今回のジャズ批評特集は、四谷のジャズ喫茶いーぐるのマスター後藤雅洋さん、ジャズ評論家の村井康司さん、ローランド・カーク研究などで知られる林建紀さんによるジャズ史上の「ジャズ・ライヴ名盤100選」でした。
これまでのものとはイレギュラーなセレクションがあったり、3氏による対談などもあり、内容自体は面白かったのですが、ポーランドジャズライターとしてはちょっと首をかしげるところもありまして。
えーと、一言で言うと要するに「アメリカ以外のアルバム、少な過ぎるんじゃ?」ということですね(笑)。
あと、90年代以降から現在までの期間からのセレクションもとても少なくて、5枚くらい?
まあ時期的なトピックはさておき、ヨーロッパや南米など非米地域のジャズって、今や「汎世界音楽」と言ってもいいと思われるジャズという音楽にとって、その程度の影響力しか持っていないのかな、という疑問が私にはあります。
もちろん、こういう問題については「いや、これでも多過ぎるくらい」と感じる人もいるでしょうし「ジャズはアメリカの音楽なのだ」と言う人もいるでしょう。
個人差はたくさんあるのでしょうが、私はとりあえず「少ない」と感じてしまったので、まあカウンターオピニオンとして極私的な非米ライヴ盤の10選を挙げておきます。
あくまで私的なものなので、そもそもジャズ批評における3氏の選考基準と趣旨が全く違うじゃないか、というご指摘があれば、正直返す言葉はありません。
ただ、3氏とは全く違うアングルからのセレクションは、この音楽の広過ぎるシーンを俯瞰するのに少しは役に立つかも知れません。
私は結局、人に何か言えるほど詳しいのはポーランドだけなので、ポーランド以外の盤はかなりこじつけっぽいです。
要するにあんまり「ジャズ」じゃないのですが、しかし、世界規模で見た時どんな音楽がその国におけるジャズなのか、っていうことを考えるきっかけにはなるでしょう。
私にとってジャズとは「ジャズの語法やミュージシャンを導入しなくては成立しないポップス」の領域における「寄生音楽」としての要素が肝なので、そういうものがたくさん入っています。
他の国は他のスペシャリストの方たちにもぜひ挙げていただきたいと思います。
90年代以降のも誰か挙げて下さい。
まあ私のも基本的に90年代周りが中心なんですけれどね。
一応「歴史的価値」を省みた非米ライヴ10選も挙げます。
こっちはもっとこじつけです(苦笑)、浅はかな知識ですみません。

極私的10選

AO VIVO LIVE AT MONTREUX JAZZ FESTIVAL / HERMETO PASCOAL(BRASIL)

ジャズかどうかはさておき、ただただ世界遺産級の名演というべきでしょう。紛れもなく「ブラジル音楽」なんですが、このごった煮感にジャズを感じる人は多いでしょう。
FARAT(DVD) / ANNA MARIA JOPEK(POLAND)
これぞ「ジャズの要素がなければ成り立たないポップス」の最高峰。傑作。
3 NIGHTS / ZBIGNIEW NAMYSLOWSKI(POLAND)
ポーランド特有の凝り性と屈折したセンスが濃縮された天才ナミさんの3枚組ライヴ。彼が40年近くのキャリアでものしてきたオリジナルがどっさり。
LIVE IN SOFIA / LESZEK MOZDZER & ADAM PIERONCZYK(POLAND)
ライヴと言えばこれ。現代ポーランドジャズシーンを牽引する天才2人の若き日の邂逅。会場にマイク一本立てただけの録音で、全曲ノンストップのほぼメドレー状態で押しまくる名演。
AT A FERGHANA BAZAAR / ENVER IZMAILOV(UZBEKISTAN)
ウズベキスタンのタッピング大魔神、超絶ライヴ。これを本当に一人でやってるのかどうかという技術的な問題より、このサウンドそのものが凄いです。頭の中どうなってるんだろう。
THE ORACLE / MILCHO LEVIEV & DAVE HOLLAND(BULGARIA/ENGLAND)
たぶん本人たちはこれを挙げられるの快くは思わないんでしょうね(笑)。でも愛聴盤なんだからしょうがない。ブルガリアとイギリスの鬼才同士による日本ライヴ。ピアノ&ウッドベースのフォーマットによる演奏としては最高峰じゃないんでしょうかね。
ORIENT LIVE / TIMNA BRAUER & ELI MEIRI(ISRAEL)
LPでは2枚組で出ていたイスラエルの女性ヴォーカリスト入りグループのライヴ。サウンドはちょっとフュージョンっぽいんですが、明らかにイスラエルの民俗音楽っぽい部分もとりいれているし、とにかく圧巻の演奏です。イスラエルシーンはこのアルバムを聴いてかなり前から気になっていたんですが、最近はアメリカで大ブレイクですね。
MEN'S LAND / MICHEL PORTAL(FRANCE)
PANDEMONIUM / FRANCOIS JEANNEAU(FRANCE)

この2つは80~90年代のフランスシーンを牛耳っていた2大巨匠のライヴです。ポルタルの方はデイヴ・リーブマンやジャック・デジョネットらとのコンボ、ジャノーはフランスの若手の鬼才を一堂に集めたビッグバンド。どちらもフランスならではの「アメリカとは違うジャズ観」が濃厚に出た内容となっています。
S席コンサート(DVD) / 矢野顕子(JAPAN)
もう何をか況や。ユニジャンルポップスの最上の成果です。

歴史的10選

LIVE AT THE JAZZ JAMBOREE FESTIVAL 1961-1967 / KRZYSZTOF KOMEDA(POLAND)

東欧のマイルスと呼ばれたコメダのジャズフェス出演音源をまとめた3枚組。ところでじゃあ「西欧のマイルス」っているんでしょうか?西欧を飛ばして東欧の彼がそう呼ばれたってところに物凄く重要性を感じるのですが。
POLISH JAZZ VOL.37 ALL STARS AFTER HOURS / VARIOUS ARTISTS(POLAND)
いわゆるオールスターセッションものなのにとにかくひねってみないと気がすまないポラ人たち。「ソー・ホワット」も「ピース」も風変わりな演奏になっています。70年代前半の当時から、いかにポーランド人たちが確立した独自のジャズセンスを持っていたかよくわかる音源です。
NOT TWO / MILOSC & LESTER BOWIE(POLAND)
ポーランドの独自性は政治に「自由への希望」がさした時に必ずジャズが傍らにあったことです。50年代半ばと90年代初頭ですね。これは後者の雰囲気をパッケージした歴史に残る名盤。クラシックの素養バリバリのLESZEK MOZDZER レシェク・モジュジェルにフリーキーなMIKOLAJ TRZASKA ミコワイ・チシャスカ、パンキッシュなリーダーTYMON TYMANSKI ティモン・ティマンスキにアート・アンサンブルのレスター・ボウイが違和感なく同居し、それに熱狂する観客という不思議。
9-11.PM TOWN HALL / DANIEL HUMAIR,JOACHIM KUHN,MARTIAL SOLAL,MICHEL PORTAL,JEAN-FRANCOIS JENNY-CLARK,MARC DUCRET(FRANCE)
フランスシーンの天才たちがニューヨークに殴り込みをかけた記録。数十年かけて、欧州の国々が独自のジャズを培って来、それを自信を持って逆輸入させたプライドを感じさせるような切れ味の鋭い音が満載。
CONSPIRACY : SOVIET JAZZ FESTIVAL,ZURICH 1989 / VARIOUS ARITISTS(USSR)
旧ソ連のジャズもごった煮・てんこ盛り状態で凄まじく面白いのです。これはソヴィエト体制崩壊前夜の、スイス・チューリッヒにおけるソヴィエト・ジャズ・フェスの記録。土地が広大なだけでなく、音楽も果てしなく広く深いのだとよくわかります。
LIVE IN TALLINN / JAN JOHANSSON(SWEDEN)
LIVE IN HAMBURG / E.S.T.(SWEDEN)

以上2枚はスウェーデンの礎となったヤン・ヨハンソンと、北欧ジャズの突破口となったエスビョルン・スヴェンソンのライヴ。どちらも若くして亡くなりましたね。
GOURBET MOHABET / MILCHO LEVIEV & THEODOSII SPASSOV(BULGARIA)
シーンを牽引する天才と言われながらアメリカに亡命したブルガリアのミルチョ・レヴィエフの感動的な凱旋ライヴ。後半では、彼の次の世代のスターで、民俗楽器のカヴァル(笛)マスター、テオドシー・スパソフが参加。新旧の偉大なるマエストロの磁力に満ちた共演が聴けます。
MILAGRE DOS PEIXES AO VIVO / MILTON NASCIMENTO(BRASIL)
これを入れることには異論が続出でしょう。ブラジルのジャズならもっとあるだろう、と仰る方もいらっしゃるでしょう。でもあえてこれ。ミルトンはじめ、70年代初頭のブラジルの最先端のミュージシャンが集って凄まじい歌入りオケジャズをやっています。
KONCERT'98 / LAJKO FELIX ES ZENEKARA(HUNGARY)
さて、これも異論続出でしょう。ハンガリーの天才ヴァイオリニスト、ライコーの大傑作。フォーマットも聴いた感触も全くジャズではありませんが、この自在な「アクロス・ザ・ボーダー」感にジャズを感じないとしたらもったいないです。


以上でした。
ちなみにアメリカものでは、
CALIFORNIA CONCERT / CTI ALL STARS
DGQ-20 / DAVID GRISMAN
TORTURE NEVER STOPS(DVD) / FRANK ZAPPA
KEYSTONE 3 / ART BLAKEY AND JAZZ MESSENGERS
TEARS OF JOY / DON ELLIS ORCHESTRA
HEROES AND ANTI-HEROES / LEE KONITZ & GIL EVANS
PUBLIC THEATER / GIL EVANS ORCHESTRA
LOTUS / SANTANA(MEXICOか)

とか変なのばっかり挙げたくなるのでした(笑)
まあKURT ROSENWINKELのREMEDYとか、その辺のものも凄いですよね。
でもよく知らないのであえて挙げないでおきます。
他の方たちにお任せしますので、われこそはというかたはぜひバトンを受け取って下さい。
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