SUN DANCE/藤本一馬

AGA ZARYAN アガ・ザリヤン初来日公演を見に行った9月4日は忙しい日で、本人たちと談笑した後は渋谷に向かい、ネットやツイッターで話題沸騰のアルバム『SUN DANCE サン・ダンス』の藤本一馬さんのライヴ。

なぜはしごまでしてその日に見に行くことになったのかと言うと、当日は藤本さんのギターとウッドベースとのデュオでの演奏で、そのベースを私の大学のジャズ研の1年先輩の工藤精さんが担当しているから。

当然アルバムの方でもメンバーです。

工藤さんが藤本さんのポップユニット、オレンジ・ペコーのツアーメンバーになった、という話は何年か前から聞いていて、ずいぶんメジャーなところにも顔出しするようになったんだなくらいには思っていました。

ところが、この藤本さんと工藤さんの出会いは、やがて非常に強い音楽の絆で結ばれるようになり、日本が世界に誇るべきアコースティックでユニジャンルな傑作『SUN DANCE』に結実することになったのです。

発売当初から凄い凄いと噂されていたので、You Tubeで探してみたらライヴでの映像があり、見たら一発ではまってしまって。

私はジャズに飽きた頃があって、その時かわりにはまったのがDAVID GRISMAN デイヴィッド・グリスマンらのアコースティック・スウィングやブルーグラスなんです。

正直、その素晴らしさに「もうジャズなんかいいや」と思ってしまったくらいです。

そんなこんなでこの種類の音楽は元から好みでしたし、何より工藤さんのベースの存在感と言うか、この音楽へのはまりっぷりがこれまた凄いような気がして、早速購入しました。

藤本さんが愛するECMやブラジルのEGBERTO GISMONTI エグベルト・ジスモンチ的なサウンドヴィジョンを土台に、日本人らしいシンプルなメロディセンスも加味した、ハイレヴェルなアンサンブルながら非常にリラックスして聴くことが出来る不思議な音楽です。

長年の愛聴盤になるだろうことがすぐわかりました。

そんな藤本さんが工藤さんと共にライヴをするというのです、これは後輩としても一音楽ファンとしても行かないわけにはいかんでしょう。

ライヴ会場の渋谷BAR MUSICはかなり判りにくいところにあるビルの5階にあり、元カフェ・アプレミディの店長でいらっしゃったDJ中村智昭さんが店主をやっておられるという、私みたいなダサダサ人には少々敷居が高いオサレカフェ。

AGAとの初会話の緊張も覚めやらぬままにビクビクして入店したら、早速リハ中の藤本さんと工藤さんの姿が。

あのサウンドが、打ち合わせ状態ながらも早くも鳴り響いています。

工藤さんによると、この藤本さんとのユニットは「お互い思いっきりやらせてもらってありがとう」という音楽なのだそうです。

そう、一人ひとりのプレイがどうこうより、バンドサウンドとして非常にまとまっていて、まず音楽のベクトルそのものがしっかりと聴き手に届く感じで、コミュニケイションがしっかりとれたアンサンブルが大好きな私が反応したのもそこだと思うのです。

この日は2セット続けて見られるということで、『SUN DANCE』からの曲を中心に演奏したファーストセット、新曲を中心にしたセカンドセット両方見ました。

藤本さんは3種類のギターを使い分けながら、ムチャクチャでかい手による自在のコードワークとブラジル&スパニッシュタッチのアドリブを快調に飛ばし、工藤さんはメロディアスなフレーズとゴリゴリしたリズミカルなタッチをバランス良く織り交ぜながら、とてもデュオとは思えないサウンドの豊かさでたっぷり楽しませてくれました。

アルバムからの曲の演奏も録音とは違って非常に刺激的だったのですが、それ以上に新曲の素晴らしさが際立っていたように感じました。

藤本さんにもそれをお伝えし、ぜひ次回作を録音して欲しいとお願いしました。

それにしても、工藤さんはやはりリズムの人なんだな、と強く感じた次第。

大学時代からノリの良さを評価されていましたが、ベースの一音一音が打楽器の音の上に乗せられているように、熱くグルーヴしています。

彼にとって、いかにリズミカルにベースを弾くか、というのはとても大事な点なのだと思いました。

また、藤本さんの曲は生で聴くと余計にそう感じるのですが、懐かしい自然の風景を思い起こさせはするのですが、そのイメージの中にいる人物はいつも一人ぼっちなような、そんな淡く不思議な孤独感も伴っているような気がするのです。

まあご本人は否定するかも知れませんが。

そういうイメージが湧くのは、彼のギターの音が美しいからかも。

人間くさい躍動感と、祈りにも似た孤高の、磨かれた響きが合いまった音色。

あと、時々やるチョップみたいな独特のカッティングも面白いですね~。

かき鳴らすようなアプローチがとても多いのに全然うるさくならないのも彼の音楽の特徴かも。

あとは、曲構成がシンプルなんだか複雑なんだかよく判らないところもいい。

今回はデュオでしたが、本来は岡部洋一さんという日本が誇る名パーカッショニストとのトリオ編成なので、今度はトリオでの演奏もぜひ聴いてみたいと思いました。

それにしてもセカンドセット最後の曲、曲紹介では「よっこらそ」と聞こえましたが、カッコいい曲でしたね~。

セカンドアルバムにぜひぜひ収録して欲しいものです。

世界的にも充分アピールする音楽だと思うので、ぜひワールドツアーにも出て欲しいですね。


今回はひさしぶりに会ったということもあって工藤さんとは色々お話しました。

私は自分のすぐ近くから出たプロ奏者ということで、彼の存在にはとてもコンプレックスを感じさせられていたのですが、自分もプロになりたい!という希望を葛藤の末あきらめられたことと、今やっている仕事に自信を持っているということもあるのか、心から工藤さんの演奏を楽しめたのがとても嬉しかったのです。

また、藤本さんとも音楽のお話をして、結局音楽を愛している者同士に演奏者であるとか書き手であるとかの垣根は、自分が思っていたほどにはないのかもな、とも思いました。

藤本さんがとても気さくで丁寧なお人柄だった、というのもあると思いますが。

BAR MUSIC店主の中村さんも超有名なDJなので話しかけるのをためらっていたのですが、工藤さんが気を利かして「こいつ俺の後輩でポーランドのジャズについて書いているんですよ」と色々な人に紹介してくれたのですんなりお話出来ました。

中村さんも大変に腰の低い、いい方でした。

「店が呼んだCD」って名言ですね♪

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これはCD化されてないといけないだろう、という見本のような作品がこれ。

ドーグ・ミュージックの創始者デイヴィッド・グリスマンの80年作で、ダロル・アンガー、マイク・マーシャルの黄金コンビ、ブルーグラスの天才児マーク・オコナー、テク抜群のウッドベーシスト、ロブ・ワッサーマンという最強のメンバーが勢ぞろいした唯一のアルバムです。

グリスマンのソングライティング能力も頂点に達したまさに絶頂期で、各人のアドリブやアンサンブルもはっきり言って同時代のほとんどのジャズバンドがひれ伏すしかないような充実度を誇っています。

何にしてもこのグルーヴは凄い。

本家のはずのジャズがスウィングしているだのしていないだの、アコースティックだの電化だのと4ビート論争で下らない盛り上がり方をしているのを尻目に、はるかに明確にスウィングしてみせているんですからたまりませんね。

オープニングの名曲「ドーグマ DAWGMA」から快速で突っ走ります。

メロディが湧き水のようにとうとうと生まれ出るメンバーたちのアドリブ交換が物凄いスリルです。

「枯葉」のコード進行を拝借した曲なので、こういうフレイズ展開があるんだ、とジャズリスナーやプレイヤーは違う楽しみ方も出来るのではないでしょうか。

続く「バウ・ワウ BOW WOW」ではイントロにベートーヴェンのピアノソナタ第3番ハ長調からのトランスクリプションを違和感なくドッキングさせ、ドーグがジャズやクラシック、ボッサやラテンなど非常に幅広い要素を巧みにミックスした音楽であることをアピールしています。

テーマが微妙に引用されたソナタに似ているのが憎いですね。

本作の最大の聴きものは3曲目の激渋哀愁メロのミドルテンポのサンバピース「バークリーズ・バグ BERKLEY'S BUG」のカッコ良さ、グリスマンの盟友ジョー・カーリーニ JOE CARLINI作曲のハードボイルドなサンバ「ムガヴェーロ MUGAVERO」、そして11分にも及ぶ「タイランド THAILAND」でしょう。

特に「タイランド」におけるアンガーの、バッハの無伴奏パルティータのようなアプローチを含むロングソロの超絶ぶり、そしてそれに続くキメリズムをバックにしてのグリスマンのキレっぷり、そして合図のリフを一旦挟んでブレイクしてから一丸となってクライマックスに向って疾走する怒涛のスリル感のカッコ良さ!

11分などあっと言う間に過ぎてしまいます。

アコースティックミュージックが成し得た最高の到達点がこの曲にあるのではないでしょうか。

グリスマンの面白いところは、こんなに凄い音楽を聴いたのにお腹いっぱいにならないこと。

さっくりした聴後感で何度も聴けてしまうのだなあ。

どうしてこの作品がCDにならないのでしょう。

アンガー=マーシャルの名盤『デュオ DUO』もCD化されたことですし、この辺でぜひ!


Personnel:DAVID GRISMAN(MANDOLIN),DAROL ANGER(VLN,E-VLN,CEL),MIKE MARSHALL(MANDOLIN,AG,VLN),MARK O'CONNOR(AG,VLN),ROB WASSERMAN(WB)

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Al DiMeola, John McLaughlin, Paco DeLucia
Friday Night in San Francisco

ALL TITLE:FRIDAY NIGHT IN SAN FRANCISCO

毀誉褒貶様々なこのアルバムですが、これってジャズなんでしょうかね?

私にはどう聴いても「ブルーグラス」や「ドーグ」などのいわゆる「アコースティック・スウィング」の亜種であるような気がしてならないんですよ。

正直申し上げて、最初は私も種々のレヴュー本などの評価内容を鵜呑みにし、初めて聴いた時は「何だ、テクニックの見せつけ合いか・・・」と感じました。

しかしだいぶ後にデイヴィッド・グリスマンらの音楽を聴いてからこのアルバムを聴くと、全く違って聴こえたんですね。

この通称「スーパー・ギター・トリオ」の売りということに世間ではなっている超絶技巧のソロバトルは、むしろこのバンドの音楽にとっては刺身のツマのようなものなのではないのか?と感じたんです。

確かに、後に本人たちも認めているように、テクニックの競い合いや悪い意味でのライヴァル意識も当然あったと思います。

でも、たった3本のアコースティックギターによって紡がれる圧倒的に豊かなアンサンブルは驚異的です。

非常に難易度の高いメロディを苦もなくユニゾンし、素晴らしいグルーヴ感でバッキングやカッティングをし、よく聴いてみるとアクロバットのように複雑な曲構成をまるで手慰みに弾き始めた、みたいなスムースさで、しかも息を合わせて弾いているのです。

技巧に余裕がないと絶対に出来っこない、まさにマエストロの音楽。

そういうアンサンブルとしての素晴らしい完成度があって初めてあのソロが成り立つのだと思います。

後にアコギジャズブームを起こしたこと、スペインの天才パコ・デ・ルシアやフラメンコ音楽を世界に知らしめたことなど色々このアルバムの歴史的意義は大きいものがありますよね。

今このアルバムを聴くと、私はむしろバッキングで他の2人が何をしているか、アンサンブルのアレンジがどうなっているかに注目してしまいます。

ソロに気が取られている段階では見えて来なかったこのバンドの音楽の豊かさを痛感します。

「地中海の舞踏」やエギベルト・ジスモンチの「フレーヴォ」など独特の個性を持つ名曲も収録していますしね。

個人的にはやっぱりパコが好みかなあ。

彼のソロフレイズのリズムの伸縮センス、盛り上がる時の圧倒的な音数、そしてバッキングの超絶的なグルーヴ感。

やはりカリスマですよね。

このバンドのクォリティの高いパフォーマンス、今一度見直して欲しいなあという思いでいっぱいです。

一時間以上に渡るライヴ映像 も発見しちゃいました。

チックの「スペイン」なんかもやってます!


Personnel:AL DIMEOLA(AG),JOHN McLAUGHLIN(AG),PACO DE LUCIA(AG)

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(WINDHAM HILL RECORDS WD-1043)


このテーマで書くのも久しぶりですが・・・・・・。

デイヴィッド・グリスマンのバンドが生んだ稀代の名コンビ、マイク・マーシャル&ダロル・アンガーがウィンダム・ヒルから発表したアルバムです。

この2人は本当に数々の素晴らしい作品を色々なバンドを作って送り出してまして、本作もその一つに挙げられるでしょう。

彼らの元ボスのグリスマンは、ブルーグラス界に破壊的なまでの革命を起こしたそれはそれは素晴らしいミュージシャンで、彼の音楽も大変に凄いのですが、このゴールデンコンビはそのドーグミュージックをさらにシャープにスタイリッシュに、洗練されたクリアなセンスで再構築し、独自の音楽を作り上げたと言ってもいいと思います。

あのグリスマンの「凄み」は薄いかも知れませんが、同レヴェルのテクニックと高度な音楽性を駆使して作りこまれた大変に複雑な底の深さを持つ音楽であることは間違いありません。

ヒーリング&ニューエイジミュージックのはしりと言われるウィンダム・ヒルですが、初期はこのコンビやマイケル・ヘッジス、アレックス・デ・グラッシなどなど独自の音楽性を持つ物凄いミュージシャンが他のどこにもない音楽を次々と発表していたハイクォリティレーベルでした。

このアルバムは超絶技巧ベーシストのマイケル・マンリングややはりグリスマンバンドの元同僚のトッド・フィリップス、さらには後にグリスマンのバンドに加入することになるパーカッショニストのジョージ・マーシュらがゲスト参加して、素晴らしいプレイをたっぷり聴かせてくれています。

特にマンリングのスーパーメロディアスプレイは随所で炸裂しまくっており、ベース=リズムを作る楽器という常識が覆されること必至です。

それに曲がまた素晴らしいんですよね。

まあウィンダム・ヒルなんでムチャクチャに聴きやすいんですけど、マーシャル作の1曲目からいきなり5拍子。

透明なメロディがきらめく良か曲がさら~っと流れていきます。

またバッハの「フランス組曲」などのクラシックのアレンジものも、非常に自然に彼らのカラーに衣替えしています。

もちろん2人のバカテクプレイもよく聴きゃ全編で炸裂してるわけで、聴けば聴くほどに凄さも濃さも増してくるスルメアルバムになっています。

初期ウィンダム・ヒルのアルバムもジョージ・ウィンストンなどのバカ売れ作品以外は軒並み廃盤になっているので、残念なのですが、中古屋さんに行くと冗談みたいな値段で叩き売りされていることが多いですので見つけたら買いでしょう。


Personnel:MIKE MARSHALL(AG,MANDOLIN,MANDOCELLO,SYNTH),DAROL ANGER(VLN,VLA,CEL,MANDOLIN,SYNTH),MICHAEL MANRING(EB,SYNTH),TODD PHILLIPS(WB),ANDY NARRELL(STEEL PAN),GEORGE MARSH(PERC),BARBARA HIGBIE(SYNTH)

アーティスト: Comotion
タイトル: Head West

(FIDELITY RECORDS 1007) 


元グリスマンバンドの名コンビ、ダロル・アンガー&マイク・マーシャルがまたまたやってくれた新ユニットがこのコモーション。

モントルーではユニジャンル的なニューエイジアコースティックミュージック、サイコグラスやニュー・グランジではグリスマンとは違うテイストの洗練されたアップ・トゥ・デイトなブルーグラスをやっていましたが、このバンドでやっている音楽は、一言で言うと「フュージョングラス」。

エレクトリックベースやツイン・ドラムスを導入して、16ビート系のピシピシしたテクニカルなファンクグルーヴの上に、ポール・マッキャンドレスの吹く木管や、アンガー=マーシャルのヴァイオリン&ギター、更にはギュンギュン唸りを上げるエレクトリック・マンドリンがグラス的なフレーズを乗せる、という感じでしょうか。

グリスマンバンドの時から叩き込まれた美しいメロディセンスが、73分という長尺の録音時間を全く飽きさせることなく聴かせることに成功した、重要な要因になっています。

彼らの独特の爽やかでモダンな、グリスマンのナンバーとはちょっと味わいが違うメロディは、これはこれで素晴らしいものです。

この優れたメロディメイカーぶりが、彼らをグラス界のトップユニット足らしめていることは間違いありません。

とにかく素晴らしくキャッチーな快適メロディが次から次へと飛び出してくる本作なんですが、お薦めはトップナンバーの「プリーバス」や、マッキャンドレス作、主要メンバー3人の名前を合体させた曲名の「マーシャウル・マッカンガー」などは一度聴くと忘れられない名曲だと言えるでしょう。

各人の卓越した技巧も冴え渡る、新時代のブルーグラスのユニジャンルな魅力をたっぷりと味わうことが出来る素晴らしい作品です。

バンドとしての一体感も凄いですよ。

本当にこの世界の演奏家の真っ当なプレイぶりはとてつもない。

ジャジーな雰囲気の衣をかぶっただけの下手なジャズなんかより、こちらの方がよっぽどヴァーチュオーゾの巣窟の名にふさわしいと言えるのではないでしょうか。

こういうアドリブのあり方もある、という意味で、ジャズファンの方にもぜひ聴いていただきたい音楽ですね。

 

Personnel:DAROL ANGER(VLN),MIKE MARSHALL(AG,CEL-G),MICHAEL KANG(E-MANDOLIN),PAUL McCANDLESS(SAXES,OBOE,BCL),TYE NORTH(EB),JEFF SIPE aka APT.Q-258(DS),AARON JOHNSTON(DS,PERC)


アーティスト: David Grisman Quintet
タイトル: DGQ-20

(ACOUSTIC DISC ACD-20)

リニューアル後初の記事です。
読者の皆様、お待たせしまして大変申し訳ありませんでした。
アルバム紹介はこれから何枚か、「私の人生を変えたアルバム」をテーマにアップしたいと思います。
まずはこのアルバム。
間違いなく私の人生を変えた10枚の内の1枚に入る、デイヴィッド・グリスマンと彼のバンドの過去20年間の歴史を振り返った3枚組未発表録音集。
数年前とある中古CD屋で、700円というウルトラ叩き売りしていたのを見つけたのがこのアルバム、そしてグリスマンのドーグミュージックとの出会いでした。
もうとにかく、1枚目のチック・コリア作「スペイン」の圧倒的な演奏を聴いて下さいっ!
猛烈なハイスピードで駆け巡るトニー・ライスのウルトラフラットピッキングギター、情熱的に燃え上がるダロル・アンガーのヴァイオリン、そして、真打ち登場、どうしたらこんなフレーズが思い浮かぶのかというグリスマンのスーパーメロディアス超絶フラットマンドリンソロ!
ドタマかち割られました。
私は趣味でジャズを演奏するのですが、あの「Ⅱ-Ⅴ-Ⅰフレーズ」というものに違和感を感じ続けていました。
そんな時これを聴いて、「自分のコピーしたいのはこれやあっ!」と天啓を与えられた気がしたものです。
メロディアス+泣き+バカテク。
最後のバカテクは凡手の私にはちょっと無理かもしれませんが、前2つぐらいはがんばってみたいな、と。
それまで私が漠然と思い描いていた理想のアドリブソロがここにはありました。
1枚目は全曲ライヴで、「スペイン」他、ダロル作のカッティングと泣きのメロディ、スピーディなリズムが問答無用にカッコいい「キー・シグネイター」やステファン・グラッペリやレイ・ブラウンらと録音した映画『キング・オブ・ジプシーズ』のための未発表に終わったサントラからの曲、ブルーグラス界の生き神様ジェスロ・バーンズや現代音楽界の革命的弦楽四重奏団、クロノス・クァルテットとの共演によるプログレッシヴで感動的な大作「モンド・マンド」など、貴重でハイテンションな初期ドーグの音源がたっぷり70分強収録。
2枚目は最初に2曲以外は全てアンガー=マーシャルのゴールデンコンビ脱退後の録音で、ほとんどがバンド初のパーカッショニストのジョージ・マーシュとエレクトリック・ギタリスト、ディミトリ・ヴァンデロスとのバンドによるものです。
注目は有名なセッションドラマーのハル・ブレインとのフリージャズっぽい録音や、ベテランジャズヴァイオリニストのスヴェンド・アスムッセンとの『スヴィンギン・ウィズ・スヴェンド』セッションの別テイク。
さらにはヴァンデロス作のラテンジャズチューン「ラテン・ラヴァー」やプログレのジェントル・ジャイアントっぽいコミカルな変拍子曲「サティヴァ」なども素晴らしい演奏となっています。
3枚目は90年代に入ってからのスタジオ録音で、新加入のフルーティスト、マット・イークルがいい味出してます。
「オーパス38」「EMD」「ブルー・ミッドナイト」「ラトルスネイク」「16/16」などの往年のドーグスタンダードがリフレッシュして甦っています。
特に、スピードアップした「ブルー~」、私が選ぶベストドーグチューンの快速サンバジャズ「16/16」などはかえってこっちの方がいいぐらいの名演となっています。
分厚いブックレットに掲載された歴代のバンドの写真や詳細な解説も楽しい、まさに未発表録音集の鑑と言うべき大傑作!
私は今でもこのアルバムがドーグのベストだと思っています。
ある意味、アコースティックミュージックの究極の到達点だといっても過言ではないでしょう。
お決まりのジャジーなソロや展開でお茶を濁している大多数のジャズミュージシャンを聴くよりも、よっぽど刺激的で美しく真っ当な演奏が聴くことが出来ると思いますよ。
死ぬ前に一度は聴いた方がいいでしょう。

(ZEBRA ACOUSTIC RECORDS ZEAD 42108)

ドーグミュージックの総帥、デイヴィッド・グリスマンのクァルテットとスウェーデンのベテランジャズヴァイオリニスト、スヴェンド・アスムッセンの共演盤です。
ライヴ録音がメインで、スタジオ録音も3曲あります。
なぜか今や手に入れるのが超難しい、レア盤。
私がこのアルバムのことを知ったのはグリスマンの『20』という3枚組未発表録音集のライナーに書いていたからで、引き続きメンバーを務めるリズムセクションの2人とは違い、もろジャズ系ギタリストのディミトリ・ヴァンデロスの参加はこの時だけみたいなんです。
その彼が結構いいプレイヤーですし、これは探してみるかなあ、と。
内容はグリスマンのオリジナルはオープニングのタイトル曲だけで、後は「スウィングしなけりゃ意味ないね」とかジャンゴ&グラッペリコンビの「スウィング・ミヌール」「雲」とかの古めのスタンダード。
更には、アスムッセン作の北欧民謡風の「ナージャ」と彼編曲のフィンランド民謡「ラップ=ニールス・ポルスカ」。
しかしアスムッセンはこのアルバムの録音当時(86年)お幾つだったのか分かりませんが、素晴らしくカクシャクとした音色&演奏!
負けじとばかりにグリスマンやヴァンデロスが飛ばしまくるのがまたいいんです。
嬉しいことに、このCDのみのボーナストラックの「スウィングしなけりゃ」とジャズロック風のミルト・ジャクソン作「ザ・スピリット・フィール」がムチャクチャ気持ちいい名演で、しかも後者にはカリスマハーモニカ奏者のトゥーツ・シールマンスがゲスト参加。
相変わらずの凄いフレーズ連発で観客大喝采です。
もうたまらんですよね。
グリスマン史の中の隠れた名作です。

Personnel:DAVID GRISMAN(MANDOLIN),SVEND ASMUSSEN(VLN),JAMES KERWIN(WB),GOERGE MARSH(DS,PERC,KALIMBA),DIMITRI VANDELLOS(EG),TOOTS THIELEMANS(HCA)
アーティスト: Mike Marshall
タイトル: Brasil: Duets

 

(EARTHBEAT! TRAVELER R2 71674)

デイヴィッド・グリスマンバンド出身の天才マルチプレイヤー、マイク・マーシャルが、それまでのダロル・アンガーとのゴールデンコンビによる活動とはまた一味違った、ブラジルのアコースティック音楽ショーロをテーマにして様々なプレイヤーとのデュオを展開したアルバムです。
彼は非常に優れたコンポーザーでもあるのですが、そっち方面の才能はひとまず仕舞っておいて、このアルバムではブラジルの色んな名作曲家のナンバーだけを採り上げています。
モントルーというバンドで共演したスティールパン奏者のアンディ・ナレルがピアノを弾いていたり、11曲目と12曲目のデータがひっくり返っていたり、えっ、と思うところもなくはないですが(ナレルは本当にピアノを弾いていますが)、内容自体は傑作と言っていいでしょう。
私のお勧めは、アンディ・コネルというサックス奏者とデュオった鬼才エギベルト・ジスモンチのネジクレコミカル名曲「カラテ」や、11&13曲目の、ピアニスト、ジョヴィノ・サントス・ネトとの大天才エルメート・パスコアルのピュアなオリジナル(ネトはエルメートバンドのキーボード担当です)、そしてナレルと同じくモントルーの共演者だった超絶技巧エレクトリックベーシスト、マイケル・マンリングとのデュオです。
特にマンリングのとても1本のベースとは思えないコードタッピング&ベースラインタッピングを駆使した凄まじいバッキングは、まさに人間業ではありません。
さすがの天才マーシャルのマンドリンも圧され気味。
しかし全体を通してマーシャルの素晴らしい演奏技術、メロディアスなアドリブのセンスは光りまくっていて、お腹いっぱいにしてくれます。
後に続編とも言うべき、ネトとのエルメート作品だけをフューチュアしたデュオアルバム『セレナータ』も出していて、そちらもお勧め。
大樹グリスマンから伸びた枝は果てしなく広がって行ってるようですね。

Personnel:ANDY NARELL(Pf),EDGER MEYER(WB),JACKIE BAGO(CUATRO-G),ANDY CONNELL(SS),JOVINO SANTOS NETO(Pf,MELODICA,KBD),BELA FLECK(BANJO),KAILA FLEXER(VLN),MICHAEL MANRING(EB)

(ZEBRA/ACOUSTIC RECORDS ZEAD 6153)

オーソドックスないつものグリスマンのクァルテット編成に、セッションミュージシャンとして著名なドラマーのハル・ブレイン、ピー・ウィー・エリス率いるファンキーなホーンセクション、そしてアグレッシヴブルーグラスの名手リチャード・グリーンも参加した弦楽四重奏団を加えた珍しいアルバム。
いつもの飛び散る美しくメロディアスなアドリブは言うまでもないのですが、ドラムスを入れたことでいい意味でグルーヴから開放されたレギュラーメンバーたちの白熱のプレイは聴いていて気持ちがいいです。
ブレインはまたいい仕事をしました。
この時の「開放感」が、後にレギュラーメンバーとしてパーカッションを加えるようになることにつながったのではないか、と私は勝手に推測しているんですが。
どのアルバムを聴いても必ず1曲は名曲が見つかるスーパーコンポーザーのグリスマン、このアルバムには名曲「リコシェ」のリテイクと、前述ホーンセクション入りの大迫力のファンキーな「ニュー・モニア」が収録されています。
特に後者は一旦後テーマが終わってから、おもむろにキメに入り音量や演奏人数を増やしながら徐々に盛り上がっていくさまがムチャクチャカッコいいです。
ドーグ風ブラジリアンの「ブラジリアン・ブリーズ」の奇妙な味、オープニングのタイトル曲のビシッと決まったファンクネスなど、聴きどころは相変わらず満載です。
今や非常にレアなので、もしどこかで見つけたら絶対に買いましょう。

Personnel:DAVID GRISMAN(MANDOLIN),ROB WASSERMAN(WB),JIM BUCHANAN(VLN),JON SHOLLE(AG),HAL BLAINE(DS),SID SHARP,JOY LYLE,RICHARD GREENE(VLN-SECTION),JESSE EHRLICH(CEL),PEE WEE ELLIS(TS),BOB DOLL(TP),RON TAORMINA(AS,BTNS)
(WINDHAM HILL RECORDS)

デイヴィッド・グリスマンバンド出身のヴァイオリニスト、ダロル・アンガーがデイヴィッド・バラクリシュナン、マーク・サマー、アイリーン・セイザーと結成したジャズ弦楽四重奏団。
そんじょそこらのムーディな軟弱バンドと違うのは、オープニングのパット・メセニー作「ジャコ」の全員のまさしくジャズ精神に溢れたインプロヴィゼイションを聴いても明らかで、アンガーも弾きまくり、バンドもグルーヴしまくりの大変に興奮できるバンドなんです。
チェロがウォーキングラインを弾いたり、ヴァイオリンやヴィオラがピチカートでカッティングしたりと、反則的な、それゆえにこの編成でグルーヴ感を出すためのきわめて真っ当な演奏がなされており、弦楽四重奏団という言葉から受ける典雅で上品、おとなしいといったイメージをひとまず忘れて、無心で楽しんでください。
何と言っても、アンガーはグリスマンバンドでやっていた人。
ヘナチョコなドライヴしないリズムで満足できるわけはないのです。
もちろん、ちょっとクラシカルに味付けしてみました、といったアンサンブルでも同様。
全ての曲に、どこまでが決められててどこまでが即興なんだろうと訊きたくなるような複雑で細かなアレンジングが施されていて、飽きさせることは全くと言っていいほどないです。
オリジナルはもちろんのこと、先の「ジャコ」やデューク・ピアソンの「ジェニーン」、コルトレインの「ナイーマ」といった有名曲でも一筋縄ではいかない、あっさり終わらない演奏になっています。
メンバーのオリジナルでは、きれいなコード進行と特殊技巧を駆使した、圧巻の変拍子の独奏チェロナンバーのサマー作「ジュリー・オー」が好きです。
1曲だけ元ジャーニー、ステップス・アヘッドの技巧派ドラマースティーヴ・スミスが参加。
もちろんそれも軟弱なフュージョンになんかなっていませんよ。
それにしても「サイドワインダー」は原曲をはるかに超える名演。
そうか、あの曲のカッコ悪さは、ダサい8ビートドラムのせいだったのか、と分かる素晴らしいアレンジです。

Personnel:DAVID BALAKRISHNAN(VLN),DAROL ANGER(VLN,LOW-VLN),IRENE SAZER(VLN,VLA),MARK SUMMER(CEL)

アーティスト: タートル・アイランド・ストリング・カルテット
タイトル: メトロポリス