「ポーランド映画は凄い!」というイメージを決定づけた作品群の中でもひときわ輝いているのが62年公開のロマン・ポランスキ Roman Polanski監督作品『水の中のナイフ』です。
観た後に誰もがしびれきってしまうこの傑作をまたスクリーンで観られる上映イヴェントが今月12日、原宿VACANTさんで開催されます。
このイヴェントの面白いところは、上映して終わり、あとはみなさんで感動を持ち帰って下さいということではなくて、上映後に猫沢エミさん、樋口康人さん、DJパウラさんによるトークショウがあり、さらにその後にはDJパウラさんによる現代ポーランドポップミュージックのスピンをBGMにしたミニパーティーがあるというところ。
映画ファンや音楽ファン、さらには猫沢さんや樋口さんのファンが自然に交流することができる凄く面白いイヴェントだと思いますので、みなさんぜひぜひ参加してください!

イヴェント詳細↓
Culture SHOCK
http://www.vacant.vc/d/105
https://www.facebook.com/events/1505284589700656/?fref=ts

とは言え『水の中のナイフ』って評判しか聞いたことない!とかGLAYのアルバムじゃなかったっけ?(笑)とかで二の足を踏んでいる方たちのために、少し内容をご紹介します。
個人的に感じた「3つの視点」から紹介していますが、あくまでさわりだけの、ごく私的なもの。
興味を持った人はぜひぜひこのイヴェントに参加して、自分なりの「水の中のナイフ」観を持って下さいね。
そういう懐の深さがある作品なんです。


水の中のナイフは、

1.「女の映画である」
この映画の登場人物はたったの3人です。中年にさしかかった一組の夫妻と、まだまだ青さが残る若者男子。2人の男は劇中でかなり対立しますが、私が思うにこれは「男」の「世代間闘争」というマッチョな視点から撮られた映画ではない。本当の主役は観察者である妻=女だと思うのです。
男同士は互いに相手に「自分にはないもの」を見てとり勝手に反発心を燃やしていますが、女は二人の男に「重なり合うもの」を見ているのではないでしょうか。彼女が若者に半ば庇護的な目を向けているのは、夫がかつて持っていて、今は自覚もなく失いつつあるものを彼の中に見ているだけ。言うなれば彼女が若者の青臭い言動の向こうに透かし見ているのは、自分たちが若かった日に出会った過去の夫でもあり、さらにその向こうには全ての男が共通して持っている「男性性」のロールモデルのようなものも見据えています。
二人の男を見比べているようでいて、実はその「2つ」にはほとんど個体差などない、というある種の「ジェンダーの究極」を妻の視点を通してさらけ出しているのではないかとも思えてきます。だから、これは男の戦いの映画ではなくて、女が主役の映画なのです。

2.「反歴史の映画である」
ポーランドと言えば、幾度も他国に蹂躙され第2次大戦ではナチに人種差別と大虐殺を受けソ連には見殺しにされ・・・と悲惨な歴史ばかりが語られて来ました。また、そういった「事実」を風化させないための国民の努力も凄まじく、めちゃめちゃに破壊されたワルシャワの旧市街をヒビ一つまで狂いなく再現して建て直したり、ドキュメンタリー制作も他国に比して非常に盛んです。
しかし、ポランスキと彼の盟友イェジ・スコリモフスキ Jerzy Skolimowskiの共同脚本である本作は「悲惨なイメージなんてダサいぜ」というムード。絵になる瞬間がひたすらに目に飛び込んでくるスタイリッシュなカットの連続と、世界中のどんな時代の人間にも共感させられるようなシンプルな作劇で、特に若い世代に理屈抜きにアピールするとにかく「カッコイイ」作品をリリースしたんです。
登場人物が少ないのに、セリフで埋め尽くすやかましい会話劇にせず言葉の数を抑え目にしているのもいいですね。「お勉強しなきゃ、ポーランドのことはなかなか理解できない」という敷居の高さを一蹴するような、そんな映画なんです。

3.「ジャズの映画である」
確かキューブリックだったかフォード・コッポラだったかスコセッシだったかが、「映像と音楽がわかちがたく結びついた最高の作品」と激賞していたのも、この映画のセールスポイントです。スタイリッシュな映像と独特の緊張感を伴ったシャープな人間ドラマに付加価値以上の効果を挙げているのは、ポーランドの現代音楽シーンの礎となっているジャズの作曲家クシシュトフ・コメダ Krzysztof Komedaです。
東欧のマイルス・デイヴィスと呼ぶ向きもある凄い人なのですが、70年代を迎える前に事故死して当時のポーランドのミュージシャンたちが逆に「オリジナルな音楽をやらんといかん!」と発奮し、現代の音楽王国ポーランドが作り上げられたという、「早く死んだからシーンが発展した」というちょっと特殊な事情を持つカリスマでもあります。
世界最初期のジャズフェスであるソポト・ジャズ・フェスティヴァルが行われた1956年のソポトの街のある一角で、コメダとスコリモフスキが初めて言葉を交わしたという青春の一幕などなど、彼と映画界をめぐるエピソードもたくさんあるのですが、それはまた別の話。
今も世界中の人がノックアウトされているこの映画のジャズサウンドもまた、この傑作の「歴史の波から切り離されたかっこよさ」を演出するのに一役買っています。ぜひ聴いて下さい。
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