#027 “血が”が出てる | おもいでのヤンゴ

#027 “血が”が出てる

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僕の妹のツキは、おせじにも賢いとは言えない。
でも、神さまはその代わりにとでもいうのか、かわいらしい容姿を与えた。
ちっちゃい頃から顔の輪郭はまんまるで、目もくりんくりんのまんまるだった。


$おもいでのヤンゴ-027_tigaga
(PCのトップ画像から持ってきました。時間があれば、新しく作って挿し変えようと思います。)


小学校入学前のボクの話です。

ツキは友達とうまくつき合えるようなヤツではなく、ふてくされたような態度をとるヤツだった。
それでも見た目のおかげか、大人からは不思議とかわいがられるヤツでもあった。
その様子を見たボクはおもしろくなくて、顔をしかめることがたびたびあった。
ツキはボクの顔色や様子から察したのだろう、その後は、機嫌をとるようにボクの後をついてきた。
ボクは表面上は「仕方のないヤツ」というような態度をとっていたのだけれど、内心はうれしくてたまらなかった。

ツキに対しては、言葉に出して気持ちを伝えようなんて思ったことがなかった。
だからそういう時のボクは、照れ隠しからか、まんまるい頭をくしゃくしゃなでてやるだけだった。


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ツキはピースができないヤツだった。
利き手の右手でピースをするのだけれど、どう頑張っても親ゆびと小ゆびを曲げるのが精いっぱいで、2本ゆびピースではなく3本ゆびピースになってしまう。
それをおぎなうために左手をそえて、右手のくすりゆびを折り曲げて押さえることによって、やっと2本ゆびのピースができた。
小さいころのツキの写真をみると、その“矯正ピース”で写っている写真がまだ残っている。



ツキは人の話を聞かないヤツでもあった。
注意を素直に受けいれることなんか、ほとんどなかった。
何に対して反抗しているのか、ボクは不思議で仕方なかった。

こんなエピソードがある。
ツキは間違った日本語を使っていた。
“血”のことを“血が”だと思っていた。
だから、普通なら「血が出てる」と言うところを
ツキは「血がが出てる」と言ってしまう。
当然母さんをはじめとして、言葉が間違っていると教えるのだけど、反発して直そうとはしない。

$おもいでのヤンゴ-027_bloody

いつだったかツキと2人で遊んでいるときに、ボクは転んでしまった。
下がコンクリートだったからすごく痛くて、涙がどんどん目のあたりに集まってきていた。
でも、ツキが必死に
「お兄ちゃん、ひざから血がが、血がが」
と言う姿におかしくなり、目のあたりにはボクがどれくらい痛かったかを雄弁に語れるほどの涙がたまっていたけれど、ボクはグッとがまんすることにした。
本気で心配しながらも間抜けな言葉を使うツキに、安心感を覚えた反面、心配にもなったのだ。

だってボクはお兄ちゃんなんだもん。
簡単に泣いちゃダメだよね。


大きくなったツキは、ピースが出来るようになった。
でも、相変わらず人の話を聞かないし、人付き合いもうまくなかった。

やっぱり賢くもないけど、
いつまでも心配な、
僕の大切な妹。


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どれも1000文字程度ありますので、時間がありましたら読んでみて下さいね☆