#040 はさみの魔術師とゆかいな呪文 | おもいでのヤンゴ

#040 はさみの魔術師とゆかいな呪文


昔の自分自身のイラストを描く時、前髪がパッツンになるようにしている。


でもそれは僕だけじゃない。
姉と妹のイラストだってそう描いている。


何となく前髪を揃えて描いているのかというと、そういう訳でもなかった。


うちの3姉弟はそういう髪型だったのだ。


はさみの魔術師のゆかいな呪文のせいで。




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小学校2年生のころのボクの話です。



ボクの髪型はたぶん2種類あると思う。


ひとつはよく行く床屋さんが切ってくれる髪型。


もうひとつはお母さんが切ってくれる髪型。



床屋さんとお母さんのカットは、だいたい交互になっていた。


特にどっちの髪型が好きとかはないかな。


ただ、お母さんが切ってくれたほうがなんだか楽しい気がする。


お母さんが髪を切ってくれる時、決まってあるゆかいな歌を歌ってくれた。


「ちょっきんちょっきんちょっきんなー♪」



その楽しいメロディーに引きよせられて、妹のツキも近寄ってきた。


そうして、お母さんのゆかいな歌を3人で合唱した。


「ちょっきんちょっきんちょっきんなー♪」



ボクは髪型なんてどうでもよかった。


お母さんが歌ってくれてお母さんが切ってくれる。
それだけで十分だった。



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お母さんはカットの仕上げにいつもこう言う。


「はい、目つぶって」


言われたとおりに目をつぶると、おでこのあたりにむずがゆさを感じた。


ちょっきんちょっきんという音が振動でつたわってくる。


前髪を切っていることはわかったし、前髪にどうやってはさみを入れているのかもわかった。


そして、切りおわったときに前髪が横一線になっているだろうことも。



「お母さん、そんな切り方したらかっこ悪くなるよ」


ボクは目をつぶりながらも文句をつけた。


でもお母さんの返事は、言葉じゃなくてゆかいな歌で返ってきた。


「ちょっきんちょっきんちょっきんなー♪」



お母さんのゆかいな歌を聞いていると楽しくなってくるので、前髪くらいまあいっかという気にさせた。



お母さんは髪を切るのがヘタだったけど、そんなことを気にさせない不思議な呪文を持っていた。


ちょっきんちょっきんちょっきんなー♪







引用符 左


[YouTube 2:36]

童謡【あわて床屋】


作詞:北原白秋
作曲:山田耕筰


― 春は早うから川辺の葦に
― 蟹が店出し床屋でござる
― ちょっきんちょっきんちょっきんな♪

引用符 右




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