国境の街、クンダラで明かりのない部屋に一泊し、青空トイレで用を足した後宿を出た。もう宿というよりキャンプしているような感覚。この街自体電気も水道もないっぽいので、毎日の生活がキャンプみたいなものだろう。と書くと字面は楽しそうだけど、ただ単純に不便で大変なだけだろうね。電気も水も、ライフラインは大切だよな。




そしてコナクリ行きの乗り合いタクシーを捕まえたのだけど、このタクシーがいつまでたっても出発しないわけですよ。僕が料金を払ったのは朝8時だったのに、昼を過ぎてもまだ出ない。なんでかというと、定員が集まらないから。9人が定員なのに7人しかいないのだという。




ん?!いや、ちょっと待て。





このタクシーに9人も乗るの?




7人が定員だったセネガルの長距離タクシーと、車のスペースはまったく同じなんですけど。てか7人集まっているんだから、セネガルじゃとっくに出発してるでしょうが。
なのにあと二人が来るまで待つという。エンドレスで。客の予定など一切無視である。




うーん、しかしこれに9人乗るのか。7人乗りでも座る位置によっては結構きついんですよこのタクシー。セネガルの場合は助手席1、二列目3、三列目3という人数配分だったんだよね。助手席は側に人がいないし快適。二列目もスペースに余裕があってそこそこ楽。三列目は荷台に近いため狭く、天井も低いので、頭が天井にぶつかるし、側に太っている人がいると、かなり圧迫されることになる。僕は何故かこれまで三列目が多かった。タクシー運のないやつ。




ギニアの場合、このタクシーの車内はさらに悪化する。余裕のある助手席と二列目に、よせばいいのに1名ずつ増えるのである。こうなると、三列目が一番快適なのかもしれない。二列目はまともにシートに座ることも難しい。
こんな殺人的に窮屈な中に押し込められ、直線距離で最低8時間はある道を走るのだ。
ちなみにこの日、僕は二列目シートだった。つくづくタクシー運のないやつめ…




待っているときに話しかけてきた乗客の一人から、恐ろしい話を聞いた。
なんと彼は、昨日の夕方から出発を待っているというのである。てことは何時間待っているんだこの人は。
乗るより出発を待つ時間の方が長いタクシー。長期旅行でもそうはない体験、というか、いつ出るかわからず、ただ待つしかないのは、拷問以外の何物でもない…今日だって、人がこなけりゃまた明日って話になるに違いない。




それだけは勘弁。早く僕を脱出させて!




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出発待ちの間かなりやることがないので、街をぶらぶらしてみた。といってもとくに何かあるわけではない。
僕を見て、唖然としたように凝視したまま固まる人が多い。とくに年配者なんかはそうである。子供とか若い人は、結構気さくに話しかけてくる。その相手をしながら時間を潰す。



あまり往来のないマイナー国境だったけど、市場は国境の街らしい賑わいがあった。
なんか野良みたいな羊達がごみを漁り、食べている。羊達は地に落ちている口にできるものならなんでも食べている。これらの羊にも飼い主がいて、乳を取ったり肉にしたりするんだろうけど、こんなゴミばかり食べている羊が美味しいんだろうかと、ふと思う。



昔流行ったエリマキトカゲみたいに、地面を2本足で走るトカゲがたくさんいたのだ。
アフリカのトカゲって結構でかい。基本木の上で生活しているらしく、登るのが速い。




昼は食堂でスパゲッティを食べた。
これがなかなか美味いのである。ナポリタン風味で、肉もちゃんと入っている。しかもマヨネーズが載っているのだ。B級グルメとして完璧。
これで一皿10000ギニアフラン(150円)この街にいる間二回食べた。




しかもレストランの人が食ってたものをお裾分け。
芋を擂り潰してこねて作った餅のような味。なかなか美味い。




朝8時から出発を待ち続けて6時間。もう14時になろうとしていた。
このまま待っててもらちが明かない。というか、人が来るのをただ待つという他力本願は僕の性分ではないのである。
ようは足りない二人分を、僕が何らかの形で支払えばいいのだろう。
僕はある提案をすることにした。




僕はカンボジアで30ドルで買った中国製のインチキスマホを今だ持ち歩いていた。
一応電源も入るし写真もとれる、動作は問題ないしwifiも繋がるのだけど、OSがアンドロイドじゃないし、反応が遅すぎる。アプリを入れることもできない。実用には耐えられない代物である。
それでもネタ的な土産物になると僕は思っていた。何度か宅配を試みたのだけど、電子製品は梱包の時に拒否られてしまうので、持ち歩くほかに仕方がなかった。
でも不用品だし、荷物も軽くしたい。
アフリカでは物々交換がいけると聞いたので、交換リストに入れたのだ。





僕はこのスマホを二人分の運賃に代えられないかと提案した。足りない二人分支払えば今すぐ出発できるからである。
ちなみに運賃は一人およそ22ドル。二人分は44ドル。繰り返すけど、僕のインチキスマホは30ドルなので、僕が得することになる。






「このスマホは60ドルで買ったんだ」と僕は倍の値段を吹っ掛けた。
アジア人が持ち出したスマホに皆興味を示し、人が集まる。どこで買ったのか?という質問に、カンボジアで、と言うと通りが悪いので、中国で、とこれまた白々しくウソをつく。



一人の軍服姿の男が食いついてきた。僕は不味いフランス語で、写真を撮って見せたり、ゲームもできる、シムカードを入れれば電話としても利用できるとセールストークを展開。なんだ、おれのフランス語もやればできるじゃん。
男が、フランス語に切り替えられないなら買わないと言い出したので、薄氷を踏む思いでセッティングのタグの、言語の欄を開く。やった、フランス語がある!




男はインチキスマホの通電を確認しにいった。
戻ってきても、まだ買おうか悩んでいる様子で、なぜこれを買ったんだ、なぜ必要ないんだ?と言ってくる。
まあ、彼が慎重になるのはわかる。日本人のおれだって、4400円のものを買うとなったらひとしきり考える。彼の場合はもっとだろう。しかし早く買うと決めてくれないか。



ふと僕は、彼はもう9割方買うと決めていて、後は背中を押して欲しいだけだと言うことに気がついた。
なので僕は、敢えて引いてみたのである。「満足?もし満足じゃなかったら、返してもらっていいんですよ」と。




それを聞いた彼は、フフフと笑った。
これで売約が成立した。
男が44ドル相当をタクシー営業所に払い、実際は2つ空席だが、9人分の運賃が支払われた。




というわけで僕は、不用品のインチキスマホに、買値より高い価値をつけることに成功したのである。
屋根の上の荷物をロープでくくる作業が始まり、長い待ち時間を終え、ようやく前に進むことができる。
昨日から待っていると言った客の一人が、「やるねあんた!ありがとう!早くここを出よう!」とうれしそうに言ってきた。返事の代わりに親指を立てる僕。




しかし僕は、勿論思惑通りにことが運んで嬉しい気持ちもあったのだけど、なんだか複雑な気分だった。
先進国と途上国の人間、同じぼったくりでもより悪いのはどちらだろうね?




交渉しながら僕は、やはり彼らは無知なんだな、と感じていた。無知な人間を騙すのは、手のひらの上で転がすように容易い。
僕のしたことは、このアフリカで欧米人種が搾取し、彼らを奴隷化したことと根は同じような気がした。
「ブラッドダイヤモンド」の、その場限りのウソを平気でつくディカプリオみたいだ。
いくら切羽詰まっていたとはいえ、あこぎなことをしたもんだな、おれは!




14時にまとめたはずの交渉だったが、出発にはさらに1時間かかった。
ようやく出発、皆乗り込んだのだけど、なんと乗客がちゃんと9人いるじゃないか?!



んん?!これでは僕のインチキスマホは無駄である。 僕にとっては余裕のある7人で行くことも大事だったのだ。
9人乗っているところを見ると、あの男が金を払ったかどうか疑わしい。あるいはその後すぐに二人乗客が来て、金は彼に払い戻されたのかもしれない。




抗議しようかと思ったのだけど、いや、これでいいんだと思い直した。
あんなインチキスマホ、どうでもよかったんだし、前に進めることには変わらないのだ。それにこれなら、僕は最悪感を感じずにすむ。その代わり、9人乗りに対する苦痛は感じるだろうが…でもそれでいいのだ。



待つこと7時間、15時にやっとタクシーはクンダラを出発した。
さてこれからが地獄タクシーの始まりであるが、その話はまた明日。




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