言えば、ライヴには出てなかったけど、キンシャサのストリートで子供たちにソプラノ演奏を聴かせるマヌ・ディバンゴ!
あのシーン、僕はこの映画のなかで一番好きかも。
音楽っていうのはこうやって生まれ、こうやって継がれていくものなんだ……ってなこと思っちゃったなぁ。
こういうシーンをちゃんと切り取って入れたあたりに、ジェフリー・レヴィ=ヒントさんのメッセージを感じたり。
音楽というのは希望なんだということをさり気なく伝えてくるいい場面でした。


ああ、あと2~3回、おかわりできるなぁ。
公開は6月12日から。
始まったら映画館にもう一回ちゃんと観に行こっ。


あ、因みに字幕監修をオーサカ=モノレールの中田亮さん(我らがザ・たこさんをフックアップした人ですよー)が手掛けておられますです。



↓公式サイトはこちら。

http://www.uplink.co.jp/soulpower/