オタクの通訳 | ジョン・ワトソンのブログ

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3人の若者がベイカー街にやってきた。ある漫画の最新刊で描かれていることが現実に起こっているという。シャーロックは“謎の死”や“世界的な陰謀”などには見向きもしないが、今回の事件には興味を示した。

3人の中の1人、クリス・メラスは、テロリストと戦うスーパーヒーロー集団“クラティデス”の活躍を描いた漫画のファンサイトの管理人だ。そのヒーローたちは、武術に長け、正義感にあふれ、ピタピタの戦闘スーツを着ているという、ありきたりの設定で描かれている。だがクリスと彼のアシスタントたちによれば、そのストーリーには隠されたメッセージがあるそうだ。“クラティデスは自由を求めて戦う左翼集団ではなく、進化した真の右翼である”等々。正直、僕には理解不能だ。ちょっとバカげている。だけど、この漫画がただの漫画ではなく、“グラフィック小説”だということはすぐに分かった。クリスもそれを強調している。

そしてクリスは現実世界でクラティデスのメンバーを目にするようになった。ニュークロス駅で持ち主不明の荷物を処分している“ウルフレディ”ことソフィや、ワンズワース・コモンでひったくりを捕まえる“空飛ぶ棍棒”を目撃。ベクナムではクラティデスのリーダーであるダベンポート教授の姿を写真に撮った。その写真がなければ僕は、すべては彼の妄想だと一笑に付しただろう。でも確かに、そこにはダベンポート教授が写っていたのだ。グレッグス(イギリス全国チェーンのパン屋)の外に立つ、青い肌のダベンポート教授が。

これらはすべて、まるで図ったかのように、漫画本の中で起こった出来事だった。いや、グラフィック小説、あるいは漫画雑誌か。まあ、何でもいいが。

シャーロックは3つの可能性を口にした。第一の可能性は、クラティデスが実在の組織だというもの。これについては、彼はいたって本気だった。第二の可能性は、クリスが精神を病んで妄想に取りつかれているというもの。第三の可能性は、すべてはクリスが私利私欲のために仕組んだことだというものだ。

でも、どうして? クリスは自制心を失い始め、友人や家族はもちろん、2人のアシスタントにまで怖がられる始末。彼に残されたのは、サイトにアクセスしてくるケンプという人物だけ。プロフィール写真はニコニコマークだったので、どういう顔をした男なのかまるで分からない。ケンプは、クラティデスの隠された真実 ― 実際にある組織で、メンバーも実在する ― について噂を広めるようクリスを促していた。もはや、クリスの話に真剣に耳を傾けようとする人物は、ホームズとこのケンプだけだった。僕はハッキリ言って、取り合う気にもならなかった。クリスはケンプに励まされ、自身のサイトはもちろん、ツイッターやフェイスブック、グーグルプラスでも噂を広めた。そして案の定、ネットで笑い者になり、精神のバランスを崩していった。

僕はシャーロックに命じられ、調査を開始(漫画ショップに行く羽目になったのだが、そこで見たものといったら…)。思ったとおり、漫画「クラティデス」は売れに売れていた。人々はクリスをバカにしていたにもかかわらず、漫画の中の出来事を実際に目撃し、「クラティデス」を買いに殺到したのだ。

シャーロックは街に住む女友達に連絡を取った。かつてコンピュータの仕事をしていた彼女は、追跡テクニックを駆使してケンプの居場所を突き止めた。彼の正体は、「クラティデス」の出版社の社員だった。出版社はクリスを宣伝に利用したのだ。クリスが精神的に追い込まれなければ笑い話で済んだのだろうが、実際は金のために彼を狂気の寸前にまで追い込んだのだ。だが違法なことをしたわけではないので、こちらとしても追及はできない。そこで最新号のエピソードを読んでみると、ヒーローの1人であるラティマーが、シャフツベリー・アベニューで2人の覆面テロリストをやっつけるというくだりがあった。そこでシャーロックと僕は忍者に扮し、ソーホーで漫画オタクとして一芝居打った。僕とシャーロックが逃げ去ったあと、クリスは覆面を取り、見物人の前でケンプと出版社の悪行をぶちまけた。

「クラティデス」廃刊の顛末については、ツイッターやフェイスブックやグーグルプラスでご確認あれ。