「あの人は、金で買えないものはないと言ったけれど、どう思う?」と、
学校の授業で先生が言ったんだ。
みんなが口々に意見を放り投げる。
黒板がそれを受け止める。
そう思う。
そうは思わない。
大体のものは買えるけど。
そして授業は山場を迎える。
「じゃあ買えないものってなぁに?」
人の心とすかさず答えた優等生。
友情と後ろから叫んだ劣等生。
幸福と手を上げて発言した委員長。
愛情と立ち上がって訴えた元・家出娘。
収束に向かう流れの先で、したり顔の先生。
先生、そこに向かわなくてはならないのですか?
先生、他の答えはもう言ってはいけないのですか?
金で買えないものはないと思ったらいけないのですか?
最初から答えは決まっていたのですか?
先生、寒くて凍えるあばら家で、テレビもなくじいと過ごすだけの老後も、
先生、みんなと同じようなこと何一つ出来ず共有の思い出のない学校生活も、
ねえ、先生。
人の心があれば、というけれど。
ねえ、先生。
人の心を繋ぐのは、日々の生活。
自分の心が豊かであればと言うのでしょうか。
自分の心ばかりが豊かでも仕方ない気がするのです。
素晴らしく豊かな心の持ち主でも全裸で悪臭の男は、
周囲を不快にしてしまうから、好きな人と友達には、
なれないんじゃあないのでしょうか。
話が合わなければ、寂しいんじゃあないでしょうか。
ご飯が食べられなければ、死ぬのではないでしょうか。
でもそんな意見を言ったら、ちょっと嫌な顔をされました。
だから口をつぐんで授業の成り行きを見守りました。
僕はダメな生徒と記憶され、授業は予定調和を完遂し、
みんなは頬を赤らめ心の大切さを再確認し、
僕は、孤独を知りました。