ダブル・ブックド/ロバート・グラスパー

本記事は、柳樂光隆監修の話題のジャズ本『Jazz:The New Chapter』を下敷きとしています。ここで書かれている内容に興味を持たれた方は、ぜひ同書をお読みになって下さい。


『ブラック・レディオ』(以下BR)『ブラック・レディオ2』の連作で一世を風靡した現代ジャズ界の風雲児グラスパーの、オーソドックスフォーマットとエクスペリメントをつなぐミッシングリンクのような作品『ダブル・ブックド』を聴いてみました。
初めて彼がエクスペリメントを名乗ったアルバムでもあります。
ヴィセンテ・アーチャーとクリス・デイヴによるピアノトリオによる前半、ケイシー・ベンジャミン、デリック・ホッジ、デイヴとのエクスペリメントによる後半という二本立て(ダブル・ブックド)の構成になっています。
今、音楽界を揺らしに揺らしまくっているこの逸材が持つ音楽性を総合的に知りたければ最適な作品かも知れません。
私はどちらかと言うとアコースティックなフォーマットが好きな方なので、彼の「そちら側」はどういうサウンドなんだろう、と正直かなり興味がありました。
ヒップホップなど、ブラックミュージックとの強いつながりを言われる彼のことですから、こちら側でも相当に鋭角にリズムが際立ったメロディ作りをしているのだろうと予想していたので、イントロのライヴを模したMCの後にすっと流れ込んで来る旋律を聴いてかなり驚きました。
誤解を恐れずに表現するならば、非常に「薄味」の、都会的なセンスに満ちたヴォイシングも併せて、全編「さざ波」にような揺らぎを感じさせるメロディなのです。
その緩やかな揺れに身を委ねているとだんだんわかってきました。
彼のメロディは「フロウ」感覚なのだろうと。
普段東欧系の、比較的自己主張のはっきりした旋律を聴いている私にとって、ヒップホップのフロウはメロディと語りの中間をたゆたうような、凄く曖昧なものに聴こえるのですが、その時に抱く独特の浮遊感と似たような気分になるのです。
また、センテンスの一つ一つを切り離してみるととても華麗なピアノソロも、全体を通して眺めると唐突な間がところどころに挟まれ、ぶつ切りっぽい感じなのも面白いですね。
音の間に関する感覚には、独自のものを感じます。妙にフェイドアウトっぽい処理の曲が多いですし。
また、先ほどハーモニーは都会的な洗練があると書きましたが、しかし、随所に「アメリカの空・大地」を感じさせもします。
これが『Jazz:The New Chapter』中のインタヴューで山中千尋さんが指摘されていた、グラスパーが持つ「ゴスペル」っぽさに起因するのかどうかはわかりませんけれど。
さて、しかし、しかしです。
私は本作の前半を聴いて、ある意味一番強く感じたのは、以下のようなことでした。
これら一見「オーソドックス」な音作りを何作も経なければ、あの『ブラック・レイディオ』に辿り着かなかったのだな、という彼の道のりです。
きっと、レコーディングデビュー初期の頃から、BRのサウンドヴィジョンはたとえおぼろげながらにしても、今自分がやっている音楽と地続きになって見えていたはずです。
「地続き」というのがミソで、きっとそのヴィジョンと、本作の前半で聴かれるような音楽は、彼の中ではある意味「同じもの」なのかも知れず、きっと「BRのための下積みとして今これをやっている」という意識はなかったでしょう。
が、外側から見ると、彼もまたアコースティックでオーソドックスなフォーマットによる「通過儀礼」的なリリースを経て「普通のジャズもちゃんと出来る」というところを見せた上でBRの制作に踏み切ったように見える。
本人の、自己の音楽性に対するカテゴライズの意識の持ちようはどうあれ、その意味ではグラスパーは非常に慎重にことを進めて、BRの完成を成し遂げたように思います。
ちょっと文脈が違うのですが、故マイケル・ブレッカーはセッションプロジェクトの名盤『ブルー・モントルー』の超高速4ビートナンバー「アップタウン・エド」という曲でようやくにして「何だ、ちゃんとしたジャズも吹けるんじゃないか」と「評価」されたといいます。
すでに怒涛の演奏をパッケージしたアルバムを何枚も発表し、数々のスタジオセッションで名をあげていながら、です。
そしていわずもがなですが、これはもちろん「ジャズ言説」の中の話でもあります。
当のミュージシャン間では、当然彼の実力のほどは知れ渡っていたでしょう。
マイケルの話をここに出したのは、グラスパーは、マイケルの例に当てはめた場合、オーソドックスなサウンドを出来るということを見せる「手順」をすっ飛ばして『ヘヴィ・メタル・ビバップ』を発表するようなことは、慎重にも避けていたという気がするのです。
その辺のことが、BRで見せたトータルなサウンドセンスのある種の繊細さにつながっているように思うのです。
とは言え、本作後半で聴かれる「初エクスペリメント」はまだBRにくらべ、特に彼らのサウンドのキモであるドラマー、クリスの爆発が足りないように思いますし、指向性のパーソナリティはすでに一級品ではあるものの、やはりBR制作にはまだ距離があった段階だとも言えるでしょう。
そこにも、BRはベストのタイミングで作られたのだろうという、彼の緻密な計算がうかがえます。
BRの独自の開放感がうかがえるテイクとしてはやはりビラルの「オール・マター」ですかね。
本人の歌唱も含め、「現代世代によるジャズヴィジョン」が明確に見えてくるサウンドとなっています。
グラスパーはたぶん、この2本立てのどちらにも重心をおいていない。
彼にとってはどちらも同じことなのでしょう。
ただし、それを見せて行く「語順」は慎重に配置する、そういう音楽家なのだと思います。
前半のオーソドックスサウンドの中に垣間見えるヒップホップ世代の独自性は、あたかも旧共産圏国の、「検閲」を潜り抜けつつ確かに思想を忍ばせた高度な芸術を思い起こさせます。
「ちゃんとジャズが演奏出来る」というマッチョなジャズマナー検閲を軽やかに飛び越えた本作は、話題のジャズ本『Jazz:The New Chapter』(以下JTNC)の内容を端的に表現したような作品と言えるかも知れません。

さて、JTNCですが、きっと「私たちおじさん(おばさん)世代にはよくわからない」とか「これが今のジャズと言われても・・・」という意見がこれからどんどん出て来るように思います。
ちなみに言っておくと、私は監修者の柳樂氏と数歳しか違わない、微妙に同世代に入る人間だと思っているのですが、実は彼が言うような「僕ら」ではない。
つまり、その「僕ら」がコンセンサスとして持っている「ヒップホップ」や「アメリカンミュージック」などを私はほとんど通過していません。
なので、実感としては彼の言う「僕ら世代」に皮膚感覚では共感し得ないのかも知れません。
ですが、彼がこの本でやろうとしていることは「世代間闘争」ではないのだと思います。
上で触れたような「ある世代」「ある層」の読者の反応のようなものって、結局使われている言葉がそのまんまで、ここ数十年繰り返されて来ました。
それにより「若い世代」「ジャズリスナーじゃない人たち」がジャズへの参入をスポイルされて来たという事実の蓄積の提示が、この本におけるコンセプトの一つなのではないでしょうか。
なので、例えば先の都知事選で候補の一人である家入氏が「『僕ら』とか言って若者だけ囲いこんで世代闘争している場合か」と批判された、その文脈と同列に扱うのはちょっと違うのかな、と個人的には考えています。
「若者や非ジャズリスナー以外を排除したジャズクラスタの成立」ではなくて、「そもそもそういう人たち(若者&非ジャズリスナー)を交えてのジャズのプラットフォームが一度でもあったか」という問いかけをしているのでしょう。
なので、JTNCを読むにおいて「グラスパーが本当に今のジャズの代表なのか」の真偽を問うのではなく、「へ~、そうなんだ、こんなん知らんかった、聴いてみようかな」でいいのだと思います。
実際私は、ぜーんぜんカヴァーしてない範囲なので、まずそういう風に楽しんでいます。
ま、もちろん、色んな意見、批評をして行くのは自由なんですけれどね。
その輪の中に、これまでジャズを語る層として存在していなかった人たちがどんどん入って来ると面白いですね。
まずは、この本をそういう場が広がって行くための第一歩と、受け止めようではないですか。

Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シ.../柳樂 光隆

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今回のジャズ批評特集は、四谷のジャズ喫茶いーぐるのマスター後藤雅洋さん、ジャズ評論家の村井康司さん、ローランド・カーク研究などで知られる林建紀さんによるジャズ史上の「ジャズ・ライヴ名盤100選」でした。
これまでのものとはイレギュラーなセレクションがあったり、3氏による対談などもあり、内容自体は面白かったのですが、ポーランドジャズライターとしてはちょっと首をかしげるところもありまして。
えーと、一言で言うと要するに「アメリカ以外のアルバム、少な過ぎるんじゃ?」ということですね(笑)。
あと、90年代以降から現在までの期間からのセレクションもとても少なくて、5枚くらい?
まあ時期的なトピックはさておき、ヨーロッパや南米など非米地域のジャズって、今や「汎世界音楽」と言ってもいいと思われるジャズという音楽にとって、その程度の影響力しか持っていないのかな、という疑問が私にはあります。
もちろん、こういう問題については「いや、これでも多過ぎるくらい」と感じる人もいるでしょうし「ジャズはアメリカの音楽なのだ」と言う人もいるでしょう。
個人差はたくさんあるのでしょうが、私はとりあえず「少ない」と感じてしまったので、まあカウンターオピニオンとして極私的な非米ライヴ盤の10選を挙げておきます。
あくまで私的なものなので、そもそもジャズ批評における3氏の選考基準と趣旨が全く違うじゃないか、というご指摘があれば、正直返す言葉はありません。
ただ、3氏とは全く違うアングルからのセレクションは、この音楽の広過ぎるシーンを俯瞰するのに少しは役に立つかも知れません。
私は結局、人に何か言えるほど詳しいのはポーランドだけなので、ポーランド以外の盤はかなりこじつけっぽいです。
要するにあんまり「ジャズ」じゃないのですが、しかし、世界規模で見た時どんな音楽がその国におけるジャズなのか、っていうことを考えるきっかけにはなるでしょう。
私にとってジャズとは「ジャズの語法やミュージシャンを導入しなくては成立しないポップス」の領域における「寄生音楽」としての要素が肝なので、そういうものがたくさん入っています。
他の国は他のスペシャリストの方たちにもぜひ挙げていただきたいと思います。
90年代以降のも誰か挙げて下さい。
まあ私のも基本的に90年代周りが中心なんですけれどね。
一応「歴史的価値」を省みた非米ライヴ10選も挙げます。
こっちはもっとこじつけです(苦笑)、浅はかな知識ですみません。

極私的10選

AO VIVO LIVE AT MONTREUX JAZZ FESTIVAL / HERMETO PASCOAL(BRASIL)

ジャズかどうかはさておき、ただただ世界遺産級の名演というべきでしょう。紛れもなく「ブラジル音楽」なんですが、このごった煮感にジャズを感じる人は多いでしょう。
FARAT(DVD) / ANNA MARIA JOPEK(POLAND)
これぞ「ジャズの要素がなければ成り立たないポップス」の最高峰。傑作。
3 NIGHTS / ZBIGNIEW NAMYSLOWSKI(POLAND)
ポーランド特有の凝り性と屈折したセンスが濃縮された天才ナミさんの3枚組ライヴ。彼が40年近くのキャリアでものしてきたオリジナルがどっさり。
LIVE IN SOFIA / LESZEK MOZDZER & ADAM PIERONCZYK(POLAND)
ライヴと言えばこれ。現代ポーランドジャズシーンを牽引する天才2人の若き日の邂逅。会場にマイク一本立てただけの録音で、全曲ノンストップのほぼメドレー状態で押しまくる名演。
AT A FERGHANA BAZAAR / ENVER IZMAILOV(UZBEKISTAN)
ウズベキスタンのタッピング大魔神、超絶ライヴ。これを本当に一人でやってるのかどうかという技術的な問題より、このサウンドそのものが凄いです。頭の中どうなってるんだろう。
THE ORACLE / MILCHO LEVIEV & DAVE HOLLAND(BULGARIA/ENGLAND)
たぶん本人たちはこれを挙げられるの快くは思わないんでしょうね(笑)。でも愛聴盤なんだからしょうがない。ブルガリアとイギリスの鬼才同士による日本ライヴ。ピアノ&ウッドベースのフォーマットによる演奏としては最高峰じゃないんでしょうかね。
ORIENT LIVE / TIMNA BRAUER & ELI MEIRI(ISRAEL)
LPでは2枚組で出ていたイスラエルの女性ヴォーカリスト入りグループのライヴ。サウンドはちょっとフュージョンっぽいんですが、明らかにイスラエルの民俗音楽っぽい部分もとりいれているし、とにかく圧巻の演奏です。イスラエルシーンはこのアルバムを聴いてかなり前から気になっていたんですが、最近はアメリカで大ブレイクですね。
MEN'S LAND / MICHEL PORTAL(FRANCE)
PANDEMONIUM / FRANCOIS JEANNEAU(FRANCE)

この2つは80~90年代のフランスシーンを牛耳っていた2大巨匠のライヴです。ポルタルの方はデイヴ・リーブマンやジャック・デジョネットらとのコンボ、ジャノーはフランスの若手の鬼才を一堂に集めたビッグバンド。どちらもフランスならではの「アメリカとは違うジャズ観」が濃厚に出た内容となっています。
S席コンサート(DVD) / 矢野顕子(JAPAN)
もう何をか況や。ユニジャンルポップスの最上の成果です。

歴史的10選

LIVE AT THE JAZZ JAMBOREE FESTIVAL 1961-1967 / KRZYSZTOF KOMEDA(POLAND)

東欧のマイルスと呼ばれたコメダのジャズフェス出演音源をまとめた3枚組。ところでじゃあ「西欧のマイルス」っているんでしょうか?西欧を飛ばして東欧の彼がそう呼ばれたってところに物凄く重要性を感じるのですが。
POLISH JAZZ VOL.37 ALL STARS AFTER HOURS / VARIOUS ARTISTS(POLAND)
いわゆるオールスターセッションものなのにとにかくひねってみないと気がすまないポラ人たち。「ソー・ホワット」も「ピース」も風変わりな演奏になっています。70年代前半の当時から、いかにポーランド人たちが確立した独自のジャズセンスを持っていたかよくわかる音源です。
NOT TWO / MILOSC & LESTER BOWIE(POLAND)
ポーランドの独自性は政治に「自由への希望」がさした時に必ずジャズが傍らにあったことです。50年代半ばと90年代初頭ですね。これは後者の雰囲気をパッケージした歴史に残る名盤。クラシックの素養バリバリのLESZEK MOZDZER レシェク・モジュジェルにフリーキーなMIKOLAJ TRZASKA ミコワイ・チシャスカ、パンキッシュなリーダーTYMON TYMANSKI ティモン・ティマンスキにアート・アンサンブルのレスター・ボウイが違和感なく同居し、それに熱狂する観客という不思議。
9-11.PM TOWN HALL / DANIEL HUMAIR,JOACHIM KUHN,MARTIAL SOLAL,MICHEL PORTAL,JEAN-FRANCOIS JENNY-CLARK,MARC DUCRET(FRANCE)
フランスシーンの天才たちがニューヨークに殴り込みをかけた記録。数十年かけて、欧州の国々が独自のジャズを培って来、それを自信を持って逆輸入させたプライドを感じさせるような切れ味の鋭い音が満載。
CONSPIRACY : SOVIET JAZZ FESTIVAL,ZURICH 1989 / VARIOUS ARITISTS(USSR)
旧ソ連のジャズもごった煮・てんこ盛り状態で凄まじく面白いのです。これはソヴィエト体制崩壊前夜の、スイス・チューリッヒにおけるソヴィエト・ジャズ・フェスの記録。土地が広大なだけでなく、音楽も果てしなく広く深いのだとよくわかります。
LIVE IN TALLINN / JAN JOHANSSON(SWEDEN)
LIVE IN HAMBURG / E.S.T.(SWEDEN)

以上2枚はスウェーデンの礎となったヤン・ヨハンソンと、北欧ジャズの突破口となったエスビョルン・スヴェンソンのライヴ。どちらも若くして亡くなりましたね。
GOURBET MOHABET / MILCHO LEVIEV & THEODOSII SPASSOV(BULGARIA)
シーンを牽引する天才と言われながらアメリカに亡命したブルガリアのミルチョ・レヴィエフの感動的な凱旋ライヴ。後半では、彼の次の世代のスターで、民俗楽器のカヴァル(笛)マスター、テオドシー・スパソフが参加。新旧の偉大なるマエストロの磁力に満ちた共演が聴けます。
MILAGRE DOS PEIXES AO VIVO / MILTON NASCIMENTO(BRASIL)
これを入れることには異論が続出でしょう。ブラジルのジャズならもっとあるだろう、と仰る方もいらっしゃるでしょう。でもあえてこれ。ミルトンはじめ、70年代初頭のブラジルの最先端のミュージシャンが集って凄まじい歌入りオケジャズをやっています。
KONCERT'98 / LAJKO FELIX ES ZENEKARA(HUNGARY)
さて、これも異論続出でしょう。ハンガリーの天才ヴァイオリニスト、ライコーの大傑作。フォーマットも聴いた感触も全くジャズではありませんが、この自在な「アクロス・ザ・ボーダー」感にジャズを感じないとしたらもったいないです。


以上でした。
ちなみにアメリカものでは、
CALIFORNIA CONCERT / CTI ALL STARS
DGQ-20 / DAVID GRISMAN
TORTURE NEVER STOPS(DVD) / FRANK ZAPPA
KEYSTONE 3 / ART BLAKEY AND JAZZ MESSENGERS
TEARS OF JOY / DON ELLIS ORCHESTRA
HEROES AND ANTI-HEROES / LEE KONITZ & GIL EVANS
PUBLIC THEATER / GIL EVANS ORCHESTRA
LOTUS / SANTANA(MEXICOか)

とか変なのばっかり挙げたくなるのでした(笑)
まあKURT ROSENWINKELのREMEDYとか、その辺のものも凄いですよね。
でもよく知らないのであえて挙げないでおきます。
他の方たちにお任せしますので、われこそはというかたはぜひバトンを受け取って下さい。
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日本で人気のあるジャズのジャンル(っつうのも変な言い方ですが)の2大巨頭は「ピアノ・トリオ」と「女性ヴォーカル」だと思うのですが、いかがでしょう?

で、その2つがくっついたアルバム、つまりピアノトリオをバックに女性ヴォーカルが歌うという作品は「黄金コンボ盤」としてさらに期待水準が上がるのではないでしょうか?

でも、そういう「黄金コンボ」のアルバムって、自分の身の周りには結構少なかったりします。

クァルテットならいっぱいありそうな気もするのですが。

で、普段から愛聴している黄金コンボ盤挙げてみようと思うんですが、一応ルールを課してみようと思います。

まず、バックは基本3人だけであるということ。

ベーシックな部分は3人だけど、曲ごとにゲストが参加しているっていうのは選考対象外。

あくまでアルバムのほとんど全てをトリオが演奏しているというのが前提。

鍵盤、ベースは生電問わないけれど、鍵盤は出来ればピアノ主体が望ましい。

トリオのメンバーがヴォーカルをとっているタイプのヴォーカル入りトリオは選考対象外。

楽器奏者とヴォーカリストは別の人が前提。

っていうのを最低条件として、黄金コンボのマイ名盤を挙げてみましょう。



JOHANNA LUZ / JOHANNA LUZ

フランスのアルバム。ボッサ定番「小舟 O BARQUINHO」や原語版「枯葉」など、英仏ポル語を取り混ぜたヴォーカルとベースがグイグイ効いたピアノトリオが魅力。


FIRST INSTRUMENT / RACHELLE FERRELL

EMI/BLUE NOTEからの衝撃デビュー盤。チャップマン・スティックによる粘り気のあるベース、フィラデルフィアの秘宝的ピアノの名手EDDIE GREENのプレイも滋味に溢れて良い!のですが、やっぱりこの6オクターヴのヴォーカルは反則でしょ。ボートラ的に追加されたMANHATTAN PROJECTによる「枯葉」も最強!一頃かなりこのアルバムにはやられていました。


KEEPING TRADITION / DEE DEE BRIDGEWATER

これもいいですね~。フランスの超がつく名ドラマーANDRE CECCARELLI アンドレ・チェッカレッリのダイナミクス神っぷりを堪能するにはうってつけの作品です。DEE DEEのパンチの効いた歌唱も浮き浮きさせてくれます。


WAROWNYM GRODEM / ANDRZEJ JAGODZINSKI TRIO & AGNIESZKA WILCZYNSKA

我がポーランドから、極上の作品を。この国のジャズの良心とも言えるアンジェイ・ヤゴヂンスキ・トリオに、美声の女性ヴォーカルという、これぞ最強黄金コンボ!題材も賛美歌のジャズ化で、爽やかで美しい一枚です。


KACZMARSKI & JAZZ / JANUSZ SZROM,ANNA SERAFINSKA,MARIA SADOWSKA

これはちと反則。同じくポーランドから。超絶ピアニストPAWEL TOMASZEWSKI パヴェウ・トマシェフスキ、若手ファーストコールANDRZEJ SWIES アンジェイ・シフィェンス、RGGのドラマーKRZYSZTOF GRADZIUK クシシュトフ・グラヂュクによる強力ピアノトリオをバックに3人のシンガーが入れ替わり立ち代わり歌いまくる極上盤。マリャ・サドフスカはこれで中途半端な元アイドル的立ち位置から実力派シンガーへと完全に脱皮しました。


LAST YEAR'S WALTZ / STEVE KUHN QUARTET

ECMの名盤。耽美ズム絶頂期のキューンのトリオに、浮遊感漂うSHEILA JORDAN シェイラ・ジョーダンのスキャットが絡む絡む。HARVIE SWARTZ ハーヴィー・シュワルツ作曲の「THE FRUIT FLY ザ・フルート・フライ」が大好きです。


JAZZBUHNE BERLIN'85 / BETTY CARTER & HER TRIO

名手BENNIE GREEN ベニー・グリーンのトリオを擁した「フェイクの女帝」ベティ・カーターの疾風怒濤ライヴ。聴く人を選んでしまうかも知れませんが、これは凄い演奏です。



私が思いつく黄金コンボ名盤はこんなものですが、みなさんのマイ黄金コンボアルバムも知りたいです。

コメントやツイッターでオススメ教えていただければ嬉しく思います。

データベースにもなりますし。

よろしくお願いしま~す。

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Voyage (Dig)/Youn Sun Nah

先日(8月18日)行った吉祥寺MEGでの現代ポーランドジャズ特集CDコンサートに、ツィッター上でお知り合いになった韓国文化ライターの田中恵美さんが来て下さいました。

最初に資料や名刺などをお渡ししてご挨拶した時にプレゼントをいただいて、1つは田中さんと松田カノンさんの共著『ポップ★トリップ ソウル』(本文下に画像リンク張ってます)で、もう1つはその御著書の中にもインタヴューが掲載されている韓国出身の女性シンガー、YOUN SUN NAH ナ・ユンソンの7枚目のアルバム『VOYAGE ヴォヤージュ』でした。

試聴会の休憩中少し田中さんとお話させていただいたのですが、韓国のジャズシーンとポーランドのそれにはかなり共通点があるようなのです。

会の第3部で私はJAZZ FORUMという雑誌の付録音源についてお話したのですが、韓国でもジャズ雑誌の付録文化?がとても盛んらしいですね。

若手が頑張ってシーンを牽引しているところも似通っているようです。

その他、私なりに色々考えてみたのですが、例えばある種無骨なリズムを持つ伝統音楽が国民の共通して持つ音楽性の根っこにあることや、『ポップ~』中のNAHのインタヴューにあるようにその言語の響きがとても音楽的であることも似ている点でしょう。

また、韓国について詳しく知っているわけではないのであくまで印象ですが、何度も他国に蹂躙されて来た凄まじい歴史を持っているということも似通っているように思えます。

そして、ジャズシーンにおける現象として最も解りやすいのは、ヴォーカリストの「器楽的アプローチ」をおろそかにしない姿勢なのではないでしょうか。

このNAHに限らず、聴いたことはサンプルくらいしかないので断言は出来ませんが、近年頻出している韓国出身のヴォーカリストのアルバムに通底するのは、心地良くハイレヴェルなサウンドながら、スキャッターとしてのスキルも惜しみなく披露してみせる音楽だということ。

これって、ポーランドも同じですよね。

かてて加えて、このアルバムの場合さらにポーランドのジャズシーンとの紐帯が出来上がりつつあるのですよ。

本作のベース&チェロとプロデュースは、LARS DANIELSSON ラーシュ・ダニエルソンが担当しているのです。

DANIELSSONと言えばポーランドが誇る天才ピアニストで「現代のショパン」ことLESZEK MOZDZER レシェク・モジュジェル(レシェック・モジジェル)とのユニットでも大活躍のスウェーデンの名手。

おいおい、これ、ひょっとしてNAHとMOZDZERの共演アルバムなんてのも近々生まれたり?なんて妄想が果てしなく膨らんでしまいますよ(笑)。

前から気になっていたアーティストでもありますし、せっかくいただいたプレゼントですから、18日にホテルに帰ってから夜景を眺めてお茶しながら早速持って来ていたノートパソコンで聴かせていただきました。

基本的に、ゆったりとしたテンポの、リズムをあまり強調しない浮遊感に満ちたナンバーと、ウッドベースの弦をはじく音がバシバシ唸るグルーヴィなナンバーの2種類で構成されています。

そして、NAHの時に囁くような、時にオペラティックなヴォーカルワークは類稀な技巧で制御されていると共に大変にエモーショナルかつドラマティックで、ジャズヴォーカルの本来持つヴァーサタイルな多面性の魅力を最大限に楽しませてくれます。

私はジャズ批評史におけるジェンダーに大変に興味があって、いつかしっかり研究して本を書こうとまで考えているのですが、これほどの歌唱力を前に、NAHの美貌を以てしてもさすがに「美女シンガー」云々のコピーをつける愚は犯せませんよね。

そして、2曲目のDANIELSSON作「THE LINDEN リンデン」ってこれ、MOZDZER-DANIELSSON-FRESCOのファースト『THE TIME ザ・タイム』のオープニングナンバー「ASTA アスタ」じゃないですか!

いやーん、もうさらにポーランドと近づいてきちゃったぞ!

しかしULF WAKENIUS ウルフ・ワケニウスって物凄いテクニシャンなんですね。

北欧シーンはあまり知らなかったのでぶっ飛んでしまいました。

実は彼もポーランドと少し接点があって、彼とAMC TRIOによる『SOUL OF THE MOUNTAIN ソウル・オブ・ザ・マウンテン』という作品はポーランドのSTUDIO TOKARNIAで、現代ポラジャズシーンを裏で牛耳る若手凄腕録音エンジニアJAN SMOCZYNSKI ヤン・スモチンスキによって録音されているんです。

まあ、だから何やねんですが。

個人的に注目していたのがブラジルの鬼才EGBERTO GISMONTI エギベルト・ジスモンチ作曲の「FREVO フレーヴォ」。

WAKENIUSとのデュオで迫力満点のスキャットを展開しています。

アクロバティックに上下する旋律がもたらす独特のドリーミーな浮遊感があまりにも強烈なのでついつい「カヴァーするだけで精一杯」になってしまう場合も多々ある難曲と言えば難曲なわけですが、この「ヴォーカル」というこれまた世界最高に難しい「楽器」を見事に弾きこなす圧巻の技巧と、それがもたらす余裕と豊かな空気感が場を支配し、この曲の持つ豊かな可能性を引き出しています。

ブレイクでのWAKENIUSのパーカッシヴなアプローチも大興奮!

こんな超絶ヴォーカリストの彼女の経歴については国内盤の杉田宏樹さんのライナーを参照していただくとして、彼女が世界トップクラスのジャズヴォーカリストであるのは間違いないです。

私は世界で乱発される雰囲気作りだけの似非ジャズヴォーカルにはうんざりしていて、そこには歌唱面でもアレンジ面でも選曲面でも何ら新しいものも豊かなものもなく、そしてそれなのにそういうものが一番売れる、という現象にも絶望しています。

そんな中、このようなスタイルでしかもちゃんといい意味で「敷居の低い」ポップさを兼ね備えた作品を作ってみせるNAHの実力には本当に拍手を送りたいです。

最新作『SAME GIRL セイム・ガール』や過去の作品群も気になりますね。

特に韓国語ヴァージョンやライヴDVDもついた『MEMORY LANE メモリー・レイン』特別版、すでに入手困難のようですがとても聴きたい。

そう、響きが美しいと言われる韓国語による彼女のヴォーカルをぜひ味わってみたいのです。

私が国内盤のライナーを書いたAGA ZARYAN アガ・ザリヤンもインターナショナルな活動を行っており、ほぼ英語でしか歌わないのですが、ポーランド語での作品も独特の豊かな薫りが漂っていて大変に素晴らしいので。

そして願わくばポーランドのミュージシャンとも共演をぜひ!

お隣の国韓国から現れた世界最高クラスの実力派ヴォーカリストを、みなさんもぜひ聴いてみて下さい。


ちなみに、彼女による「FREVO」の↓こんな演奏動画見つけました。

凄いでしょ!

上がWAKENIUSと、下がピアノ&アコギと。

この韓国のアコギの人、NFL中継の解説者の河口正史さんに顔似てるな。

http://www.youtube.com/watch?NR=1&v=03nK2B0nnMo

http://www.youtube.com/watch?v=BjWEaHlz5FU


Same Girl/Youn Sun Nah

ポップ★トリップ ソウル (ポップ★トリップ 2)/田中 恵美

Gretchen Parlato/Gretchen Parlato

(GRETCHEN PARLATO MUSIC)


家の近くに、廉価な服や下着を扱っていることで中流家庭未満の階層の市民にとても愛されている「ファッションセンター しまむら」があります。そこそこ有名なのでみなさんご存知かな?

私は冗談で「ファッショセンター」なんて呼んでますが(笑)。

先日相方と2人でそこへ行ったら、ブラジルの天才シンガーソングライター、ジャヴァン DJAVANの1stに収録の名曲「フロール・ヂ・リス FLOR DE LIS」のカヴァーヴァージョンが有線かなんかで流れていました。

私はこの曲大好きなんですが、それだけではなくて、そのカヴァーヴァージョンの演奏がとても良かったんですよ。

聴きやすいんですけれど、バックのギターのカッティングのグルーヴの気持ち良い引っかかりとか、途中で入って来るピアノソロがスキャットとユニゾンしていたりとか、単なるムーディカヴァーに終わっていないような気がして。

そして、女性ヴォーカルの声質も嫌味がない中に確かに歌唱力が感じられてとても気になりました。

それで帰宅してから早速調べてみたら、あら、今をときめく実力派ヴォーカリストでアメリカ東海岸最先端シーンで大活躍中のグレッチェン・パーラト GRETCHEN PARLATOじゃないですか!

このカヴァーヴァージョンは彼女が自主制作に近い形で出した初めてのリーダー作品に収録されているのです。

色々調べを進めて行くとこのアルバム、私のブログお友達界隈でも一頃話題になっていたようなのですが、全く記憶に残っていませんでした。

早速調べまくって某店で購入。

今はとても入手が難しいんですってね。

最前線のヴォーカリストの、それも記念すべきファーストアルバムがそういう状態なのってちょっとさびしいですね。

でもちょっと朗報。

CD BABYなら手に入るそうですよ。

少し割高ですが。

さて、GRETCHEN組っていうのが存在するようで、バックのメンバーの核はアーロン・パークス AARON PARKSやリオネル・ルエケ LIONEL LOUEKEが固めており、それはセカンドの『イン・ア・ドリーム IN A DREAM』でも変わらずです。

収録曲は全8曲、LOUEKE曲が2曲、上記DJAVANが1曲、ジョビン JOBIM曲が2曲、あとはジャズものでスタンダードの「スカイラーク SKYLARK」がオープニング、クロージングにはウェイン・ショーター WAYNE SHORTER曲のメドレー「ジュジュ/フットプリンツ JUJU/FOOTPRINTS」というなかなか面白そうなラインナップです。

アルバム全体を通して非常にシンプルな演奏で、徒にテクニックにはしるようなところはありません。

楽器の響きを最大限に活かすことを心がけているような印象を受けました。

それでいて当たり前のアレンジになっていないのがこの作品の奥が深いところなのかな~。

原曲から微妙にビートを変えてあったり、あるいは民俗楽器のサズ SAZなんかを持ち出してみたり。

GRETCHENの歌唱は、時々凄く技巧的なアプローチをとったりしているのに、それ以上に自然に流れているように聴こえるところがとても良いんですよ。

コーラスで入るLOUEKEのほっこりした声とも良く合います。

こういう、とにかくアコースティックな響きにこだわった、ちょっと葉っぱや土の香りがするような音楽を表する時に「オーガニック」って言葉がよく使われるんですけれど、私は聴いていたら「エコースティック」っていう言葉を思いついちゃいました(笑)。

しかしまあ本当に潔いくらいにシンプルなバッキングで、行間から滲み出して来るようなニュアンスを楽しむ感じでしょうか。

それと、LOUEKEのギターとユニゾンさせたスキャットやコーラスがとても効いているんですよねえ。

これがあるゆえにアルバム全体に歌心が満ち溢れている感じがするんです。

「バーニーズ・チューン BERNIE'S TUNE」のことかと勘違いしていたLOUEKEの「ベニーズ・チューン BENNY'S TUNE」の幸福感に包まれた浮遊感たっぷりのメロディの素朴な美しさも心打たれます。

赤ちゃんに聞かせるのにぴったり?

このバンドの素晴らしい技巧を味わえるのは「FOOTPRINTS」の複雑に交錯する多重録音ヴォーカル、ベース、サズのリズムアンサンブル。

あくまでオープンな空気感は失わず、しかし絶妙に組み合わされたグルーヴに底知れない実力がうかがえます。

私を一発で虜にした「FLOR DE LIS」はギター一本とGRETCHENの歌のみで始まり、一番が終わったところでピアノ、ベース、パーカッションが入って来てサビではLOUEKEのコーラスも加わり、その後はPARKSがファルセットスキャットをユニゾンさせながら楽しいソロを聴かせるという構成。

オリジナルヴァージョンより足取りの軽い、それでいて「お軽く」なっているわけではないという演奏です。

音を伸ばす時にGRETCHENの声がかすかにかすれるのが、狙っていないセクシーさがあってカッコいいです。

シンガーとしては凄いポテンシャルを持っていて、間違いなく実力派なんですが、変に気負わずに美しく楽しい響きの音楽を目指したら物凄くリピータブルなアルバムが出来ちゃったってとこでしょうか。

とにかくやたら頭の中で再生されるアルバムです。

邪念を振り払い目いっぱい集中したい方にはオススメ出来ないかも知れませんね(笑)。


Personnel:GRETCHEN PARLATO(VO,PERC),LIONEL LOUEKE(G,SAZ,VO),AARON PARKS(Pf,VO),MASSIMO BIOLCATI(WB),CAFE(PERC)

German Body-Russian Soul-African Heart/Extreme Trio Regina Litvinova
(RODENSTEIN RECORDS/ROD 06)
ここ最近はいつもポーランドのネタばかり書いているから煮詰まって来るのかなあ・・・と思い、ちょっと箸休めに他
の国の音楽について書きます。
と言っても東欧関係なんですけれど(笑)。
若手の女性ピアニスト、レギーナ・リトヴィノワ REGINA LITVINOVA率いるエクストリーム・トリオ EXTREME TRIOのファーストアルバムです。
LITVINOVAは名前からも察せられるようにロシア出身。
ドイツの代表的なジャズピアニスト、ユルク・ライター JORG REITERにジャズピアノを習い、近年はリッチー・バイラーク RICHIE BEIRACHに師事しているようです。
このEXTREME TRIOの作品は現時点で3枚リリースされています。
残りのメンバーは両方ともドイツ人で、ウッドベースがマルティン・シモン MARTIN SIMON、ドラムがクリスティアン・ショイバー CHRISTIAN SCHEUBER。
SCHEUBERはロシアのジャズシーンでの活動が多いドラマーで、ああこれにも参加していたっけ、というようなロシアンジャズ名盤へのコミットもあり、その方面のファンの方には馴染み深い名前かも知れません。
詳しくは本人のウェブサイトへどうぞ。
そのSCHEUBERとLITVINOVAがモスクワで知り合ったのをきっかけに本トリオの企画が持ち上がったのでしょう。
さてそんな記念すべきファーストのサウンドですが、颯爽と跳ね回るようなLITVINOVAの躍動感溢れるピアノを前面に押し出し、ドイツと言うよりはむしろフランスと北欧系の中間辺りのムードを感じさせる涼やかなメロディとシカケの多い曲構成で聴かせる、という感じでしょうか。
リズムのビシビシしたキメが多いのは、SCHEUBERがほとんどの曲を書いているからかも。
LITVINOVAのピアノは、とにかく切れが素晴らしく良くて聴いていて大変に気持ちいいのですが、趣が足りないと感じる方もいらっしゃるかも知れません。
私的には音楽をやる喜びのようなものに満ちていていいと思うのですが、ちょっとスポーティ過ぎると言うか、乗りに頼っているようなところもあるでしょうか。
でもこの時点でのこのトリオのサウンドにはとても合っているプレイスタイルだと思います。
質実剛健という感じのSIMONのベースはバキバキと指板に弦を叩きつけていて、生ジャズの快感をしっかりと喚起してくれます。
実質的な音楽監督とも言えるSCHEUBERのドラムは非常に切れが良いスタイルで、乗りがビリー・コブハム BILLY COBHAM辺りの、超しっかりルーディメンツを訓練したドラマーに共通する「あの感じ」です。
オープニングの変拍子導入疾走ナンバー「シックスティーン・オア・トゥウェンティ・ファイヴ SIXTEEN OR TWENTY FIVE」にそれが顕著。
三者三様の魅力がいきなり全開の、リスナーの心を一気につかむにはもってこいのナンバーと言えるでしょう。
和音階を導入しつつもどんどんとヨーロピアン抽象美の世界へと移ろい行く「富士山 Mt.FUJI SAN」(LITVINOVA作曲)とかまどろむような儚げな美メロワルツ「オールド・モスクワ OLD MOSCOW」などもオススメのテイク。
さて、本作には2曲、これまたドイツ人のアルト&フルート奏者ライナー・ヴィッツェル REINER WITZELがゲスト参加しています。
タイトル曲の方は、WITZELがアルトとフルートをオーヴァーダブしてテーマを奏でるラテンジャズナンバー。
つんのめり気味の変拍子だか何だかよく判らないキメキメパートとサンバジャズビートのパートが交錯してスリリングです。
もう1曲「ザ・スナッパー THE SNAPPER」もキメキメバシバシのノリノリハイスピードナンバー。
WITZELのアドリブもストレスなしの快調に飛ばすタイプ。
あまり汗臭くないボビー・ワトソン BOBBY WATSONみたいな、と言えば良いでしょうか(笑)?
疑似WATSONに疑似COBHAM、それにデビューしたばかりで怖いものなしの若い女性ピアニストとはずいぶん最強な組み合わせですが(笑)、ジャズとは!とかあまり難しいこと考えずにこの圧倒的に気持ち良い乗りを楽しめばいいんじゃないかと思います。
ところが最後の最後に意外な置き土産が。
LITVINOVAのオリジナルでピアノソロ演奏による「レイン・ビフォー・クリスマス RAIN BEFORE CHRISTMAS」がラストナンバーになっているのですが、これが蕩けるような抽象美と、ロマンティックに歌い上げる情感的な演奏が行き交う、実に味わい深い演奏なのです。
この若きピアニストの次なる成長への兆しを感じ取ることが出来るのではないでしょうか
これからも注目して行きたいミュージシャンです。
Personnel:REGINA LITVINOVA(Pf),MARTIN SIMON(WB),CHRISTIAN SCHEUBER(DS),REINER WITZEL(AS,FL)

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Turning Point/Kevin Eubanks (BLUE NOTE CDP 7 98170 2)

今年最後のレヴューは、今年買った中で一番安かったアルバム(CD)を書こうかと思います(笑)。

今年買った中と言うか、はっきり言って人生最安値だったんじゃないですかね。

ギタリスト、ケヴィン・ユーバンクスの92年作で、名門ブルー・ノートから。

このアルバム、とにかくメンバーが凄いんです。

ウッドベースがデイヴ・ホウランド(ホランド)かチャーネット・モフェット、ドラムがマーヴィン・スミッティ・スミスかマーク・モンデザイア、そしてアルトフルートにケント・ジョーダン。

ホウランドやモフェット、スミッティについては説明不要でしょうが、モンデザイアは後に「ミスター13th」(手が鍵盤のドから1オクターヴ上のラまで届くと言っていたことから私が勝手に名づけたニックネイムです)ジュリアン・ジョセフ JULIAN JOSEPHやジャン=ミシェル・ピルク JEAN-MICHEL PILCなど、西欧の新世代の天才ピアニストと共演し評価を確固としたものとして行くハイセンスなドラマー。

ジョーダンは自身の『エッセンス ESSENCE』というリーダーアルバムでホウランドやケニー・バロン KENNY BARRONといった名手と共演しているという情報があるので(残念ながら未聴)個人的に注目していたプレイヤー。

それでなくてもフルートですから、私としては要チェックなのです。

全9曲収録で、1曲のギターソロナンバーを除き、それぞれ4曲ずつホウランド&スミッティ、モフェット&モンデザイアという組み合わせで参加、ジョーダンは8曲全てで演奏しています。

私にとってはケヴィンというアーティストは全然どうでもいい人だったのですが、この作品は凄いです。

彼独自のフィンガーピッキング(平たく言えばピックでも爪でもなく指の腹で弾く)によるアタックの効いたペキペキした音色で縦横無尽に弾き倒す上、全曲自作という各コンポジションが変拍子やリスナーのカウント欲求を突き放すような超シンコペキメキメの連発、それに輪をかけて豪腕リズムセクションが暴れまくるというかっこ良さ。

ジョーダンも淀みなくスピーディなプレイを決めまくり、その快感はアメフト(関係者はアメフットと言うそうです)のランニングバックやリターナーがフィールドをエンドゾーンまでカットを切りながら走り抜けるのを見る時に感じるものにも似ています。

まあまずはオープニングの3部作「ターニング・ポイント」「アフターマス AFTERMATH」「イニシエイション INITIATION」を聴きましょう。

ゴリゴリ攻めまくるホウランドと嵐のように叩き倒すスミッティがロッキッシュなテーマの中で映える1曲目、幻想的なバラッドの2曲目、美しく透き通った印象を持ちつつもアクロバティックな音階のアップダウンと変拍子に準拠したメロディと再び大爆発で完全にソロ状態のスミッティがかっこ良過ぎの3曲目。

私はギタートリオ+ワンホーンという編成はあまり聴かないんですが、これは凄い。

もう本当に血沸き肉踊るサウンド。

それでいて緩急自在、押しまくるだけではないのがミソ。

リリカルなパートの独特の魅力もあるんですよねえ。

21拍子サイクル(中でどんな拍の分け方をしているのかまでは判らなかったのですが、とにかく1サイクル21拍のようです)による無国籍なメロディの「ニュー・ワールド・オーダー NEW WORLD ORDER」はこのアルバムの白眉。

リズムセクションはこちらはモフェット&モンデザイアで、ドバドバ型のスミッティとは違いビシビシ型のモンデザイアのシャープなドラミングが光ります。

ケヴィンの傍若無人とでも表現したくなるギターソロも凄まじく、いい意味で一体どこへ行くのか判らない行き当たりばったりなフレイジングで興奮させられます。

西部劇サントラとウィンダムヒル WINDHAM HILLサウンドの融合みたいなメロディの「スパイラル・ウェイズ SPIRAL WAYS」(ホウランド&スミッティ)もいいですね。

一部ギターを重ねているのも効果満点で、これは「あり」でしょう。

このアルバムの凄いところの一つは、誰かソロをとっている時でも他は伴奏=バッキングしているんじゃなくてみんなでアンサンブルインプロヴィゼイションしていることですね。

それが如実に表れているのが「フリーダム・チャイルド FREEDOM CHILD」(モフェット&モンデザイア)。

ジョーダンのフルートソロの時の他3人のやりたい放題は、これこそがジャズ!と叫びたいほどのスリル。

天から地へ重ね切りにしてしまうような鋭さのモンデザイアや強引過ぎるほどの押しが強い音色と唐突なコードワークやカッティングのケヴィン、新世代の超絶テクニックでグルーヴィに指板を駆け巡るモフェット、そしてそんな重量級の3人とがっぷり4つに組んでなお軽やかに舞い踊るジョーダン。

まさにこのメンバーが揃ってこそなし得ないサウンドがここにあります。

と言うように本当に素晴らしい作品なのですが、これでケヴィンを追っかけるかと言うとまあそれはまた別の話で、アルバム全体を通してこのメンバーでなければ、というマジックに包まれた作品なんでしょうね。

こってりと言うよりごってりという感じの8曲の後、「お気に召しましたでしょうか?」とばかりに爽やかなカメリエーレが運んで来たかのような口直しドルチェ的クロージング「リンガリング・デスティニー LINGERING DESTINY」は多重録音によるギターだけのナンバー。

これで後味さっぱり。

結構なフルコースでした。

えっ、気になるお代ですか?

何と105円だったのです!


Personnel:KEVIN EUBANKS(EG,AG),KENT JORDAN(AFL),DAVE HOLLAND(WB),CHARNETT MOFFETT(WB),MARVIN SMITTY SMITH(DS),MARK MONDESIR(DS)

(BMU PRODUCTION NO NUMBER)


ポーランド人の大ベテランベーシスト、ロマン・ディロンク ROMAN DYLAGとの傑作トリオ『RISMILES』の記事でちょこっと触れた、このBMUプロダクションからのジャズ・フォーカス JAZZ FOCUS'65のモントルージャズフェス67年のライヴとブルガリア国営ラジオ放送ビッグバンドのカップリングCD、運良くあっさり購入出来てしまいました。

前者のライヴ録音は、モントルーの記念すべき第1回の年のもので、しかもこの時のこの演奏で栄えある「批評家賞」を獲得しているのです。

このグループに関する情報に触れられたほとんどの方が目にしたであろうこの記述の、まさにそのものである幻の音源が今ここに!という大変に好き者好みのもの。

メンバーはミルチョ、東欧を代表する、世界最高のジャズフルーティストの一人として名高いシメオン・シュテレフ、ウッドベースにリュドミル・ミツォフ、ドラムはペータル・スラヴォフというクァルテット。

さあて、どっきどきの発掘音源への旅はどんなものでしょうか。

全体的に音量レヴェルが低いのが難点ではありますが、あとは各楽器のバランスなどなかなかのクォリティで、いくら発掘と言っても長靴盤のような代物ではありません。

まあ最近は物凄いクォリティの長靴もたくさん出ていますけれどね。

オープニングはレヴィエフ、というかブルガリア人お得意の変拍子を導入した「ブルーズ・イン10 BLUES IN 10」。

このバンドのデビュー盤であるバルカントン BALKANTON盤でもやっていた彼のオリジナルですね。

とにかく驚くのは各メンバーの奔流のようなハイテクニック、技巧の限り音を連ねるその飽くなき欲求の力強さです。

技巧に魂を込めた、何と言うか矛盾した表現ですが「ソウルフル・テクニック」とでも言いますか。

特にシュテレフのフルートの切れ味は伊達じゃない!

それとやはり魅力なのは濃厚に漂うブルガリアの民俗ムードですね。

「単純にスタイリッシュな音楽は好きじゃない」というレヴィエフの、ミクスチュアな感覚はこの時点で既に確固たるものになっているようです。

カラーは違うものの、数年先駆けて世界の舞台で活躍し始めていたポーランドのズビグニェフ・ナミスウォフスキ ZBIGNIEW NAMYSLOWSKIとも通じるセンスだと思います。

レヴィエフのプレイ自体もマッコイ・タイナー McCOY TYNER辺りに近い轟音爆走モーダルスタイルながら、ブルガリアの伝統音楽に根ざした近接和音の多用で独特のテンションを生み出しています。

録音のせいもあるのでしょうが、いい意味で「古き良き」を感じさせるレトロな音色もいい感じです。

観客もむちゃくちゃに盛り上がっており、「批評家賞」受賞もうなずける受けの良さ。

他の収録曲はジェイムズ・ムーディ JAMES MOODYの「ダーベン・ザ・レッド・フォックス DARBEN THE RED FOXX」、スタンダードの「オールマン・リヴァー OL'MAN RIVER」、ディジー・ガレスピー DIZZY GILLESOIEの名曲「コン・アルマ CON ALMA」。

どの演奏も一筋縄ではいかない強靭さと時々覗かせるフリーキーなアプローチでガツガツと盛り上げています。

たった30分くらいのヴォリュームなのですがなかなかお腹いっぱいになります。

しかしもう一回フルコースが。

62年から66年の間に残された、レヴィエフが指揮・作編曲・ピアノ演奏を担当する国営ラジオ放送ビッグバンドの演奏で、これはレコードになっています。

もちろん原盤はどレア。

私も一度情報として目にしたぐらいで、ぜひ聴いてみたいが無理だろうと諦めていた音源です。

こちらもオープニングは「ブルーズ・イン10」で、これぞビッグバンド!というダイナミックなアレンジングがビシビシ効いた演奏で早くもノックアウト必至。

ここで切れまくっているフルートは恐らくシュテレフでしょう。

続くラテン&スウィングフィールたっぷりの「スタディ STUDY」もレヴィエフ作で、こちらも問答無用にカッコいいテイク。

とても4分強の短い演奏とは思えない一大サウンドスペクタクルが楽しめます。

続く変拍子の「ブルーズ・イン9 BLUES IN 9」もレヴィエフ作で、後にアメリカに亡命後参加することになるドン・エリス DON ELLISのオーケストラに近いものを感じるスピーディでグルーヴィ、ポップに聴けるハイテクアンサンブルの楽しいナンバー。

レヴィエフの編曲の天才が炸裂するのはジョージ・ガーシュウィン GEORGE GERSHWINの「ポーギー・アンド・ベス」を10分のシンフォニックジャズにアレンジした「FANTASY ON PORGY AND BESS」。

レナード・バーンスタイン LEONARD BERNSTEINの「ウェスト・サイド・ストーリー WEST SIDE STORY」にも通じるような一つの完成された世界で、メンバーのほとんどが世界に名も知られることもなく終わったこのビッグバンドのハイテクニックとアンサンブルとしての切れ味、凄味が十二分に発揮された凄まじい演奏です。

ラストのタイトルナンバーはこれまたレヴィエフ作の、東欧らしい醒めた雰囲気、白黒映画が良く似合いそうなタッチのワルツの佳曲。

レヴィエフのブルガリア時代のベールに隠された天才ぶりを垣間見ることが出来るこのCDの登場は喜ぶべきことなのですが、彼自身には複雑な思いがあるのかも知れません。

「私は家族より音楽をとったんだ」とアメリカへの亡命を語る彼ですが、本作はお母さんに捧げられているようで、ライナーに彼のこういう言葉が残されています。

「ブルガリア共産党当局は私の音楽を禁じただけでなく、母の最後の旅に同行する許可を与えなかった」


Personnel:MILCHO LEVIEV(Pf,COND,ARR),SIMEON STEREV(FL),LUDOMIR MITZOV(WB),PETER SLAVOV(DS),BIG BAND OF THE BULGARIAN NATIONAL RADIO

Rhizome/Mario Canonge
(0+ MUSIC OP102)

私が嫌いな人種の一つに、自分の趣味でやっていることに他人の価値観に基づいた選択基準を取り入れる人、というのがあります。

ジャズのフィールドで言うと寺島靖国さんとかウニオンの山本隆さんとかいーぐるの後藤さんとかの絶賛コメントを読んで、そのアーティストの該当作品だけを高いお金を出したりして買ってご満悦、というのが代表的な例。

そのアーティストの他の作品には興味も持たないし、自分で他のフィールドを開拓しようともしない。

悪く言うと言いなり。

私が以前某集まりで、寺島さんを囲んで飲んでいた時、参加者の方が寺島さんは自分にとって神様だ、というようなことを言った後「寺島さんの言ってた作品は追いかけ尽くしちゃって今何を聴けばいいのか判らない。寺島さん教えて下さいよ」という風に続けたので内心絶句してしまいました。

そんなの、自分が好きな感じのものを探して聴けば良いのでは?と思ったからです。

確かに上掲ジャズジャーナリストさんたちの言うことには、素人が徒手空拳で探し回るよりも当たりの確率が高く含まれているとは思いますが、それはやはりそれを仕事にし、ある程度結果を出さなければ次に続かないからであって、その当たりを出すために試聴したりご自分の趣味で聴いた範囲では膨大なはずれがあるはずです。

もちろん私も彼らのお仕事を購入の際の参考にさせていただくことはありますが、だからって自分の「好き」の軸はぶれません。

どう絶賛されようがけなされようが、自分にとっての最高の名盤の座は揺るがないですし、また逆にどんなにオークションなどで高値が付けられていても自分の好みでなさそうなものには興味もない。

趣味ってそういうものだと思っていたのですが、とりあえずジャズリスナーの中にはそうでない人が結構多いようで、他人事ながらイラッとします。

で、このマリオ・カノンジュの作品を紹介しようと思い立ったのは、今日ウニオンのウェブを見ていたら彼のピアノトリオによる最新作のライヴアルバムが山本さんに大絶賛された、みたいな惹句(今は「コピー」というのが主流のようですが、元新聞記者の知人がこの言葉を知らないのにはちょっと驚きました。入力しても変換されないし)が書いてあって、彼の名が前振りで批判したような「他力本願リスナー」にさも既知の事実であったかのように知れ渡るのも時間の問題かなと思い、そうなってしまうと天邪鬼の私としては書きにくくなるということで先んじて書くことにしたのです。

元々前からカノンジュのことは気になっていて、ベーシストのヴィクトール・サバ VICTOR SABASの『キャッスュール CASSURE (CLICK ME♪)』という作品の記事でもそのことは書きました。

社会人になってから間もない辺りにラベル・ブル LABEL BLEU絡みのコンピでカノンジュの『トレ・デュニオン TRAIT D'UNION』(最近CDとセットになったスコアブックが発売されたようです。欲しい!)からの「ミガン MIGAN」という曲を聴いてカッコ良くて、どういう人なんだろうとずっと思ってたんです。

数年前からネットをやるようになって彼についても色々判って来たわけなんですが、その過程で購入したのが本作です。

04年の作品で、ドラムにアントニオ・サンチェス、ミシェル・アリボのエレベとのテクニカルなトリオを軸に、ロイ・ハーグローヴやリチャード・ボナ、ジャック・シュヴァルツ=バールなどの凄腕ゲストを迎えたひそかな豪華盤なのですよ。

キャノンジュはかのミシェル・サルダビー MICHEL SARDABYと同じマルティニークの出身で、当然中南米のギンギンしたグルーヴと独特のメロディセンスが果汁をたっぷりと含んだ果物のような、はち切れそうな音楽になっています。

オープニングの「マディケラ MADIKERA」からカノンジュ印全開で、パコパコいうパーカス群と軽く耳をなでるエレピによる、これぞラテンジャズ!といったリズムに乗ってハーグローヴとシュヴァルツ=バールの2フロントによる軽快なメロディが奏でられると一気に気分は南国へ。

さらにジャン・ピエール・コケレルのヴォーカルが入ると曲はギアチェンジを繰り返しキャノンジュのソロへ。

ここから繰り広げられるソロリレーはさすがの完成度。

そしてまたヴォーカルが入りラストに向かってどんどん加速する幕切れは興奮します。

今度はピアノにスイッチして、またも2ホーン入りでシンコペの効きまくったラテンフュージョングルーヴで疾走する「プラン・スュ PLEIN SUD」も王道と言えば王道ですがカッコいい!

プチプチと弾ける果肉のような、超グルーヴィなアリボのベースも凄いです。

しかしこのアルバムの最高の聴きどころは続く「MANMAN-DLO」でしょう。

クラシカル&タンギッシュなピアノソロによるイントロからおもむろに胸キュンメロディで快速疾走するこの曲は純粋ピアノトリオ+パーカスという小編成で、サンチェスのシャープなプレイがたっぷりと堪能出来る他、キャノンジュの哀愁の美音とメロディアスなパーソナリティが色濃く出ています。

マイナー調の前半と明るい後半の対比も面白いです。

パット・メセニー・グループ PAT METHENY GROUPにラテンやプログレのテイストを振りかけたような壮大なスキャットナンバー「リューレタント LUEUR ETEINTE」はボナの澄んだヴォーカルが聴けます。

彼はこの1曲だけのゲスト参加です。

サンチェスはここでの演奏が一番爆発していますし、アリボも天才ベーシストのボナの前で気合が入ったのかバッキング、ソロとも物凄いテンション。

適度に複雑でシンフォニックなギミックも含みつつグイグイ盛り上がる展開も素晴しい、新時代ラテンジャズの名曲だと思います。

カッコいい&アドリブとりやすそうなコード進行を築き上げて行く、クラシカルなアプローチのピアノ&ハイテクニックエレベによるイントロにしびれるタイトル曲でもカノンジュのダイナミックなピアノソロが炸裂。

つくづく凄いピアニストです。

彼の作曲は、ラテンフィーリングバリバリではあるのですが、乗りが一辺倒ではなくて色々細かいフックを入れてあるので全然飽きが来ないんですよね。

テクニカルバリバリのハイパーラテンジャズサウンドにヴォーカルが重なって来るパターンも少なくないのですが、それが全然邪魔にならず、むしろいい意味での聴き易さを促進する効果があるのも面白い。

不思議な魅力を持ったアーティストです。

ここで私がいい演奏をしている、と挙げた「マディケラ」「プラン・スュ」「MANMAN-DLO」「リューレタント」は、全部最新作のライヴ盤 (CLICK ME♪)でやっているようですね。

それもそのはず、この『リゾーム』のツアーの録音なのです。

ちなみにリズムセクションはアリボでもサンチェスでもないのが残念ですが、エレベはアリボ同様テクニシャンのリンレイ・マルト LINLEY MARTHEなので要注目。

う~ん、欲しい!

そちらを聴いて気に入った方は、ぜひこっちも入手して、知られざる名ピアニストであるカノンジュの活動を盛り上げようじゃありませんか。

聴かなきゃ損な作品ですよ~。


Personnel:MARIO CANONGE(Pf,E-Pf,VO),MICHEL ALIBO(EB),ANTONIO SANCHEZ(DS),ROY HARGROVE(TP),JACQUES SCHWARZ-BART(TS),BAGO(PERC),MIGUEL GOMEZ(PERC),JEAN PIERRE KOQUEREL(PERC,VO),DOMINIQUE KOQUEREL(PERC,VO),ERIC COQK(PERC,VO),RICHARD BONA(VO),GINO SITSON(VO)

(PANNON JAZZ PJ 1030)


ゾルターン・オラー、ペーテル・オラー、ジェルジー・イェセンスキーからなるハンガリーのピアノ・トリオ、トリオ・アコースティック、97年のライヴ盤。

私はいつも勘違いしてしまうのですが、同じハンガリーのカールマーン・オラー KALMAN OLAHのトリオ・ミッドナイト TRIO MIDNIGHTとは違いますのでご注意下さい(笑)。

このオラー兄弟が関わった数枚がきっかけで一頃随分パノン・ジャズというレーベルも盛り上がりを見せましたが、「レア盤だから」という意味合いでの熱狂だったように感じて、中・東欧ジャズファンとしては素直に喜べないものがありました。

実際、依然としてオークションサイトなどではパノン・ジャズのこのトリオ関係のアルバムはそれなりの値が付く状態ですが、ジャズ本などで紹介されないものは見向きもされないということは、このレーベル自体への愛はないということなのだと思います。

と言いつつも、このレーベルの全貌がいまいちつかめず、結局は有名盤を聴くに留まっている私にそれほど偉そうなことを言う資格はないわけですが。

ま、トリオ・アコースティックは結構好きなトリオですしご紹介したいのはやまやまですが本当にレア盤マニアが群がるようなものは完全にほとぼりが醒めてからにして、彼らの中でも比較的言及されることが少ないであろうこのアルバムをまずは、というわけです。

このアルバムを私が購入したのは、7曲目の「ハイウェイ・サンバ HIGHWAY SAMBA」という曲名が気になったのと、天才作曲家ウェス・モンゴメリー WES MONTGOMERYの名曲「ロード・ソング」をゲストの2人のヴァイオリニストと共にカヴァーしているからです。

ちなみにアルバムタイトルはマジャール語で「SWINGING STEAM ROLLER」らしいです(英題がすぐ下に書いてあるのです)。

さてさて、その名の通り快適にスウィングする快速ナンバーのタイトル曲で気持ちの良い幕開き、アルバム全体の質の高さを予感させる素晴らしい滑り出しです。

小気味良いとしか形容の仕様がないよく「転がる」ゾルターンのピアノ、ハンガリーのペデルセンかブロンバーグか?と世評の高い超ド級のテクニシャン、ペーテルのウッドベース、ツボをしっかり抑えた小憎らしいジェルジーのドラム、非常にバランスが取れたトリオです。

しかしここでのペーテルのソロはカッコいいですねえ。

そして、アルバム全編に渡っての、左手で弦をバシバシ引っ掛けるプリング奏法による圧倒的なグルーヴ。

この1曲だけでやられてしまう人は多いでしょうね。

収録曲もハンガリアントラッドをベースにしたゾルターンによるアレンジナンバーやイスラム風の旋律を取り込んだ「マカダーム MAKADAM」など中・東欧ファンにはたまらないもの、あるいはもっと広くピアノトリオやヨーロピアンジャズを愛する方にアピールする美メロスローボッサ「アンナマリー ANNAMARIE」やひたすらに繰り返す荘厳なハーモニーと繊細なメロディの対比が素晴らしい「ユー・アンド・ミー YOU AND ME」なんかもあり盛りだくさん。

さてお目当ての「ハイウェイ・サンバ」はタイトルぴったりの疾走感に満ちたジャズサンバで天国気分。

メロディの後半は白玉系でゆったりなビートになるのも、後のアドリブでの爆走を後押しする絶妙の仕掛け。

案の定ゾルターンが快適なコンプを随所に挟みながら疾走してくれます。

最大の購入動機であった「ロード・ソング」はちょっとたるい演奏で期待外れでした(笑)。

しかし、ギタリストであるウェスの曲をギター抜きでやるということはコンポウザーとしての最大の尊敬なので、こういう例がいいも悪いも含めてどんどん増えて行くことが大切。

その意味でこれはこれで良しだと思います。

ゲストヴァイオリニスト2人の内一人、チョボ・デシェエーはハンガリージャズシーンの中では結構有名な人のような気が。

ヴァイオリニストたちは最後の2曲に参加しているのですが、なぜこういうことになったのかは意味不明(笑)。

せっかくのウェス曲カヴァーも微妙でしたし、これならトリオでカヴァーやったりで全部トリオでも良かったのではと思ってしまいます。

とは言えトリオ部分が本当に素晴らしいので、このトリオの底力、ポテンシャルを充分に見せ付けてくれる作品でしょう。

ちなみに凄まじくどうでも良いことですが、このピアニストと同じゾルターン・オラーという名前のジャズウッドベーシストがいて、いくつかのジャズアルバムに参加していますので、ご注意下さい。


Personnel:ZOLTAN OLAH(Pf),PETER OLAH(WB),GYORGY JESZENSZKY(DS),CSABA DESEO(VLN),TIBOR ANTIL(VLN)