男は鍛冶屋の前へと辿り着いた。
この鍛冶屋、多くの詐欺まがいの鍛錬を繰り返しているという噂だ。
いずれ内偵を進めて一気に挙げてやる。
鍛冶屋の方へ向けていた視線を、鍛冶屋前に佇む貴族風の出で立ちの男に向ける。
上等なローブを着ているが、他の貴族達とはあきらかに違う点が一カ所あった。
仮面。
先程ノームの娘からの証言通りの仮面の男。
以前からこの付近で出没するという話は聞いていたが、現物を見るのは初めてだった。
「おい、アンタに聞きたいことがある」
自分の身の丈のおよそ2倍はあろうかというヒューマンの貴族に対しても臆することなく男は声をかけた。
「おやおや、これはこれは。刑事さんではありませんか。私に一体どのような御用で?」
「俺を刑事だとわかっているなら話は早い。ある事件の重要参考人として『仮面の男』を探している」
「なるほどなるほど、それで私めに声をかけた、と」
仮面の男は顎に手をやると、束の間何やら考えるそぶりを見せた。
やがて手を一つ打つと、
「恐らく・・・他人と勘違いしているんでしょうなぁ。この街で仮面をつけているのは私一人ではありませんし」
「何?!アンタ以外にそんな奇特な仮面をつけた奴がいるというのか!」
仮面の男はククク、と忍び笑いを洩らす。
「ええ、ええ、いますとも。何なら情報を提供しても構いませんが一つ条件が」
「条件だと・・・。お前、刑事相手に交換条件などが通じるとでも思っているのか?このまま署まで連行しても構わないんだぞ?」
男の脅しに仮面の男は屈しない。
「ほう・・・。ならば令状はお持ちでしょうねぇ、裁判所の。持っていなければ例え刑事さんであっても無理は通りませんよ?」
「ふざけた口を聞きやがる。公務執行妨害で連行するっていう手もあるんだぜ?」
相変わらず屈しない仮面の男。
「ならばお好きなように。ですが無理強いされて開くような口は持っていませんので」
ちっ。
男の口から思わず舌打ちが漏れた。
口の回る奴だ。
だが、男自身のあせりがそうさせていたのかもしれない。
「ふん、ならば条件を言え、条件を。必ず話してもらうぞ」
仮面の男はニヤリと笑うと、
「なぁに、簡単ですよ。これから私の言う場所である物を取ってきて欲しいんですよ。5種類の装備なんですがね・・・」
男は仮面の男から向かうべき場所を聞き出すと、乗り込んだ。
そこは異形に満ちた、ある種のダンジョンであった。
数時間が経過していた。
「酷い目にあったぜ・・・」
男はダンジョンから生還していた。
背負い袋からは数種類の武器が見て取れた。
「おやまあ、意外と早かったですね、さすがは刑事さんだ」
仮面の男は喜びの表情を浮かべると、男に近寄りさっさと装備を剥ぎ取った。
「それで・・・情報を話せ・・・(くそ、まだ身体が痺れているような感覚が残っていやがる)」
フムフムと仮面の男は頷くと、
「そうですねぇ。『アラハゥイ』という仮面の貴族、が港にいるはずです。その貴族を夏場にこの噴水広場で見かけた・・・ような気がします」
仮面の男はそこまで言うと、最早用は済んだとばかりに酒場方面へと歩み去った。
「港、か」
男は港に向かって歩き出した。
一歩一歩、事件の真相に近付いているのを男は肌で感じ取っていた。
続く
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・・・(やべえ、今回で終わらなかった・・・)
つ、続きをお楽しみにー(´∀`)