#024 じどうはんばいき | おもいでのヤンゴ

#024 じどうはんばいき

おもいでのヤンゴ

うちの家では、あまり清涼飲料水は出てこない。
お母さんの機嫌がいいときだけ、“じどうはんばいき”で買うことを許してもらえる。


児童販売機…??


小学校2年生の頃のボクの話です。

炭酸飲料なんて、もってのほかだった。
「炭酸なんてダメよ。骨がとけちゃうわよ。」
お母さんの言葉はいつだって、ボクの中に響いていた。

でも、例外だってあった。
友達の家に行った時に出てくる炭酸飲料は、ボクの至福のときだった。
お母さんの言いつけは基本的には守っていたボクだけど、人の家で出されたものを断るわけにはいかないよね。
だから、ボクは“しかたなく”飲むことにしていた。
たぶん“しかたなく”飲んでいるにしては、こぼれる程の笑みで飲んでいたことだろう。
言いつけを破ったというスパイスが、より一層おいしくしている気さえした。

友達の家で炭酸飲料を飲んだ日に家に帰った時は、いつも、お母さんの前には長くいないようにしていた。
だまって炭酸飲料を飲んできた事を見透かされちゃう気がしたし、ボクの息が炭酸飲料の香りがする気がしたから。
いつもはしつこいほどに付きまとっているお母さんを、この日ばかりは遠目に見張っていた。


お母さんは自然派食品を好む人だ。
オレンジジュース1つとってみても、濃縮還元ではなくストレート果汁のものが冷蔵庫に置いてある事がほとんどだ。
「もったいないから、ガブガブ飲んじゃダメよ」なんて言われるけど、外で飲むジュースよりも酸っぱいから、ガブガブ飲めないよ。

そんなお母さんだけど、夏のすごく暑い日に、気まぐれでこういうことを言うことがあった。
「サイダー買ってきて。」
ボクははっきりとした返事はしなかったけど、うれしい悲鳴は十分に答えになっていたと思う。

100円玉をにぎったボクは、50m先のじどうはんばいきまで全力で走った。
この時のボクに、歩いていくなんて選択肢はない。
ただただうれしくて、脚が勝手に回転を早めていた。

じどうはんばいき

ボクは白いじどうはんばいきの前に立ち、選ぶフリをする。
買うものはもう決まっている。
だけど、なんでだか選んでいたかった。
たぶん、他の人と同じように、ボクもじどうはんばいきの前で悩んでみたかったんだろうな。
もっと先に行けば、赤いじどうはんばいきがある。
でもボクは、この白いじどうはんばいきで買いたかった。
真夏の日射しを受けて、キラキラと輝く白いメタルボディ。
白地に映える、色とりどりの缶。
そんなきれいな風景の端っこでいいから、自分も入ってみたかったんだ。

「お母さん、買ってきたよ。」
帰りも走ってきた汗だくのボクは、お母さんにサイダーをわたした。
用意されていたコップに、オレンジジュースが注がれる。
そして、オレンジジュースと同量くらいのサイダーが、その上から注がれる。

「ちゃんと混ぜてから飲みなさいよ」というお母さんの言葉を聞きおわる前に、ボクはコップに口をつけていた。
サイダーの清涼感が、オレンジジュースの酸っぱさが、ボクを支配していく…


今思い出すと、半分ずつで割ってるもんだから、ずいぶんと薄くて酸っぱい飲み物だったと思う。
でも、当時のボクにはそんなこと小さい事で、あのオレンジサイダーのおいしさを疑ったことなんて一度もなかった。
たまに飲むからおいしかったんだろうな。

今日は、お母さんの気まぐれが出ていた日と同じような暑さだ。
のども渇いたし、たまにはコンビニじゃなく自動販売機に買いに行こうかな。
もちろん、赤いコカコーラさんじゃなく、青いサントリーさんでもなく、白いダイドーさんの自動販売機に。




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