(TUTU RECORDS TUTU CD 888 226)


ミュージシャンと言うよりはまさに全身これ「アーティスト」という感じの、普段の活動では複雑なコンポウジングと精緻なオーケストレイションに才能を発揮する優れてトータルな視点を持つアーティストが、非常にシンプルな編成で一ミュージシャンとして演奏に打ち込んだらどうなるか。

私はそういうアルバムに結構惹かれて来ました。

今さっと思いつく例ではギル・エヴァンズ GIL EVANSがリー・コニッツ LEE KONITZと録音した2枚組ライヴアルバム『ヒーローズ&アンティ・ヒーローズ HEROES & ANTI HEROES』なんか、淡々と弾かれるGILのエレクトリックピアノの向こうに、普段の彼のオーケストラのビッグバンドサウンドがうっすらと透けて聞こえるような感じがして何度も鳥肌を立てたものです。

GILははっきり言ってテクニカルなピアニストでは全然ないですし、かと言ってセロニアス・モンク THELONIOUS MONKのような個性もない。

ともすれば誰でも弾けるようなプレイをしています。

しかし、それでも彼の独自のヴィジョンが聞こえて来る。

そのことに、大きな感動と畏怖をおぼえるのです。

さて、ここに紹介するのもそういう、「アーティスト」が「ミュージシャン」としてガチンコ勝負、の典型例のような作品。

フレンチジャズシーンのリヴィングレジェンドの一人、フランソワ・ジャノー FRANCOIS JEANNEAUとドイツのピアニスト、ウリ・レンツ ULI LENZとのデュオライヴです。

ドイツの隠れ名盤製造機レーベルTUTU RECORDSの一連の「アート・オブ・ザ・デュオ ART OF THE DUO」シリーズの一つとしてリリースされました。

05年にベルリンの有名なジャズクラブ「A-TRAIN」で実況録音されています。

JEANNEAUは私が「フランスジャズ界のジャック・デリダ」と勝手に命名した、難解で複雑、そしてつかみどころがない作風で一際異彩を放つ作曲家。

でありながら、これまた私が勝手に「ジョン・コルトレイン JOHN COLTRANEの「ロジック」とウェイン・ショーター WAYNE SHORTERの「マジック」を併せ持ったような」と形容したほどの超絶サックスプレイヤーでもあるのです。

しかしその凄まじい器楽奏者としての実力をなかなかフィーチュアしてくれない、と言うかその音楽性が持つ独特の、曖昧な膜が幾層にも重なるような複雑な色合いが技術のハイレヴェルなイメージを包み込んでしまうので、彼がどれほどに素晴らしいサックス奏者であるのか、というのがなかなか認知されないのですね。

どちらかと言うとサックスプレイヤーと言うより作曲家としての知名度の方が高いのではないでしょうか。

その上に音楽自体の凄さもインパクトの面だけで言えば決して強い方ではないのでこれもまた「よく解らない」で済まされてしまう、全く損な人です(笑)。

ですが今回は違います。

ソプラノ一本に徹してガンガンに吹き倒してくれています。

ちなみに、私はこのサックス&ピアノという編成はあまり好きではありません。

ですが今回は違います(また同じ文章書いちゃった)。

このライヴ盤はここ近年に聴いた中でも最高度のインパクトと感動を以って私の胸に突き刺さって来たのです。

オープニングの「ワルツ・フォーC.C. WALTZ FOR C.C.」はいきなり15分強の熱演。

JEANNEAUのラベル・ブリュ LABEL BLUE盤『タクシーウェイ TAXIWAY』収録ナンバーのリタイトル&セルフカヴァーです。

彼独特のペシミスティックな音色のソプラノ、そして全能感抜群の美しくダイナミックなLENZのピアノが最初は淡々と探り合い、やがて2重螺旋を描きながら激しいワルツグルーヴに乗って昇華して行くのを聴くと、一篇のドラマを見終わった後のような満足感が体中を満たします。

この曲はJEANNEAUの数多いオリジナルの中でも珍しく、とてもおぼえ易いメロディなので、それも効果抜群。

LENZのピアノソロに入って再び思索の海に沈んで行くその様子もとても美しく、リズムを揺さぶりながら訥々と後メロを吹き始めるJEANNEAUのアプローチも、何だか人生の深淵のような深みを感じます。

JEANNEAU初聴きさんにはオススメのテイクかも知れませんね、これは。

彼はこのアルバムの全7曲中4曲を作曲しています。

小説『不思議の国のアリス』の主人公がスキップを踏んでいるような印象的なベース音域のカウンターリフが跳ね回るパートと、テーマ後半のカッコいいキメが連発されるパートの対比が興奮を呼ぶ「アリス・イン・ザ・スカイ ALICE IN THE SKY」や、またまたワルツの、やや抽象的ながら美しくももの悲しい風が体を吹き抜ける「ザ・ピンク・レイク THE PINK LAKE」といった彼のオリジナルの独特のムード、そしてそこでまさにアルバムタイトルのごとく「WALKING IN THE WIND」しているような、爽やかさとは無縁の、ある種の諦観を内に秘めたような軽やかさで舞うソプラノに凄みを感じる人はきっと多いはず。

また、JEANNEAUスタンダードの一つである(そんなものがあるのか?笑)「ZIPPER TEASEUSE」のこれもリタイトル&セルフカヴァー「エゴン・シーレ EGON SCHIELE」では2分弱、テーマしか演奏しないという横綱相撲っぷりで貫禄を見せています。

この2分を聴くだけで、何だかこの人は他とは違ったサウンドヴィジョンを持っていそうだ、と気づきますからね。

それにしても相棒を務めたLENZ、これまでまともに聴いたことがなかったのですが、彼もまた素晴らしいミュージシャンですね!

このアルバムの成功は彼の美しくも毒を秘めたピアニズムなしにはあり得なかったでしょう。

彼の作曲については、結構場当たり的と言うか、アップテンポで突っ走るか単純な構成のものばかりで本作を聴く限りでは何とも言えませんね。

とは言えサンバリズムで疾走する「ヒーロー・ダーリング HERO DARLING」なんかはあまり深いこと考えなければとても気持ちの良い演奏ですけれどね。

あとLENZの作曲ということになっている7拍子の「フー WHO」は途中でエディ・ハリス EDDIE HARRISの名曲「フリーダム・ジャズ・ダンス FREEDOM JAZZ DANCE」の分解メロディが頻発、ああこれはあの変拍子オーケストラの鬼才ドン・エリス DON ELLISのセカンドアルバムからの本歌とりじゃないか!と一人興奮してしまいました。

曲名はきっとオリジナルアイディアは誰のものか判るかな?というLENZからの謎かけなんじゃないかと勝手に想像しています。

それともこのリズムの7拍子で来たから、同じオーケストラの鬼才であるJEANNEAUがメロディを即興で合わせたのか。

妄想は尽きませんね。

気難しげな哲学者的風貌からだんだん好々爺みたいなルックスになって来たJEANNEAUですが、プレイはまだ全然枯れちゃいません!

達人2人による傑作ライヴ、ぜひぜひ聴いて下さい。


Personnel:FRANCOIS JEANNEAU(SS),ULI LENZ(Pf)


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Essence de Rose/Gueorgui Kornazov
(CRISTAL RECORDS CR CD04-16)

バルカン系の音楽って、バルカン風であることだけで充分に良い!と感じさせてしまう恐るべき魔力があるので、バルカン音楽をやっているということにおもねっている作品が結構多いと言うか、それを踏み台にして次のステップへ進んだ作品が少ないというのが私の正直な感想です。

津軽三味線みたいなもので、保守的なありようでもかなり好感触で受け取られるので、しっかり聴き込んでみたら「いや~これって結構どこにでも転がっている演奏じゃん?」みたいなものでも生き残っちゃうんですよね。

もちろん、それはそのシーンの元々のレヴェルの高さがあるのかも知れませんが(少なくとも巷のストリート系の「ゆず/コブクロもどき」よりは百倍もまし)、しかしそれってちょっとさびしいことでもありませんか?

バルカン音楽が高次のものに昇華するキーポイントは他ジャンルとの異種交配かなあと個人的には考えていて、古くはドン・エリス DON ELLISのオーケストラで披露された高速奇数拍子のブルガリア民謡があれほどにクリエイティヴだったのは、もちろんDONと、バンドにそれを持ち込んだ同国出身のピアニスト、ミルチョ・レヴィエフ MILCHO LEVIEVの音楽性が大きかったこともありますが、ビッグバンドジャズというジャンルを異にする音楽とコラボレイトしていたからだと思うのです。

で、今回ご紹介する作品もそんな「ユニジャンル・バルカン」の一つ。

ブルガリア出身のトロンボニスト、ゲオルギ・コルナツォフ GUEORGUI KORNAZOVの04年作品『エッサンス・ド・ローズ ESSENCE DE ROSE』です。

このアルバムは、バルカン音楽とフレンチジャズの融合といった感じの音楽で、KORNAZOVと民俗楽器カヴァルのプレイヤー以外は全員フランス勢で固めています。そのガチンガチンに固めぶりも半端じゃなくて、サックス&クラリネットにステファヌ・ギヨーム STEPHANE GUILLAUME、ギターにエマニュエル・コジャ EMMANUEL CODJIA、ウッドベースにセバスティアン・ボワッソー SEBASTIAN BOISSEAUとスタープレイヤー目白押しです!

「薔薇のエッセンス」とアルバムタイトルにつけるだけあって、強烈にバルカン及びブルガリアの民俗性を押し出したコンセプトを皆良く理解しつつも、自分のプレイはあくまで曲げないといういい意味でのエゴのぶつかり合いがスリリングなグネグネメロディと変則拍子と相乗効果をあげ、素晴らしくテンションの高い内容になっています。

特にGUILLAUMEとCODJIAファンにはたまらない出来で、前者は果てしなく突き進む音速系詰め込みフレイズで突っ走り、後者はアラン・ホールズワース ALLAN HOLDSWORTHフォロワーらしきウネウネ粘着ソロとピッキングタッチを極端にオミットする浮遊系コードワークで、このアルバムの独特のカラーに一役も二役も買っています。

また、持ち味の温かく豊かなタッチを失わずメロディアスにスウィングさせるBOISSEAUもカッコいい!

それに知らない人でしたが、トマ・グリモンプレ THOMAS GRIMMONPREZというドラマーのシャープなプレイっぷりも良いですね。

難解な変拍子でも切れ良くオカズを入れまくるその実力、かなり高レヴェルです。

と、フレンチ陣営が大活躍なのですが、もちろん主人公のKORNAZOVやカヴァルのクラッセン・ルツカノフ KRASSEN LUTZKANOVの超絶技巧も凄くて、前者の重音奏法や同時ヴォイス、高速スライディングを駆使したハイパーテクニカルなアプローチ、後者のシンプルな楽器だけどどんなフレイズでも吹けちゃうぜ的バカテクには唖然呆然。

それでいておのおのの楽器が本来持っている温もりのようなものもちゃんと感じさせるのですから凄い。

この2人の止め処も尽きぬ超絶ぶりを味わいたければバルカン変拍子デュオの「GANKINO HORO」をぜひ。

全体のアレンジもただ単にソロバトルをやっているだけではなく、細かいところまで行き届いていて、それがまたスルメアルバムとしての価値を高めています。

決してバルカン音楽の既自性に頼ったアルバムではありません。

バルカンファンにもフレンチジャズファンにもオススメの作品だと思います。

ところでリーダーのKORNAZOVはフレンチジャズシーンのトップビッグバンド「パリス・ジャズ・ビッグ・バンド PARIS JAZZ BIG BAND」のメンバーだったようで(現在は脱退)、そこからこの仏系コネクションが生まれたのでしょう。

何にせよ、強烈にバルカンでありながら強烈に混血性を感じさせる現代ジャズの異色の傑作です。

これは面白いですよ~。


Personnel:GUEORGUI KORNAZOV(TBN),STEPHANE GUILLAUME(SS,TS,CL,BCL),EMMANUEL CODJIA(EG),SEBASTIEN BOISSEAU(WB),THOMAS GRIMMONPREZ(DS),GEOFFROY TAMISIER(TP),KRASSEN LUTZKANOV(KAVAL)


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リゾーム・ツアー
(ENZO PRODUCTIONS/KANN' PRODUCTIONS 150971)
↓全然評判になっていない、などとのたまっていたら、本アルバムの国内盤も発売され、来日も実現。
カノンジュさん、そして山本さん、軽く見積もって申し訳ありませんでした(笑)。
その記念すべき来日ライヴに行って参りましたので後日アップしますね♪(09/09/15追記)
ライヴレヴューはこちら

DISK UNIONの山本隆さんが大絶賛してたので、そうなるとファン層での扱われ方は推して知るべし、こりゃ流行の後追いみたいに思われるのは嫌だな~と考え慌ててこのアルバムの元ネタ作品(要するにこのライヴはアルバム発表記念ツアーの録音ということですね)『リゾーム RHIZOME (CLICK ME♪)』の記事をアップしたのに、山本さんには申し訳ないのですが全然評判になってないようですね。

リーダーのマリオ・カノンジュ MARIO CANONGEの素晴らしさについては前々から注目していて、彼に目をつけるとはさすがは山本さん、と生意気にも思っていたのですが、話題にならないとそれはそれで何でやねん!というわけです。

我ながら身勝手極まりない(笑)。

こんなに素晴らしいコンポーザー/ピアニストをみなさん、放っておく手はありませんよ。

遅まきながら、何の話題にもならない現状が納得行かないので山本さんの後押しということで本作をご紹介させていただきます。

曲目はスタジオ盤の特に出来が良かった(と私が思っていた)4曲全てを収録という、言うことなしの「痒いところに手が届きよう」で、後の2曲はスタンダードの「ウェア・アー・ユー WHERE ARE YOU」~「星への階 STAIRWAY TO THE STARS」のメドレーと、ビル・リー BILL LEE作曲の、映画『モ・ベター・ブルーズ MO' BETTER BLUES』のアーシーなテーマ曲の全6曲。

スタジオ作は超絶ドラマーのアントニオ・サンチェス ANTONIO SANCHEZの参加が目玉だったわけですが、こちらはアントニオはいない代わりに、ミシェル・ポルタル MICHEL PORTAL、フランソワ・ジャノー FRANCOIS JEANNEAU、アンディ・エムレ ANDY EMLERらフランスシーンの巨匠たちの作品への参加や、何と言ってもザヴィヌル・シンジケート ZAWINUL SYNDICATEへの大抜擢が記憶に新しいハイパーテクニシャン、リンレイ・マルトがエレベでクレディットされているのがミソ。

ドラムのチャーンダー・サージョ CHANDER SARDJOEはよく知らない人ですが、どうやらOCTURNという未来系ジャズプロジェクトのドラマーをやっている人のようで、手数は多いながらも演奏の中のダイナミクスを見逃さない、繊細なセンスを持ったいいプレイヤーです。

彼は南インドのトラッドから音楽を始めたということで、このライヴでもそのルーツをちらっと聴かせるところがあります。

さてこの強力なリズムセクションを得てのトリオツアー、オープニングはぐんぐんと天に昇って行くかのような疾走感と上昇感が感動的な「MANMAN-DLA」。

やり過ぎでは、と思ってしまうくらいうねうねと這い回りコードワークとハイポジションでのソロイックな高速パッセージなどで異様にホップするMARTHEのベースと絡み合いながら極上のサンバグルーヴであのメロディが奏でられるところはやはりいつ聴いても興奮もの。

また、ビジネスを忘れて本気を出しちゃった時のハービー HERBIE HANCOCKと言いますか、いつもの紳士のたしなみをかなぐり捨てたミシェル・カミロ MICHEL CAMILOと言いますか、まあとにかくそういった感じの、アンサンブルに火を注ぐかのような豪快に突進し盛り上げるCANONGEの圧巻のピアニズムも凄いです。

この、どこまでも酔っちゃうぞ的なある種楽天的な突進力こそがラテン系のミュージシャンの底知れぬポテンシャル。

しっかしMARTHEってこんなに凄いベーシストだったんですね。

そのフレイジングのアイディアの豊富さ、そして暴れ回ってもビクともしないグルーヴには恐れ入りました。

彼のアイディア宝箱の途方もない大きさを堪能したければ17分に及ぶ熱演「マディケラ MADIKERA」での超絶ソロをどうぞ。

先に名を挙げたCAMILOの、アンソニー・ジャクソン ANTHONY JACKSON、デイヴ・ウェックル DAVE WECKLとのスーパートリオもラテンオリエンティッド&エレベによる新しいピアノトリオの到来を強く感じたものですが、このトリオの演奏も同様にまた新時代のピアノトリオのあり方を提示しているように思います。

それでいてラストの「MO'BETTER BLUES」に聴かれるようにエンターテインメント精神の徹底も怠っていない。

曲により軽いスキャットが入るものもあって、非常にポップなんですよ。

超絶凄いものを聴かせつつも楽しくライヴに参加出来るというのも魅力ですね。

各人の弾け飛ぶようなテクニックと個性、そして圧倒的な乗りの良さに加え、CANONGEの作り出すメロウで胸キュンなメロディも聴けてまさに鬼に金棒。

山本さんならずとも、このライヴ演奏には心踊るはず。

こんなピアニスト聴いたことないとか言わず、さあどうぞ一度聴いてみて下さい。

難しいことを考えず、ただただ音を聴く楽しみ=音楽に浸れるはずですよ。


Personnel:MARIO CANONGE(Pf),LINLEY MARTHE(EB),CHANDER SARDJOE(DS)

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LIVE IN ASIA HONG-KONG EXPRESS/STEPHANE KOCHOYAN,JEAN-PHILIPPE VIRET,LOUIS MOUTIN

(ABDONE MUSIQUE 441 40001)


私はよく知らないのですが、このステファンヌ・コショヤン STEPHANE KOCHOYANというピアニストは廃盤CDファンの間で結構有名らしいですね。

調べてみるとアンリ・テクシェ HENRI TEXIERとダニエル・ユメール DANIEL HUMAIRという最強リズムセクションとのトリオアルバム『ショッスール・ドゥ・ファム CHAUSSEUR DE FEMMES』というが件の廃盤のようです。

まあ、この作品も私は耳に出来ることはしばらくないでしょう(苦笑)。

しかしそちらに勝るとも劣らないような凄いメンバーでのトリオ、しかもライヴ盤をめためたに安く(525円)で入手しちゃったのでご紹介しましょう。

『CHAUSSEUR~』の録音より8年後の98年、澤野工房からの一連のリーダー作で日本のファンにはおなじみジャン=フィリップ・ヴィレ JEAN-PHILIPPE VIRETと天才ムタン MOUTIN兄弟の片割れルイ・ムタン LOUIS MOUTINという超絶技巧リズムセクションと共に敢行したアジアツアーから、香港でのギグを録音したアルバムです。

オープニングの短いフリーインプロヴィゼイションを聴いて失敗したかな~と一瞬失望したのですが程なくして淡々とした8ビートとミニマルで妖しいメロディが立ち昇る紫煙のように芳しいKOCHOYANのオリジナル「ブルラデーロ・パソ BURLADERO PASO」へと移行し、その独特のリリシズムに、メロディ提示が終わらない内から今度は満足感がじわじわと体を満たして行きます。

本作は全11曲中5曲がKOCHOYAN作、VIRET曲が2曲、LOUIS曲が1曲、あとはドン・チェリー DON CHERRYの「アール・デコ ART DECO」、TEXIERの「レ・ラ=バ LES LA-BAS」、バド・パウェル BUD POWELLの名曲「ウン・ポコ・ロコ UN POCO LOCO」という収録曲となっています。

中でもKOCHOYANの「リトル・シャンソン LITTLE CHANSON」の美しさは素晴らしく、思わずうっとりと目を閉じてしまうほどです。

フランスのジャズにしたらちょっと甘過ぎかな?ってくらいの美メロに酔いましょう。

ラストの「UN POCO LOCO」はあえて高速4ビートの定番路線を避け、やや引きずり気味のアフロ/ラテンビートで突進するところが斬新。

執拗なリフレインをKOCHOYANのピアノが叩きつける中LOUISのドラムが大暴れした後はビートのパターンを変えて土着的でパーカッシヴなパートへ。

KOCHOYANは雄叫びを上げながらプリペアド奏法でデロデロ弾き倒しシャーマニックなムードを作り出しており、こんな「UN POCO LOCO」聴いたことない!って感じで、さすがはひねくれたフランスのジャズミュージシャン、有名曲を採り上げても必ずねじくれてくれます(笑)。

当然観客も大盛り上がり。

メンバー的に言うとこのトリオ、フランスきってのスーパートリオってことになると思うんですが、ちゃんとしたスタジオ録音も残していないようですし、何かもったいないですね~。

このアルバム自体も、ネットを検索してもほとんど情報がないですしね。

いかにも変てこジャズが展開されていそうなチープなオレンジのジャケット&中国語表記も損をしている気がしますが、ジャケの真ん中のメンバークレディットをよっく見て下さい、KOCHOYANを知らなくても、VIRETにLOUISですよ!

ピアノトリオやフランスジャズファンの皆さん、騙されないようにしましょう。

とりあえず名曲「LITTLE CHANSON」がこんなよく判らないレア盤(?)に埋もれたままなのは悲し過ぎます。

タレント的には申し分ないので、どこか再発してくれないでしょうか。

(PARAPHERNALIA 2/QUOI DE NEUF DOCTEUR 21 DOC 029)


ポーランドの定番ピアノトリオ作品を2枚続けてお送りしたので、今度はうちらしく(笑)フランスからほとんどの方がご存知ないような、隠れた財宝的ピアノトリオを。

ピアニスト、ジャック・ラバリエル JACQUES LABARRIEREが実力者のジャン=ジャック・アヴネル JEAN-JACQUES AVENELとジャン=ルイ・メシャリ JEAN-LOUIS MECHALIと録音した95年作品です。

JACQUESは、おそらくフランスアヴァンギャルドシーンの大物ベーシスト、エレーヌ・ラバリエル HELENE LABARRIEREの兄弟か何かだと思うので、聴く前は、安いから購入したもののグジャグジャのフリーとかやっているかもなあ、と危惧していました。

AVENELとMECHALIもそっち系統の録音多いですからね。

しかし、ジャケを見て何となくぴんと来た自分の勘を信じてえいやっ!と聴いてみたらいきなりLABARRIEREの濡れたような美音が耳に飛び込んで来てやったとガッツポーズ。

それどころかAVENELも普段のギスギスしたような演奏ではなく、いい意味でゴリゴリと弦のきしむ音を聴かせつつ非常にメロディアスなプレイで驚かされます。

MECHALIの繊細かつ大胆で、濃密なパルスにも耳をそばだてさせられます。

アルバム通して、凄い名曲があるというわけでもなく、この名ソロを聴け!というような圧倒的な個人技が炸裂するわけではないのですが、知らず知らずの内にグイグイと引き込まれてしまうような魔力がこの作品にはあります。

点描と線描の中間点のような、シンプルと言うのもまだ大げさに過ぎるような印象の淡いメロディがつながっていくコンポジションが妙な訴求力を発揮していますしまた、各人の一世一代といった感じの美音美演を際立てるのにも役立っているような気がします。

もちろんこのメンバーですから、アヴァンな味は当然あります。

隠し味トラックとして、エフェクトをかけたエレピで自由に宙を泳ぐ未来派電子音楽みたいな曲もあります。

しかしそれがこんなに美に関与するパターンがあるなんて、ちょっと私は驚いています。

少しきつすぎるくらいの香辛料の複雑な味わいが、官能にも似た快楽を呼び起こすのと似ているでしょうか。

ですがそれもまた聴いた「その時」の印象で、シンプルと思っていたメロディが妙に感動的な、朗々としたそれに感じる時があるのも不思議。

こちらの想像を超えた複雑さ、奥深さを持った凄いアルバムです。

いつ聴いても彼ら3人の意図するところ、そして無意識の内に成し遂げられ生まれ出てしまったものの氷山の一角しか見せてくれない。

ポーランドの新進気鋭トリオ、RGGも少し似たようなテイストかも知れません。

エリック・ドルフィ ERIC DOLPHYの名曲「ミス・アン MISS ANN」を引用した「ポスタ・ドルファ POSTA DOLPHA」での煙に巻いたようなLABARRIEREの調性を崩したソロやMECHALIのバラの棘のような美しくも突っ張ったプレイ、ヨーロッパの最上級の美演トリオとしての面も堂々と押し出して遜色のない「クァトル・ア・トロワ(ラ・ショーズ・アンルーレ) QUATRE A TROIS(LA CHOSE ENROULEE)」、ゲストヴォーカリスト、クリスティーヌ・コンブ CHRISTINE COMBEのふわふわしたスキャットと音響派みたいなイントロ、ドリーミーと言うよりは催淫的なキーボードのデュオによるこれまでにないテイストのウェイン・ショーター WAYNE SHORTER「ネフェルティティ NEFERTITI」のカヴァーなどなど、どっぷりとはまり込めるナンバーが満載の60分。

はからずも「テイスト」「味」という言葉を多用してしまいましたが、そう、このアルバムの聴後感は「味覚的」なのかも知れません。

曖昧模糊として、それでいて強烈な。


Personnel:JACQUES LABARRIERE(Pf,KBD),JEAN-JACQUES AVENEL(WB),JEAN-LOUIS MECHALI(DS),CRISTINE COMBE(VO)

(REGION CENTRE/LE COEUR-DE-FRANCE JJR 4501)


木管奏者で、映画音楽などの作曲家でもあるジャン=ジャック・ルールマンが率いるビッグバンドのアルバムです。

90年の録音。

1ユーロで手に入れちゃいました♪

この作品にはゲストとしてまだブルー・ライン BLUE LINEというレーベルに所属していた駆け出しの頃のジャン=ミシェル・ピルクの他、キレキレの頃のドミニク・ピファレリに加え、両人とも知らない人ですがポール・ダヴィというギタリスト、コリンヌ・シュヴォーシェという女性のヴァイオリニストも参加しています。

購入前はジャケに載っているピファレリの名前に惹かれたという理由だけで飛びついたのですが、届いてからよく見るとピルクは参加してるわ、さらにはメンバーが凄腕含有率は高いわで結果的に非常にお得なお買い物でした。

木管陣にはリシャール・フォイやピエール=オリヴィエ・ゴヴァン、ピアノはフランソワ・クテュリエ、パーカスには名盤請負人フランソワ・ヴェルリ。

しかもタイトル曲はもちろんあのチック・コリア CHICK COREAのワルツの名曲!

期待するなと言うのは無理な条件が整っちゃってます。

オープニングナンバーはいかにも映画音楽をやるコンポウザーらしい、スペクタクルに満ちたポップなメロディの「ピク=ニク PIQUE-NIQUES」。

軽快なピアノのコンピングとパーカッションに導かれて浮遊感に満ちた旋律がサックスによって奏でられる時、私は朝日が昇るさまを思い描きます。

ところが曲展開は地球レヴェルを飛び越え、ビッグバンドならではの大仰なキメが途中にガシガシはさまれ、ダヴィのエフェクトを効かせた軟体無重力ギターがソロをとると一気に気持ちは大気圏外へ。

この飛翔感2段階効果は相当に気持ち良いです。

また、このアルバムの魅力はそういうダイナミック系のナンバーだけではなく、ミニマルなアルペジオをビッグバンドが優しく繰り返す中をやや抽象的で、それでいてノスタルジックなメロディがトランペットとヴァイオリンによって綴られる「オンブル・パート2 OMBRES PART2」やピファレリとクテュリエをフィーチュアしたロマンティックな印象派的二重奏曲「メロディ・プ・ヴィオロン・エ・ピアノ MELODIE POUR VIOLON ET PIANO」、不協和なサウンドながら大河のようなたおやかで豊かな響きを持った「コーダ CODA」などの小品がピリリと光っているところ。

お目当ての「ウィンドウズ」はルールマンの手練手管によって見事なまでのシンフォニックジャズに生まれ変わっており、ピルクのテクニカルなシンセソロや後半のマルク・ミシェルの強靭でメロディアスなソロも含め、一篇の映画を観たような満足感が味わえる一大サウンドスペクタクルになっています。

メランコリックなチェロとリリカルなピアノが絡み合いすすり泣くメロディパートから、ルールマンのソプラノサックスのソロで次第に盛り上がって行く「レ・ボルド LES BORDES」も素晴らしい!

全然知らない作品でしたが、シンフォニックでクラシカルでプログレッシヴで、それでいてジャズスピリットにも溢れたむちゃくちゃに贅沢な傑作。

これだからフレンチジャズ探訪はやめられないのです。


Personnel:JEAN-JACQUES RUHLMANN(SS,FL),PIERRE-PLIVIER GOVIN(AS,FL),JEAN-REMI GUEDON(TS),RICHARD FOY(BTNS,BCL),VINCENT MOMPLET(TP),DAVID LEWIS(TP),PHILIPPE DESMOULINS(TBN),SYLVAIN FLEURY(TBN),MARC STECKAR(TBA),AURELIE VERRIER(CEL),FRANCOIS COUTURIER(Pf),LAURENT DESMURS(SYNTH),FRANCOIS VERLY(PERC),GILBERT LACROIX(DS),MARC MICHEL(WB,EB),DAMIEN GUFFROY(EB),DOMINIQUE PIFARELY(VLN),PAUL DAVIES(EG),JEAN-MICHEL PILC(SYNTH),CORINNE CHEVAUCHE(VLN)

(HOT CATS MUSIC PRODUCTIONS HCM6870)


以前ルーマニアのサックス奏者ニコラス・シミオン NICOLAS SIMIONの『パリス=トランシルヴァニアン・エクスプレス PARIS-TRANSILVANIAN EXPRESS』というアルバムが気になっている、ということを記事で書きました。

ポーランドのトランペッター、ピョトル・ヴォイタシク PIOTR WOJTASIKと元プリスム PRYSMのバカテクドラマー、バンジャマン・エノクとの共演の上、大好きな楽器ヴィブラフォンが参加しているからです。

で、その『パリス~』でマレットを操っていたのがこの人、ダヴィド・パトロワ。

この作品は97年の彼のリーダー作で、何とエノクの他、やはり元プリスムのベーシスト、クリストフ・ワレム、さらにはフレンチジャズ界隈でしばしば話題を呼ぶ実力派サックス奏者のシルヴァン・ブフも参加しているという強力盤。

ギター奏者も加わってのクィンテット編成による本作、はてさてどんなサウンドでしょうか。

そうですねえ、アグレッシヴなアコースティックジャズとフュージョンライクなカラッとしたメロディとの融合、という感じでしょうか。

そう書くと何だかお軽い音楽のように感じられてしまうかも知れませんが、エノクの怒涛の叩きまくりと、あまりにも高い技巧レヴェルのために導入されてんだか何なんだか判らないくらいのスムースな変拍子がじわじわと効いて来る、まさに現代フレンチジャズここにありといった内容です。

ある意味アメリカナイズされたメロディセンスは好き嫌いが分かれるところでしょうが、演奏のクォリティとメロディアスなプレイの応酬はまさにこの国のジャズならでは。

どうしてこの手のサウンドでウッドベースゴリゴリにジェフ・テイン・ワッツ JEFF TAIN WATTS的超推進型ドラミングなんだ、と突っ込みたくなるリズムセクションの雄弁さ、アンバランスネスが面白いんですよね。

逆にブフの方はしっかりとコンセプトにアジャストしたプレイで、フレクシビリティを見せ付けています。

マイケル・ブレッカー MICHAEL BRECKERやボブ・バーグ BOB BERGに近い感じでしょうか?

いつもとはちょっと違う方向性の演奏でも凄いクォリティ。

全ての作曲も担当するリーダー、パトロワはまあいいプレイヤーなんじゃないでしょうか。

4マレットで厚いハーモニーも、スピーディでメロディアスなアドリブも難なくこなすスマートな感じ。

技巧的な盛り上がりは作るんですけれど、熱狂からは一歩距離を置いたクールなパーソナリティの持ち主です。

ギタリストのフレデリク・ファヴァレルもパトロワと似たような系統で、テクニック的に余裕を持ちつつさらりと難しいパッセージや過不足ないアドリブを決めて行くタイプ。

でも時々ギンギンにエフェクトをかましたりもします。

このバンドはきっとこれでバランスが取れているのでしょうね。

トータルでいかにも「現代の」って感じのフレンチジャズ。

非常に都会的で、テクニックの粋を尽くしながら決して暑苦しくはならないサウンド。

プリスムファンの方、マレットファンの方は要チェックのアルバムです。


Personnel:DAVID PATROIS(VIB,MARIMBA),SYLVAIN BEUF(TS),FREDERIC FAVAREL(EG,AG),CHRISTOPHE WALLEMME(WB),BENJAMIN HENOCQ(DS)

(PEE WEE MUSIC PW 024)


フランスと言えばクォリティの高いビッグバンド産出国の最右翼ですが、その土台を作って来たのは60年代のマルシァル・ソラル MARTIAL SOLALやジェフ・ジルソン JEF GILSONの活動、そして70年代から80年代にかけては、本作の音楽監督の一人となっているフランソワ・ジャノーだと言えるでしょう。

このル・ポンはジャノーとアンディ・エムレ、そしてフィリップ・マセの3人が共同で音楽監督を務めるビッグ・バンドで、本作はセカンドです。

ファーストは1年前の97年に同じピー・ウィー・ミュジクから出ています。

3人以外ににもフィリップ・セラン、フランソワ・テュイイェ、ドゥニ・ルルー、ダヴィド・シュヴァイェら中堅どころの名手が多数参加、さらにはニコラ・フォルメ、ステファヌ・ユシャールといった新世代の超絶テクニシャンの名も嬉しい限り。

全10曲収録で、1曲テュイイェの曲がある以外は全て音楽監督たちのオリジナル。

内わけはジャノー4曲、エムレ3曲、マセ2曲です。

オープニングから長尺のジャノーによるタイトル曲で勝負をかけてきます。

テーマは、70年代から自らが打ち立てて来たビッグバンドマナーに沿った、やや抽象的なメロディとアンサンブルのハーモニー、そしてスコアという空間を縦横無尽に飛翔するかのような彼独特のミニマルで妖しい美しさを放つカウンターメロディが交錯する、いかにもジャノー!といった感じの前半部、そしてドラムが入って来てからの、彼にしてはスウィンギーで情熱的なメロディの対比が良いですね。

アドリブは6拍子のジャズロック的ビートで、ルルーの短いながらも説得力のあるソロと、バンドのガンガン入って来る合いの手と鍔迫り合いを演じるエムレのピアノソロがあります。

イントロのねじくれたコンピューターミュージックみたいな、短いチューニングのようなパートも面白い。

現代フランスビッグバンド史を総括したような内容のトップナンバーに続くエムレの「レヴトワ・エ・ジュー LEVE-TOI ET JOUE」は、一気にハイパーモダンに進化した強迫的なクラブ系ビートとプログレッシヴでノイズィなアンサンブルがカッコ良過ぎのバカテク系。

スラップビシバシのランレイ・マルトのエレベ、、ギュワンギュワンとヒステリックに唸りを上げるシュヴァイェのギター、そしてエムレお得意の雪崩落ちるような高速ユニゾンなどが炸裂する楽しい曲です。

セランのアルトソロの前半部の、ユシャールとマルトだけのテクニカルなバッキング、後半部のエムレ以下全員が押し寄せる津波のように追い込みをかけるカウンターパートも最高!

ラストの「オー!」という掛け声みたいなのもエムレのバンド、メガオクテット MEGAOCTETみたいで、「ここでもかい!」と突っ込みを入れたくなりますね。

はっきり言ってこの2曲だけで十分元が取れてしまうという傑作なのですが、まだありまっせ。

続くエムレの「ラ・バラド・ドゥ・メンシップ・フリーティングズ LA BALLADE DE MENSHIP FREETINGS」が美メロワルツでいいんです。

シュヴァイェのアコギの音色が効いた、微妙にアジアっぽい可憐な旋律は忘れられないものがあります。

でも中間部は思いっ切りシンフォニックに盛り上がるんですけれどね(笑)。

しかしいい曲です。

インパクトで言えばその3曲なんですが、他のどの曲も、1分程度の曲ですら凝りに凝った編曲とシカケが満載で、切れが良いテクニカルなメンバーの演奏もあって何度も楽しめます。

この「一筋縄ではいかない」ところがジャノーが積み上げて来たフランスビッグバンドの驚くべきクォリティの源なんですからね。

良さがよく解らないと言われることが多いジャノーの音楽ですが、このアルバムはそんな中でも比較的ポピュラリティがある方じゃないでしょうか。

フランスのビッグバンドやジャノーに興味がおありの方はぜひどうぞ。


Personnel:FRANCOIS JEANNEAU(SS),ANDY EMLER(Pf),PHILIPPE MACE(VIB),JEAN-CHRISTOPHE BENEY(TS),DAVID CHEVALLIER(EG,AG),NICOLAS FOLMER(TP),JEAN GOBINET(TP),STEPHANE HUCHARD(DS),DENIS LELOUP(TBN),LINLEY MARTHE(EB),CHRISTOPHE MONNIOT(AS,BTNS),JEAN-PHILIPE MOREL(WB),PHILIPPE SELLAM(AS),PHILIPPE SLOMINSKI(TP),FRANCOIS THUILLIER(TBA)

(OWL RECORDS 063CD 3800632)


フランスのシーンで70年代前半から活躍し続けるイタリア人の名ドラマー/名作曲家、アルド・ロマーノの91年作。

再発著しいアウル・レコーズの作品群の中でも未だに再CD化されないレア盤の一つとして知る人ぞ知る存在です。

フランコ・ダンドレア、フリオ・ディ・キャストゥリ、パオロ・フレズと、主要メンバーは全て故国イタリアの代表的ミュージシャンで固めています。

このバンドはベースをミシェル・ベニタ MICHEL BENITAに替えたりしながら、何年も続いて行くことになります。

本作が同バンドの他の作品と違うのは、パーカッションのピエール・マルコーが参加してカラフルなサウンドになっていること。

と言ってもロマーノのこと、安易なラテン系とかワールド系に走ったりしていないのはもちろんです。

また、ロマーノとダンドレアが本職以外にシンセを時々弾いて「うっすらシンフォニック」なサウンド作りをしているのも特徴でしょうか。

シンセぇ~?とがっかりされる方は多いかも知れませんが、パーカスとシンセの使用のおかげで摩訶不思議なムードを持ったアコースティックアンサンブルに仕上がっていると思いますよ。

全曲その編成というわけでもありませんし。

まあまずはベースラインが問答無用にカッコいいオープニングナンバー「リンク LINK」でキメていただきましょう。

この曲はパーカス抜き、シンセもなしの掛け値なしの純正アコースティックジャズアンサンブル。

ミュートで雄弁なメロディアスアドリブをとるフレズも最高なら、ノンコードの状態からダンドレアの入って来るタイミングも完璧。

コーン、とピアノのコードが響いた瞬間「うーむ」と言って快感にのけぞること必至。

最後にチラッとだけフレズがペットにハーモナイズエフェクトをかけるのも憎いですね。

む、久しぶりに例の自作格言を一発やりたくなりました。

「オープニングナンバーが傑作なものに駄作なし!」

2曲目の「ア・ジョアオ A JOAO」(多分ジョアォン・ジゥベルト JOAO GILBERTOに捧げたものなんだと思うのですが)はシンセとパーカスが入って来ますが、同時期のミシェル・ペトルチアーニ MICHEL PETRUCCIANIを彷彿とさせるような、南欧の抜けるような青い空をイメージしてしまう広がりのあるラテンサウンドで、さすがはロマーノ。

このアルバム、構成的にはアコースティック路線とシンセ&パーカス入りとのサンドイッチ、ということになるんだと思いますが、後者の方がかなりヴァリエイション豊かなのでものすごーくお聴き得感があるんですよ。

例えば「ファング・ダンス FANG DANCE」は抽象的なパーカスとシンセとのデュオ(でも凄くカラフルであったかいムード)ですし、8分以上に及ぶタイトル曲はフランスの鍵盤奏者ミシェル・グレイェをシンセに迎えての、まさにドリーミーで水の中をたゆたうようなリリカルなナンバー、という風に。

反対にアコースティックなパートはどうかと言うと、こちらはこちらで佳曲揃い。

ダンドレア作曲で、ピアノトリオで演奏される高速の「ダンシング・マーチ DANCING MARCH」からは春の訪れに自然の生命力が弾け跳びステップするかのようなうきうき感が、キャストリ作の「ダンス・ウィズ・ミー DANCE WITH ME」からははそばに寄り添うようなフレズの音色と落ち着いたボッサムードが演出するシャイなあの頃のほのかなドキドキ感が胸一杯に感じられます。

今気付いたんですが、このアルバム、中心メンバーの全員がオリジナルを提供しているんですね。

しかもオールオリジナル。

こういうアルバムはいいんですよねえ。

最初の「リンク」以外はそんなに強烈な印象を与えるナンバーはないんですが、その代わり全ての曲がほのかに良い感じを残す、そんな日常の1曲っぽい「チョイ悪」ならぬ「チョイ○」ムード。

曲の印象がやや薄い代わりに全員の素晴らしい名手ぶりが堪能出来ます。

考えてみれば、ヨーロッパを代表する凄腕ばかりなんですからねえ、このバンド。

のんびりとじっくりと末永くお付き合い出来る1枚。

なのでアウルさん、早く再発して(笑)!


Personnel:ALDO ROMANO(DS,SYNTH),PAOLO FRESU(TP),FRANCO D'ANDREA(Pf,SYNTH),FURIO DI CASTRI(WB),PIERRE MARCAULT(PER),MICHEL GRAILLIER(SYNTH)

(PHONOGRAM FRANCE/PHILIPS 846 657.2)


アンドレ・チェッカレリという現代ジャズシーンを代表する素晴らしいドラマーから、リスナーとしての私はどれだけの恩恵を受けていることでしょう。

彼の参加作、そして彼に関わった人を追うことで、自動的にフランスのジャズの名作を芋蔓式に聴くことが出来たのですから。

抜群のテクニックを持ちながら、いや、持っているからこその巧みなダイナミクス操作であくまで「優れた抑え手」でいる彼は、そのアイデンティティを存分に活かせるサイドミュージシャンとしての活動の方がアルバムも多く情報も得易いというのが実情で、彼のリーダー作に関しては最近のものを除いてはこの日本ではあまり語られて来なかったという気がします。

その原因の一つに、初期の作品の入手の難しさが挙げられるでしょう。

今回ご紹介する90年作品のこのサードアルバムも、大変にレアで、先日偶然に安く購入するまでは高嶺の花のようなCDでした。

ピアノ&シンセ奏者のティエリー・エリエとエレクトリックベース奏者のジャン=マルク・ジャフェとのトリオが中心で、ゲストでハーモニカゴッドのトゥーツ・シールマンス、若手(当時)の要注目トランペッターで種々の作品でチェッカレリと共演しているエリック・ルラン、そして現在に至るまで長い長いコラボレイションを築いているジャズ界を代表するスキャッターの一人、ディー・ディー・ブリッジウォーターらが参加しています。

こうやってずらずらと面子を並べ挙げるだけでもたまんないじゃないですか!

ああ、どれだけ聴きたかったことか。

さてさて、オープニングはスタンダードの名曲「インヴィテイション INVITATION」から。

チェッカレリの切れとコクのある快感スティック捌きが存分に味わえる高速ジャズサンバに乗せて奏でられるイントロがまず痺れます。

テーマがシンセなのが、まだ彼がプログレ/ジャズロック路線を引きずっていた残滓を感じさせるのですが、決してお軽い音楽になってはいないのでまあ良し。

アドリブに入ってからは4ビートになり、エリエの疾走するソロ、ジャフェのプリプリしたエレベランニング、そしてガンガン叩きまくりながらも凄まじい切れ味でうるさくならないチェッカちゃんの素晴らしいトリオプレイが堪能出来ます。

彼お得意の粒の揃いまくったロールからシンバルパシーン!のタイミングを見計らって叩き真似をし、バッチリ当たるともう悶絶ものの快感(笑)。

時々キメが入るのもカッコいい!

のっけからやられまくりですが、続くタイトル曲はヴォコーダーによる温かいサウンドで天国的メロディが綴られる、これもサンバ系のナンバーで、体がだんだんフワフワと宙に浮かんで行くような気持ちの良い佳曲。

後半で突然歌ものになって、フランスのベテランシンガー、クロード・ヌガロが気だるく歌うのがまたその浮遊感を倍加させている気がしますね。

ウェイン・ショーターの超名曲「フットプリンツ FOOTPRINTS」ではあの有名なベースラインをちょっとひねって、リズムをよりファンキーにしている感じ。

しかしこのトリオ、ピアノソロに入ってからの推進力が向かうところ敵なしです。

後半に突如ゲストのフィリップ・セスによる近未来的なシンセのアドリブが乱入してくるのも、ショーターの宇宙的サウンドヴィジョンに合っているような気がするのでこれもまた良し。

いきなり感動的なピアノイントロから始まり、エリエのリードヴォーカル&多重録音コーラス(これがまた巧い!)で後半にシンフォニックに盛り上がる「ヒズ・ラヴ HIS LOVE」も短いながらも箸休め的な、なかなかの佳曲。

「セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン SEVEN STEPS TO HEAVEN」ではあのお間抜けなテーマはなかなか現れず、ルランを加えたクァルテットで丁々発止の探り合い&インプロの爆走を経てやっとメロディが奏でられる凝った構成。

ピアノソロ部では例によってチェッカレリトリオの最強レヴェルのユニットとしての強度が発揮されており、エリエは感極まって口笛を高速アプローチにユニゾンさせるわアヘアヘ唸りながら弾き倒すわのやんちゃぶり。

テーマの終わり方も少しひねってあって良いです。

お待ちかねディー・ディー参加の「ア・ニュー・ディグリー A NEW DEGREE」は何とアントワーヌ・エルヴェがアレンジしたビッグバンドも加わったゴージャスなナンバー。

もちろん彼女はスキャット飛ばしまくりで、エルヴェならではのテクニカルでシャープなアプローチもピリッと隠し味的に効いています。

このビッグバンド、多分同時期に彼が音楽監督を務めていたオルケストゥル・ナシオナル・ド・ジャズ ORCHESTRE NATIONAL DE JAZZだと思うのですが、恐らく契約の関係でクレディットがないので判りませんね~。

最近の渋さが加わったチェッカちゃんの演奏も素晴らしいのですが、この頃の若気の至りと彼ならではのドラム哲学がある意味危ういバランスを保った上に成り立った、テクニカルこの上ないのになぜかさっぱりとした後味を残すというフレンチジャズの真髄のようなサウンドもまた良きかな良きかな。

随所にフュージョンっぽいサウンドが展開していますが、全部アコースティックだとそれはまたしんどかったかなあという感じもするので、当時の彼なりに計算し尽くした作品だったのだと思います。

何にせよ気持ちのいい作品であることは間違いないのでぜひ再発して欲しいですね~。


Personnel:ANDRE CECCARELLI(DS),THIERRY ELIEZ(Pf,KBD,VO),JEAN-MARC JAFET(EB),ERIC LELANN(TP),CLAUDE NOUGARO(VO),PHILIPPE SAISSE(KBD),DEE DEE BRIGDEWATER(VO),ANTOINE HERVE(ARR),TOOTS THIELEMANS(HCA)