小児がんの治癒率向上に伴い見えてきた「晩期合併症」という問題。国内では2005年、日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)が「長期フォローアップ委員会」を設立して、対応に本格的に取り組み始めている。同委員会を立ち上げた聖路加国際病院小児科医長の石田也寸志氏は、06年から厚生労働省がん助成金を受け、「小児がん克服者のQOLと予後の把握及びその追跡システムの確立に関する研究班」として長期フォローアップ(以下、長期FU)システムに関する研究を行い、このほど研究報告書を取りまとめた。6月下旬か7月上旬に聖路加国際病院のホームページ上で公表する予定だ。(前原幸恵)

【長期フォローアップセンターのイメージ詳細】


―研究班では、小児がん経験者の長期FUについて、どんなことを研究したのですか。

 晩期合併症に悩む人の受け皿を整備するには、国、厚労省を動かさなくてはいけません。そのためには、長期FUの必要性を裏付けるデータが必要になります。欧米のデータはありましたが、それでは国は重い腰を上げてはくれません。そこでわたしたちは、課題を明確にするために、国内の小児がん経験者の過去と現状の把握を行いました。
 その結果分かったのはまず、寛解して5年、10年と経過していくうちに病院を受診しなくなり、フォローが途絶える「Follow up loss」(追跡不能)という問題が、対象患者の約4分の1に起こっているということです。
 また、小児がん経験者のどのくらいに晩期合併症が起こっているのかを確かめるため、約200人の小児がん経験者を調査したところ、5、6割の人が身体的な問題の晩期合併症を持っているという結果が得られました。さらに、身体的な問題に加え、社会生活を営む上での心理的な問題、例えば就職や結婚などに関して悩んでいる人もいることが確かめられて、そうした人たちを合わせると、約6、7割の小児がん経験者が何らかの問題を抱えていることが明らかになりました。
 このほかにも今回まとめた報告書には、わたしたち小児科医が問題視していた晩期合併症が間違いなく、国内でも存在することを裏付ける結果が盛り込まれています。

―患者が晩期合併症を回避するのに必要なことは何ですか。

 小児がん経験者が晩期合併症を起こさないようにするためには、実際に受けた治療はもちろん、今後どんなことが起こる可能性があるのかということなども含め、自分の健康生活を保つために何に注意すればよいのかの情報が必要ですが、残念ながら今のところ、小児がん経験者もその家族も、ほとんどはそうした情報を持っていません。
 そういう人たちが、進学・就職・転勤で今まで通っていた病院と違う病院へ通うことになれば、主治医が変わることになり、その後思うような支援が受けられなくなっているのが今の日本の現状だと思います。
 日本での支援として強いて挙げれば、「紹介状」というシステムがありますが、そこに主治医が治療や今後起こり得る問題について細かく書くことはほとんどなく、「こういう病気で、こんな治療をしました」という情報を書く程度だと思います。しかもその情報は、医療機関が変わるごとにどんどん薄れていきます。
 晩期合併症を持つ患者が確実に存在することが明らかになった以上、その患者たちが困った事態に陥らないように、正確な医療情報を最初にいた病院から次の病院へとシステマチックにつなぎ、日本全国どこでも途切れず支援やフォローアップしてもらう仕組みが今後は必要だと確信しています。

■長期FUのシステムについて、JPLSG長期フォローアップ委員会で検討中の案がある。

 主治医は小児がん患者の治療終了時に、長期FUに関する同意書を患者から取得し、実名登録後、その患者の治療内容を総括して今後のFU計画を立てる。
 その内容を含めた患者のFUデータを長期フォローアップセンター(仮称)で集積。登録された小児がん経験者は、日本中どこにいても一生、インターネットなどの手段で自分の情報にアクセスでき、自分自身の健康管理に活用することができる。また年に1回はセンターが登録者に連絡を取り、アンケートを実施するとともに問題の有無の調査を行う。
 このほかのセンターの機能としては、▽晩期合併症に関する相談を受け付け、直接相談に乗るか、適切な地域の医療機関を紹介する▽小児がんの晩期合併症に関する世界中の最新情報を収集・蓄積し、医療従事者向け、患者向けに整理して、身近にある図書館や同センターのホームページなどから入手可能にする▽全国各地の長期FU可能な拠点病院とネットワークをつくり情報交換を行うーなど。
 将来的には蓄積した長期FUデータを基にコホート研究を行い、治療研究プロトコールの問題点を明らかにして、晩期合併症の少ない、QOLのよい治療プロトコール開発に寄与することを目標としている=図=。

 これは06年時点で提案したもので、当時はあくまで絵に描いたもちでした。その実現に向けて動いたのが、国立成育医療研究センター臨床研究センター長の藤本純一郎先生が中心となって07-09年度に行っていた厚労省研究班の「小児がん治療患者の長期フォローアップとその体制整備に関する研究」です。この研究では、「長期フォローアップ拠点モデル病院」として指定した全国16の病院に、小児がん治療終了後の青年期・成人期専門の外来を開設しました。そして16病院がネットワークを組むことで、患者が就職などで居住地を変えても支援を受けられるシステムを構築したのです。研究としては昨年度末で終わっていますが、16病院では今も自主的に稼働を続けていただいています。

―日本で長期FUの整備を進めるためにはどうすればいいでしょうか。

 海外の成功例を参考にするのも有効な策の一つだと思います。例えばオランダでは、6施設程度で集約的に小児がん治療を行うことで、発生した小児がんをすべて把握して、長期フォローに結び付ける形を取っています。また英国では、小児がん登録を1960年代から完備し、国内で発生する小児がんのほぼ100%を把握できています。どちらの国も規模的には日本の参考になると思いますが、一方で日本には「主治医と患者との関係」という独特の考え方があるので、システムをそのまま輸入するのではなく、参考にしながら日本独自のモデルをつくる必要があります。

―日本独特の考え方と独自のモデルとは具体的にはどのようなものですか。

 まず日本は「主治医と患者」の関係が密接で、「この先生に治してもらった」という気持ちがとても強い国民性があります。これは患者が治癒後も継続して病院を訪れることにつながり、フォローしやすいというプラス面もありますが、マイナス面としては、主治医が病院を辞めたら患者は病院に来なくなり、フォローが途切れてしまう危険もあります。
 またこの「主治医と患者」という一対一の関係は、小児科から成人診療科へのフォローアップの移行を難しくしている要因でもあります。30歳、40歳になれば、小児科医の手に余る事態も多く、小児科医だけが診ていくのはベストではありません。そこで成人診療科へ移行するのですが、そうすると主治医が変わることになり、それがきっかけで病院に行かなくなり、フォローアップが途切れる危険性もかなり高いのです。
 小児がん経験者が思春期や成人期を迎えたとき、適切な対応ができる医療に移行でき、かつフォローが途絶えないようにするために、日本独自の長期FU移行プログラムが必要です。
 そこでわたしが提案するのは、治療主治医と並行してもう一人、長期FUの主治医がいて、二人がずっと並行して一人の患者を診る「二人主治医制」のシステムです。これならもしも一人が現役を離れても、患者が成人診療科に移行することになっても、同時に新しい主治医を持つことにはなりません。
 このとき小児科医としてわたしが長期FUの主治医となる成人診療科の医師にお願いしたいのは、患者の訴える痛みや悩みについて総合的視点を持つことです。今の病院の成人診療科では専門化が進み、ジェネラリストがあまりいません。「心臓の問題は診るけど、おなかの問題はほかに行ってください」ではなく、日本でも育ちつつあるプライマリケア医や家庭医のような、小児がん経験者を丸ごと受け止める医師が日本でも増えてほしいと願っています。

■長期FUはがんだけでなく小児医療全体に必要

 小児がん経験者の晩期合併症への対応のために研究を続けている長期FUシステムですが、これは小児がん経験者とその家族だけの問題ではないとわたしは考えています。がんに限らず小児期に病気(先天性心疾患など)をしたものは、長期的な影響をちゃんと調べるのが非常に重要です。このことが国民に広く理解され、国全体で長期FUシステムの早期構築に向けて動くように、わたしは今後も研究や情報発信に取り組み、国などに働き掛けをしていくつもりです。


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