All the April Snow/Peter Bolte
(ITM PACIFIC ITMP 970092)

ついにエリック・ドルフィ ERIC DOLPHYフォロワーを見つけた。
本盤を聴いた時の、偽らざる気持ちです。
この作品に出会ったのは本当の偶然で、たまたま海外のオークションサイトをのぞいていたら色々情報を調べて行く内にタイトルとジャケが気になって、ジャケットの画像を拡大してみたわけですよ。
そうすると何と敬愛するデイヴィッド・フリードマンの名があるではありませんか!
全然知らなかった参加作なので、設定価格が非常に低かったこともあり早速即落ボタンで落札してしまいました。
ジャケットはア○ゾンのアフィリエイトに出ないので載せられないのが非常に残念なのですが、赤い毛糸の帽子をかぶった幼児が雪の中に笑いながらこちらを見て立っているという実にファニーなもので、欧州らしいメロディアスな曲がたっぷり入った叙情的な、そしてフリードマンの参加が活きた幻想的な響きの名盤を期待しちゃったわけです。
ところが!
意外や意外、冒頭に書いたような次第で、全く違う方向で刺激的な作品だったのです。
ホウマー・シンプソン HOMER SIMPSONという作曲家(?この人の正体が全然判りません。ググってもアメリカの有名アニメのキャラクターしか引っかかって来ません笑)の作品を中心がプログラムのほとんどを占め、あとはアルバムタイトルの元になったプリンス&ザ・レヴォリューション PRINCE & THE REVOLUTIONの「サムタイムズ・イット・スノウズ・イン・エイプリル SOMETIMES IT SNOWS IN APRIL」とイタリアのSSW兼映画音楽家のピノ・ドナッジォ PINO DONAGGIOの「ローラのテーマ LAURA'S THEME」、そしてボルテにとって恐らくヒーローの一人であろうオーネット・コウルマン ORNETTE COLEMANの佳曲「ラウンドトリップ ROUNDTRIP」という美味しいんだかそうじゃないんだかよく判らない選曲。
美味しいとはっきり思えるのは人選。
フリードマンに、彼とよくつるんでいる激シブベーシストのアンソニー・コックス、そしてリーダーのペーター・ボルテと同じドイツ人のヴォルフガング・ハフナーという素晴らしいメンバーによるクァルテット。
間違いなくボルテが一番知名度がない(笑)。
しかしそれだけに(?)一番衝撃を与えるのが彼のプレイで、最高音から最低音まで縦横無尽に使い切ったウルトラハイテクニックと驚異の鳴り、そして「いない」と言われ続けていたドルフィフォロワーの座に明らかに居座るであろうあの宇宙的ジグザグフレイジングは好き嫌いを抜きにして超絶。
さらには随所でフルートやクラリネット、ソプラノサックスやソプラニーノサックスを多重録音したまるで現代音楽のような妖しいハモリの木管パートを自らのアレンジで加えており、これがまたかなりのインパクト。
何者なんだ、君は。
ドルフィの猿真似に決して陥らず、ところによりブレッカー MICHAEL BRECKERのアルト版、ところによりオーネットみたいな千変万化のテクニシャンぶりを発揮しており、とにかく凄まじいまでの吹きっぷりです。
ドルフィとコルトレイン JOHN COLTRANEのハイブリッドヴァージョンと言われた(いや、私が勝手に言っているだけ)60年代のナミさんことズビグニェフ・ナミスウォフスキ ZBIGNIEW NAMYSLOWSKIにも似ているような気がします。
もちろんこれはあえて彼の超絶技巧を表現するために持ち出した比喩であって、決して彼が没個性の器用貧乏と言いたいわけではありません。
彼の押し出しっぷりがあまりに衝撃なので、彼が本当は一番力を入れていたであろうシンプソンの作品の紹介というコンセプトや他メンバーたちのせっかくの美味しい演奏がかすんでしまうという、まあアルバムとしての出来はどうなのかと言えばそういうところもあるのですが、期待していたのとは全然違う方向からの嬉しい裏切りだったのでこれはこれでありかと。
アヴァンギャルドテイストの、純アコースティックフォーマットによるポストモダンジャズの名演だとは思いますし。
とりあえずフリードマン参加なので、ご紹介と購入は私にとって義務なのです(笑)。

Personnel:PETER BOLTE(AS,SS,SOPRANINO-S,CL,FL),DAVID FRIEDMAN(VIB),ANTHONY COX(WB),WOLFGANG HAFFNER(DS)

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Navigator/Paul McCandless
(LANDSLIDE RECORDS LDCD1005)

ポール・マッキャンドレスの演奏を聴いて初めてオーボエの魅力を知る、という方はこれまでも、そしてこれからも結構多いのではないでしょうか。

普段あまり触れることのない楽器ですし、ましてやジャズにおいては、ですよね。

私は彼の演奏と、あと元プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ(通称PFM) PREMIATA FORNERIA MARCONIのヴァイオリン奏者マウロ・パガーニ MAURO PAGANIが初めて出したリーダー作『地中海の伝説 MAURO PAGANI』のオープニングナンバー「ヨーロッパの印象 EUROPA MINOR」でジャズオーボエの持つ可能性、美しさに気付きました。

また彼は、偉大なる越境者でもあります。

彼の活動の母体であるオレゴン OREGONというバンドからしてユニジャンルな音楽性でありましたが、ECMやウィンダム・ヒル WINDHAM HILL系列のアーティストの数々の名盤への参加歴、進化系ブルーグラスミュージシャン、バンジョー奏者のベラ・フレック BELA FLECKのフレックトーンズ FLECKTONESへの参加、さらにはあのジャコ・パストリアス JACO PASTORIUSのビッグバンドの傑作『トウィンズ TWINS』のホーンセクションの中に名前を見つけた時にはさすがに驚きました。

ところで彼には、私にとってもう一つ見逃せない側面があります。

それは、敬愛するマレット奏者デイヴィッド・フリードマン DAVID FRIEDMANのツインマレットバンド、ダブル・イミッジ DOUBLE IMAGEの相棒のデイヴ・サミュエルズとの数々のコラボレイションです。

ECMでのギャラリー GALLERYとスカイライト SKYLIGHTという2つのユニットの、立ち尽くすような美しさ、初めて聴いた時の感動は未だに心の奥底に根強く残っています。

この作品も同時期の彼ら2人のコラボレイトものの一つ。

81年のマッキャンドレスのセカンドです。

彼らの他に、女性ヴォーカリストで素晴らしいスキャッターのジェイ・クレイトン、ギタリストのロス・トラウト、そしてパット・メセニー・グループ PAT METHENY GROUPに参加する前後のスティーヴ・ロドビーという非常に美味しいメンバー。

ニューエイジ色の強いチェンバージャズということになるのでしょうが、クレイトンの参加がスパイスとして効いていて、さらにちょっとアヴァンギャルドなグループインプロヴィゼイションナンバーを入れたりもしているので、澄み切った空気の中に千変万化する天候の危うさを秘めているような感じの、聴き易くも一筋縄では行かない、そんな音楽になっています。

フリードマンの方は自身のセカンド『フューチュアズ・パスト FUTURES PASSED』やロウレン・ニュートン LAUREN NEWTONのライヴ盤『フィリグリー FILIGREE』でマレットとクリエイティヴな女性ヴォーカルとの共演をしてますが、相方のサミュエルズは対してこれというわけですな。

女性ヴォーカルとマレットってムチャクチャ合うって、彼らが教えてくれました。

とは言ってもこちらの浮遊感のある演奏とメロディはフリードマン作品とは全く違う音楽性となっていますが。

この組み合わせ(何ならデュオでもいいです)による名盤がこれからもどんどん出て欲しいです。

さすがと思ったのがロドビーのベースワーク。

いつの間にか一人だけリズムをずらしたラインを弾いていたり、よく聴くと隠れ美味しいことをやってるんですよね。

しかも全然流れを邪魔しない。

こういう視野の広いところがメセニーを魅了したんでしょう。

オススメ曲はサミュエルズの抽象美メロ炸裂の「ナウ・アンド・ゼン NOW AND THEN」、クレイトンの美声が舞うマッキャンドレスの「ウィロウ WILLOW」、徐々に壮大に飛翔して行くシンフォニックとすら言えるプログレッシヴな、トラウト作「ダウンストリーム DOWNSTREAM」。

言わずもがなですが、マッキャンドレスはソプラノにオーボエ、イングリッシュ・ホルン、バスクラと相変わらず暴れまくっております。

当然ここでもあの瑞々しいオーボエの響きは冴え渡っており、スピーカーから放たれ瞬く間に室内を満たし、身体の芯まで沁みこんで行くでしょう。


Perssonel:PAUL McCANDLESS(SS,OBOE,E-HORN,BCL),DAVE SAMUELS(VIB,MARIMBA,PERC,VO),ROSS TRAUT(EG,SITAR),STEVE RODBY(WB),JAY CLAYTON(VO),LINDA NAMIAS(HANDCLAPS)

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フューチャーズ・パスト(紙ジャケット仕様)/デヴィッド・フリードマン
(ISOL DISCUS ORGANIZATION GQCP59047)

ドイツのエンヤ ENJAレーベルから出ていたデイヴィッド・フリードマンのプログレッシヴなセカンドアルバム、『フューチュアズ・パスト』がとうとう世界初のCD化の運びになりました。

紙ジャケ仕様で、SHM-CDでの発売になるようです。

作曲面での良き理解者であり自身もこの頃神がかり的なコンポウズセンスを見せていたベーシストのハーヴィ・シュワルツ HARVIE SWARTZやブルガリアのキラースキャットシンガー、リモナ・フランシス RIMONA FRANCISが参加しているという、美味しすぎな面子。

フリードマンが奇妙なフォーミングセンスの中にこぼれんばかりの美を生み出す超一流の作編曲家であることを証明する傑作です。

リモナの軽やかに舞うスキャットやヴィブラフォンやマリンバのクールな音色もあって、クラブシーンでも絶大な人気を誇る作品です。

このエンヤ紙ジャケCD化シリーズは前からやっていたもののようなので関係ないのは百も承知であえて言ってみますが、私がジャズ批評でフリードマンの特集を4ページも書き殴ったからこそ(これこそ世界初でしょう)、このアルバムがプロジェクトにセレクトされたのだと思いたい(笑)。

もちろん妄想です。

何はともあれ、素晴らしい作品ですのでこれを機にぜひ皆さんに聴いていただきたいですねえ。

最近フリードマン関係が矢継ぎ早に紙ジャケCDでリリースされるので困っちまいますな。

本作の発売は9月下旬のようです。

ご予約はぜひ上の画像リンクで!

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featuring LARRY CORYELL,BUSTER WILLIAMS,TONY WILLIAMS

(INAK 857 CD)


夏真っ盛りですね~。

東北の端っこも端っこ、我がA市も暑くなって来ました。

そんなわけで寝苦しいこんな日には、天下御免のクールビズ男チェット・ベイカーを聴きましょう!

私の中ではチェットは世界一ネクタイが似合わないってイメージが強いんです。

それにあのいい意味で重みがないトランペット、そしてファルセットっぽいスキャット。

この軽さは得がたいものです。

しかも相棒にはこれまた「涼しい」楽器ヴィブラフォンのヴォルフガング・ラッカーシュミットと来た。

この2人のデュオによるウルトラ名盤『バラッズ・フォー・トゥ BALLADS FOR TWO』と同じINAKレーベルから79年の録音で、今度は拡大編成のクィンテットとなっています。

なんですが、この他の3人がラリー・コリエル、バスター・ウィリアムズ、トニー・ウィリアムズというすこぶるつきに暑苦しいメンバーばかりで、面子食いの私としてはたまらない作品なわけですよ。

最初に買って聴いたのは多分10年位前で、まだ東京にいた頃、恐らく出来たばっかりの渋谷のH○Vで買った気がします。

その頃トニーにはまっていたので、それで買ったんでした。

しかし、トニー色やスーパー面子の狼藉三昧を期待していたのであんまりピンと来なかったんですね。

つまり、メンバーはムチャクチャでもしっかりチェットのアルバムになってしまっているという、あのジジイチェット期の黄金パターンです。

当時はチェットのファンでも何でもなかったので良さが解らなかったと言うか、まあセンスに合わなかったんでしょうね。

収録時間は37分弱で、その短さもそっけなくてこれはこれで良い感じ(笑)。

オープニングはいきなりトニー作曲の、ジャズロック風リズムで始まる「ミスター・ビコ Mr.BIKO」。

曲はメロディに入るとスウィングになるんですが、最初のそのジャズロック風のトニーのドラムイントロがいかにもトニー!って感じで、嬉しくなってしまいます。

バスターのブンブンとした変なラインを刻むベースも、何かいつもより飛ばしてないか?という好き放題ぶり。

そう、後期チェットのアルバムは、参加メンバーの好き放題ぶりが楽しいんですよ。

それでいてちゃんとチェットの作品になっている、というのがこの人の音楽の懐の大きさを感じるところです。

ラッカーシュミット作の「バルツワルツ BALZWALTZ」も今聴くとクールなリリシズムがあって結構いいですね。

おなじみブルーススケイルてんこ盛りのコリエルのワンパターンギター、続くチェットのスキャットソロ、共にナイスフィールです。

たった2分30秒、コリエルのギターがこれからって時にフェイドアウトする訳の解らない「ザ・ラティン・ワン THE LATIN ONE」はその名の通りラテン風のリズムを使ったナンバーで、前半のラッカーシュミットのバッキングリフレインのハーモニーが良いです。

バスターのオリジナルブルーズ「トク・ド TOKU DO」はある意味このクィンテットが最も好き勝手にやっている演奏かも。

作曲者のバスターもベースソロを披露、トニーも独特のビートとフレイズでプッシュ、このメンバーならではという演奏になっています。

上記『バラッズ~』やその他の後期の名演に比べると企画物っぽいムードがして、有り難味みたいなものはあまりないアルバムですが、こんな変なメンバーを集めても、それでもチェットなんだ、と妙に愛着の湧く作品でもあります。

俺の言うことを聴け、そうすれば俺の音楽になるっていうタイプとは180度違う彼のこの姿勢、何ともクールで、聴いているこっちも涼しくなりそうじゃありませんか。


Personnel:CHET BAKER(TP,VO),WOLFGANG LACKERSCHMID(VIB),LARRY CORYELL(EG),BUSTER WILLIAMS(WB),TONY WILLIAMS(DS)

(DOUBLE IMAGE MUSIC DI-0001)


私の敬愛するミュージシャンにして、フェイヴァリットマレッターであるデイヴィッド・フリードマンが相棒のデイヴ・サミュエルズと30年に渡って活動して来たのがこの世にも稀なツインマレットユニットのダブル・イミッジ。

この度めでたく自身のレーベルを立ち上げたようで、同レーベルが一時的なものなのかそうでないのかは未知数ながら、記念すべき第1作目が発表されました。

フェアフィールド・シアター・カンパニー FAIRFIELD THEATER COMPANYというところのステージ1で06年にライヴ録音されたものです。

彼らのライヴアルバムとしてはDMPレーベルに残した『オープン・ハンド OPEN HAND』以来2作目ということになります。

ジャズ批評の「私のこだわりジャズ」の拙稿「David Friedmanでマレット三昧」でぜひ触れたかった作品なのですが、入手経路の特定に手間取り、結局つい1週間ほど前にようやく手に取ったという、私にとってはまるで寒空の中で肉まんをほおばるごとくに嬉しいほやほやの新作です。

彼らのお得意曲「チュニジアの夜 A NIGHT IN TUNISIA」や「オ・グランヂ・アモール O GRANDE AMOR」などの再演もありますし、珍しくフレディ・ハバード FREDDIE HUBBARDの「アップ・ジャンプト・スプリング UP JUMPED SPRING」もやってますし、知らないオリジナルもやっているしで、これまで以上にメロディアスな内容を期待していたんですが、彼らはますます単なる「ジャズ」ではなく、マレットミュージックの担い手としての自己を追求しているように思えます。

早い話、上がったのは抽象度なのです。

特に新曲のタイトル曲にそれが顕著。

しかし上がったのはそれだけではありません。

彼ら2人の神経接合ぶりは只事ではないのです。

もう完全に一つの楽器と化してしまっています。

バンドとしてのコミュニケイション深度という意味でははっきり言って世界最高レヴェル。

それにしても彼らの音色、ハーモニー、メロディって、全てが切ないなあといつも思います。

私は彼らの音楽を聴くと静かに舞い落ちる銀杏の葉っぱに包まれて一人立ち尽くす、っていうヴィジュアルが思い浮かぶんですよ。

しっかしオープニングのサミュエルズ曲「サンセット・グロウ SUNSET GLOW」は間違いなく現代最高峰のマレットミュージック、現時点での到達点の一つでしょうね。

抽象度が上がったとは言いましたが、それは初聴きの時の印象であって、じっくりと聴くとあら不思議、上に言ったような切ない、そして儚い愛すべきメロディがじんわりと浮かび上がって来て、もうやめられなくなります。

音と向き合う、と言うと何か教養っぽいから嫌なんですが、音に包まれるってことに対してもう一度考えさせてくれる音楽ではあると思います。

ずっと彼らの音楽を聴いて来たからこそ、抽象的なアンサンブルの向こうに輝く宝石を見つけることが出来た、そんなご褒美をもらったような気分でもあります。

また一つ私の宝物が増えました。

願わくばこのダブル・イミッジ・ミュージックから良質の音源がこれからもリリースされんことを。


DAVID FRIEDMAN(VIB,MARIMBA),DAVE SAMUELS(VIB,MARIMBA)


ちなみに、このアルバムは↓で購入出来ます!

本作以外にもマレット好きにはたまんねえアルバムがてんこ盛りだあっ!

STEVE WEISS MUSIC



そう言えばデイヴィッド関連の音源どんどん初&再発CD化されてますね!


↓これはダブル・イミッジの記念的ファースト

ダブル・イメージ
ダブル・イメージ(紙ジャケット仕様)

↓これは文中で触れたライヴ盤『OPEN HAND』

Double Image
Open Hand

↓これはデイヴィッドのサードで、ダニエル・ユメール DANIEL HUMAIRとのクァルテット

デヴィッド・フリードマン, ジェーン・アイラ・ブルーム, ハービー・シュワルツ, ダニエル・ユメール
オブ・ザ・ウィンズ・アイ(紙ジャケット仕様)
Here and Now: Live in Concert/Caribbean Jazz Project

(CONCORD RECORDS CCD 2-2270-2)

カリビアン・ジャズ・プロジェクト、最初はデイヴ・サミュエルズとスティーヴ・カーン STEVE KAHN、デイヴ・ヴァレンティン DAVE VALENTINEの三頭プロジェクトだったのですが、いつの間にかサミュエルズのバンドになっていたようです。

CJPは三頭時代に一度来日したことがあってライヴ観に行きたかったのですが、サミュエルズ時代のこの2枚組ライヴが凄まじく素晴らしいので、三頭時代の終わりもそんなにがっかりすることではないと思い直しました。

メンバーは彼のマレットにディエゴ・ウルコーラのトランペット、ダリオ・エスケナージのピアノ、オスカル・スタニャーロのエレクトリックベース、そしてサミュエルズともよく共演しているポール・マッキャンドレス PAUL McCANDLESS率いるオレゴン OREGONのドラマーでもあるマーク・ウォーカー、コンガ&パーカスにはロベルト・キンテーロというセクステット編成。

ウォーカー以外はほとんどの方が聞いたこともないであろう名前ばかりだと思うのですが(私もそうでした)、これが物凄いテクニシャンばかり。

しかも、その高いテクニックをソロバトルなどで駆使するのではなく、パズルのように複雑に絡み合うラテンリズムアンサンブルの中で縦横無尽に発揮する、完全なバンド型メンバーばかりなので、息も付かせぬ素晴らしいサウンドになっているのですね。

全14曲、有名曲の「ストウルン・モウメンツ STOLEN MOMENTS」「チュニジアの夜 A NIGHT IN TUNISIA」「ベムシャ・スウィング BEMSHA SWING」「ナイーマ NAIMA」「キャラヴァン CARAVAN」、スタニャーロ作の「マリエラズ・ドリーム MARIELLA'S DREAM」とエスケナージ作の「オン・ザ・ロード ON THE ROAD」以外の7曲は全てサミュエルズの作曲となっています。

しかし全員で一丸となってラテングルーヴを作り上げて行くバンドスタイルのため、サミュエルズのワンマンバンドという感じは全く受けません。

とりあえず、ソロなどで熱気が上がるに従って全員のシンコペ具合が容赦なくなって行くのが凄い!

スタニャーロの6弦ベースの切れの良さは特に痺れます。

小節の頭で弾くことがほとんどなく、伸ばす音・切る音を尋常でなく正確にコントロール、しかしそれでいて恐ろしくグルーヴするこんなベース、どうやって弾くことが出来るんでしょうか。

一緒になってパシンパシンとピッチの高いスネアを裏表ところ構わずかますウォーカーもいけてますな。

端正なスタイルで、右手の小回りの良さと絶妙の繰り返しセンスを持つエスケナージもいい味出していますよ。

音も綺麗ですしね。

サミュエルズのオリジナルは絶妙な薄味さを持ったメロディが特徴なんですが、それがかえってキメバシバシのアレンジからしつこさを取り除くのに成功しているようにも感じます。

2時間超のヴォリュームがあるアルバムなんですけれど、内容の凄まじさ、白熱ぶりのわりにあっさり聴けてしまうのはそんなサミュエルズのサウンドカラーのおかげでしょうね。

現代ラテンジャズサウンドの到達形とも言えるこのライヴ、とにかくアンサンブルのグルーヴに酔う、これが一番の楽しみ方ではないでしょうか?

ソロすらリズムの一部と化しています。

あっさりでも決して軽くはありません。

私の近年の愛聴盤の一つとして、強力に推薦致します。


Personnel:DAVE SAMUELS(VIB,MARIMBA),DIEGO URCOLA(TP,FLH),DARIO ESKENAZI(Pf),OSCAR STAGNARO(EB),MARK WALKER(DS),ROBERTO QUINTERO(CONGA,PERC)

(BHAKTI RECORDS BR 28)


ハンガリーのギターの巨星、アッティラ・ゾラーとドイツのヴィブラフォン奏者ヴォルフガング・ラッカーシュミットのデュオライヴアルバム。

ゾラーと言うとマルシアル・ソラル MARTIAL SOLALやハンス・コラー HANS KOLLERとの『ZO-KO-SO』とか、キメバシバシのアヴァンな傑作『ホライズン・ビヨンド THE HORIZON BEYOND』なんかのちょっとトンガリ系のイメージが強いと思うのですが、どちらかと言うとつかみどころのない万能テクニシャンなのではないかと。

このライヴでは、頭脳派で緻密な作曲が巧い、でもチェット・ベイカーとの一連の作品のようにリリカルな面も素晴らしいラッカーシュミットが相棒ということもあって、ゾラーがオーソドックスでスウィンギーな演奏も超一流だという新たな発見が出来ます。

バピッシュなフレイズを快速で弾き倒し、シャコッという音色が心地良いコードカッティングでは弾むグルーヴを生み出しています。

もちろん彼お得意のメカニカルなフレイズも隠し味的にさりげなく散りばめられています。

彼が座っている椅子がきしむ音がとらえられているぐらいにクリアな録音も素晴らしいです。

デイヴ・ブルーベック DAVE BRUBECKの「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ IN YOUR OWN SWEET WAY」と上掲『ホライズン~』で共演したドン・フリードマン DON FRIEDMANの「サークル・ワルツ CIRCLE WALTZ」以外は全て2人のオリジナルばかりで、これがまた佳曲ばかりなのです。

デュオといってもだらだらスタンダードをセッションライクにやるのではない、非常に緻密に練り上げられかつ一体感もある、アンサンブルとして高水準な演奏となっています。

個人的には慎ましやかな「サークル~」の演奏にぐっと来ました。

これはやはり名曲ですね。

13分以上に及ぶゾラー作の「ハンガリアン・ジャズ・ラプソディ HUNGARIAN JAZZ RHAPSODY」も力演。

特に後半の、おもむろにゾラーがベースラインを刻み始めるグルーヴィなラッカーシュミットのアドリブパート。

思わず聴き入ってしまう彼らのこれ見よがしでない実力には驚くばかりです。

やっている曲も演奏自体も決して派手ではなく、むしろクールに淡々とやっている感じなのですが、ずっと聴いてしまうんですよ。

どちらかと言うと変格派のキャリアを積んで来た両人の隠れた面が非常に心地良く味わえる逸品です。


Personnel:ATTILA ZOLLER(EG),WOLFGANG LACKERSCHMID(VIB)

(ECM RECORDS 1146)


私の音楽的神の一人、マレット・パーカッショニストのデイヴィッド・フリードマンが同じマレット奏者で同じデイヴィッドのサミュエルズと組んだ革新的なツインマレットクァルテット、ダブル・イミッジのセカンドです。

77年作で、初期ECMの幾多の名盤と同じくこれも未だCDになってません。

フリードマン関連のアルバムを聴いたのは確かこの作品が最初だったと記憶しているのですが、正直言うと最初は全然印象に残らなかったんです。

大学時代、何かの本で「幻のグループ」みたいにえらい持ち上げられて書いてあるのを読んだ直後に中古レコード屋さんで見つけたんですよね。

確か1000円ぐらいでしたので喜び勇んで買ったんですが、テクニカルな面ばかりに耳が行ってまだ音楽の深みが良く解っていない若造にはハイブロウ過ぎたのかも。

その後フリードマンのリーダー作『ウィンター・ラヴ/エイプリル・ジョイ WINTER LOVE/APRIL JOY』で衝撃を受けて、改めて本作を聴き直したらもうムチャクチャ痺れてしまって。

非常に精緻に組み上げられたアンサンブルなのに、鳥が空を舞うように自由にインプロヴィゼイションして、それでいてメロディアスで美しい感じは損なってないんです。

音楽的には物凄く革新的なことをしているのに、押し付けがましい「アヴァンギャルド」な感じを全く与えないのがもっと凄い。

綺麗に響いてはいますが、それは「目的」ではなくあくまで「過程」に過ぎないんですね。

マイケル・ディ・パスクァのドラム&パーカスとツインマレットの複雑な打楽器アンサンブルの中を泳ぐように自由自在に駆け巡るハーヴィー・シュワルツのウッドベースも素晴らしいです。

もちろん打楽器部隊の卓越したテクニックは言うまでもなく、特に美音を生み出すほどのものはまさに「超」が付く巧さを持つ人でなければ出来ない芸当で、それが3人も集まって一糸乱れぬ神経接合ぶりでクリアな音のポストモダン的建築を作り上げて行くのです。

これを聴くのが快感と言わずして何でしょう。

そしてこのバンドの特徴は、その個性的な編成を最大限に活かしたミニマリズムとダイナミズム。

度重なるリズムチェンジを含んだ複雑な曲展開の中に、残響音までも計算し尽くした彼らの優れた音楽構築センスを見て取ることが出来ます。

しかしこれほど理屈っぽく(笑)言葉を重ねても、このバンドのサウンドの革新性と衝撃性込みの美はなかなか伝えられないんですね~。

ホント凄い音楽やってると思うんですけれどね。

こんなサウンド他にないんですよ。

パスクァ以外の3人の卓越したコンポウズ能力もあると思います。

特にこのアルバムではB面のサミュエルズの2曲「サンセット・グロウ SUNSET GLOW」と「クロッシング CROSSING」がいいですね。

今の2人デイヴィッドだけによるダブル・イミッジも好きですが、ウッドベとドラムがいるこの頃のサウンドも凄く好き。

クラバーの人たちなんかも狂喜乱舞のヤバい音のような気もするので、再発するしかないと思うのですが。

ぜひライヴを観たかった。

というか再結成してよ!


Personnel:DAVID FRIEDMAN,DAVE SAMUELS(VIB,MARIMBA),HARVIE SWARTZ(WB),MICHAEL DI PASQUA(DS,PERC)

(SENTEMO STN 31091)


イギリスのトランペッター、ケニー・ウィーラー、ベルリン在住のアメリカ人マレット奏者デイヴィッド・フリードマン、オランダのピアニスト、ヤスパー・ファントフの多国籍スーパートリオによるアルバムです。

この3人、いずれも劣らぬ音の美意識の持ち主で美曲書きです。

ありきたりなスタンダードカヴァーをやっているようなアルバムにはならないことだけは確かです(笑)。

全6曲収録で当然全てオリジナル。

おおっ、入ってますよ入ってますよ、ウィーラーのニュージャズスタンダード「エヴリバディズ・ソング(・バット・マイ・オウン) EVERYBODY'S SONG BUT MY OWN」。

ヨーロッパのジャズシーンが生んだワルツの名曲ですよね。

誰がやっても問答無用に良い曲なのですが、ウィーラーのやや線の細いハイノートがまたよく合うんですよね。

さらに渋い佳曲、フリードマンのタイトルナンバー「グリーンハウス・フェイブルズ」も嬉しい収録。

まさに深い霧の中に光がゆらりと舞い降りて来るような、フリードマンの音楽観を象徴したような曲です。

単独コンポウザーとしては唯一採り上げられたファントフの「ザンボン ZAMBON」も、例によってアルペジオやミニマルなフレーズの連続の中にやや屈折したメロディがうっすらと乗っかる、彼ならではの曲ですね。

このように各人の音楽ビジョンがとても解り易い曲揃いな上、演奏は美音&極上で言うことなしなのですがこのアルバム、ポピュラリティという観点からするとやや分が悪いのも確か。

じっくり、何度も聴いてこそ演奏の深みやそれぞれの曲の持つ押し付けがましくないある意味控えめな旋律の妙に酔えるのです。

最後のウィーラーの「サリナ・ストリート SALINA STREET」まで、リズミカルな曲がないのもそう感じてしまう理由の一つかも。

もちろんそれぞれの展開の中でリズミックになったりはするのですが、全体としてゆるやかモードの中にいます。

お互いが相手の美音をたっぷりと浴びて味わうかのように、サスティンが続く中でリズムの出し入れを含めた音の絡み合いを演じている感じでしょうか。

そういう意味では、何よりもこのセッションは本人たちのものなのかも知れませんね。

お互いの音楽への愛を感じる、そういう美しい感性に包まれた作品です。

このプロジェクト、音楽観が共通してそうなイギリスのデイヴ・ホウランドやイタリアのアルド・ロマーノのリズムセクションを加えてもう1作ぐらい録音してくれませんかねえ。


Personnel:KENNY WHEELER(TP),DAVID FRIEDMAN(VIB,MARIMBA),JASPER VAN'T HOF(Pf)

David Friedman
Air Sculpture

私が今回のクリスマス・イヴの夜に聴いていたのはこれ。

もちろん、全くイヴとは関係のない作品です(笑)。

私の大好きなマレットプレイヤーで、マイカリスマミュージシャンでもあるデイヴィッド・フリードマンが多重録音を駆使してたった一人で作り上げた素晴らしいアルバムです。

スタンダードの「グリーン・ドルフィン・ストリート」以外は全て彼のオリジナル。

ダブル・イミッジでの長年の相棒、デイヴ・サミュエルズがライナー文を書いています。

ゲイリー・バートンやミルト・ジャクソン、ボビー・ハッチャーソンなどと比べて知名度が低いのが非常に残念なのですが、個人的には彼らよりも美しく深い音楽をやっていると思っているフリードマンの幻想的なハーモニー、霧深い中から立ち昇ってくるような独創的で美しいメロディ、そして類稀なテクニックとサウンドヴィジョン、全てがたっぷりと味わえる傑作と言えるでしょう。

断片的にしかメロディを提示せず、かつ非常に優れたリハーモナイズを施された前述「グリーン~」も完全にスタンダードカヴァーからは逸脱した美演となっています。

何度も自身で採り上げている名曲「ランチ・ウィズ・パンチョ・ヴィラ」やドイツのエンヤに残した『ア・シェイド・オブ・チェインジ』からの「ザ・サーチ」、92年のケニー・ウィーラー、ヤスパー・ファントフとの『グリーン・ハウス・フェイブルズ』のタイトル曲などもやっています。

ヴィブラフォンを弓でアルコ奏法したり、掌で完全にパーカッションとして叩いたり、特殊奏法も色々とやっていて楽しめます。

それよりも何よりも、彼が非常に広い視野で音楽を捉えている総合的な音楽家であることが理解出来る内容であるのが素晴らしい!

これは単なるヴィブラフォンミュージックではないのです。

音と音の重ね方、録音したトラックの組み合わせ方、リズムやダイナミクスの緩急などなど、作曲やアレンジを勉強している人にもお薦めの一枚なのです。

たった一つ(実際はマリンバもあるので2つですが)の楽器しか使っていないアルバムでそういうところまで楽しめるのは、ほんと、稀なことなのです。

ジャズとか何とかを取っ払っても聴けるただただ「いい音楽」だと思いますので、ぜひどうぞ!