アルミニウムの松葉杖 | ジョン・ワトソンのブログ

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事件のことはもう新聞でご存じだと思う。俳優のマシュー・マイケルが舞台中に殺害されたあの事件だ。私はデートだったので現場には行っていなかったが(おかげさまで、デートは順調)、現場に行ったシャーロックが留守電に事件内容のメッセージを残してくれた。何人かにその内容を聞かれたので、ここに書き起こすことにする。

“ジョン、たった今ストランド街のさびれた小劇場で「闇夜の恐怖」を見てね。劇そのものは平凡だったんだが、殺人事件があったんだ。しかも劇中で! 警察に事の次第を話す時間がなかったので、食事というか用事が済んだら…相手はサラだっけ? とにかく▓▓▓▓▓▓▓▓に伝えてもらいたい。心配無用。単純な事件だ。

マシュー・マイケル扮するシドニー・パジェット刑事は客間に他の登場人物たちを呼び集め、犯人探しを始めていた。そして僕が第一幕を見て予想したとおり、マーガレット・チャプレットを殺したのは、ウィリアム・ハウエルズ扮する実の息子のアルバートだった。

アルバート役のウィリアムはカッとなって、マシュー扮するシドニーを所持品のアルミニウムの松葉杖で殴るのだが、アルミニウムの松葉杖は実はゴム製で、マシューは無傷のはずだった。だが、幕間に何者かがゴム製の松葉杖を本物のアルミニウム製の松葉杖にすり替えたのだ。アルバート役のウィリアムは、本物のアルミニウムの松葉杖で、シドニー役のマシューの頭を殴り、死なせてしまった。

さて、ゴム製の松葉杖と本物のアルミニウムの松葉杖をすり替えることができたのは、幕間にウィリアムの楽屋に入ることのできた人物だ。ウィリアムが幕間に自分の楽屋にいた人物を話してくれた。演出家のデボラ・チャリス、シドニー・パジェット役のマシュー・マイケル、シシー・ヘイスティングス役のサラ・フルーネベーヘン、セドリック・ヘイスティングス役のジョナサン・モリス、それからメイドのジェイド役のカレン・ボールドウィンだ。ウィリアムは明らかに酒に酔ったまま芝居をしていた。延々と続くテニスコートの場面で、彼はサラのことを役名のシシーではなく実名で呼んだ。もっと前の場面では、アルバート・チャプレットに殴られたシドニー役のマシューの腕にはアザができていた。だが、役者のウィリアムはその場面で、コートの内側に隠されていたものに気づかなかったというわけさ。もう分かったかい? つまり、殺人犯は演出家のデボラ・チャリス、先ほどの4人の役者のうちの…ウィリアム自身を含めると5人の役者のうちの誰かということになる。犯人は本物のアルミニウムの松葉杖をこっそり持ち込み、ウィリアムに気づかれることなくすり替えた。もっとも、彼がジンをあおっていれば容易だったろうがね。

演出家のデボラ・チャリスはタイトジーンズをはき、ピンクでピチピチのトップスを着ていたから、ピーナッツより大きいものは持ち込めない。ナッツアレルギーで誰かを殺害する気ならありえる話だが、そんなことをする女じゃない。やんわりと聞いたら、ウィリアムを愛していたがフラれたと白状した。しまいには、だからあの老けた酔いどれをキャスティングしたのだと認めたよ。

シシー・ヘイスティングス役のサラ・フルーネベーヘンが以前にウィリアムと関係があったのは明白だ(舞台ではなく実生活で)。すると、彼にフラれたから殺したのだろうか? 彼女が妊娠したのに、彼がそっけなかったから? そうだとしたら、マシュー殺しでウィリアムを逮捕させることで復讐しようとしたのか? ありそうもない話に聞こえるが、可能性はゼロではない。セドリック役のジョナサンは、ウィリアムが嫌いで幕間にケンカしたと白状した。実はジョナサンはサラ(妹のシシー役)を愛しており、ウィリアムの彼女に対する言動が気に入らなかったようだ。だがここでも同じ疑問が浮かぶ。なぜわざわざウィリアムを逮捕させようとしたのか? なぜウィリアムを殺さなかったのか?

メイドのジェイド役のカレンは、殺されたシドニー刑事役のマシューと関係があったことを認めた。しかし、メイドの衣装の中に松葉杖を隠すのは無理な話だ。

そうなると、演出家のデボラとジェイド役のカレンの2容疑者は松葉杖を持ち込むのは不可能で、シシー役のサラとセドリック役のジョナサンの2容疑者は松葉杖を持ち込むのは可能だが動機が見当たらない。残るはウィリアムとマシュー本人。ウィリアムがマシューを殺す気だったのなら、もっと簡単な方法を選ぶだろう。すると、被害者本人の仕業ということになる。

シドニーつまりマシューはロングコート(私のものに似てなくもない)を着ていたから不可能ではないが、自殺を図るならもっと簡単な方法があったはずだ。たとえ舞台で劇的な演出を強く望んでいたとしても。アルミニウムという物質は実に軽く、アルミニウムの松葉杖で殴ったとしても人を殺せる保証はない。そういえば、マシューの腕にはアザがあり、ウィリアムはプロらしからぬ言動をしていたし、酒や女の問題も抱えている。そのことで、マシューは既に演出家のデボラに不満を言っているが、彼女はウィリアムを愛していたから何もできなかった。つまり、そういうこと。

マシューはウィリアムをクビにしようと決心し、コートの中に本物のアルミニウムの松葉杖を隠してウィリアムの楽屋に入った。酔っているウィリアムは、サラとじゃれあったり、ジョナサンとケンカしたりしていて、マシューが松葉杖をすり替えたのに気づかなかった。マシューの計画は、ゴム製の松葉杖が本物のアルミニウム製の松葉杖にすり替わっているとも知らずに、ウィリアムが普段どおりに自分を殴るというものだ。マシューとしては、腕の骨折もしくは劇場かデボラを訴えられるほどのケガをして、ウィリアムのクビを確実にしたかったんだろう。だがウィリアムは、おそらくジョナサンとケンカしたために普段よりも酒を飲んでいて、松葉杖を高く振り回してマシューの頭を殴り、図らずも殺してしまったのさ。

念のため分かりやすく説明しよう。被害者マシュー・マイケル(シドニー・パジェット刑事役)は殺人犯でもあったのさ。ウィリアム・ハウエルズ(殺人犯アルバート・チャプレット役)をクビにしようと企み、偽物の凶器であるゴム製の松葉杖を本物の凶器のアルミニウム製の松葉杖にすり替えた張本人だからね。ところが、その企みは裏目に出て、自分の死を招いてしまったというわけさ。