2010-02-24

DAMAGE CONTROL

テーマ:ポーランドジャズ JAZZ POLSKI

(STUDIO VIRUS PRODUCTION)


昨年は、おそらく今までの人生の中で最も多く新譜を買った年だと思います。

もちろんその9割5分がポーランドジャズ関連。

私には野望がありますから、とにかく音を聴かなくちゃ話にならないとばかりにガシガシ買って携帯に取り込んで四六時中ガシガシ聴いてたのですが、やり過ぎて一番肝腎の情報発信の段階で疲れ果ててしまっていて(笑)。

ブログの更新ペースはメタメタになるわ、何のために生活を脅かしてまで買って聴いているのか解らなくなって来るわで完全に本末転倒の状態でした。

おかげでタイミングを逸したままご紹介しそびれてしまった作品が山のように溜まっています。

この作品もそんなものの一つ。

ポーランドの現代シーンで、今一つフュージョンの動向がよくつかめない、と大分前に書いたと思うのですが、昨年はそういう無知を無理矢理突き破って来るような勢いで素晴らしい作品が連発されました。

このDAMAGE CONTROLはヴァイオリンの新星アダム・バウディフ ADAM BALDYCHが中心となって結成されたバンドです。

個人的な最注目ポイントはウルトラテクニカルドラマー、ツェザルィ・コンラト CEZARY KONRADの参加。

もちろん彼だけでなく、他のメンバー2人、キーボードのパヴェウ・トマシェフスキ PAWEL TOMASZEWSKIと6弦エレクトリックベースのピョトル・ジャチェク PIOTR ZACZEKも素晴らしいテクニシャン。

こんなゾクゾクするような面子なら一体どんなハイテクスピーディフュージョンが繰り広げられるかと思いきゃ、飛び出して来たのは予想を覆すサウンドでした。

言葉で表すとすると、ヘヴィプログレッシヴフュージョン、という感じでしょうか?

これ見よがしな超絶テンポのキメキメ&ユニゾン合戦ではなく、ダークで重い、一種のファンクネスが溢れる曲想の中でそれぞれの資質を最大限に活かしたインプロヴィゼイションを展開するという、ある意味余裕を感じさせる音楽性となっているのです。

80年代生まれのBALDYCHの、若者とは思えない堂々たるヴィジョンにまずは驚き。

そんな彼のプレイの方のスタイルはと言うと、エフェクトをガンガンかけてヴァイオリンの原型を留めないような音色に変化させ、妙にギクシャクしたフレイズでゴリゴリと押し切る、という非常に個性的なもの。

一般的な意味でのテクニカルなアプローチを採って来ないのでなかなか判り難いかも知れませんが彼も相当な技術を持っていると推測されます。

キメキメサウンドでハイテクぶりを前面に押し出すのが、ミステリで言うと機械的なトリックで大上段に振りかぶる「密室もの」だとすると、このバンドの音は玄人受けする複線がたっぷりと張られ何度も読み返して楽しめる「叙述トリックもの」のような感じになるんでしょうか(余計わかんないって笑)?

まあとりあえずは本作に通低するサウンドヴィジョンを手っ取り早く理解するには、オープニングのエスニックフレイヴァー漂うスロウファンクロック「アブラカダブラ ABRAKADABRA」を聴くに限ります。

不穏な空気のSEが終わると、おもむろにKONRADの超手数ドラムによるヘヴィなグルーヴへの導入が開始され、数種類のエフェクトを重ねたBALDYCHのヴァイオリンとTOMASZEWSKIのエスノ系シンセがタイトル通りの怪しげで中近東風味のメロディを奏でます。

続いてワウワウをてんこ盛りにかけたBALDYCHのソロパートが始まり、ポリってんだか何なんだかもうよく判らないKONRADの「しばき上げ」ドラムが壮絶に暴れまくります。

KONRADのグルーヴ感覚も独特のものがあって、走り気味なようなそうじゃないような変な感じで、特にスネアを入れるタイミングと音色が物凄く特徴的。

あとは休符を憎んでいるかのようなゴーストノートの嵐の手数足数っぷりかな(笑)。

世界に冠たる超絶ドラマーだと思っているのですが。

海外のミュージシャンとの録音がほぼないのが残念で、もっと色んな世界の変態プレイヤーたちと共演して欲しい人です。

話逸れちゃいましたが、とにかくテクニカルな曲構成に頼らないであくまでインプロヴィゼイションの中で超絶技巧を発揮するという、少し斜に構えた感の、インパクトのあるこのバンドのサウンドにしては意外なほど「真っ当」なジャズスピリッツがどっしりと芯になっている演奏なんですよ。

スリップビートに彩られた7拍子ナンバー「クルフォン KULFON」もパッと聴いた感じでは少し軽めの感触のエスノフュージョンのようなのですが、テーマのそこかしこにハイセンス&ハイブラウな、テンションの高いアコースティックジャズサウンドをサンプリングして溶かし込んだようなパートが点在し、聴けば聴くほど彼らのバンドとしてのポテンシャルの高さに引き込まれるんです。

さらに、彼らの「ヨーロピアンジャズ魂」(?笑)が炸裂するのが「フォリナー FOREIGNER」。

きらきらと湖面に反射する陽光のようなピアノ、そして緩やかな風に煽られ生まれた漣を思い起こさせるミニマルなヴァイオリンのメロディは、内省的な美しさを静かに、そしてたっぷりと湛えています。

かと思いきゃ「シャフライ SHACHRAJ」ではこれまたスリップビートを含んだヘヴィビートとぎゅわんぎゅわんと唸りを上げるヴァイオリンにシンフォプログレ系の「ふわー」シンセサウンドで完全にメタルバンドと化し、その上ヴァイオリンとドラムの喧嘩のようなデュオパートでリスナーの血圧を上げにかかり、さらにその後のTOMASZEWSKIのアドリブが冴え渡るピアノトリオパートの充実度も濃いというカロリー過多サウンドで怒涛のがぶり寄り。

ラストの12分弱に及ぶ大曲(ジャズにおいてはそう呼ぶほどの分数ではありませんが、彼らのプログレ魂に敬意を表してそう表現することにします)「レジェンダ LEGENDA」は、これから書くような、一つの物語を頭に思い描いてしまうドラマティックな作品。

ポーランドの南側の国から、国境でありポーランド南部の山岳地帯に入り一歩一歩踏みしめながら登って行く一人のアルピニスト。

周りには誰もおらず黙々とただ歩を重ねます。

厳しくも美しい自然に立ち向かいじわじわと山頂に近づいて行き、とうとう頂を極めると、その向こうにはポーランドの広大で豊潤な平野がどこまでも広がっているのが見え、彼はただ感動に立ち尽くすのみ。

ピアノとヴァイオリンだけの導入部から、まるで山を登っているかのようにゆっくりと盛り上がって行くアンサンブルの緊張感のあるダイナミクスには感動と興奮を禁じ得ません。

また、彼らがお互いの音を聴きながら展開を探って行っているのがしっかりと伝わるので、その意味でもこれは、繰り返しますが非常に真っ当なジャズだとの思いを強くします。

クライマックスの後、しばらく抽象的なピアノソロパートがずっと続くのも、ポーランドの美しい広野がどこまでも見渡せるさま、そしてそれを眺めている誰かが静かな感動を味わっているさまを表しているようで美しいです。

この余韻がまた、BALDYCHの並外れた音楽的余裕を感じさせて凄い。

というように、素晴らしくリピータブルな内容なんですが、正直言って最初はとてもルーズなサウンドに聴こえたんですよね。

何だバカテクフュージョンじゃねえのかよーみたいな落胆もちょっとあったし(笑)。

でも違うんです、パッと聴きの「粗い」イメージの奥に濃密なアンサンブルと繊細な感性が息づく、素晴らしく深みのあるアルバムなんですよね。

キモ系イラストが描かれたジャケットデザインも、全くそうは見えないんですけれど(笑)。

テクニカルなギミックや大掛かりな曲構成にバランスが傾いたフュージョンアルバムが多い中、これほどに本当の意味での「演奏の味」が楽しめる作品も珍しいと思います。

ポーランド発の、フュージョン史に残る名盤がまた一つ。


Personnel:ADAM BALDYCH(VLN),PAWEL TOMASZEWSKI(KBD),PIOTR ZACZEK(EB),CEZARY KONRAD(DS)


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