ハミは財産

   乗馬や競馬にかかわる道具の中でも、とりわけ多くの種類があるのが、「ハミ」でしょう。

  ハミは、ご存じの通り、馬に咥えさせて主にブレーキやハンドル操作を容易にするための道具ですが、馬に求める運動や馬の調教段階、性格や癖などに合わせて、様々な形状のものを使用します。



  様々な馬に関わった経験の分だけ、ハミのコレクションも増えていくことになり、それぞれのハミの使い方や操作感覚、効果や副作用、といった知識がそのまま使う人の中に「引き出し」として蓄積される、と考えれば、ハミはまさに、馬乗りにとっての「財産」であると言ってもよいのではないかと思います。


  

  ハミは、太さや形状によって効き方がずいぶん変わってくるわけですが、形状の変化によって、その作用がどのように変わるのかということを大まかにでも知っていれば、初めて乗る馬に装着されているハミを見て、その馬がどんな乗り味なのか、どのような乗り方をすれば良いのか、ということをなんとなく想像するようなこともできます。


  ということで、まずは、ハミの形状による作用の違いについて考えてみたいと思います。



・太さ

  ハミには、銜身(馬が口に咥える部分)の太さに少しずつ違いがあります。

  想像してみればわかると思いますが、細い方が、馬の口にかかる圧力は大きくなり、強く作用します。

  ですので、基本的には、中半血や在来種などの鈍感な馬や、前進気勢が旺盛で抑えるのが大変な馬には細いハミ、神経質で、細いハミでは反抗して膠着したりしやすいような馬には、太めのはみを用いることになります。

  口角が切れてしまいやすい馬にも、太めの方が良いですが、口角に当たる部分が厚く、ハミ環がクルクル回って口角を挟んでしまうようなことがないような構造になっている「エッグビット」というハミもよく使われています。
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  若いサラブレッドはかなり敏感そうなのに、競走馬が細めのハミを使っていることが多いのは、気合いの乗った競走馬を抑えるには、細いハミでないと不安だから、ということと、細くて軽いハミの方が、馬を追ってスパートさせるときの反応が良いからだと考えられます。


  
・材質

 ハミは、馬の歯が当たったり、かなりの強い力がかかることもあるものですから、ほとんどのものは耐久性のあるステンレス鋼などで出来ています。

  口の敏感な馬や、口を傷めている馬などには、プラスチックやゴム製の銜身に金属の芯が入ったものもよく使われますが、しばらくすると馬に噛み砕かれてボロボロになってしまったりすることも多いものです。


  また、手綱操作に対して口を割って抵抗し、口がカラカラに乾いてしまうような馬には、銅を含んだ合金製のハミを使うことで改善されることもあります。
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  銅は、馬が口の中で甘みや匂いを感じ、唾液分泌が促進されることによって、苦痛が軽減され、積極的にハミを取るようになりやすいといいます。


  最近では、マンガンが、馬の緊張やストレスを軽減し、筋肉の緊張緩和を促し、エネルギー代謝を高め、酵素を活性化させることによりアレルギー性の皮膚炎を軽減するなど、馬にとって様々な良い効果をもたらす、というような研究もされているそうです。



  唾液といえば、こんなハミもあります。

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ブレーキングビット、ど呼ばれるもので、その名の通り、本来は新馬のブレーキング(馴致)のために用いられるものです。


  ハミの真ん中からぶら下がっているカギ束みたいなものは、「舌遊び」と言って、馬が口の中でジャラジャラ転がして遊べるようになっています。

 舌を動かすことで、唾液が分泌され、苦痛が少なくなって、ハミを嫌がらなくなる、というわけです。


  本来は若馬のためのものなのですが、大リーガーのチューインガムや、赤ちゃんのおしゃぶりみたいな感じで、適度にリラックスして、仕事に集中しやすくなるような効果がありますから、怖がりで物見の激しい馬とか、働き過ぎてちょっと荒れているような馬の運動に使ってみると、意外に効果があります。




・様々な形と目的

  ハミにはじつに様々な形のものがありますが、その中でもよく使われているものをいくつか紹介したいと思います。

まずは、枝バミ、と呼ばれるものです。

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  馬の口角に当たる部分から、上下に長い枝のような棒が伸びているものです。

  馬が左右にもたれるようにしてヨレるのを修正しようと手綱を使った時に、馬が口を割りながら抵抗して、ハミが横にズレて口から外れてしまい、操縦不能になって「欽ちゃん走り」で逸走してしまうようなことがあります。

  枝バミを使うと、両側の棒が、馬が口を開けたときにハミ環が口の中に入っていってしまわないようにするための、ストッパーの役割をするのです。

 このハミは、新馬などの他、ポニーや在来種など、比較的鈍感というか、人を恐れず、力ずくで挑んでくるようなタイプの馬にはよく使われます。

 

  同じような目的で、競馬では、リングのついたものもよく使われています。

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  リングが馬の下顎にハミを安定させ、口から横に抜けてしまうのを防ぐような働きをします。

  口向きが悪くてもたれるような癖のある馬を、逸走してしまったりせずに真っ直ぐ走らせるために用いられるものですが、このリングには、馬が舌をハミの上に出してしまう「舌越し」を防ぐ効果もあります。


  乗馬のレッスンでも、たまに口の横からベロを出してブラブラさせながら走っているような馬がいると思いますが、舌がハミを越してしまうと、馬がハミに出なくなり、コンタクトを保つことが出来なくなります。

  そうした癖のある馬や、クネクネとヨレて困るような馬には、このリングビットが有効かもしれません。




  ハミ受け、というと、馬に顎を引かせて鼻梁を垂直にさせたような形を思い浮かべる方も多いと思いますが、軽い力で馬を抑え、馬に気づきを促しやすいように、「梃子の原理」を応用した、大勒ハミとか、カーブビット、と呼ばれるハミがあることはご存知だと思います。

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   写真は、ペソアビット(ダッチギャグ)と呼ばれるものですが、こうしたハミを使い、馬の長い顔のさらに下にオフセットするように手綱をつければ、梃子の作用によって、馬の力に負けずにブレーキをかけることが出来るわけです。


  しかし、この梃子の作用に頼り過ぎると、今度は馬が、顎を巻き込むようにして頭を下げ、ハミにもたれて走るようになったり、半減却のようなちょっとしんどいことを要求すると、すぐに顎を引いてハミを外しながら膠着し、手綱を使わせないようにするような戦略を覚えてしまったりすることがあります。

  特に、強い力で真下へ手綱を引っ張り込みながら突っ走るような癖がついてしまった場合が厄介で、強いハミを使っても巻き込んで前のめりになってしまうし、脚を使って踏み込ませても速くなるだけだし、馬を起こしてゆったりと運動させることが非常に難しくなってしまいます。


そんな時の、馬を起こすための最終兵器が、「ギャグビット」です。

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  ギャグとは、「猿ぐつわ」というような意味で、人間の猿ぐつわと同じように、口角にかけることを目的とした構造になっています。

  ハミ環に開いた穴に通したベルトの上端を頬革に繋ぎ、下端には手綱を取り付けます。


  馬が頭を下げようと手綱を引っ張ると、ハミが馬の口角からうなじの方に向かって強く引き上げられる感じになります。

   これを繰り返すうちに、馬は自分でその因果関係に気づき、頭を下げようとはしなくなるのです。


  ギャグビットというと、競馬でも使われているためか、上の写真の「ダッチギャグ」の方が有名なようですが、用途も、作用の仕方は全く違うものになります。



 



  

・おすすめ?便利グッズ

  ついでに、乗馬クラブなどではあまり馴染みがなさそうだけれど、使ってみれば結構役に立ちそうなものを、いくつかご紹したいと思います。

  一つ目は、チフニービット(ハートバミ)です。

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  これは、パドックなどで引き馬をする時に使うもので、無口や頭絡を付けた上から、ハート型のリングの上部を馬に咥えさせるようにして装着し、リングの下側に曳き綱をつけて使います。

  曳き馬では、元気のいい馬を抑えるのはなかなか大変ですが、これは曳き綱が馬の顎の下の真ん中に付くため、ブレーキをかけることが容易になります。

 リングがバミよりも細い分、圧力が高めになりますから、曳き馬で立ち上がるようなウルサイ馬でも、それを未然に防ぎやすくなります。


二つ目は、「リップチェーン」と呼ばれるものです。

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使い方は、こんな感じです。

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リップチェーンは、上唇と歯茎の間に鎖(チェーン)を通し、ベルトをうなじに掛けるようにして装着して使います。

歯茎にチェーンが触れることによって、馬の意識を口に集中させて、興奮を抑制するような作用があるのです。

  馬に注射などをする際、鼻ネジをするとおとなしくなるのは、脳内麻薬物質が分泌されることによるものだと言われますが、それと同じような効果によるものかもしれません。

  リップチェーンは、ホームセンターなどで売っている材料で手軽に作ることができます。

  ハートバミもリップチェーンも、元気のいい競技馬などを扱う機会の多い方には、とても便利なものだと思いますので、ご興味のある方は是非お試し頂ければと思います。


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