パリ同時テロ事件を受け世界は、「対テロ戦争突入」とも言うべき様相を呈し始めています。

平穏な日常を楽しむ一般市民を、まったく無差別に残虐かつ冷酷に殺傷した今回のテロ。しかもその現場には、難民に紛れ入国したテロリストの残したパスポートが…

底知れぬ不安と恐怖、懐疑と憎悪の渦に世界中の人々を陥れ、あらゆる信頼関係を分断させ、自由と民主的秩序を崩壊させる。

それこそが、卑劣極まりないテロという行為を引き起こす者にとっての目的そのものなのでしょう。

テロを未然に防ぐための危機管理やテロ根絶に向けての取り組みは、もちろん喫緊の課題です。

ただともすると、自分の心も悲しみと憤りの嵐に支配され、殺伐とした懐疑と恐れの闇に堕ちてしまいそうになります。

そんな中、ふと心に灯った言葉があります。

「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない。」

ご存知の通り、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)憲章の前文です。憲章は、次のように続きます。

「相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信をおこした共通の原因であり、この疑惑と不信のために、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった。」

テロという行為は絶対に許されないものですが、その背景に差別や偏見が存在し、その結果として貧困や暴力が生まれ、多くのテロリストを生み出しているという事実に、全世界の人々が真正面から向き合わねばならない時が来ているのではないでしょうか。

パリのテロでは、民族や国籍を問わず何の罪もない人々が犠牲になりました。その中には、イスラム教徒の人も含まれています。

にもかかわらず、イスラム教徒への偏見や攻撃は日増しに高まり、移民排斥の動きは激化しています。

テロリストと、一般のイスラム教徒や難民はまったく違うこと。テロの影響でさらに差別され排斥を受ける事態に遭遇している一般のイスラム教徒や難民の人々は、私たち以上にテロの被害者であることを、よく認識しなければなりません。

差別は新たな差別を生み、暴力は新たな暴力を生んで、不信と憎悪で世界を覆います。

そうした闇に世界を突き落とさないためにも、ユネスコ精神に則り、民族や国家を超えて互いに理解し、尊重し、信じ合うための教育的・文化的活動を、ささやかでも地道に粘り強く、今後も続けていきたいと思います。